協議会が1991年より継続して実施している「メセナ活動実態調査」。2016年度報告会を、調査の企画・分析に関わる会員企業メンバーからなる「調査・研究部会」とともに開催しました。企業、企業財団、文化団体関係者など、約40名のお客様をお迎えし、好評のうちに終了しました。
 
報告会では、事務局より代表的なデータ・トピックスの紹介後、キーワードである「社業との結びつき」や、「地域との関係」を深め独自の工夫でご活動を継続されている事例として、会員企業より株式会社原田さま、2016年度メセナ大賞を受賞された日本毛織株式会社さまにご登壇いただき、ご活動の背景や工夫についてご紹介いただきました。
 
ご登壇企業の皆様、ご来場の皆様に、心より御礼申し上げます。

*なお、2016年度実態調査結果の詳細は、3月発行のプレスリリースMecenat Report 2016』でも公開しています。ぜひ合わせてご参照ください。
 
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<2016年度メセナ活動実態調査報告会 概要>
 
日 時: 2017年3月8日(水)13:30~14:40
 
登壇者: *調査研究部会
         TOA株式会社 経営企画本部広報室 主事 吉村真也 氏 ※部会長
         株式会社ニッセイ基礎研究所 研究理事 吉本光宏 氏
     *ゲスト企業
         株式会社原田 広告・宣伝・文化事業・広報部 部長 山田真也 氏
         日本毛織株式会社 ニッケ鎮守の杜プロジェクト ディレクター 稲垣早苗 氏
概 要:


1. 2016年度メセナ活動実態調査 結果ダイジェスト
 <目次> ① 社業との関連、地域との関係づくりを意識
      ②企業活動としての成熟化
              ③メセナ事業費推移
              ④芸術文化振興としての多彩な成果

*詳細は 次第配布資料 をご参照ください。

2. ゲスト企業による活動紹介①:株式会社原田・ガトーフェスタ ハラダ
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― 「ガトーフェスタ ハラダ」のメセナ立ち上げ期
弊社は1901年創業のお菓子屋です。ブランドコンセプトは「お菓子を通じて幸福と感動をお届けしたい」。新町工場と高崎工場の2工場で、年間約3億枚のラスクを作っています。メセナ活動を行っている新町本社工場は2008年に作られた工場で、3階と4階が工場ラインと見学ライン、2階が事務棟、1階ホールでさまざまなメセナ活動を行っています。
 
活動を始めた理由は大きく2つあり、1つは企業理念の「お菓子と芸術文化でお客様に幸福と感動を発信し続ける企業でありたい」という思いと、もうひとつは長きにわたりご愛顧いただいているお客様にメセナ活動を通じて還元したい、という創業家の思いでした。2010年にオーナー専務との2人体制で文化事業部を設立し、チケットの売り上げはすべて寄付すること、そのために毎月必ず予算を作成しそのなかにおさめることだけは守ろうと、運営規定をつくり、スタートしました。初仕事は女優の紫吹淳さんの一日店長トークショー、次は代表商品「グーテ・デ・ロワ」10周年にあわせた展示会とコンサートでした。それまでは全国の百貨店の催事をとりしきる責任者で、文化事業の経験がなく、そこでコンサートの準備や契約方法などを学ぶことができました。
 
― 定期コンサートのスタートと課題
翌年からは人員も3名に増え、長年オーナー家の夢だった本社ホールの定例自主コンサートが始まりました。ところがはじめこそ200人近い集客だったのが、その後全く集まらない。当時私は商品企画部も担当しておりましたので、同じようなマーケティングの手法で原因分析をしたところ、このころの告知方法は、県内直営店舗でのチラシ・ポスター掲出、自社ウェブサイトのみ。ハラダのラスクブームもあり、週に2万枚チラシをまけば1か月2%でも満席になるだろうと思っていたら、全然来なかった。つまり、店舗のお客様=コンサートのお客様ではなかった。そこでもう一度ターゲットを設定し直し、告知方法とファンづくりを徹底的にしていこうと、次年度から改善策に取り組みました。
 
― PDCAサイクルで事業改善!①:雪だるまの芯をつくる
まず告知の見直しとして、自分たちで近隣300軒にチラシとご案内状をポスティングして周りました。市役所の関連施設にもポスターを貼ってもらい、地元の新聞・テレビ・ラジオで情報を流してもらうなど、いわゆるコンサートや文化に対する意識の高い人が読むところに情報を徹底的に入れていきました。固定客策としては、8回の来場で好きなお菓子と交換できるスタンプカードを作り、大変な効果がありました。コンサートの様子を載せた友の会通信も作り、常にお客様に情報を発信するようにしました。
 
PDCA的には、この時期は「雪だるまの芯をつくる」作業でした。雪だるまは最初に芯を作って大きな雪だるまにしていきますが、最初の芯を作るまでは徹底的にやるしかない。これを3年間続けたところ、徐々に問合せが増え、夢のチケット売り切れコンサートや、友の会も口コミが広がり、1年間で50人から250人に増えていきました。
 
― PDCAサイクルで事業改善!②:新たな驚きと感動をつくる
うまくいってきたなと思っていると、今度はお客様のほうから「有名アーティストが見たい」「多様なジャンルを聞きたい」などのご要望があがるようになり、限られた予算内で実現するため、新たなPDCAの段階に入りました。「新たな驚きと感動がほしい」ということで、全国ツアーも行っているアーティストの発掘や、気になるアーティストに直接交渉をしていきました。当社製品ファンのリサーチもしたところ、著名なヴァイオリ二ストがラスクの大ファンということで、それがきっかけでご出演いただけたこともありました。すると他の音楽事務所でもこの方が出ているホールならと、いい循環ができました。
 
― PDCAサイクルで事業改善!③:将来のあるべき姿をつくる
現在は6名体制になり、「将来のあるべき姿を作っていく」ため新たなPDCAをまわす段階になっています。コアなファン作りや、SNSを活用によってお客様と密になること、信頼感をあげていくことに注力しています。TwitterやFacebookは社員が手づくりで運営し、YouTubeにコンサートの模様をアップしてどんどん発信していくようにしています。
 
また他社のメセナ活動についてお聞きする中で、自社のメセナには育成事業が足りないと思っていたところ、コンサート出演者でもある若手ピアニストの金子三勇士さんからオーナーに提案があり、「未来のピアニストを」事業をスタートすることになりました。昨年高崎地区大会から優秀者5名を選出し、提携する「ハンガリー こどものためのバルトークコンクール」に一人でも多く連れていく、これが第一歩となっています。


2. ゲスト企業による活動紹介②:日本毛織株式会社 ニッケ鎮守の杜プロジェクト

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― ニッケ鎮守の杜プロジェクトと「工房からの風」
ニッケ鎮守の杜プロジェクトは、千葉県市川市にあった工場跡地に1988年にオープンしたショッピングセンター「ニッケコルトンプラザ」のなかで行っている活動です。オープン時より直営の工芸ギャラリーをはじめたのですが、敷地内の野外スペース(鎮守の杜)にお社があり、その周辺の庭を舞台に、新人工芸作家のデビューの場として野外クラフト展「工房からの風」を2001年に開始しました。毎年秋に開催し、今年で第15回目になります。
 
2003年からはこの空間をもっと生かそうと、お庭の土づくりと工芸にまつわる植物の栽培を始めました。翌年ショッピングセンター内のギャラリーを庭に移転し、2005年にはベルサイユ調だった庭園を「手仕事の庭」というコンセプトに変え、共感してくださる地元ボランティアの「庭人さん」募り、一緒に作業をしていただくようにしました。都市部に暮らし土に触れる機会が少ない方でも、無農薬の庭づくりはどうするのかといったことを一緒に学びながら活動を育ててきました。もともと名前のなかったお庭の神宮社は毛織物にちなみ「おりひめ神社」と命名して、空間全体の統一をはかってきました。

ー 社内の草の根メセナとして
2016年度にメセナ大賞という大きな賞をいただきましたが、私たちの活動は最初にメセナ活動ありきというより、企業内担当者の草の根メセナとして地道にやってきたものが、社内にも社外にも協力者が多くなって、少しずつ育ってきたという感じでした。

メセナという単語は存じ上げておりましたが、初期のころ社内ではこうした活動についてメセナ事業という認識をもっていませんでした。ところがあるお客様が「これはまさにニッケさんのメセナ活動ではないか」と企業メセナ協議会をご紹介くださり、色々と勉強しこれはまさにメセナ活動であるべきだと感じ、活動に骨組みができたようなときでした。世の中でも生活工芸や暮らしに自分の好きな物を使うことへの関心の高まりもあり、「工房からの風」の来場者も増え、現在まで多くの出展者の方を得られるようになりました。
 
― 新人工芸作家の支援・育成として
「工房からの風」は2日で約2万人の方がいらしてくださり、作品もたくさんお運びいただいていますが、ギャラリーでの常設展示やワークショップ、百貨店の催事企画での紹介も継続して行っています。現代は工芸作家の徒弟制度がだんだんなくなるなか、師匠や仲間がいないことが悩みになっており、作り手の輪をつくることを心がけ、きちんとしたキュレーションを受けたことがない方も多いため、作家との密な個人ミーティングも重ねています。

また、「工房からの風」経験作家に企画運営スタッフとして加わっていただく仕組みとして、過去の参加作家さんたちを「風人さん」と呼び、自分が出展した翌年に新しい方のサポートをしたり、ワークショップを担当していただいたりしています。作品を制作して出品するだけではなく、横のつながりができたり、交流を深めながら哲学が深まるようなことが起こっているように感じます。
 
― 地域との関係づくり
29年運営してきたギャラリーですごく嬉しかったことは、オープン当時ベビーカーを連れて内祝いの品を選びにいらしたご夫婦の赤ちゃんが大きくなり、自分の結婚の内祝いを選びに来てくださったことでした。小さいときからこういうものに親しんでいる方や、育てた藍の生葉染めといったワークショップのことを夏休みの研究レポートにして、大きな賞をとられる方がでたりといったことにつながっています。
 
庭のボランティアさん「庭人さん」は、「工房からの風」では2日間限定オープンのカフェスタッフとして、メニューの企画から販売までアルバイトとして入っていただいています。自分たちが育てたハーブを紅茶にブレンドして、テイスティングをして提供しています。こうしたことが広まって、庭人さんたちがいつも買って読んでいるような人気雑誌や新聞でも特集ページが組まれるようになり、そうしたところに自分たちも出ることでもとてもモチベーションが高くなっています。
 
― 人と地球に「やさしく、あったかい」 社業との結びつき
神戸に本店、大阪が本社という日本毛織でなぜこんなに活動が続けられたかというと、毛織物が祖業の会社として「人と地球にやさしく、あったかい」をモットーに全事業に取り組んできたことがすごく響いているところがあります。またかつての工場の周りには多くの方たちが暮らし、もともと街を作っているような感じがありました。今もそうした跡地をマンションに売却するのではなく、ショッピングセンター以外にもさまざまな街づくり・暮らしづくりに取り組んでおり、結果的にはそうした社業とすごくあっていると考えています。
 
担当者としては、自分の庭を丹精したいということを心がけています。自分が立っているところに実はとても大事な種や芽があって、それを大切にしていく中で、何かが生まれていくのではないか、ということをいつも気にしてやってきました。今年がちょうど創立120年、130年のプロジェクトに向かっても動いていこうと思っております。

 
3. ゲスト企業×調査研究部会 ディスカッション

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※発言者敬称略

― 2016年度調査結果について
吉本:企業文化部などをつくる動きのあった90年代に比べ、近年は担当部署として総務、CSRが増えていることに、メセナの位置づけの変化を感じた。一方で、メセナ活動目的の三番目に「芸術文化を通じた社会課題解決」があるが、一番目は「芸術文化振興のため」。国の政策でもそうだが、教育や福祉、経済に役に立つから文化をやる、では目的と手段が逆転する危険性がある。文化事業としてやっていく意思が表れていて、とても重要だと感じた。

吉村:ゲストの2社はまさにそれを実践されていた。今年の調査結果のポイントは大きく2つあり、ひとつは社業との関連性、もうひとつは企業の存在基盤である地域社会とどう共生関係をつくるか。山田さんのお話では、自ら汗をかかれる努力と、ビジネスの感覚を活動の運営や改善に取り入れ、将来のビジョンに向けて活動を構築されていることに大変感銘を受けた。稲垣さんは地域社会に根を張られ、住民の方が集まれる場を一緒につくっておられることを強く感じた。

― 社内や地域との関係づくり
山田:こうした活動が始まるのは、現場からのボトムアップ型と上からのトップダウン型の2パターンあるが、原田は後者。当初は「俺たちは一所懸命ラスクを売ってるのに」なんて空気もあったが、今は親のために社員がチケットを買いに来たり、7年目にしてやっと社内の立ち位置ができた感じ。最近は入社希望者の中に、文化事業のことを知って素晴らしいと思いましたという人も出始め、これは説得力がある。やはり続けることなんだと思った。
 
稲垣:活動がやりやすくなったのは、ウェブの発達と結びついているところがある。こうした活動は共感者の輪を広げることが大事。一方的な広告宣伝だけでは限界があるが、体験していいなと思った方がブログやSNSで発信してくださる。お嫁に行った地元の方がこの活動にあわせて里帰りしてくれるようなときに、だいぶ地元に根付いてきたなと感じる。

吉本:山田さんの「雪だるまの芯を大きく」というお話は全国の小さなホールなどにもぜひ聞いていただきたい。「工房からの風」「庭人」「風人」といったネーミングはニッケさんのイメージとあっていて、それも参加する方々にちゃんと届いているように感じた。

― メセナに求められる多様な価値
吉村:近年メセナに求められる価値が多様になり、地域や経営といった視点といかに両立できるか、非常に難しいハンドリングを迫られているように感じている。2016年度調査のアンケート回答からも、多方面から求められるものを各社の現場が日々バランスをとり両立している姿が見えてきた。メセナ担当者は芸術的専門性を高めていくと同時に、経営の視点や、地域社会の視点を同時に持たなければならないと感じている。

― 最後に(企業メセナ協議会 事務局長 澤田澄子)
本日は貴重なお話をありがとうございました。原田様も日本毛織様も、ともに地に足のついた活動を自然体で、センスよく発展されている姿に大変感銘を受けました。本日の報告会が皆様にとってお役に立つ、触発する機会になれば幸いです。
 
 
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