今回お迎えしたのは、日本の美や風景を保存し、未来に伝える2つのメセナプロジェクトご担当者。それぞれのご活動について、会場に集まったおよそ40名に向け語ってくださいました。
 
開催概要
日時:2014/6/12(木)16:00~17:30
会場:株式会社博報堂 会議室
出演者:木村 純子氏(キヤノン株式会社CSR推進部部長)          敬称略
山本 典子氏(公益財団法人東日本鉄道文化財団事業部担当課長)
荻原 康子氏(公益社団法人企業メセナ協議会事務局長・モデレーター)
 
会場をご提供いただいた株式会社博報堂戸田裕一代表取締役社長からのご挨拶に続き、企業メセナ協議会尾﨑元規理事長より御礼と開会のご挨拶が冒頭で行われました。
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株式会社博報堂 戸田裕一代表取締役社長
 
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企業メセナ協議会 尾﨑元規理事長
まずは、キヤノン株式会社による「綴プロジェクト」について、木村さまにご紹介いただきました。
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■キヤノン株式会社について
キヤノンは、カメラをはじめとするイメージングシステム、複合機に代表されるオフィス、そして産業機器など、大きく3つの分野で事業を展開しています。これらの事業における豊富な製品群やサービスを通じて、ますます多様化・高度化するお客様のニーズに応えています。
キヤノンでは、創業当時から脈々と受け継がれている人間尊重の気風や、ベンチャー精神を発揮して世界に通用する製品を作るという気概のもと、早くから海外での事業を行ってきました。創業50年を迎えた1988年には、人間尊重の気風をグローバルな観念にまで昇華し、「共生」の企業理念として制定しました。この「共生」の理念のもと、事業を通じた社会への貢献とともに、「良き企業市民」の一員として、人類すべてが豊かに暮らしていける社会の実現に向けた活動を世界各地で展開しています。
 
■「綴プロジェクト」とは・・・(「メセナアワード2012『歴史をひもとく賞』」)
鑑賞する機会が限られている国内の文化財や海外に渡った屏風・襖絵などの日本の貴重な文化財の高精細複製を行うもので、社会貢献活動として2007年より行っています。デジタルカメラでの多分割撮影や高精度な色合わせ、日本画の繊細で立体感のある表現を再現するプリンティング技術などを投入し、自社ならではの取り組みを展開しています。複製品は、撮影したデータを画像処理し、特性の和紙に出力した後に、京都に伝わる伝統工芸の技を融合してオリジナルに限りなく近い形で完成させ、文化財の元の所有者や文化財にゆかりのある地方自治団体などへ寄贈されています。
 
■綴プロジェクトの目的と活用例
日本の文化財として複製品を活用していくことを目的としています。実際に触れて見ることが出来ることが複製品の大きなメリットです。今回は2つの活用例を紹介します。
1つは、大覚寺に寄贈した「四季耕作図襖」全十六面の特別公開の様子です。約250年ぶりに実際の空間に置かれました。かつての雰囲気や情景を感じることができると来館者からも喜びの声があがっていました。
2つめは、小学校の課外授業や美術館・博物館における教材としての活用の様子です。東京都美術館と東京藝術大学の連携事業「とびらプロジェクト」に「桜図屏風」「群鶴図屏風」の二作品が寄贈しました。とびらプロジェクトでは、ただ鑑賞するだけでなく、実物の鶴との比較や部屋の明かりを落とし、ロウソクを用いた鑑賞などのユニークな鑑賞も行っています。
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◎お話をうかがい、日本の文化財とされる上質の作品を間近に感じ、鑑賞することで、日本人らしい感性を深めるだけでなく、子どもたちをはじめ私たち1人ひとりの感性をより豊かにしているように感じました。
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続いて、公益財団法人東日本鉄道文化財団による「東日本における地域文化支援」について山本さまにうかがいました。
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■公益財団法人東日本鉄道文化財団について
本財団は、1992年3月、東日本旅客鉄道株式会社の拠出金により設立されました。まだ、国鉄分割民営化が成し遂げられて間もなくのことでした。東日本旅客鉄道株式会社は誕生後すぐに鉄道の活性化を図る中で、地域において着実な活動を積み重ね、社会的使命を果たしてきましたが、さらに一層その経験と実績を生かし新たな社会貢献を続けていくため、本財団の設立を決定しました。
 財団発足時の事業活動は、東京ステーションギャラリー、とうきょうエキコンを中心とした芸術文化活動、東日本各地の優れた伝統文化への支援、及びアジア各国鉄道員の研修事業を展開してきましたが、その後、旧新橋停車場の復元事業、鉄道博物館事業、青梅鉄道公園事業が加わりました。
 2012年の東京駅復元に伴い、東京ステーションギャラリーもリニューアルし本格的な美術館として再開しました。また、2013年には旧万世橋駅遺構を再生し、歴史的価値の遺構を公開できることになり、当初の設立趣旨を実現する多彩な事業規模になってきています。
 鉄道の先人がこれまで残してきた足跡を振り返り、また、あらたな光をあて、鉄道を通じた学術・科学技術、地域文化、国際交流の発展に少しでもお役に立ちたいと願っています。
 
■「地方文化事業支援」とは・・・(「メセナアワード2011『文化の枕木賞』」)
JR東日本管内各地の貴重な文化遺産や伝統芸能、歴史的建造物や町並みなどの保全と継承、地域の発展を目的に1993年からスタートしました。JR東日本各支社が選出した候補の中から選考されたものに助成する仕組みで、1事業につき年間最大500万円の支援をしています。また、これまで道具や衣装、建築など「有形」に限っていた使途を、次世代を担う人材育成費といった「無形」まで広げました。
 
■事業支援の強みと目指すもの
この事業の最大の強みは、地元でアンテナの役割を果たす多くの駅長さんからの情報提供・選出です。地元で集まった情報をしっかり吸い上げることで、地域に根差した活動が可能になっています。また、財団担当者は対象となる支援先には必ず足を運び、報告会では地元の人たちと膝を突き合わせて意見を交わすこともあります。また、東日本大震災を受けて被災地を対象に、支援金額を予算の2分の1の金額から全額支援への変更や支援推薦枠の拡大も行っています。こうした柔軟性のある支援を常に心掛けています。今回は例として「横手市増田地区歴史的建造物整備および保存事業」を紹介します。
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◎山本さんのお話からは、自社の強みを生かした柔軟なネットワークの構築が地元の人々との信頼関係を深め、活動自体の幅の広がりにも繋がっていることが伝わってきました。
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さて、最後に発表者のお二人に企業メセナ協議会の荻原事務局長が加わり、トークセッション&会場との質疑応答が行われました。
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■トークセッション
荻原:いずれも本業を生かしたメセナ活動ですが、始めたきっかけは何だったのでしょうか?
木村:もともとは、パートナーの特定非営利活動法人京都文化協会が行っていた活動でした。技術的な面で相談を受けたことがきっかけになりました。また、取締役社長の御手洗氏が海外の美術館を訪れた際に、展示された日本の作品を見て、「日本の貴重な文化財が海外に渡っている。日本人にももっと日本の良さを見て欲しい」と強く想ったことが綴プロジェクトを行う原動力になりました。
荻原:地方文化事業支援の助成の期間はどのくらいなのでしょうか?
山本:現在は最大3年としています。ただし、継続して支援が必要であると判断した場合には3年以上の助成による支援も可能にしていきたいと考えています。
荻原:メセナ活動による会社内での反応はいかがでしょうか? 
木村:技術者に対しては、寄贈先の方からの感謝や作品を鑑賞された方の喜びの声をフィードバックすることでモチベーションに繋げています。日本の文化を守り伝える一翼を担うことが社員の誇りになっています。
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■質疑応答
Q:他の財団等からも助成を受けている催事・団体についても助成を行っていますか?
A (山本):行っています。支援が連鎖することでさらに発展することもあります。実際に、東日本文化財団の支援をきっかけに、地元の自治体からも支援を受けるようになったという話も聞いています。
 
Q:東日本文化財団では新しい催事などに対しては助成を行わないのでしょうか?
A (山本):一度限りの開催などイベント性の高いものは助成の対象としていません。新しいものでも継続性のあるものや、歴史上行われていたものを再興させるための事業は対象としており、実例もあります。
 
Q:各支社間の競争意識により、規模の小さな催事等に不利になることはありませんか?
A (山本):現在はそうした心配はありません。逆に競争意識を持つくらいにより積極的になってほしいと感じています。また、最近では青森と岩手の県境の事業は2県連携して推薦できることなども考えています。
 
Q:キヤノンでは複製のために得たデータは、グッズを作成する等に用いることは行わないのでしょうか?
A (木村):現在は行っていません。一作品につき複製は1つという契約をしています。複製した作品は自社で保有するのではなく、美術館や寺院等に寄贈することになります。
データ自体は複製の劣化や万が一の自体に備えて保存してありますが、そのデータを複製以外に使用するかどうかは作品の権利者の判断次第になります。
 
以上
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◎第1回を終えて、どちらも「保存・継承することが目的ではなく、その先にある文化財をどのように活性化させるか」ということを大切に活動されていることが印象に残りました。
トーク終了後の懇親会では、会員やメセナに関わる方々が梅雨間の晴れた夕空を眺めながら交流。和やかな会となりました。
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報告者:昭和音楽大学音楽学部音楽芸術運営学科
アートマネジメントコース4年
中野 和
 
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