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 ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ginza graphic gallery)は、グラフィックデザインの専門ギャラリーとして1986年に開館、3つの頭文字から「ggg(スリー・ジー)」の愛称で親しまれている。多い日で1,000人の来場者があり、これまで132万を超える方々が訪れている。

                
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 この春gggは30周年を迎え、4月15日にリニューアルオープンした。それを記念した第352回企画展「明日に架ける橋」では、gggでこれまでに催された展覧会のポスターが一堂に展示されている。会場はまるで未来に続く小路を進むような空間になっていて、左右には360点もの作品が屏風状に連ねられ、何段にも重ねられて展示されている。
 

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本展の展示風景。第1回展は大橋正氏の「野菜のイラストレーション・原画展」(左上)

                                          

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1964年のオリンピックでデザイン専門委員会委員長も務めた勝見勝の業績を記念した「勝見勝賞」展ポスター

 昭和生まれの私には、たまらない内容だ。懐かしさと同時に最先端にふれている感覚を覚える。

 勝手なことをいってよければ、誰かと一緒に見るなら同世代がいいだろうと思う。というのも、30年分もの展覧会のポスターがぎっしりと詰め込まれた空間にいると、作家名や作品に触発され、各時代のエピソードが次々に頭に浮かんできて話が尽きないのだ。同じ時代を生きた誰かとその感覚を共有しながら見るのも楽しいだろうと思ったからである。

 教科書で学んだ田中一光や亀倉雄策、本展の監修者であり札幌五輪のエンブレムをデザインした永井一正の作品はもちろんのこと、ブルーノ・ムナーリ、原研哉、ピタゴラスイッチの佐藤雅彦、村上隆に大宮エリー、そして「とと姉ちゃん」で話題の『暮らしの手帖』まで、時代を象徴する作家や図像が次々に登場してくる。

 本展の図録には、これまでgggにかかわったさまざまなデザイナーやアーティストが言葉を寄せている。フランスで活躍するミシェル・ブ ーヴェ氏は、gggでの個展を「ひとつの夢」だという。
 ​グラフィックデザインの聖地といわれるggg。世界中のクリエイターが展示を目指すギャラリーは、どのようにして生まれたのだろうか。

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96年に開催された村上隆展

 1986年、gggは大日本印刷旧銀座ビルにオープンした。往時は、DNPのおおもとの生業である活版印刷に使う鉛活字の「秀英体」を販売する場所だった。

 画廊のひしめく銀座にグラフィックのギャラリーをつくろうと大日本印刷株式会社(以下DNP)代表取締役社長・北島義俊氏と、初代監修者となった田中一光氏が発案したことがきっかけだったという。

 田中氏は、「ギャラリーは企業と市民との風穴だと思っている。キュレーションが毅然としていて、スペースの空気がやさしく人をとらえるなら、風はどんどん窓から入ってくる」という言葉を残している。



 日本でメセナという言葉が浸透し始めたのは、1990年のころからである。それよりも早い時期にDNPは、gggという「企業と市民の風穴」をオープンさせたのだ。

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展覧会を解説する北沢永志氏

 第1回展は、キッコーマンの広告などで著名な大橋正氏の「野菜のイラストレーション・原画展」であった。そのポスターは会場を入ってすぐ左手の上部に展示されている。白を背景に中央いっぱいに美しく描かれているのはセロリだ。美しく、写実的で、かつ力強さもある。

 土屋耕一氏によるコピーには「大橋さんの描く野菜にはイノチがある。…(中略)そら豆は、若い娘たちのような肉づきのよさを私たちに惜しげもなくも見せつける」とある。今では如何なものかといわれそうな表現だけれども新鮮で、イラストレーションの豊饒さとその魅力を浮かび上がらせる言葉が巧みに絡み合い、30年を経てもなお刺激を与えてくれる。
 
 90年からgggのキュレーションを担当しているDNP文化振興財団ggg/ddd企画室キュレーターの北沢永志氏は、「展示にあたっては、自分がワクワクし楽しめるかどうかを大事にしている」と少々はにかみながら話す。一方で眼差しは鋭く、gggのキュレーションという重責を担うその気概が感じられた。
 

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2階にオープンしたグラフィック・アーカイブ・ライブラリー

 これらDNPのメセナ活動の中で最も長い歴史を持つのがgggである。ICC本部企画管理部長の志村耕一氏は「gggはDNPのメセナの原点」という。

 「ポスターや包装紙など、印刷物は不要になればゴミになる、消費されるものとしか見られていなかった。しかしグラフィックデザインには、消えることのない文化財としての価値がある。グラフィックデザインの価値をあげることは印刷の価値をあげること。そういう想いで続けてきた」という言葉が印象に残った。

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DNPのメセナ活動がこれまでに受賞したトロフィーの数々。一番手前は2015年度メセナ大賞

 今回のリニューアルでは、「開かれたggg」を目指したという。展覧会の会期を長くして、展示の理解を深める企画を盛り込むほか、ハード面では温湿度をコントロールする空調システムの改良、照明のLED化など展示環境を整備し、バリアフリー化も図った。

 2階には、グラフィック・アーカイブ・ライブラリーの機能が新設された。gggの刊行書籍をはじめ、タブレット端末で見るこれまでの展覧会の様子を撮影した蔵出し動画まで、自由に閲覧できる空間だ。また、ここでは自分のスマホで100点を超える関連コンテンツの電子書籍も自由に見ることができる。

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タブレットでは、展覧会のポスター一覧や出展作家リストから、
開催された展覧会の様子を動画や静止画で見ることができる
車椅子の方やベビーカー連れの来館者には、スロ
ープになった専用の入口を開設。入口のインター
ホンで連絡すれば、スタッフが対応してくれる

 

 オープンして間もない平日の夕刻、椅子に座り書籍に目を通している若い女性がいたので、声をかけてみると、仕事で銀座に来たついでに立ち寄ったのだという。彼女のお仕事は「空間デザイナー」で、「久しぶりにのぞいたらこんな新しいスペースが出来ていて感動した」と話してくれた。gggでもらったパッションを仕事にも生かしているとのこと。

 プロのデザイナーから、海外からの訪問者、買い物帰りにフラッと立ち寄る人、さまざまな層の方々が集まってくる。開かれた場としてさらに存在感を増したgggには、インターネットやバーチャルな世界にはない、作品を目の前にして生まれる観客の声が溢れている。

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左から本展キュレーターの北沢氏、大日本印刷株式会社理事・ICC本部長の舟橋香樹氏、ICC本部企画管理部長の志村氏


 

 

 
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