寺田倉庫本社外観

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 羽田空港から乗り換えなし20分。天王洲アイルは、お洒落なショップやカフェ、壁画、劇場、ギャラリーなどが並び、まち全体がアート特区となっている。30年ほど前までは雑多な倉庫街だったが、今やアート溢れる豊かな街として大きく変化している。その中核を担っているのが、寺田倉庫だ。ビルの壁に描かれた「 」のロゴは余白を意味しており、暮らしに心の「余白」を持とう、というコンセプトを発信している。

 この日、企業メセナ協議会は第4回会員ネットワーク勉強会のため寺田倉庫を訪れ、いくつかの施設を見学した。寺田倉庫の事業は「WINE」「ART」「MEDIA」の保存・保管が3本柱だが、今回は「ART」に関する視察である。

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本社入り口の壁画、利根山光人作《いしぶみ》


 1950年に創業し、70年代からアート事業をスタート。絵画などの保全・保管をおこなっている。本社建物の入り口には、壁一面の大きな壁画と、木を組み合わせたエントランスの屋根。こちらで、まず美術倉庫と燻蒸施設を見せていただいた。

 本社内は写真をお見せできないのが、本当に残念だ。建物のロビーやエレベーターなどいたるところにアートが溢れ、まるで絵画のなかに迷い込んだ気持ちになる。

 美術倉庫は、全部で30部屋。案内員の方が「現代アートはどんどん大きくなっています」というように、もっとも大きな部屋で37坪ある。温度20℃±2℃、湿度50%±5%と厳密に管理されていて、すべて満室だそうだ。

 別フロアにある燻蒸施設は、預かった作品を消毒する施設のこと。50人以上が余裕で入れるほどの広さがあり、繊細な美術作品を48時間燻蒸し、殺虫殺カビを施す。「美術館でも併設しているところはほとんどないんです」という。

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建築倉庫ミュージアムARCHI-DEPOTのようす


 次に訪れたのは、「建築倉庫ミュージアム ARCHI-DEPOT」。国内唯一の建築模型専門ミュージアムとして2016年6月18日に開設された。陳列室には、建築家26組以上、280点以上もの建築模型作品が展示され、誰でも撮影、スケッチができる。休日には350名以上訪れることもあり、開館一ヶ月で5,000人の来場があったそうだ。

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坂茂作《ハノーバー国際博覧会日本館》の模型


 入館するとすぐに、坂茂さんの代表作、《ハノーバー国際博覧会日本館》が置かれていて、圧倒される。陳列作品は隈研吾さんの作品が最も多い。ほか《スカイツリー》など、知っている建物の全景を眺められるのも楽しい。使われている素材も、日本の建築模型特有の紙を使用しているほか、アクリルや木材などさまざまで、ミニチュアミュージアムのようだ。

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展示室内には最大500点ほど収納できる


 陳列室の広さは約450㎡、天井高5.2mと広い空間に約100個のラックが並ぶ。美術品を倉庫で保管する時と同等の温度・湿度が保たれているため、展示しながら保存ができる。

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建築倉庫ミュージアムARCHI-DEPOT館長 徳永雄太さん

 館長の徳永雄太さんによると、建築模型は海外では価値が高いが、日本では捨てられることも珍しくないそう。展示されている模型は、館長自身が建築家にオファーし、対話を重ねながら選定しているそうだ。「このミュージアムを拠点に日本の建築文化を普及できれば」と語る。「もちろん開館当初は大変でしたよ!」というが、笑顔でハキハキとした語り口から楽しさとやりがいが伝わってくる。

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携帯でQRコードを読み込み、建築家の情報を得る


 館内は暗く、照明はスポットライトのみ。光で傷まないよう、展示品をとても大切にしていることが伝わる。各展示品には出展者名とQRコードを記載したパネルが設置されており、コードアクセスして建築家の情報を得ることができる。
 情報は日英バイリンガルで表示される。来場者の半分近くが外国の方で、国外からの感心の深さもうかがえた。

 次に訪れたのは、伝統画材ラボ「PIGMENT(ピグモン)」。

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「PIGMENT」外観はまるでファッションブランドショップのよう

 7月27日にオープンし、希少な画材が取り揃えられている。本社ビルと同じく、木を基調とした竹の簾をイメージした店舗は、隈研吾さんの作品だ。

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店内の壁一面に並ぶ顔料は、青だけでも何十種類もある


 店内は200㎡とゆったりしており、壁一面に4200色以上の顔料が並ぶ。青色だけでも何十種類も揃えられているその光景は美しく、色のグラデーションに見惚れてしまう。「お店ではありますが、ある意味でミュージアムだと思っています」という、寺田倉庫の中野社長の言葉が体現されたショップだ。

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広さ200m2のゆったりしたスペースに画材が立ち並ぶ


 顔料以外にも、200種類を超える古墨、硯(すずり)、膠(にかわ)、箔など、4500種類 1万点の伝統画材が陳列されている。また、孔雀やキジの羽で出来た筆や、多種の和紙、木枠などが並び、希望すれば試し書きもできる。

 所長の岩泉さんは膠を専門に研究している方。どの画材についても、専門知識が豊富な画材のエキスパートがアドバイスをしてくれる。開店から半年で300~400名が訪れており、欧米・アジアなどからの訪問者が7割を越えるそうだ。

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倉庫スペースを活用して創られたアトリエ 写真は共用部分


 最後に、2015年7月に開設したアトリエ「T-Art KÔBÔ」を訪問。アーティストのための賃貸アトリエで、大型の立体作品を創る環境が備わっている。都内では珍しく16室もの集合アトリエとなっており、アーティスト同士の交流ができることで、刺激を与え合える空間となっている。

 ここまで紹介したアート事業のほか、若手アーティストをサポートする「TERRADA ART AWARD」、「T-Art Gallery」、楽器倉庫に隣接されたリハーサルスタジオなど、芸術作品を預かることに付加価値をつけたアートサポートを実施している。

 これらの活動がすべて海外を意識されていることについて、アートディレクターの藤原小百合さんは、「国を意識するというよりは、ボーダーレスなのです。日本だから、海外だからという違いは感じていません」と答える。天王洲の立地が国際空港に近いほか、社長自身も台湾在住であり、また長年海外からの作品を保管してきた経験からくる自然な考えなのだろう。

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アートディレクターの藤原小百合さん


 寺田倉庫の基本事業は、保存・保管業である。目標は、“ものが持っている文化的価値(=文化)を次世代に残す”こと。「70年以上培ってきた倉庫保存・保管のノウハウを活かして、アートの未来に貢献したい」。作品を預かるだけでなく、継承していくことで、1000年先まで受け継ぐ“SHOSOIN(正倉院)”を目指している。こうした文化的価値を外に発信したり、人の集まる場を生み出すなど、天王洲からアートやカルチャーを発信する多角的な取り組みを行っている。

 「“天王洲”というひとつの場所に、アートの拠点となるアトリエ・画材工房・ギャラリー・作品倉庫などが集約されることで、ワン・ストップでさまざまなアートに触れられる豊かなまちとなっています」という藤原さんの言葉どおり、天王洲は文化の発信地として、来た人誰もが楽しめるよう開かれていた。ぜひふらりと訪れて、アートが創る豊かな文化を体感して欲しい。

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会員ネットワーク勉強会に参加したみなさん

2016/8/3訪問

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