ネオンの装飾を施した焼き芋販売車「金時」。美術家ユニットグループ「YottaIRON∞MAN」のイベント出品作品

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 派手なネオンの装飾を施した焼き芋販売車や、プラネタリウム投影装置を乗せた軽トラック-。

 美術作家が手がけたユニークな改造車計7台が、大阪市住之江区の造船所跡地を活用したアート複合スペース「クリエイティブセンター大阪(CCO)」に集結した。鉄を素材に創作活動に取り組むアーティストグループ「IRON∞MAN」によるアートイベントで、CCOでの開催は2 回目。焼き芋を買い求める人が行列を作ったり、アーティストによるパフォーマンスに歓声が上がったりと、屋外の車両展示スペースはお祭りのようだ。ざわめきが、夜遅くまで造船所跡の広大な敷地に響き渡っていた。

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プラネタリウム投影装置を搭載した軽トラック。美術家グループ「IRON∞MAN」のイベント出品作品

 CCOは、不動産賃貸業などを展開する千島土地株式会社(大阪市住之江区)が運営する。1980年代終わりに造船所が移転し、休眠状態だった跡地で、芸術家や研究者らによるアートイベントが開催されたのが2004年。これを契機に、土地所有者の千島土地はアートを基軸にした跡地活用に乗り出す。CCOと名付け、倉庫や事務所棟の一部をイベントスペーススタジオやホールに改装。以来、美術展のほか、演劇や音楽ライブ、映像上映など、幅広い分野のイベントが実施されている。

 「IRON∞MAN」のリーダー飯島浩二さんは「大がかりな作品がエンジンで動いたり、炎を使ったパフォーマンスをしたりするので、ここはなくてはならない、最高の場所」と語る。

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クリエイティブセンター大阪にある原図室。広さ約1300平方㍍あり、柱は1本もない

 「CCOにはアーティストが来ると必ず行くところがある」と聞き、千島土地地域創生・社会貢献事業部の北村智子さんに案内してもらった。そこは造船所時代、オフィスや食堂などがあった事務所棟にあり、「原図室」と呼ばれる場所だ。実際に建造する船と同じサイズの図面を人の手で描いていた広いスペースで、体育館のように柱が1本もない。今も床一面に、図面の線や数字が残されている。

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原図室の床に残る製図の跡。一時、橋梁メーカーが使用しており、図面は橋の一部と思われる

 「アーティストがこれこを見ると、いろいろな考えが浮かぶようです」と北村さん。かつて、多くの人がものづくりに情熱を傾けた造船所の「記憶」は、今も芸術家の創作意欲をかき立てている。

 いて訪れたのは、CCO近くの鋼材加工工場跡。ヤノベケンジの高さ約7mのロボット「ジャイアント・トらやん」や、宇治野宗輝の「サウンドスカルプチャー」と呼ばれる、家や車を作品に取り込んだ音を発する彫刻作品がずらりと並び、巨大なおもちゃ箱に迷い込んだようだ。ここは「MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)」と名付けられた、全国的にも珍しい大型美術作品の収蔵庫だ。

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大型美術作品を収蔵する「MASK」の内部。左は、千島土地地域創生・社会貢献事業部の北村智子さん

 近年、大規模なアートイベントが各地で開かれ、大型美術作品を発表する場が増えたが、会期終了後に保管場所が確保できないという問題も起きている。それを知った千島土地が、2012年から自社保有の工場跡を提供し、無償で作品を預かっている。2014年から始まった年1回の一般公開は多くの人でにぎわう。「美術ファンだけでなく、家族連れも多く訪れます。昨年から子ども向けの鑑賞ツアーも始めました」と北村さんは話す。

 千島土地の初代芝川又右衛門(1823-1912)は、銅版染付陶器のビジネスで身を起こし、貿易商として財を成し、明治期に不動産業へと事業転換していく。二代目に家督を譲った後は、実家の家業だった蒔絵の技術向上や普及拡大、人材育成に取り組んだ。また、不動産業を引き継いだ二代目又右衛門は、兵庫県西宮市で果樹園を営み、その敷地内にあった別荘は関西財界人の交流の場になっていた。

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クリエイティブセンター大阪の広大な敷地。造船所の象徴でもあるドック(船渠)が2つ見える

 そんな歴史や企業文化を持つ千島土地は、現社長の芝川能一氏のリーダーシップの下、メセナ活動に力を入れてきた。2011年には株式会社設立100周年を記念して、「おおさか創造千島財団」を設立し、大阪でのアートイベントや芸術家に対する助成、イベント開催場所の無償提供などの支援活動を始める。千島土地は、CCOのある北加賀屋地区に多くの土地や工場、住宅を所有しており、メセナ活動にもその一部が活用され、取り組みは地域へと広がりを見せている。

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美術家グループ「IRON∞MAN」の作品展示やパフォーマンスが行われた建屋

 09年に打ち出した「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」は、エリア内の空き家や工場跡を創作活動の場として、安価で提供し、アーティストやクリエイターを地域に呼び込もうというプロジェクトだ。これまでに、住居や店舗、工場など、約40物件で契約がまとまり、カフェやギャラリー、デザインオフィスなどが開業したほか、アーティストが移り住んで創作活動に励む。

 CCO開設から始まり、KCV構想へとつながる、一連の取り組みで、千島土地は2011年に「メセナ大賞」を受賞した。

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北加賀屋地区にある民家を改装したカフェ併設のギャラリー

 北加賀屋地区は、昭和初期から造船など重工業で栄えた街だが、近年は産業の空洞化や住民の高齢化が進み、空き家や空き地も少なくない。一方で、アーティストらが自分たちの手で改装し、店舗やギャラリーに生まれ変わった住宅が存在感を示し、街角にある壁画や美術作品も地域に彩りを添える。地区内を歩くと、「アートの街」へと変化しつつあることを実感できる。

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タイ人アーティストが北加賀屋地区の長屋の壁に残した作品

 「アーティストの目には、古びた工場跡や空き家も魅力的に映り、彼らが手を加えることで、新しい価値を帯びてきます」。北村さんのこの言葉が、今回の取材で最も印象的に残っている。千島土地の取り組みは、アート支援の枠にとどまらず、社会問題解決も視野に入れた地域活性化の試みでもある。

 複数の造船所が操業し、活況を呈していた昭和40年代。各造船所で挙行する進水式は船主や関係者だけではなく、周辺の取引先や地域住民も参加する一大イベントだったという。セレモニーでは餅まきも行われ、多くの人が楽しみにしていた。北加賀屋地区は、地域ぐるみでものづくりに取り組み、完成後は創造の喜びや達成感を分かち合うという「成功体験」を持っている。

 アートの力が、その「記憶」を呼び起こせば、地域は生まれ変わり、再び活気を取り戻すに違いない。そんな期待を感じさせる一日だった。

藤嶋 亨[メセナライター]

2016年11月23日訪問

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