「Local Prospects―海をめぐるあいだ」会場の様子

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 1989年、九州最大の繁華街・福岡市天神の中心部に、“情報文化発信”をコンセプトとしたユニークな商業施設が誕生した。その名も、「イムズ」。金色のタイルで覆われた外壁、地下から上層階まで貫かれた吹き抜け、そして漂うオシャレと文化の薫り…当時小学生だった私は、そのキラキラと輝く建物と雰囲気に胸をはずませたのを覚えている。そのきらめきは、27年経った今でも色褪せない。
 その8階にあるのが、アートギャラリー・三菱地所アルティアム(以下、アルティアム)だ。現代の様々な芸術表現を、既成の評価・ジャンルに捉われることなく、紹介・発信するギャラリーとして、イムズの開館と同時にオープンした。美術はもちろん、建築、映像、デザイン、舞台芸術、食文化…扱うジャンルは実に幅広い。年間で10本前後の展覧会を開催、約4~5万人の人々が訪れるという。2012年にはこれまでの功績を称えられ、メセナアワード「未来のうけざら賞」を受賞した。

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「イムズ」という名称は「Inter Media Station」の頭文字から名付けられた。

s-photo03.jpg   こちらが三菱地所アルティアム。ショップも充実している。

 そのアルティアムで新しく始まった展覧会シリーズ「Local Prospects―海をめぐるあいだ」を訪れた。
会場に一歩足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは4つの大きなスクリーン、そして壁面いっぱいに描かれた大きな文字。スクリーンには水面に浮かび上がり漂う海に生きる人々の姿が生々しく映し出され、水や息遣いの音と相まって見る者に迫ってくる。これは、地元福岡を拠点に活動するアーティスト・山内光枝さんの作品だ。
  ほかに、沖縄を拠点とする映像作家・山城知佳子さん、そして台湾出身のビデオインスタレーション作家・許家維さんの作品が展示されている。ちょうどこの日は山内さんのトークイベントが開催されており、会場には老若男女20名ほどが集まっていた。

 その山内さんに、アルティアムの魅力を聞いた。
 「商業施設の中にあるギャラリーなので、普段はなかなか接点のないような不特定多数の方が作品に触れてくれる可能性があるのがいいですね。特にイムズはいろんな趣味趣向 を持った人が来る場所なので、自分の表現が幅広い人々の目に触れるのは有難い機会だと思っています。」
 そう話す山内さんが初めてここを訪れたのは、高校生の時。「実は当時はファッションデザインの仕事に興味を持っていたんです 。そんな時に“アート”という言葉を知って、いろんな展覧会に行くようになりました。福岡でもこういうことをやってるんだ、東京でなくても見にいけるんだ!と足を運びました。」
 当時の山内さんはアルティアムでの展示を見て「これがプロの現場か!」と思ったという。その高校生が、今や出展作家としてここにいる。そのことは、四半世紀にわたり継続してきたメセナ活動の賜物のひとつと言っても過言ではない。山内さんはアルティアムへの期待をこう話す。「窓口であってほしいです。ひとつは、普段なかなか触れる機会のない作品を外から持ってきて紹介する窓口。そしてそれとは逆に、ここを拠点とする作家の視点だからこそ生まれた作品や活動を発信する窓口。アルティアムには両方の窓口であってほしいと思います。」

s-photo04.jpg  山内光枝さんによるトークイベントの様子

 国内外の最先端のアートをいち早く紹介することと同時に、地元福岡や九州の作家を紹介する企画にイムズは開館当初から力を入れてきた。オープンの年から「九州コンテンポラリーアートの冒険」と称し、九州エリア の作家を対象とした公募展を開催、1991年からはその出展作家の個展「イントロダクションシリーズ」をアルティアムで9年間実施した。その後、2005年から公募展「For Rent! For Talent!」がスタート、そこでも地元の若手作家が取り上げられた。その公募展が2009年に終了し、しばしの時を経て、今回満を持して、地元作家を紹介する新たなシリーズが始まったのだ。

 「今回新しい視点として明確に打ち出したのは、“地域”というキーワードです。」そう話してくれたのは、このシリーズを企画した一人 、アルティアムのディレクター・笠井優さんだ。
 この“地域”という概念的な言葉、便利でもあるが、時に厄介な言葉でもある。しかしあえてこの言葉を選ぶことで、アルティアムから私たち見る者への、ひとつの新しい見方の提示がなされたということだ。
 「今ここに生きる私たちにとって、どこまでが“地域”や“地元”なのか。既存の境界に縛られず新しい視点を提示できたらと思い、今回、福岡・沖縄・台湾の作家を紹介しました。これらの土地は、地図で見ると東京よりも近くて、あるつながりを持った“地域”だと捉えることも出来る。既成概念に捉われない意味での“地域”の作家たちを紹介すること、そしてお客様がそれを見ることで、未来につながっていけばよいなと思っています。」  
 笠井さんは続ける。「地元作家の紹介というのはアップデートし続けなければならないと感じています。新しい作家の存在、アートシーンの変化…一度やったら終わりではなく、続けることに意味がある。なので、今回の展示をシリーズ化することにはこだわりました。」
 これからも“地域”の概念を自ら問いながら、地元の作家や作品をここ福岡から発信しつづけていく。今回の展示は、アルティアムの意志表明でもあるのだ。

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アーティストの山内光枝さん(左)と三菱地所アルティアム・ディレクターの笠井優さん(右)

 実はこのアルティアム、高校生以下は入場無料だ。「実際にその場に足を運んで多様な表現を体感すること。その面白さを若い人たちに伝えたいです。それは彼らにとっても生きる上での刺激や豊かな経験になると思うし、見る人がいないと作家も作品も、企画する私たちも育っていかない。なので、若い世代が足を運んでくれることは重要なことだと考えています。」未来を見据えた笠井さんの言葉は頼もしい。

 アルティアムではこのあとも多彩な展示を予定している。また、今回始まった「Local Prospects」シリーズも、次回に向けてすでに準備が進んでいるという。「世界から福岡」「福岡から世界」その双方向の窓口として、そして次世代の才能や好奇心の受け皿として。これからも、アルティアムが提示する未来のかたちから目が離せない。

2015年11月28日訪問

三菱地所アルティアム http://artium.jp/

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