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 荷物ならぬ「音楽」を届けてくれる。「音楽宅急便」とは、なんて洒落たネーミングなのだろう。
 ヤマトホールディングス株式会社による音楽宅急便 「クロネコファミリーコンサート」は、小さな子どもから大人まで、だれでも気軽に楽しめる本格的なクラシックコンサートとして1986年に始まり今年で30周年を迎える。毎年、全国各地の約10カ所で開催、これまで47の全都道府県で、累計43万人のお客様に「音楽宅急便」を届けてきた。入場料は無料、親子で楽しめて、プロのオーケストラの生演奏が聴けるということで人気が高く、毎回満席のコンサートだ。

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 8月20日、子どもたちの夏休みもカウントダウンが始まったこの日、300回目の節目となる音楽宅急便「クロネコファミリーコンサート」が、東京都港区赤坂にあるサントリーホールで開かれた。指揮は飯森範親氏、演奏は東京交響楽団という、まさに「本格的な」クラシックコンサートである。実はお恥ずかしい話、私は音楽オンチで、歌も楽器も苦手、クラシック音楽の知識もほとんど無い…。そんな私でも、「音楽宅急便」の中には何が入っているのだろうと、包みを解く時のようなワクワク感でいっぱいで、当日は開演2時間も前に会場に着いてしまった。近くのコーヒー店に入ると、お父さんと小学校高学年くらいの娘さんが「音楽宅急便」のパンフレットを手に楽しそうにお話をしていた。こんなふうにコンサートの前後に家族でする会話も、コンサートの一部なのかもしれない。家族と交わした会話もオーケストラの音色とともに夏休みの思い出の一つになるのだろう。
 店内を見渡すと家族連れが多く、歩き始めたばかりの子どももいる。事前に「お子様でも楽しめるプログラム」、「子どもたちの泣き声も醍醐味」と聞いていたので、私も音楽オンチにかこつけて、子どもになった気持ちで鑑賞することにした。

 さぁ、いよいよ開演である。
颯爽と登場した指揮者の飯森氏は会場に向かって一礼し、オーケストラの方に向き直ってタクトを振り上げた。
子どもたちのはしゃぎ声が一瞬止み、会場は「始まる!」という空気に包まれた。
 オープニング曲は、エルガーの行進曲〈威風堂々〉第1番。この曲は、事前に「演奏してほしい曲」をインターネットで募集し、リクエスト数1位になった曲だという。敷居が高いと思われがちなクラシックコンサートにおいて、リクエスト曲からスタートしてくれるというのは、子どもたちにとっても音楽オンチの私にとっても優しい演出だ。

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 続いて、「泣いても騒いでもOKだよ」と言って会場を和ませてくれた司会の朝岡聡氏(元テレビ朝日アナウンサー)が、ヤシの実を手にして打楽器の説明を始めた。「モノを叩くと音が出る…打楽器のはじまりだよ。バイオリンなどの弦楽器はウエストがくびれたナイスバディをしているから音が響くんだ!」こんな風に、楽器の生演奏を交えながら「オーケストラものしり事典」というプログラムが進む。平易な言葉を用い、とても面白くてわかりやすい。
  最後には「(ホルンの)角、(木管楽器の)木、(打楽器の)実、そして葉など、楽器は全部『自然』から生まれているんだ。オーケストラは自然から生まれたハーモニーなんだよ。」ということを教えてくれた。子どもたちにとっては、オーケストラの楽器がより身近に感じられたことだろう。

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 前半のクライマックスは、観客席から参加者を募っての指揮者体験。あのサントリーホールで東京交響楽団を前に指揮ができるというまたとない好機に、ラッキーな3名が選ばれた。その内の一人は娘さんと来ていたお母さんで、驚くことに自身が子どものころ広島で本コンサートを鑑賞したことがあるのだという。30年間積み重ねてきたこの活動ゆえの嬉しいエピソードだ。しかも、音楽宅急便で演奏している楽団の中には「むかし音楽宅急便を観に来て感動して演奏家になった」方もいるとのこと、この活動の影響力の大きさを感じる。

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  3人の指揮者体験はいずれも大成功に終わった。ポイントは「指揮者によって演奏は全く違う、聞き比べるのもオーケストラの面白味」とのこと。なるほど、また少しオーケストラが身近になった。
  後半、東京少年少女合唱隊が加わって「あめつちのうた」が披露された。この曲は、本コンサートのために2013年に書き下ろされた、林望氏作詩、上田真樹氏作曲による合唱組曲。全てのコンサートにおいて地元の合唱団とオーケストラの協演で演奏されている。今回は300回記念ということもあり、林氏・上田氏も会場に駆けつけ、私たちを喜ばせてくれた。
  最後は、会場とオーケストラの協演!観客全員が立って、唱歌〈故郷(ふるさと)〉を熱唱した。私も、隣の方も、その隣の方も大きな声で、笑顔で歌っていた。「気軽に本格的なクラシックコンサートを楽しめる」とは、こういうことだったのかと、清々しい思いである。音楽オンチの私でも、最初から最後まで前のめりで楽しめた本当にすばらしいコンサートだった。

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 正直、これだけの規模のコンサートを1年に10公演、30年も続けるためには、並々ならぬ準備と組織体制が必要だろうと思った。その背景にはどんな思いがあるのか。ヤマトホールディングス株式会社の清瀬正裕さん(法務・CSR戦略)は、「音楽宅急便は、本物のいい音楽を、年齢や地域を越えてすべての人々にお届けしたいという想いから、全国各地で開催しています。公演終了後にご家族が『楽しかった』と笑顔でお帰りになる姿を見ると、とてもやりがいを感じます。」という。「音楽宅急便」は文化への取り組みとしてヤマトホールディングスが長年続けている活動だ。来年は、「指揮者の飯森さん達とも話し合ってより良いコンサートになるよう新しい試みを考えたい。これからも、ずっと先まで続けたいですね。」と意気込みを語って下さった。
  あなたの街に、クロネコのオーケストラがやってきたら、ぜひ足を運んで欲しい。

2015年8月20日訪問

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