★メセナライターレポートはartscape, ネットTAMからもお読み頂けます。

 銀座7丁目のビルの地下に向かう階段を降りると、50平米ほどの決して広いとはいえないスペースの壁に大小さまざまな作品がぎっしりと飾られていた。株式会社リクルートホールディングス(以下、リクルート)の運営するギャラリー「ガーディアン・ガーデン」で年2回開催される公募展「1_WALL」展グラフィック部門の最終候補に残った6名の作品だ。この中から本日の公開最終審査会によってグランプリが決定される。

 「1_WALL」展は、グラフィック部門と写真部門でそれぞれ年2回ずつ開催している。2009年からはじまり今回で 13回目を数えるが、もともと1992年から 2008年までは「ひとつぼ展」という名前でコンペをそれぞれ全30回開催しており、そちらも入れると実に 20年以上続けている若手対象の公募展だ。

ひとつぼ展チラシ.jpg          tirasi.jpg
『ひとつぼ展』第1回チラシ。                                       第13回グラフィック「1_WALL」展ポスター。
  ひとり一坪の展示スペースという意味ではじまった        2009年より審査の過程をひとつ増やし
(命名はアートディレクターの青葉益輝氏)。               「1_WALL」に名称変更。
  ゆうに566人がここから巣立っていった。

 ファイナリストに選ばれた6名の作家が、プレゼンテーションおよび審査員との質疑応答を経てグランプリを決定。グランプリ受賞者には翌年のガーディアン・ガーデンでの個展開催とパンフレット作成の権利が与えられる。最終審査での審査対象は、ポートフォリオ、展示作品、作家によるプレゼンテーションの3つ。実はこの最終審査の前にも、一次審査でのポートフォリオ審査、二次審査では審査員と作家が一対一で作品について話し、コメントをもらうという過程を経ている。長い長い道のりだ。最終審査も3時間という長丁場である。

 この最終審査は公開ということで会場は満員。予想よりもリラックスした雰囲気だ。ファイナリストたちは作品とポートフォリオを目の前に、一人2分間で作品について自分の言葉で説明していく。21歳から33歳までと年代も色々で、皆さん比較的淡々と語るのが印象的だった。話す内容ももちろんだが、話し方や使う言葉でそれぞれの作品の見え方が少し変わるのが面白い。

リクルート写真②.jpg

リクルート写真③.jpg
審査員を前に、作品とグランプリ受賞後の個展プランについてプレゼンテーションする鰹とニメイさん。
作品「さっきの人」は背後の壁一面を使った作品。

 作家のコメントに対し、審査員が質問していく。グラフィックデザイナーの大原大次郎さん、イラストレーターの白根ゆたんぽさん、長崎訓子さん、「アイデア」編集長の室賀清徳さんが出席。「ポートフォリオのときと印象が違うけど、作品展示してみてモニタの画面上でつくっているときとの違いは?」「制作の順番を教えてください。どの作品からつくったの?」「作品の大きさについてはどう思う?」「見た人にどんな気持ちになってほしい?」「プレゼンテーションが面白かっただけに、タイトルはシンプルすぎる気がするけど」など、審査員からは、作品そのものを評価するというよりは、作家との対話を通して作品と作家との関係性や、作品を世に出すことに対する姿勢や考え方などを聞きだす質問が多い。

リクルート写真④.jpg

リクルート写真⑤.jpg

 一人約20分程度のプレゼンと質疑応答を経て休憩をいれたのち、いよいよグランプリの選出に入る。審査員はそれぞれの作品についてあらためてコメントを重ねていき、最終的に、審査員の審議により木に絵を彫り込んだ力強い作品、谷口典央さんの「忘れた土地」がグランプリに決定した。

リクルート写真⑥.jpg グランプリを受賞した谷口典央さん

 グランプリノミネートの作家や公開審査見学に訪れていた公募展参加作家に今回の感想を聞いた。「二次面接でいただいたコメントが今回の展示プランに影響を与えました」(谷口さん)。「作品について指摘されたことは次の作品制作につながります。なぜこの素材でこの表現方法を選ぶのか、作品が世の中に広がったときのことを考えるようになりました」(山浦のどかさん/一次審査通過入選者)など、多くが審査員とのコミュニケーションでの発見をあげていた。今回初めて審査員を務めた白根ゆたんぽさんからは「作品について自分自身の言葉で語ることには向き不向きもあるかもしれないが、1日で終わってしまうことも多いなかで速度感が独特な公募展だと思う。作家自身の説明を聞いて作品の印象が変わることもあった」とのコメントをいただいた。

 いわゆるコンペの審査というものはもう少し冷たい、無機質なものだと思っていた。しかし、ガーディアン・ガーデンのこの審査会には「愛」があったと思う。作家が作品にかける愛や思いを審査員が汲み取って、足りない部分を批評しながら、新しい視点を与えていく。あたたかい場所だな、と感じた。長い時間かけてコミュニケーションをとってきたので審査員が作家一人ひとりの名前をきちんと覚えていて、審査会後の懇親会で審査員も作家も見学者も作品を見せあったりしながら談笑しているのが印象的だった。

 リクルートは銀座8丁目にクリエイションギャラリーG8というデザイン・ギャラリーも運営している。
 「1985年に誕生したG8はクリエイターを紹介し、デザインの魅力や奥深さ、豊かさを楽しんでもらう場所。一方90年に誕生したガーディアン・ガーデンは、就職情報誌を発行し学生や若者の応援を行ってきた弊社の事業にあわせて、当初は若者文化の中心地だった渋谷でスタートしました。学校などとはまた違う環境で作品を評価されることは若者にとって意味のあることだと考えています」と同社リクルートクリエイティブセンターの菅沼比呂志さんは言う。
 ガーディアン・ガーデンは25年、クリエイションギャラリーG8は30年という長いスパンで活動を継続してきたことがひとつの財産になっていると感じた。

 「ガーディアン・ガーデンは若い才能の可能性を集め、見守りながら育てていく場所なのです」
 ガーディアン・ガーデン担当者からのコメントを聞いた時、未来へはばたいていく若い人たちの姿が目の前に見えた気がした。
 はばたきの巣箱としてのガーディアン・ガーデン。これからもたくさんの可能性の出発点であり続けてほしいと思う。

 ガーディアン・ガーデンのウェブサイトでは、過去公募展受賞者の作品紹介なども行っており、充実したアーカイブとなっている。
http://rcc.recruit.co.jp/gg/artis

2015年10月6日訪問

mmark2015-yoko2.jpg

ページのトップへ戻る