企業メセナ協議会は、全国の企業・企業財団を対象に実施している「メセナ活動実態調査」の2018年度の結果をまとめた『Mécénat Report 2018』を2019年3月に発行。
本調査の結果をふまえた2018年度の傾向を報告するとともに、企業の活動事例を紹介し今後のメセナ活動の可能性や課題について議論を深めるため、5月21日にセミナーを開催しました。

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「2018年度メセナ活動実態調査」報告会および企業活動紹介セミナー 内容

ゲストに大和ハウス工業(株)サステナビリティ企画部 ソーシャルコミュニケーショングループ グループ長で同社のメセナ活動「Daiwa Sakura Aid」のリーダーである内田雄司氏、(株)JTB総務部 広報チーム ブランド担当の向井利夫氏の2名を招き、各社の取り組みについて講演いただいた。また、セミナー後半のディスカッションのモデレーターには立教大学社会学部/大学院21世紀社会デザイン研究科教授の萩原なつ子氏を迎え、ゲスト2名の講演内容をふまえて企業メセナの現在とこれからについて意見交換の場を設けた。

2018年度メセナ活動実態調査 結果報告

まず、企業メセナ協議会調査研究部会長の森実尚子氏(日本電気(株))が、2018年度の調査結果について報告した。本年度の調査ではメセナ活動の大きな流れをみるため5~15年前の回答との比較を行ったことに触れ、取り組み目的、取り組みの重視点、事後評価、そして活動の成果の4点に絞って結果を説明した。
 
  1. 取り組み目的
    活動への取り組み目的を5年前の結果と比較すると「社業との関連、企業としての価値創造」を挙げる企業が大幅に増加しており、ここ数年で自社の事業と絡めた活動に取り組む企業が増えていることがわかった。
     
  2. 取り組みの重視点
    取り組み目的に「芸術・文化支援」と「社会課題解決」をあげた企業の双方ともに、地域の活性化や地域文化の振興を重視していることがわかった。地域やまちづくり重視の傾向は過去の調査から変わっていないが、ここ数年は次世代育成を重要な目的の一つとする傾向が強まっている。
     
  3. 事後評価
    2018年度は「社会的意義」を評価の観点とする企業が最多だったが、15年前も結果は同様だった。一方、当時と比較すると「妥当性」「経済性」「達成度」の割合が大きく伸びていることがわかった。この15年間で企業による活動の社会的意義についての評価の在り方、またその数値化、指標化への模索の動きが進んでいることがうかがえる。
     
  4. 活動の成果
    10年前と比較すると活動の結果「社員の啓発につながった」と回答した企業が約1割増加していることがわかった。

190521_調査報告会_写真_3.jpg以上の点をふまえ、今年度の調査結果のポイントとして次の3点を挙げた。

 1) 自社の事業と絡めたメセナ活動の増加
 2) 活動の社会的意義(社会的インパクト)の評価方法、指標化、
   数値化への模索の動きが進む

 3) 地域や社会への貢献を重視

Daiwa Sakura Aidの取り組み―大和ハウス工業(株) 内田雄司氏

続いて、大和ハウス工業(株)の内田氏より同社のメセナ活動「Daiwa Sakura Aid」について講演いただいた。
大和ハウスグループの原点は創業者・石橋信夫氏が遺した「何をしたら儲かるかという発想でことにあたるな。どういう商品が、どういう事業が世の中のためになるかを考えろ」という経営哲学にあり、この創業者精神が現在に至るまで同社の事業戦略だけでなく、地域共生活動(社会貢献活動)にも受け継がれている。
地域共生活動においては、地域社会の持続的発展を目指した関わりづくりや人材育成、社内の活性化が優先的目標とされ、活動を推進した結果として企業ブランドの向上にも結びつくことが望ましいと考えられている。

190521_調査報告会_写真_5.jpg「Daiwa Sakura Aid」は2008年、当初は奈良県・吉野山の桜保全活動への寄付から始まり、担当者の内田氏が個人的に地元のステークホルダーとコミュニケーションを進めていく中で、2010年から社員によるボランティア活動に広がった。ボランティア活動の開始と時期を同じくして、桜の植樹と日本文化の伝承を目的とした日本全国の小学校を対象とした「桜プロジェクト」も開始された。現在はこれらにコンサートを中心とした周知活動を加えた3つの活動を軸に日々全国的な取り組みが展開されている。
これらの活動は、吉野出身である創業者・石橋氏の精神を受け継いでいくこと、社会的財産である桜の保全を通して多様なステークホルダーと「共生(きょうそうきょうせい)していくこと」、そして和のシンボルともいえる桜を通じて日本文化を次世代へと伝承することの3点が取り組む意義とされている。
活動開始から10年が経過した昨年7月には、2030年をゴールに据えた活動のビジョンとミッションを策定した。中でもとりわけ重要とされているのが「従業員の行動支援」つまり、社内において活動への理解を深め、仲間を増やしていくことである。

190521_調査報告会_写真_8.jpgボランティアに参加した社員をはじめとして、「桜プロジェクト」で訪問した小学校や株主からも活動への好意的な声が寄せられる中、「Daiwa Sakura Aid」が成長した背景として内田氏は次の3点を挙げた。まず、発足当初の姿勢を変えず活動のサステナビリティを意識して展開したこと。次に、吉野の住民や全国の事業所の社員と直接対話し、活動への理解を促したこと。3つ目に、社内においては創業者精神の継承、社外においては和の象徴である桜の保全という共感できるストーリーを組み立てたこと。
活動へのファンの獲得に成功した今、個人的なモチベーションを大きな拠り所として「Daiwa Sakura Aid」を始めた内田氏は、いかにして活動を次の担当者へ引き継ぐかという点が課題であるとし、講演を終えた。

旅×文化による多様な地域の魅力発信―(株)JTB 向井利夫氏

続いて、(株)JTBの向井氏より同社が実施する「JTB旅行文化講演会」および「JTB交流創造賞」について紹介いただいた。
「JTB旅行文化講演会」は1983年、JTBの創立70周年を記念し、顧客に文化とのふれあいの場を提供したいとの想いから「旅行文化講座」として始まった。2019年で開始から36年目を迎え、これまでの開催回数は累計で406回、登壇した講師の数は200名近くにのぼる。開催地は全国各エリアの支店・グループ会社から希望を募っており、年10回程度、無料で開催されている。講師には様々な分野の専門家を招き、旅にまつわるエピソードを披露してもらうほか、講演を通じ参加者が各地の自然や文化遺産についても深く知る機会となっている。
講演会の運営に関わる同社の社員は、社会貢献活動を通して顧客に対する思いをより強くしているという。また、全国各地で開催することで地域の活性化にもつながっている。

190521_調査報告会_写真_11.jpg「JTB交流創造賞」は、2005年より毎年実施されている同社の顕彰事業で、全国の組織・団体を対象に「持続可能な観光」のオリジナルな取り組みを募集するほか、一般・小中学生を対象に旅で得た体験・エピソードを募っている。2017年には企業メセナ協議会が実施する「メセナアワード」において、地域の多様な観光資源を顕在化し多面的に発信していること、また、ヒト・モノが行き交うしくみの創出や地域経済の活性化に貢献していることなどから優秀賞「地域光らせ賞」を受賞した。
各地の観光プランの商品化やプロモーションの後押しとなることを願い実施されている本活動だが、実際に受賞をきっかけとした観光客の増加や地域の魅力の再認識につながっているという。
向井氏は講演の最後に、2つの活動の今後について、社外への周知、また活動の評価基準を明確にすることが課題であると述べた。

企業メセナの現在とこれから

後半は来場者も交えたディスカッションに移り、モデレーターの萩原氏がまず2社の事例について「ともに自社だけでなく地域社会、日本、そして世界の持続可能性も視野に入れた、CSR(企業の社会的責任)およびCSV(共有価値の創造)の典型例である」と感想を述べた。また、個人的なモチベーションをきっかけとした活動を企業メセナへと発展させた内田氏は「Non-profit Person(NPP)=儲けにならないことを率先して行う人物」で、働くうえで社会課題の解決を意識しそれに取り組んでいるという意味で、企業人としてのキャリアだけでなく、ソーシャル・キャリアも築いていると評した。

190521_調査報告会_写真_18.jpg近年は、活動の数値的なアウトプットだけではなくその後の長期的な影響も含めたアウトカムが重要になりつつあることについて萩原氏は、内田氏、向井氏、部会長・森実氏の3者に各社の活動の評価についての考えを聞いた。
内田氏は、社会貢献において活動の成果を全て数値化することは難しく必ずしも数値にこだわる必要はないと考えているが、常にステークホルダーを納得させるロジックを用意しておくことは意識していると述べた。
向井氏は、講演の中でも触れたとおり、直接的な利益に結びつかず準備に手間もかかる同社の活動について、定まった評価方法がないために現場の社員に活動の意義を理解してもらうことの難しさを感じているとのことだった。
森実氏は、活動に様々なパートナーや地域の人々も関わっている以上自社だけで成果を明らかにすることはできないとしたうえで、活動を始めた際の目的を常に忘れず、評価の過程に立場の異なるステークホルダーを巻き込むことが重要であると語った。

萩原氏より、講演でも触れていた活動の引き継ぎ方、あるいは発展的解消の仕方について問われた内田氏は、企業の活動である「Daiwa Sakura Aid」が業務として一社員に属人化してしまっている現状において、担当者を交代することの難しさを語った。
これに対し萩原氏は、次のように述べた。
「担当者の想いが強すぎるとほかの者が介入しにくいという側面もある。これまでの活動の様子を目にしている人間が周りに必ずいるはずであり、たとえ活動が一時中断されることがあっても、その後再開を求める声に応じ同様の、もしくは形をかえて、思いや活動が引き継がれている事例もある。重要なのは活動の継続が企業とその社員、そして社会にとってどのような良い影響をもたらすのかを考えることであり、さらに、担当する社員が自らにできることを常に問いかけられるようなモチベーションを保てる環境があることである。」

190521_調査報告会_写真_19.jpg自己満足やマンネリ化に陥らずメセナ活動を継続することは難しいものの、形を変えながらでも続けていくことが必要なのではという声が来場者よりあがると、萩原氏もこれに同意し、時代の要請に応じ活動が生き物のように“変態”していくことは当然であり、変化を恐れないことが大事だと述べた。
その後、参加者との質疑応答が続き、最後に萩原氏は本セミナーのタイトルに掲げたSDGs(持続可能な開発目標)について、その根幹は人権と貧困であると述べた。そのうえで芸術・文化の振興を多角的に支援することは普段なかなか機会を与えられない層、中でもとりわけ若年層に様々な可能性をもたらすことであり、そのための取り組みは文化的貧困だけでなく、経済的・社会的貧困に対しても大きな効果・影響を及ぼすだろうとした。氏は今後のメセナの発展において企業を始めとした芸術・文化の支援者ができることはまだまだあるとし、セミナーを締めくくった。

写真:鈴木竜一朗(SHIBAURA HOUSE)

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