特別講演会 

「文化と社会 -文化芸術基本法改正、「新・文化庁」、そして日本博-

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が1年後に迫る中、企業メセナ協議会では、文化と経済の両輪による豊かな社会づくりを目指して、人や文化を育てる企業メセナのこれからを考える「特別講演会」を開催。
登壇者に独立行政法人日本芸術文化振興会理事長で「日本博」の推進役でもある河村潤子氏を招き、現在の日本の文化政策の動きや、企業に期待されることなどについてご講演いただいた。会場には、企業のメセナ担当者や文化関係者、プレスなど約70名が集った。

 
(左)当日の会場の様子(右)登壇者・河村潤子氏

始めに、河村潤子氏が所属する「日本芸術文化振興会」の事業概要とともに、文部科学省の外局組織として、国の文化芸術振興を担う「文化庁」の変遷について説明があった。

 

日本の芸術文化振興のあゆみ-昭和から平成へ
1968年、当時の文部省(現・文部科学省)の文化局と文化財保護委員会が統合した形で文化庁が設立され、「芸術文化の振興」と「文化財の保護」を重点的に行ってきた。50年の歩みの中で、日本の文化予算は50億円から1,167億円(2019年度予算案)へと増加してきたものの、国の文化予算が国家予算に占める割合は0.09%から0.11%(2017年度)と変わらない傾向にある。一方で、民間企業によるホール・ギャラリーの設立をはじめ、企業財団による文化活動の支援、芸術文化振興基金の設立など、芸術文化活動を支援する多様なパートナーが広がっていき、2001年には文化芸術振興における基本精神などをまとめた「文化芸術振興基本法」が施行された。

                         文化庁設立から50年間の日本の文化予算の推移                     2017年における文化予算額の国際比較

特に河村氏は、大きな震災が相次いだ平成の30年間において、震災からどのように立ち上がっていくのか、という過程の中で、今まで自覚されていなかった「文化の力」が認識されるようになってきたことを取り上げ、「文化は社会全体を支え、明日に生きる力をつけることが出来る」「日常から文化に触れていることが、さらに文化の力を社会的価値や経済的価値にも還元していくためにも重要である」「震災地域の人口減少・少子高齢化の解決の糸口となるべく、国の施策として『観光振興』が掲げられており、地方創生につなげていく」などと述べた。

 

文化芸術基本法の改正・新文化庁へ
これらをふまえて、新時代へ向けた新たな協働のかたちをつくり出すことを目的に、2017年文化芸術振興基本法が文化芸術基本法へと改正された。文化芸術の振興にとどまらず、観光・まちづくり・国際交流・福祉・教育・産業などの関連分野における施策を法律の範囲に取り込み、文化芸術により生み出される社会的価値や経済的価値を文化芸術の継承・発展・創造に活用することを趣旨としている。

(左)「新・文化芸術基本法」改正趣旨・概要(右)「新・文化庁」設立時の風景。林芳正文部科学大臣(当時)と宮田亮平文化庁長官。(写真提供:文化庁)

文化芸術基本法の基本理念をもとに、設立から50年を経た2018年に「新・文化庁」が設立され、大規模な組織再編が行われた。「文化に関する施策の総合的な推進を行う役所」として位置づけ、これまでの施策の継承・発展とともに、文化庁を中核として関係府省庁と連携しながら、広い視野での文化振興を推進していく体制となった。新たな体制のもと、これからの文化芸術政策の目指すべき姿や、今後5年間(2018~2022年度)の文化芸術政策の基本的な方向性を示した「文化芸術推進基本計画」も定められた。

 

「日本博」の始動
このような流れを受けて、2020年を中心に展開していく施策の一つが「日本博」である。もとは、2015年に発足した「『日本の美』総合プロジェクト懇談会」(主催:安倍晋三首相/座長:津川雅彦氏)が、「文化芸術と日本人の美意識・価値観を国内外にアピールし、その発展および国際親善と世界の平和に寄与する」ことを目的に、近年海外で開催してきた展覧会や公演などを、東京オリンピック・パラリンピック開催年に「文化の祭典」として日本全国での実施を検討することから始まった。2018年12月26日に「日本博総合推進会議」が開かれ、テーマを「日本人と自然」と据え、実施体制が定まった。2019年3月3日には旗揚げ式が文化庁・日本芸術文化振興会の共催により国立劇場で行われ、700名近くの出席者(文化・観光関係者、産業界、地方自治体、留学生など)を前に、ロゴマークが披露された。

               (左)「日本博」の運営体制について
               (右)「日本博」を紹介する資料。ロゴマークは大海原に連なる雲の間から昇る太陽をイメージしており、自然への畏れや敬い、人と人とがつながる心、震災復興への希望などが込められている(写真提供:文化庁)

「自然に対する畏敬の念、恐れや敬い、自然と共に生きるという生き方を大切にしてきた日本人のくらし、あるいはそれらが芸術・芸能に表れている日本人の美意識をしっかりと捉え、様々な事業を行っていく」として、文化庁を中心に関係者が連携して展開していく大型国家プロジェクトを通し、3つの効果を期待している:①文化による「国家ブランディング」を強化②文化による「観光インバウンド」を飛躍的・持続的に拡充③「文化芸術立国」としての基盤を強化。それに向けて、官民連携で文化資源の戦略的な国内外プロモーションや多言語による情報発信、国民が自国文化の魅力に触れる体験機会の拡充などに取り組んでいる。2020年、そしてその先を見据えて、芸術文化を通じた幅広い展開を予定している。

参加者に向けては、プロジェクトへの資金・人材・共同実施での連携や、内外への広報・事業参加への声かけ、テーマに沿った文化事業の提案などの協働を呼びかけた。既に旗揚げ式や舞台芸術関係のイベントでは、通訳者や物販、文化財の高精細レプリカ展示などにおいて、企業や大学が連携している例もある。最後に、河村氏は「企業、文化関係団体、行政、学校などが一体となって、様々な地域で、そして日本全体が共通するテーマでつながるネットワークが構築されることが、次の時代への文化による新たな社会づくりにつながっていく」と締めくくった。

 

文化の祭典でもある2020年に向け、これからさらに多くの文化プログラムが展開される中、全国各地で地道にメセナ活動に取り組む企業の力がそれらを支えていくことにもなる。協議会としても、企業とともに未来を見据え、国や行政、NPOなどと連携しながら、豊かな社会づくりに資する企業メセナが国内外へ更に発展していくような流れが出来ることを期待したい。

 

|登壇者プロフィール|
河村潤子|独立行政法人日本芸術文化振興会理事長
京都府生まれ、東京育ち。千葉市教育委員会参事、文化庁次長、文部科学省生涯学習政策局長、国立教育政策研究所長、内閣官房内閣審議官などを経て、2018年4月から独立行政法人日本芸術文化振興会理事長。国立劇場の運営、芸術文化振興基金による文化芸術活動援助等の任に当たっている。

「日本博」お問い合わせ
文化庁参事官(芸術文化担当)付 新文化芸術創造活動推進室
〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2 TEL:03-5253-4111(代表) FAX:03-6734-4857
独立行政法人日本芸術文化振興会
〒102-8656 東京都千代田区隼町4-1 TEL:03-3265-7411(代表) FAX:03-3265-6100

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