メセナアワード

メセナアワード2015贈呈式

2015年11月20日(金)、「メセナアワード2015」贈呈式をスパイラルホール(東京・青山)にて開催しました。当日は、受賞者と受賞関係者、メセナご担当者、アーティスト、文化機関などのほか20名強のメディア関係者を含め、約280名の方々にご出席いただきました。
贈呈式では各受賞活動の紹介につづき、文化庁より「特別賞:文化庁長官賞」、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)の贈呈をおこないました。 受賞企業・団体の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からは選考評が述べられました。贈呈式終了後には、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2015贈呈式 受賞者スピーチ

大日本印刷株式会社 代表取締役社長 北島義俊 様

メセナ大賞:ルーヴル – DNP ミュージアムラボを起点とした美術鑑賞ワークショップ


このたびはメセナアワードの大賞という名誉ある賞をいただきまして、とても感激しております。
社会貢献の一環としての我々の文化活動は、1986年に、印刷と縁の深いグラフィックデザイン専門のギャラリーを銀座に開設して始まりました。今回大賞をいただきました新しい取り組みは、2006年に始まったパリのルーヴル美術館との協働プロジェクト「ルーヴル – DNP ミュージアムラボ」がベースとなったものです。
こういうお席ではございますが、1週間前の13日夜、パリで非道なテロがあり多くの尊い命が失われました。このような行為は如何なる理由があろうと決して許されるものではなく、犠牲になられた方々に心から哀悼の意を表します。
ルーヴル美術館の協力を得て開発した美術鑑賞ワークショップは、人々の創造性を培っていくものであると思っています。多くの方々がアートに触れることで、多様な価値観を共有して、対話・協働していけるような場をつくっていきたいと思っています。我々のこうした取り組みが、多様な文化に対する人々の理解に、少しでも貢献できると良いと考えています。
先ほど紹介した銀座をはじめ、国内3箇所の我々のギャラリーでは、グラフィックデザインを中心に、「本業に近いところで息長く」をモットーに活動を展開してきました。それにより継続的に活動を進化させることができたわけですが、このたびの受賞を機に、より多くの文化施設と連携しながら、さらなる発展を期していきたいと思っています。今回美術鑑賞ワークショップを高く評価していただいたことは大きな励みであり、これからも社会に対して新しい価値を提供していきたいと考えています。
「ルーヴル – DNP ミュージアムラボ」では、我々の情報技術やノウハウ等を活かし、国内外の美術館や美術教育関係者の方々とともに、豊かな美術鑑賞体験という新しい価値を提供してまいりました。10年に及ぶこの活動の成果は、我々の事業活動にもまた、良い影響を与えていると思っています。DNPは、芸術・文化が社会と経済の発展に果たす役割の大きさを念頭に置き、今後も引き続きメセナ活動を推進してまいります。
最後になりましたが尾﨑理事長、高嶋会長をはじめとして企業メセナ協議会の皆様とすべての関係者の方々に、厚く御礼を申し上げます。本日は誠にありがとうございました。

サントリーホールディングス株式会社 執行役員 コーポレートコミュニケーション本部 副本部長 福本ともみ 様

優秀賞 志マッチング賞:ウィーン・フィル&サントリー音楽復興基金


本日は「志マッチング賞」という誠に心のこもった賞をいただき、ウィーン・フィル&サントリー音楽復興基金に関わったスタッフを代表して、心より御礼申し上げます。
ウィーン・フィルとサントリーは長きにわたり、日本に本当の意味でクラシック音楽を根付かせたいと活動してきました。そして今回、震災復興の力になりたいという共通の志のもとに続けてきた活動に、「志マッチング賞」という相応しい賞をいただき、非常に感慨深い想いがしております。
ご存知のように、ウィーン・フィルはウィーン国立歌劇場管弦楽団の楽団員有志による自主運営団体です。次の指揮者は誰を呼ぶかといった重要な事を決める時は、楽団全員の総意である総会でないと決められません。震災復興の為に何かしたいというウィーン・フィルからのお申し出も、この総会で決められました。当時私はサントリーホールの支配人をしており、実に震災の直後、1か月経つか経たないかの頃に、「楽団員皆で決めたのでぜひ日本の友人の為に寄付をさせてほしい。きっと震災復興は時間がかかるだろうから、ただお金を出すだけではなくて、サントリーホールと一緒に、長きにわたって貢献活動をしていきたい」といったお申し出をいただきました。その頃、私たちも音楽の力で何かできないかと検討しておりましたので、サントリーからも同額の1億円を寄付させていただくマッチングギフトの形でスタートしました。以来、公演と助成、2つの活動を行ってまいりましたが、これまでに約4万人の方にご参加をいただいております。
ウィーン・フィルは世界で一番忙しいオーケストラだと思いますが、その彼らが何度も東北に足を運び、子供たちのためのコンサートや、慰霊碑の前での献奏、あるいはジュニアオーケストラの指導まで非常に熱心にされ、いつも頭の下がる思いでおります。また内輪の事ではありますが、震災直後の混乱期からこの活動を作り上げ、ずっと陰で支えてきたのが芸術財団、サントリーホールのスタッフたちです。彼らの苦労や努力には、ひとかたならぬものがあったと感じています。そういった意味で、「志マッチング賞」という彼らの志に応えることができる賞がいただけたことを、非常に嬉しく誇らしく思っています。
来年は震災から5年になります。10月に、これまで接点のあった岩手・宮城・福島の子供達と、ウィーン・フィルの特別演奏会をサントリーホールで開催します。私たちスタッフ一同、志をひとつにしてまいりますので、ぜひこれからも、この活動にご支援と応援をお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。

しずおか信用金庫 理事長 田形和幸 様

優秀賞 夢ものづくり賞:地域資源循環型もの、人、夢づくり活動


今、実感として、このような素晴らしい賞を私達しずおか信用金庫がいただいたことを、誇りに思っています。しずおか信用金庫がある静岡市は、現在徳川家康公4百年祭で盛り上がっていますが、この賞をいただくにあたり少しお話しいたします。
皆様ご存知の通り、静岡市は徳川家康公が隠居した街です。静岡浅間神社や久能山東照宮の建築などのために、家康公が職人を全国から集めてきたことで、今の地場産業が成長しました。仏壇、サンダル、駿河竹千筋細工、漆器も含めて色々な地場産業がありますが、だんだん衰退しています。そういった中、私達は小学生に地場産業について学んでほしいと、2000年に『しずおか特産品解体新書』を発刊しました。毎年地元の小学4年生などに8,000部を寄付しており、のべ14万部になりました。先生には、これを授業の教材として使っていただいています。
「しずおか夢デザインコンテスト」は、どんな地場産品があったら産業として生き残っていけるのかという事に協力したいという考えから、「あったらいいな!こんな地場産品」というテーマで子供たちからデザインを募集しています。毎年、小学校3年生から6年生まで、市内の全小学生の2割にあたる約5,000点の応募があり、地場の職人さんや技術者さんに作っていただいた試作品はのべ120点になりました。なかには製品になり、販売をしているものもあります。
私達が一番誇りに思っているのは、この活動を続けることによって、小学生の時にこのコンテストに参加した子供さんが成人し地元に戻り、地場産業に携わってくれていることを非常に嬉しく思っております。私達しずおか信用金庫は、信用金庫にしか出来ないことをこれからも汗をかいてやっていきたい。夢ものづくり賞をいただき、本当にありがとうございました。

島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート実行委員会 委員長 塩田洋介 様

優秀賞 瞳かがやく賞:島の子供たちに贈る瀬戸内デリバリーコンサート


瀬戸内海の小豆島から参りました塩田でございます。瀬戸内海の小さな島が、メセナという点で表舞台に出ることは全くあり得ないと思っておりましたが、今回このような栄えある賞をいただき本当にありがとうございます。
小豆島は神様が10番目につくった由緒ある島で、過去には塩づくりや醤油、素麺など色々な産業が興った素晴らしい島です。ですが、文化芸術に関してはなかなか恩恵にあずかる部分がありませんでした。四国で唯一のオーケストラからのお誘いがきっかけで、この島の子供たちに生のクラシックを聴く機会を作ろうと、島内の企業・団体さんに声をかけ、支えていただきながら活動を始めました。最終的には160ほどの事業所からご協賛をいただいており、こういったことが可能なこの島の非常に恵まれた環境を、本当にありがたいなと思います。
私の生まれた地域は、昔は各家庭に必ず三味線が一棹あるほど文化度の高いところでした。そんな環境から、戦後、小学校にオーケストラが生まれ、PTAや地域、事業所の皆で68年にわたり支えてきました。ただ残念ながら島嶼部がゆえ、指導者に恵まれない。島で音楽教育をしたいと帰ってきてくれる方もおられるが、実際に生の音楽を聴くことができないし、先生方も外から学んでくることがなかなかできないという非常に難しい状況もありました。しかし、5回目にロシアからレオニード・コーガンの息子さんが棒を振ってあげるよと来てくださったことがきっかけで、子供たちの合唱団を作ることができました。保育園から高校生の子供たちに、オーケストラをバックに合唱する稀有な機会を作れることは、本当にありがたいと思いながら今日までやってきました。またこの度このような賞をいただきましたのも、9回目で演奏会を開いたオフィスベガの方が、企業メセナ協議会に「こういう事をやっている団体があるよ」とご紹介いただいたことがきっかけです。このような栄えある賞をいただき、島にとって非常にありがたいと感じています。
来年、瀬戸内国際芸術祭の3回目が瀬戸内海で開かれ、世界中の芸術家が島にやってきます。また小豆島出身の琴勇輝という関取により、島の露出もされています。「二十四の瞳」とオリーブで有名な島ではございますが、ほかにも色々と頑張っております。小豆島をもうひとつ元気のある島にする事業の一環として、今回の受賞を契機にこれからも益々頑張ってまいる所存です。これからも皆様のご理解とご支援をお願いして挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

富士フイルム株式会社 代表取締役社長・COO 中嶋成博 様

優秀賞 写真伝想賞:“PHOTO IS”想いをつなぐ。30,000人の写真展


本日は、写真伝想賞という、我々の活動に大変相応しい名前の賞をいただき大変光栄に存じます。「”PHOTO IS”想いをつなぐ。30,000人の写真展」は、写真に込めた想いを人に伝えることによる楽しみ、喜びを出来るだけ多くの方に味わっていただきたいと、2006年に「10,000人の写真展」として活動を始めました。多くの方に参加していただき展示数も増え、2013年から「30,000人の写真展」としました。今年で10年目を迎える節目の年にこのような賞をいただき、大変ありがたく思います。
この展示には、弊社の役員や社員も参加しており、私も毎年参加しております。(実際の展示写真を手に持って)こちらは私が今年出品した写真で、京都南禅寺の中にある、明治に建設された水道橋を撮影したものです。この水道橋を見た時、設計者や技術者、棟梁の方々の色々な想いがあり、またこういった技術が永遠と繋がっていくことで、「ものづくりの日本」ができているのだなと感じたことから、「無限」というタイトルをつけて展示しました。
昨年の展示数は33,012点、今年は35,387点となり、大変多くの方に出展いただいています。この写真展には、写真を見た方が感じたことを出展いただいた方に伝える「絆ポスト」という仕組みがあります。手書きのメッセージを出展者の方にお送りして、お互いの想いを共有するもので、昨年は約40,000点、今年で約43,000点の想いが絆ポストに寄せられました。
弊社は1934年に「富士写真フイルム」を創立して以来、写真文化の普及・発展に長年力を入れてきました。昨年、CSRの中期計画として、事業を通じて社会の課題を解決していく中期CSR計画「サステナブル バリュープラン2016」を策定しました。その中で挙げている解決すべき社会課題には「写真文化の継承」「地域コミュニケーションの活性化」が含まれており、この写真展を通じて社会に貢献していこうと考えております。もちろん、写真文化の育成は弊社だけで出来ることではなく、写真を愛してくださる皆さんと力を合わせて初めてできることです。そういう意味で、本写真展の規模を拡大させながら、10回目の開催を迎えられたことを大変ありがたいことだと思っています。
弊社は今後も写真を通じて、心の豊かさと人々のつながりのために貢献していくことをお伝えして、本日の受賞のお礼と挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。

ローム株式会社 代表取締役社長 澤村 諭 様

優秀賞 音でつなぐ世界賞:京都・国際音楽学生フェスティバル2014

このたびは、本当に素晴らしい「音でつなぐ世界賞」をいただきありがとうございます。
ロームは京都で生まれた半導体の会社ですが、様々な社会貢献活動をやってまいりました。その中でも音楽活動に関しては、ロームが支援する公益財団法人ロームミュージックファンデーションと共に継続的に行っています。今回賞をいただいた「京都・国際音楽学生フェスティバル」は、1993年にスタートしてからずっと継続しており、初夏の京都を彩るイベントとして大変親しまれております。
フェスティバルの目的は、音楽を通じての国際交流ならびに若い音楽家の育成です。この22年間で、のべ2,500名弱の皆さんが、京都で演奏を披露してくださいました。演奏会前の1週間、バックボーンの違う人たちが一堂に集まって音楽を作っていくわけですが、その時に仲良くなったり、国際感覚が身についたりと色々な効果がありますが、特に日本の皆さんには留学のきっかけになっています。また、演奏される音楽は親しみやすい曲をプログラムしておりますので、聴きにこられる皆さんにも非常に喜んでいただいています。
このたびこのような栄誉ある賞をいただきまして、継続してきたことが認められて本当に光栄であり、励みにもなります。今までやってきたスタッフ一同本当に嬉しく思っており、感謝申し上げます。これからもこの事業を続けていきたいと考えております。今日は本当にありがとうございました。

株式会社古今伝授の間香梅 代表取締役社長/株式会社お菓子の香梅 代表取締役会長 副島 隆 様

特別賞 文化庁長官賞:今伝授の間の維持管理および一般公開

古今伝授の間香梅の副島でございます。もともと熊本でお菓子屋をいたしておりまして、企業理念は「くつろぎのごちそう」です。朝から夜寝るまでなんにもしないでぼーっとするのが「くつろぎ」ではございません。一生懸命仕事をした後にほっとする時間、これが「くつろぎ」です。「ごちそう」は高価なものではなく、どんなものでも、食べ方によって、環境によってごちそうになるのです。
細川家の永青文庫の方から「水前寺成趣園にある古今伝授の間を維持管理してほしい」とご要請をいただいたのですが、古今伝授の間に座りました途端、「あぁくつろぎだな」と思ったわけです。景色もごちそう、こういう古い建物もごちそう、歴史のあるものもごちそうであるというふうに直感し、お預かりをすることになりました。
私どもの会社が大金を出して維持管理をしているわけではなく、入場料で運営をしております。一席650円のお茶とお菓子は、庭でお召し上がりになりますと550円。こういった収入を得て、社員を常駐させ、日々お預かりしています。
古今伝授の間と申しましてもなかなかご理解しにくい面があるかと思いますが、細川家初代の幽斎公が、後陽成天皇の弟君、智仁親王に古今和歌集の奥義を伝授した間です。こういう歴史ある建物をお預かりすることにより、今日は文化庁長官賞をいただき「超」嬉しいです。本当にお礼のしようもございませんが、どうぞ熊本にお越しの節には、古今伝授の間にお越しいただき、お茶とお菓子をお召し上がりいただければありがたく思います。本日は長官賞をいただきまして本当にありがとうございます。

選考評

委員長 原島 博 氏

本日はご受賞本当におめでとうございます。審査委員会を何回か開かせていただきましたけれどもたまたまその時に最年長ということで私が司会を務めました。それがなぜか審査委員長ということになって今ご挨拶させていただいております。審査員それぞれ素晴らしい方ばかりで、審査会は私にとっても勉強の場になりました。企業メセナとはなにか、真剣な議論を交わしました。そのもとでの今回の結果でございます。
なによりも私感動しましたのは、申請されたメセナ活動のレベルの高さです。
今回受賞されました大日本印刷様、サントリー様、ローム様、さすがでございます。富士フイルム様の写真に対する想い、それからしずおか信用金庫様、瀬戸内デリバリーコンサート実行委員会様、地域への想いというものが伝わってまいりました。また古今伝授の間香梅様、本当に大切な活動をありがとうございました。
お手元の資料にも書かせていただきましたけれども、まさに富士山のように「頂上が高く裾野が広いメセナ活動」であったと思っております。これからも富士山のように美しく、優れたメセナ活動が日本において展開し、世界に対して発信されていくことを願っております。本日は本当におめでとうございました。

はらしま・ひろし|東京大学名誉教授
1945年東京生まれ。東京大学では工学部に属し、人と人の間のコミュニケーションを技術的にサポートすることに関心を持ってきた。その一つとして「顔学」の構築と体系化にも尽力。最近では、科学・技術と文化・芸術の融合に関心をもち、女子美術大学(芸術系)や明治大学(総合数理)、立命館大学(人文系)の客員教授なども務める。

赤池 学 氏

受賞者の皆様本当におめでとうございます。自社の経営資源をいかしながら継続してこられた実践に、本当に心から敬意を表したいと思います。実は、僕はキッズデザイン賞の審査委員長を長年務めてきましたので、文化活動が次世代に向けていかに前向きなインパクトを与えうるかをテーマに、この選考に関わってきました。それぞれに本物の絵画、あるいはプロの楽曲、セミプロの写真あるいはその地域における本物のものづくり、あるいはその伝統的な建築文化と食文化。違いはあるのですが、受賞された事業者の実践は全て次世代に向けた、気づきや学び、出会いや交流というプログラムが見事に組み付いている。とても素晴らしいことだと思いました。
そしてもう一点、富士フイルムさんとしずおか信用金庫さんの取り組みの中に、これからのメセナ活動を続けていく上での非常に大切なヒントが込められているように感じました。富士フイルムさんは全国の写真店の経営者の皆様をプラットフォームにしながら30,000人の写真展を展開してこられた。そしてしずおか信用金庫さんも、お客様であるがゆえに、地域のものづくりの経営者たちを支援していく。そのようにステークホルダーを巻き込んでいくことによって文化活動を広げ、窓が間違いなく広がっていく。そして同時に、それが自社のバリューチェーンを強めていくことでもあるので、文化活動の継続性を担保していくことになっていくのではないかと思います。皆様の活動がますます発展して次世代に向けた教育等へ結びついていくことを心より祈念しております。本当におめでとうございました。

あかいけ・まなぶ|ユニバーサルデザイン総合研究所所長
1958年東京都生まれ。筑波大学生物学類卒。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。また、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演などを行う。2011年より[一社]環境共創イニシアチブの代表理事も務める。

伊東信宏 氏

受賞者の皆様おめでとうございます。私は今年初めてこの審査に加わらせていただいたのですが、非常に沢山の多様なメセナ活動が日本で今展開されていることを知り、すごく勉強させていただきましたし、また心強くも思いました。
普段私は文学部というところで教えているのですが、文学部のような呑気なところにも最近厳しい世間の風が吹き込んできまして、大学で何かプロジェクトをやりたい、例えばコンサートをひとつやりたいということになると、必ず「成果指標を示せ」と言われるんですね。それをやったらどういう効果があるのかということを説明しろと言われるのですが、それはよくわからない。ですが、「なんかええことあるとちゃうんやないかと言っといてください」というと「それではダメで数字を示せ」と言われる。たぶん何人満足して帰って頂けたかということを数字で示さないといけないらしいんですけど、どうも数字で示すと負けのような気がして、どう説明したもんかといつも頭を悩ませています。「なんか知らんけど功徳があるということでどうですか」と言っているんです。いつもこの審査に加わらせていただいて現場でメセナの活動を支えている方々とはある種の同志感を抱きまして。「たぶん会社のなかでもそんなことを言われてはるのとちゃうかな…」と思うのですが、ここでやっぱり踏ん張って、数字でなく、やっぱり「功徳」があるんだ、と言い続ける方がいいんじゃないかと、僕は信じてます。これからもぜひ一緒に頑張りたいと思います。よろしくお願いします。

いとう・のぶひろ|音楽学者、大阪大学大学院文学研究科教授
1960年京都市生まれ。大阪大学文学部・同大学院修了。リスト音楽院客員研究員などを経て現職。博士(文学)。著書『バルトーク』(吉田秀和賞)『中東欧音楽の回路』(サントリー学芸賞)編著『ピアノはいつピアノになったか?』など。ザ・フェニックスホール音楽アドヴァイザー。朝日新聞、NHK-FMなどで 解説、批評を担当。

金沢百枝 氏

受賞者の皆様おめでとうございます。私はふだん、1000年から900年前のヨーロッパのロマネスク美術というものを研究しております。ロマネスク美術というのはあまり耳慣れないと思いますが、ヨーロッパの北では都市には残っておらず、どちらかというと田舎のぽつんとしたところにある聖堂です。誰が出資したのか、どんな人が作ったのかがまったくわからないものを、ああだこうだと言いながらのんびりと研究しています。1000年前でも2000年前でも確かなことがあります。それは芸術というものが、経済的に作り手の方を支援する方々がいらして、それからそれを受けて創造的な活動をされる方がいてそして育っていく子どもたちがいて、成り立つということです。その3つは現在であっても2000年前であっても私のやっている1000年前でも同じだと思っています。ふだんは石ばかり見ていて実際に作った方やそれに携わった方を見ることがないので、こうして今日、活動をされている方々にお会いできたことが、私はとても嬉しいです。皆様の笑顔をみてとても勇気づけられました。最近ちょっと心が暗くなるようなこともありますが、今後もこうした活動をぜひ続けて、良い社会を一緒に作っていけるといいなと思います。

かなざわ・ももえ|東海大学文学部ヨーロッパ文明学科教授
東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科植物学専攻にて博士号、同大学大学院総合文化研究科にて博士号を取得。ロンドン大学付属コートールド美術研究所留学。専門は中世美術史。著書に『ロマネスクの宇宙―ジローナの《天地創造の刺繍布》を読む』『ロマネスク美術革命』など。『工芸青花』(新潮社)で「キリスト教美術」について連載中。

河島伸子 氏

本日は受賞された皆様、誠におめでとうございます。どのメセナ活動を拝見しても、それぞれの企業が持っていらっしゃる資源、技術、長年培ってきた人脈、地域社会への愛情、地域社会との強い結びつきといったものが強く感じられました。企業メセナ協議会設立25周年というひとつの節目を飾るにふさわしい活動が今回受賞されましたことを、大変嬉しく存じます。
この場にいらっしゃる皆様は文化芸術の重要性については強くお感じのことと思いますが、一歩外に出ると、文化芸術というのは個人の趣味であるとか、経済的に豊かになった時に初めて許される贅沢だという考え方もあり、難しいところがあるかと思います。しかし企業メセナの活動を見ていてつくづく実感したのは、文化は私達が本当につらい時にも支えてくれるということです。また、メセナがきっかけとなって新しい経済が生まれたり、文化芸術が経済社会の発展にも実は役立つ事例も、今回沢山拝見しました。
私個人としては、今回で審査委員が最後の年となりました。学外で頼まれる仕事というのがいくつかございますが、個人的には一番楽しい仕事でした。この3年間様々な企業のメセナ活動の奥深いところまで知ることができ、また実際にその仕事に携わっている皆様の熱意、生のお声なども聞かせていただける非常に貴重な、研究者にとってはありがたい機会でした。残念ながら今年で最後ですが、今後ともメセナの発展を陰ながら応援していこうと思っております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

かわしま・のぶこ|同志社大学教授、文化経済学会〈日本〉会長
東京大学教養学科国際関係論専攻卒。英国ウォーリック大学文化政策研究センターリサーチフェローを経て現職。PhD(文化政策学、英ウォーリック大学)。専門は、文化経済学、文化政策論、コンテンツ産業論。著書に『コンテンツ産業論』、共著に『変貌する日本のコンテンツ産業』『イギリス映画と文化政策』『アーツ・マネジメント』など。文化審議会委員などを務める。

中村陽一 氏

受賞された皆様、改めましておめでとうございます。私も今年初めて審査委員会に加えていただきまして、大変学びの多い選考の場でした。
今企業は、社会との新しい関係を様々な場面で求められるようになってきていると思います。私は「社会デザイン」という分野を専門にしておりまして、昨年メセナ大賞を受賞された竹中工務店さんで、先だって東京と大阪の本社で「企業と社会との新しい関係」についてお話をさせていただきました。
この審査委員会の場でも、例えばメセナ活動とCSRとの関係はどうなのかとか、評価に関することでは、例えば社会性の評価、SROI(Social Return On Investment)という評価指標が最近出てきておりますが、そういったことはどうなのかというような、非常にレベルの深い議論をさせていただくことができました。これもひとえに、応募された企業の皆様のご活動のレベルの高さ、大変な想いが込められている、そういったことが反映された結果だと思い、改めて敬意を表させていただきます。
そうした、少しイノベーティヴな動きが大切だということとあわせてひとつ学びましたのは、本当に地道にコツコツと、地域でそして社会の中で、メセナ活動に邁進されている。ひょっとしたら企業の中で色々と大変な想いも抱えていらっしゃる方が多いということも、改めて知りました。その両側面から、メセナ活動が、本当に希望の持てる社会、何度でもやり直すことのできる社会というところに繋がっていくとよいなと思っております。
今後も、及ばずながらご一緒にメセナ活動の発展を担っていきたいと思っております。本日は本当におめでとうございました。

なかむら・よういち|立教大学21世紀社会デザイン研究科教授、同大学社会デザイン研究所所長
一橋大学社会学部卒。編集者、日本生協連等を経て非営利シンクタンク・消費社会研究センター設立、代表。座・高円寺「劇場創造アカデミー」講師。市民活動・NPO/NGOの実践的研究を進め、近年はソーシャルビジネスや社会デザインの拡大に取り組む。編・共著『3・11後の建築と社会デザイン』『クリエイティブ・コミュニティ・デザイン』他多数。

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