メセナアワード

メセナアワード2012贈呈式

2012年11月22日(木)、「メセナアワード2012」贈呈式をスパイラルホール(東京・表参道)にて開催しました。当日は、受賞活動のご関係者、「メセナアワード2012」応募各社・財団のみなさまをはじめ、企業メセナ協議会会員、関係者、報道等、総勢300名の方々にご出席いただきました。
贈呈式では各受賞活動の紹介につづき、河村潤子文化庁次長より「文化庁長官賞」部門、企業メセナ協議会 福原会長より「メセナ大賞」部門の賞の贈呈をおこないました。 受賞企業・団体の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、選考委員からはそれぞれ選考評が述べられました。贈呈式終了後は、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2012贈呈式 受賞者スピーチ

アサヒビール株式会社 代表取締役会長 兼 CEO 荻田 伍 様

メセナ大賞:アートNPOの活動基盤強化への多様な支援と協働

本日は「メセナアワード2012メセナ大賞」というすばらしい賞をいただき本当にありがとうございます。企業メセナ協議会、選考委員のみなさんに御礼申し上げます。今回の受賞は全国のアートNPOとの取り組みが評価されたもので、その経緯を少しお話したいと思います。私どもは、昭和24年(1949年)に現在のサッポロビールと分かれた会社です。その5年後の昭和29年(54年)から昭和48~49年(73~74)頃まで500回ほど、日比谷野外音楽堂でアサヒビールコンサートを行いました。メセナ活動のはしりではないかと自負しています。1989年には、創業100周年記念として現在のアサヒグループ芸術文化財団を設立しました。ちょうどその頃、芸術に対するさまざまな支援の一つとして、浅草の本社でロビーコンサートも立ち上げました。以後、全国の工場や拠点でのロビーコンサートへと発展させながら、全国のアートNPOの皆さんと協働して、各地で芸術・文化活動支援などの取り組みを始めました。NPOの皆さんからのすばらしい提案や活動を、我々の方が受けてきた形で行い、思いを共有した結果が受賞に繋がったのではないかと思っています。
商品を通じ、世界の人々が健康で豊かに生きる社会の実現に貢献したいというのが、私どもの経営理念です。同時に、心の健やかさ、豊かさを育んでいくことも企業の役割ととらえ、メセナ活動に取り組んでいます。大賞を機に、さらにしっかり支援の輪を広げたいと思っています。皆さまのご支援をお願い申しあげ、受賞の御礼の挨拶と代えさせていただきます。本日はありがとうございました。

キヤノン株式会社 代表取締役副社長 CFO 田中稔三 様

歴史をひもとく賞:「綴プロジェクト」の実施

本日はこの栄えある「メセナアワード2012」で、弊社の社会支援活動「綴プロジェクト」が数多くの活動の中から「歴史をひもとく賞」を受賞し、関係者一同、たいへん感激しております。本プロジェクトは弊社の得意領域である入力技術や、画像処理技術、出力技術を駆使した弊社ならではの活動と自負しており、自社で開発した技術で社会にお役に立てることにまさる喜びはございません。
さて当社では、東日本大震災の支援プロジェクトとして、2013年の3月から仙台市の博物館をはじめ東北3県で、米国のプライスコレクションより、世界的に有名な江戸時代の絵師の作品を展示する展覧会への特別協賛を行います。近年たいへん注目を集めている伊藤若冲の作品も含まれています。この若冲ブームの火付け役のプライス氏が東日本大震災直後に被災地を訪れ、その惨状を目のあたりにして、過酷な状況にある東北の人たちを元気づけたい、若冲の絵を東北のご家族のみなさんに見てもらいたいという願いから本展が開催されることになりました。本展には「綴プロジェクト」で制作した「白象黒牛図屏風」などの作品も含まれます。ぜひ皆さまも東北にお出かけになり、見ていただきたいと思います。
本日のこの受賞を一層の励みにいたしまして、微力ではありますが、社会貢献活動にさらに力を入れていきたいと思います。本日はありがとうございました。

株式会社千葉銀行 取締役頭取 佐久間英利 様

文化の映写機賞:ちばぎんフィルムライブラリー

この度は「文化の映写機賞」という大変素晴らしい賞をいただきまして、誠にありがとうございます。千葉県に本社を置く企業としては初の受賞ということで、職員一同大変感激をしております。
「ちばぎんフィルムライブラリー」は当行の創立20周年記念事業として昭和28年にスタートした活動です。当時のテレビは白黒が主流で、一般家庭には十分普及していない時代でした。映画が娯楽として人気を集めるなか、地域の方が気軽に上映会を行えるように、各支店を通じて16mmフィルムと映写機を貸し出したのが活動の始まりです。レンタルDVDが一般化した今日では、レトロな雰囲気を醸し出す16mmフィルムによる映写会は、視聴者年間2万5,000人にのぼり、ご利用の皆さまからたいへんご好評をいただいております。地域の方々の文化活動にお役に立つとともに、地域社会と当行との絆を深めると考えております。2013年の3月にスタートから50年という大きな節目を迎えるタイミングでの受賞を、大変うれしく光栄に存じます。あわせて創立70周年を迎えるにあたり、「ちばぎんフィルムライブラリー」をはじめ、今月46回目を開催した「ちばぎんひまわりコンサート」、平成26年3月に新しいビルの竣工にあわせて再開する「ちばぎんアートギャラリー」と、これからもお客様や地域の皆さまに感謝の気持ちを込めて芸術文化振興活動に積極的に取り組んでいく所存です。
本日は誠にありがとうございました。

トヨタ自動車株式会社 専務役員 早川 茂 様

支援のこころ賞:ココロハコブプロジェクト~芸術・文化を通した復興支援活動~

本日は「支援のこころ賞」というすばらしい賞をいただき、本当にありがとうございます。今回の受賞は、各プログラムの協働パートナーの皆さんと、多くの協力をいただいた方々の情熱の賜物です。
去年3月の震災後、トヨタ自動車でも何とか東北の方々のお役に立ち、東北復興の原動力になりたいという思いで支援活動を続けてまいりました。我々の商品である「車」は、人や物だけでなく支援の心も運べるのではないかという願いを込めて、東北復興にかかわる活動すべてを「ココロハコブプロジェクト」と名付け、全力でやっていくことになりました。当社はものづくりの会社ですので、まずは東北での製造基盤を整え、従業員のボランティア活動や被災者の方々との心のつながりを重視した幅広いメセナ活動を現地で実施して参りました。今日のように、内外でさまざまに不安定な状況があるなかでは、企業のメセナ活動はこれからますます重要になってくると思います。我々は震災でたいへん多くのことを学びました。自分のことだけではなく、他の誰かのためにという思いや、お互いリスペクトし合う気持ちの大切さ、小さなことでも何かやれることがあればまずは実施して、それを積み重ねていくことの重要さを学びました。一企業にできることは限られていますが「支援のこころ賞」の名に恥じないようしっかりと活動を進めていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

株式会社帆風 代表取締役 犬養俊輔 様

四季のそよかぜ賞:帆風美術館

100社前後の中からこのような賞をいただき、スタッフ一同、本当に感激しております。最初にご紹介がありましたように、帆風は東京の印刷会社です。森に囲まれた八戸のサテライトオフィスの中に美術館を持っております。印刷会社ですから、画像に対するデジタル技術ということに対しては精通しており、帆風の歴史も30年を数えるようになった頃から、わが社ならではの技術を使って社会に何か発信、貢献していこうと始めたことが、今回の賞につながったと思います。青森県の八戸市ということで震災の問題も大きくありますが、青森県からの「メセナアワード」受賞はこれまで非常に少ないということで、地元の方に大変喜んでいただいていることが、非常に嬉しいです。
本来は社会貢献活動というのは地味で、謙虚で、目立たずやっていくものだと、僕自身も思っており、正直言いって晴れがましく、賞をもらうことも少し恥ずかしい気持ちです。でも何よりもスタッフが喜んでくれていますので、これが社員の誇りになればと思います。またほんの少しでも震災を受けた東北地方の方々と喜びを共有できればという思いから、受賞にはたいへん感激しております。心より感謝しております。どうもありがとうございます。

株式会社イムズ 代表取締役社長/三菱地所株式会社 九州支店長 古草靖久 様

未来のうけざら賞:三菱地所アルティアムの運営、展覧会の企画

3社を代表してご挨拶をさせていただきます。
イムズは1989年8月、情報受発信基地をコンセプトに、まったく新しい複合商業施設として福岡市天神にオープンしました。イムズの開発を主導した三菱地所は、現代美術、ジャズ、演劇の3本を柱に地元の人材育成、裾野の拡大をねらい、地元企業のバックアップと地元メディアによる文化発信への協力体制を構築しました。以来、三菱地所とイムズ、西日本新聞社が協力して運営を行い、本年で24年目を迎えました。これまでに250回を超える展覧会を開催し、入場者数は本年7月に累計で100万人を超えました。年間10本ほど展覧会を企画し、先見性、革新性をもった国内外のトップランナーの発信、地元九州の作家支援、博物館・美術館ではできないジャンルフリーの企画、これら3つの独自性を現在まで維持しています。
私ども三菱地所グループのブランドスローガンは「人を思う力」「まちを思う力」です。人が集まる町の魅力に文化は欠かせないものであり、ネット社会が発達する今こそ、リアルの世界で人が集い、出会い、つながりが生まれ、さらに新しい文化を育むことが重要になってくるものと思います。今後も三菱地所アルティアムを通して、地元の方が常に良質なアートに触れる機会を提供し続け、地域の文化発展に寄与し、地域社会における文化発信拠点として存続することこそが、未来の受け皿として社会貢献につながるものと確信しています。本日は誠にありがとうございました。

東日本電信電話株式会社 代表取締役社長 山村雅之 様

文化庁長官賞:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 活動


この度は文化庁長官賞をいただき、本当にうれしく思っております。15年間の活動が外部の皆さまから評価され受賞したことに、関係者一同非常に感激しております。この事業は1990年、日本の電話事業100年を記念してスタートしました。議論する中で、「日本のメディアアートを発信できる施設を作ろう」ということに固まり、1997年に「NTTインターコミュニケーション・センター」 としてスタートいたしました。振り返れば当時はまだ携帯電話ではなくショルダーフォン、加入に15万円する時代で、インターネットもありませんでした。そんな時代に、今後メディア技術とコンピューティングはたいへんな発展を遂げるだろう、それは経済の成長だけではなく文化や芸術にも大きな影響を与えていくだろうし、企業活動にも影響するであろうことをただ確信し、[ICC] をつくってきました。
メディアアートはなじみのない方には少々難しい部分があるので、常設展としてわかりやすい入門編と、最先端を走っていく企画展を組み合わせながら一年間を通じ活動しています。こうした活動の中から若手の作家さんがどんどん育っていったこともあり、よい活動をしていると思っております。今回の受賞を機に、これからも15年を越えて20年、30年と引き続きできる限り活動を継続しがんばっていきたいと思います。本日は賞を授かり、本当にありがとうございました。

選考評

椹木野衣 氏

震災後に被災地を訪れ、批評の分野で芸術文化にかかわる者として、文化そのものの意味を根底から問い直さざるをえないと痛感しました。こうした大きな出来事をのちの時代に伝えていかなければならない。文化はそのための器であり、被害を受けた人たちの心が心としてかたちを成すために必要なのも、文化だということ。文化は余裕の産物ではなく、人間が生きていくための寄り処として存在し続けなければならないと思いました。記憶をつないでいくという意味で、今回の「メセナアワード」は継続性のある活動をされている企業の受賞になったと思います。
受賞各社にいえますが、今回大賞のアサヒビールは随分長く活動を継続されています。日本各地のアートNPOや芸術祭でアサヒビールの支援の話を聞くんですね。今ではアサヒ・アート・フェスティバル参加団体がお互いに連絡を取り合うようになり、九州でも東北でも新潟でも同じ顔ぶれを見かけます。お互いに力を貸しあい、点と点が大きな面をなして非常な広がりを見せています。こうした点が評価され議論の結果、大賞に決定しました。
受賞された皆さま、本当におめでとうございました。

【プロフィール】
美術批評、多摩美術大学教授。1962年埼玉県秩父市生まれ。1990年代初頭より美術を中心に多方面にわかる評論活動を始める。著作に『シュミレーショニズム』、『日本・現代・美術』、『戦争と万博』、『反アート入門』、『太郎と爆発 来たるべき岡本太郎へ』、『平坦な戦場でぼくらが生き延びること 岡崎京子論』ほか多数。キュレーションした展覧会に「日本ゼロ年」(水戸芸術館、1990-2000年)ほかがある。

福岡伸一 氏

今回初めて選考にあたりましたが、選考経過を簡単に説明いたします。
まず事務局から送られる100社あまりの膨大な資料を読みこみ、いくつかの着眼点に応じてポイントをつけたのち、選考委員が集まり議論します。特に私どもが注意した点は、各企業本来の活動とは異なるかたちでメセナが行われている、つまり「ステルスマーケティング」ではなくメセナ活動に取り組まれていることでした。今回の受賞活動は僅差で選ばれました。
たいへん難しいのは、それぞれの受賞活動に名前をつけることです。お手本としたのは、昨年受賞したJR東日本の活動に当時選考委員だった哲学者の鷲田清一先生がつけられた「文化の枕木賞」というたいへんすてきな名称です。鉄道会社で枕木、文化を支えているということでの枕木という、ウィットとエスプリに富んだ名前に負けないものを考えなければならない。選考委員の文化度が問われてしまうわけです。一生懸命知恵をしぼり、受賞活動と企業名とうまくリンクする賞名をつけました。みなさん、味わってください。どうもおめでとうございました。

【プロフィール】
生物学者、青山学院大学教授。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学研究員、京都大学助教授等を経て現職。サントリー学芸賞・中央公論新書大賞受賞『生物と無生物のあいだ』、『動的平衡』など、「生命とは何か」をわかりやすく解説した著作多数。ほか『世界は分けてもわからない』、『フェルメール 光の王国』など。近著『遺伝子はダメなあなたを愛してる』、『せいめいのはなし』、『生命と記憶のパラドックス』。

松岡正剛 氏

企業のメセナ活動やCSR(企業の社会的責任)活動がどうなっていくのか?私も傍ながら注目していました。本来経済と社会と文化は一体のものでしたが、それがバラバラにされ、金融資本主義的の力が強まった。一方で、組織と個人、社会と個人をネットがつなぎはじめている。企業が独自の文化活動を継続することは、ますます難しくなるだろうと思っていました。
しかし今回「メセナアワード」の選考委員を引き受け100社あまりの活動と過去の受賞活動を拝見してみると、日本には資本主義社会がもたらすCSRとは異なるものが潜んでいることを実感しました。江戸社会は”「カセギ」と「ツトメ」の両方でやっと一人前”といったものです。いくら稼いでも社会への「ツトメ」を果たさないと半人前でした。しかしいつからか「カセギ」が「ツトメ」も含んで考えられるようになってしまいました。しかし今回選考の一端に参加し、日本企業の皆さんが資本主義がもたらすCSRとは違う「ツトメ」もちゃんと果たしていることにいくぶん共感しました。
今回の受賞活動の特徴は「複製」が入っていることです。かつてヴァルター・ベンヤミンが『複製技術時代』において、文化が資本とどのように対決していくか問うたことが、いよいよ実際にメセナで見られるようになったという印象を持ちました。皆さんどうもおめでとうございました。

【プロフィール】
編集工学研究所所長、イシス編集学校校長。1944年京都生まれ。工作舎設立、オブジェマガジン『遊』編集長、東京大学客員教授、帝塚山学院大学教授を経て現職。情報文化と情報技術をつなぐ研究開発プロジェクトに携わる。日本文化研究の第一人者として「連塾」などの私塾を多数開催。09-12年、丸善・丸の内本店の「松丸本舗」をプロデュース。著作『松岡正剛千夜千冊(全7巻)』、『連塾方法日本(全3巻)』、『知の編集工学』、『日本という方法』ほか多数。

茂手木潔子 氏

企業各社が、「この地域の文化を活性化しよう」、「これは大事だからもっと継続して支援をしていかなければ」と積極的に全国に目を配り、思ったら直ちに取り組んでくださることは、地域にとってはたいへんありがたいことです。公的機関ではこうはいかないと思いました。それによって地域の中に優れた人材が出てくることはたいへんすばらしいと感じます。伝統文化を継承し発展させる、芸術を発展させるには現代という視点が大事で、企業はそれをきちっと持っていると感じました。ただ昔に帰るのではなく、時代背景が変わった今、この芸術、文化を将来に向かってどのように育てていくかを考えて活動を展開されています。
日本から海外に渡った芸術品は数多くありますが、今回の受賞企業の中には、海外に流出した作品の優れた複製を日本で見ることができる活動もあります。海外に持ち出されたことで作品が救われた面もあるわけです。かつて日本がそうだったように、現在アジア、アフリカ諸国では欧米文化の流入で伝統的な文化が失われる難しい状況にあります。そうした国々に対して今後は日本の企業が芸術面でも貢献していくであろうという期待ももって選考しました。皆さまほんとうにおめでとうございました。

【プロフィール】
音楽学、有明教育芸術短期大学教授。1949年山梨県笛吹市出身。東京芸術大学大学院修了後、国立劇場演出室職員などを経て現職。上越教育大学名誉教授。越後酒屋唄の保存伝承活動、歌舞伎黒御簾楽器の研究などを行う。主著『文楽 声と音と響き』、『酒を造る唄のはなし』など。伝統音楽に関する展覧会「浮世絵の楽器たち」(太田記念美術館)、公演「『北斎の音楽(おと)を聴く』シリーズ」(すみだトリフォニーホール)なども実施。

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