メセナアワード

メセナアワード2019贈呈式

2019年11月20日(水)、「メセナアワード2019」贈呈式・記念レセプションをスパイラルホール(東京・青山)にて開催しました。

当日は、受賞者とその関係者、企業・団体のメセナご担当者、アーティスト、文化機関などのほか、約20名のメディア関係者を含め、約210名の方々にご出席いただきました。贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、文化庁より「特別賞:文化庁長官賞」(1件)、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)の受賞企業へ表彰状とトロフィーを贈呈。受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からは選考評が述べられました。贈呈式終了後には、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2019贈呈式 受賞者スピーチ

株式会社竹中工務店 取締役会長 宮下正裕 様

メセナ大賞:木造モダニズム建築「聴竹居」による社会貢献と建築文化発信


このたびは「メセナ大賞」という、大変栄誉ある賞を頂戴しまして誠にありがとうございます。
竹中工務店の創立120周年記念事業の一環として取得し、施設の公開を図っておりますのが「聴竹居」でございます。昭和初期の木造モダニズム建築の最高傑作といわれている建築作品「聴竹居」を通じた社会貢献、そして建築文化発信活動を大変高く評価いただいたことに心から感謝申し上げます。
昨今、色々な優れた建築物が姿を消していくという残念な状況がありますが、我々は「聴竹居」を、やはり後世に残すべき大変大切な歴史的建造物であるという意識をしております。3年前に土地と建物を藤井家から譲りうけ、その後、国の重要文化財に指定されたわけですが、昨今は年間約1万人を超える来場者を迎えています。この活動は、長年にわたってこの建物を守っていただいた藤井家の皆さま、そして何よりも大山崎町の皆さまが中心となって支えてくださっています。それによって当社も「サスティナブル社会に貢献する」というCSRビジョンを体現する活動であると考えています。本日は一般社団法人聴竹居倶楽部の皆さまにも来ていただいています。お立ちになって、ご挨拶いただければと思います。
メセナアワードについては、過去に公益財団法人ギャラリーエークワッドで大賞をいただき、また、竹中大工道具館と季刊の広報誌[approach(アプローチ)]の活動についても高評価をいただいております。これからも時代を越えた普遍的な価値に対して、それを求めていくような活動を続けていくために、地域の皆さま、社会の皆さまと連携し、そして多様化されたより一層のメセナ活動の展開に尽力していく所存でございます。
皆さまにはぜひ「聴竹居」にお越しいただきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。

京阪ホールディングス株式会社 代表取締役会長 CEO 加藤好文 様

優秀賞 アートやで中之島賞:京阪電車中之島線なにわ橋駅「アートエリアB1(ビーワン)」における社学・地域連携文化活動


本日は名誉ある優秀賞を頂戴しまして誠にありがとうございます。これもひとえによきパートナーであります大阪大学さま、NPO法人ダンスボックスさまの長年にわたるご努力の賜物であり、あらためて感謝申し上げるとともに、選考いただいた審査員の方々にも厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。
2008年10月に、水の都大阪を東西に結ぶ当社の中之島線の開業と同時に、「アートエリアB1」は開業しています。場所は、古くから文化の集積があった中之島のなにわ橋駅地下一階のコンコースの一角です。普段、皆さんが何気なく通っているこの通路の一角で、ある時は身近なテーマである電車の企画、ある時は本格的な音楽演奏が聴こえてくる、またある時はかなり学術的なテーマで催し物が開催されている。本来は停車場という役割である駅に、我々がコミュニケーション空間を新たに創造し、つけ加える手助けを、駅に非日常空間を設けることによって、またその結果、その集積が駅を文化の拠点にするところまで高めていくことによって、新しい駅のあり方を求めてきました。おかげさまでその活動を評価いただきまして、2009年のメセナアワードで「文化庁長官賞」を頂戴しました。その後も10年以上にわたって文化・芸術・学問の幅広い分野のテーマを取り上げて、地道に継続的に活動を行ってきた、それが本日の受賞につながったのではと思っております。
2025年は大阪万博、さらにIRの誘致と、大阪が今世界で注目されています。そのような時だからこそ、中之島が単なるビジネス、歴史があるというだけでなしに、文化芸術もあわせ持った「クリエイティブ・アイランド」にしようと、ぜひそのような地域にしたいという思いを持ち、これからも継続的に精一杯活動を続けて参ります。ぜひ、大阪、中之島にお越しの際は「アートエリアB1」にお越しください。お待ちしております。本日はこんな素晴らしい賞を頂戴しまして、ありがとうございました。

コクヨ株式会社 取締役副社長 森川卓也 様

優秀賞 文具を超える文具賞:「コクヨデザインアワードプロダクト」プロジェクト


このたびは栄えある優秀賞をいただきまして大変ありがとうございます。また、「文具を超える文具賞」という大変素敵なタイトルをいただきまして、関係者一同非常に喜んでおります。
「継続は力なり」ではありませんが、2002年から毎年デザインアワードを開催いたしておりまして、今年で17回、試行錯誤を繰り返しながら回を重ねてまいりました。おかげさまで累計の応募作品の数が2万点を超えておりまして、また海外から応募いただける比率も4割を超えてきたと、国際的なコンペに育ちつつあります。若手のデザイナーの方、あるいはプロを目指すデザイナーの方の腕試し、力試しの場にもなりつつあります。
このアワードには大きな特徴が二つございます。一つは、応募いただいた作品は、優秀なものは可能な限り商品化を図るという点です。これまで18作品を商品化することができました。ただ、応募総数が2万点で18作品ですから、大変狭き門ではあります。代表選手としましてはMoMAのパーマネントコレクションに選定されました「カドケシ」という商品がございます。消しゴムなのですが、角が28個ございまして、どの角を使っても細かい部分が消せるというものです。おかげさまで大ヒット致しました。最近の作品の傾向としましては、このカドケシのように機能性や実用性、デザイン性の高い作品もたくさんございますが、これまでの既成概念を壊してくる、超えてくる、そのような作品がたくさん見受けられるようになりました。
もう一つの特徴としては、作品を商品化するプロセスにあります。商品化におきましては経済合理性というのが欠かせない一つの要素ではございますが、デザインアワードプロダクトという一つのブランドをつくりまして、応募者の皆さまと一緒になって、小ロットで可能な限り高品質な商品開発に取り組むなど、新しいものづくりのカタチを模索しております。
今回いただきました賞を励みにしまして、さらに文具を超える文具、家具を超える家具を世にたくさん送り出したいと思います。本日は誠にありがとうございました。

日本ユニシス株式会社 代表取締役社長 CEO CHO 平岡昭良 様

優秀賞 耳を澄ませば心に響く賞:川畠成道コンサートプログラム


このたびは、私どもの活動にご注目いただき、「耳を澄ませば心に響く賞」という素敵な賞をいただきましたこと、まずは審査委員の皆さまに御礼を申し上げます。ありがとうございます。
思い起こせば、川畠成道さんとの出会いは21年前、川畠さんが英国王立音楽院を同院史上二人目となるスペシャル・アーティスト・ステイタスの称号を授与され首席卒業された翌年、ソリストとして日本デビューを果たしたコンサートでした。それが幸運にも弊社の10周年記念コンサートだったのです。私どもは川畠さんの志にとても共感し、以来21年間、目の不自由な方にも音楽を楽しんでいただける場を提供していきたい、そして社員や地域の方々に気づきをもたらす場をつくっていきたい、という思いで活動を続けてまいりました。今日、この会場に川畠さんにお越しいただいております。この志が私たちの第一歩になりました。どうもありがとうございました。
私ども、日本ユニシスグループの社会貢献活動は、障がい者の方々を支援したい、そして次世代を育成したい、さらにそれを地域貢献につなげていきたいという思いでおこなっており、川畠成道コンサートプログラムは、その中核の一つとなっています。また、グループ社員約1,000名が自主的に参加している社会貢献クラブ「ユニハート」では、さまざまな団体に社員からの募金を寄付させていただいたり、一緒に活動させていただいておりますが、この川畠さんのコンサートプログラムも、社員に加えて、さまざまな団体の皆さまや地域の皆さまからお力をいただいて活動を続けてまいりました。
私も毎年、ニューイヤーコンサートでは盲導犬ユーザーの近くの席で鑑賞させていただいております。川畠さんの素晴らしい演奏はもちろんなのですが、盲導犬が演奏の間、ご主人に寄り添っておとなしく座っている姿、そして、ご主人が音楽を楽しまれているのが伝わるのでしょうか、時折盲導犬がご主人を見上げたりする、そういう姿にとても感動させられています。参加された方からは、「ボランティアの人が案内してくれるので安心して音楽を楽しめた」という声もいただいております。また、ボランティアに参加した社員からは、「日頃体験できない気づきをもらえた。もっと安心できる社会、よりよいまちづくりに貢献したい」というような声も聞こえております。
私たちはテクノロジーやイノベーションの力で社会課題の解決にチャレンジをしていきたいと思っております。イノベーションを起こすには多様な人の力が必要になります。社員はこのような活動に参加することによって、一人ひとり、自分の中に多様性を身につけています。そういう多様性をイノベーションに生かす、このような企業文化がまさに育まれてきたのだなと最近感じています。今後も、この賞を励みに社会課題の解決、あるいは社会貢献活動に邁進していきたいと思っております。
最後になりますが、年明けの2020年1月25日に川畠成道さんのニューイヤーコンサートが開催されます。一般の方にも気づきと感動の場になると思っておりますので、ご来場いただければこれ以上ない幸せであります。本日はどうもありがとうございました。

株式会社パソナグループ 事業開発部 マネージャー ブジョラ・エレナ 様

優秀賞 世界と島で踊りま賞:Awaji Art Circus 2018

このたびはメセナアワード2019優秀賞をいただきまして誠にありがとうございました。社員一同大変喜んでおります。
パソナグループは、創業以来「社会の問題点を解決する」という企業理念のもと、地方の特性を活かした地域創生、その変革に取り組む人材育成に取り組んでいます。そして淡路島での「Awaji Art Circus (AAC)」もその活動の一部です。異文化交流の拡大を目指すとともに、海外アーティストが自分の目で見て感じた日本の魅力を世界発信していくプロジェクトで、年々人気の高まるフェスティバルに成長しています。
初年度の2015年は、アーティストからの応募が55件だったものの、今年は400件以上ございました。参加理由は、全世界からアーティストが集まって、地域の学生や団体とコラボレーションができる点などがあります。また、地元の方からも喜びの声もいただいております。島内の学校で行っている異文化交流プログラムでは、パフォーマンス披露のほか、アーティストによる母国のプレゼンテーションやワークショップを実施しています。学校関係者の皆さまはAACが子どもたちの国際交流、国際教育に貢献していることを大変うれしく思ってくださっています。そして、毎年来場者へのアンケートも実施しています。島外のお客さまからは、「AACを観たくて初めて淡路島に来ました」「素敵な交流のきっかけになってくれてありがとう」などの声をいただいております。
パソナグループは、長年淡路島の観光需要の拡大、国内外の認知度向上に取り組んできましたので、今回の受賞を大変うれしく思っております。今回の受賞を励みに、これからも文化発展や地域活性化に取り組んでまいりたいと思います。本日はありがとうございました。

六花亭製菓株式会社 代表取締役社長 佐藤哲也 様

優秀賞 花とアートの森あわせ賞:六花の森の企画・運営

私どもは、文化勲章を受章された宇沢弘文さんの考え方に共鳴しまして、会社の経営を「本業」「社内制度資本の整備」そして「自然資本の充実」によってバランスをとってまいりました。
このたび表彰の対象となりました「六花の森」は、私どもの象徴である花柄包装紙を飾る山野の草花を定植するプロジェクトです。
自然資本は時間の力を借りて、年々歳々魅力を増していくものと考えています。10年後、20年後、どんな表情を見せてくれるのか楽しみな「六花の森」ですけれども、このたびの受賞を励みに、これからも環境整備を続けてまいりたいと思います。このたびは本当にありがとうございました。

キヤノン株式会社 代表取締役副社長 CFO 田中稔三 様

特別賞 文化庁長官賞:綴プロジェクト



本日は「メセナアワード2019」で、弊社の社会貢献活動であります「綴プロジェクト」が、栄えある特別賞の文化庁長官賞を受賞いたしまして、関係者一同、大変光栄に存じております。
本プロジェクトは、鑑賞の機会が限られております日本の文化財の高精細複製品を制作することによって、オリジナル文化財の保存と複製品の公開を両立させ、多くの方々に日本の文化財に触れる機会を増やしたいという思いから活動をしてまいったものでございます。
2007年のプロジェクト発足以来、俵屋宗達の「風神雷神図屛風」、尾形光琳の「群鶴図屏風」、あるいは長谷川等伯の「松林図屏風」等々、日本が世界に誇る名画の複製品を制作させていただきまして、それぞれの寄贈先で活用していただいております。弊社の得意領域でございます入力技術、それから画像処理技術、出力技術、これらを駆使し、オリジナルにより忠実な表現となるよう、日進月歩する新しい技術を取り入れながら、レベルアップを図ってまいりました。
また、昨年10月には独立行政法人国立文化財機構文化財活用センターとの共同研究プロジェクトを発足いたしまして、小中学校での出張授業や美術館での体験型展示など、今まで以上に幅広い皆さまに、より深い文化体験を提供することが可能となりました。また、来年はオリンピック、パラリンピックが開催されます。日本文化に海外からも熱い視線が送られる年でもございますので、日本各地でこの「綴作品」をご覧いただける機会を増やしていって、日本文化の発信に少しでも寄与できたらと願っております。
最後になりましたが、今までこの「綴プロジェクト」にご協力、ご支援をいただきました皆さまに厚く御礼を申し上げるとともに、今回の受賞をともに喜びたいと思っております。本日は誠にありがとうございました。

選考評

委員長 原島 博 氏

まずは本年度受賞された企業の皆さま、本当におめでとうございました。
私はここ数年、この審査にかかわらせていただいておりますが、毎年勉強させていただいております。確か去年か一昨年に、この場でこういうことを述べさせていただきました。「企業メセナ活動というと、企業が文化芸術活動をサポートする、支援する、そういう活動である。そのようにいわれております。確かにその通りではあるのですが、一方でその逆もあるんじゃないかと思うわけです。もともと企業が文化を支えているのではなくて、文化が企業を支えている。その文化のもとで企業活動が行われている。そしてメセナ活動というものが、その文化に、自らを支えてくれている文化に対する一種の恩返しみたいな、そのようなものなのではないか」という話をさせていただきました。
今年もまた、新たなことを学ばせていただきました。もしかしたら、文化というものは企業の外側にあるものではなくて、企業の内側にあるものなのではないか、まさに企業文化です。その企業文化がたまたま外ににじみ出た、外から見えるようになったものがメセナ活動なのではないかということでございます。その企業文化があるからこそ、自然なかたちでメセナ活動が行われているということです。もしかしたら氷山のようなものかもしれません。ここで見えているメセナ活動はあくまでも氷山の一角、表面に見えているもの、上から見えているものであるだけで、おそらくその下に見えないところにはすばらしい企業の文化がある。その文化がその企業の本来の活動をも支えている、その企業の発展がある、そういうものなのではないかというのを今年は特に感じました。
本当に勉強になりました、ありがとうございました。そしておめでとうございました。

はらしま・ひろし|東京大学名誉教授
2009年東京大学を定年退職。人のコミュニケーションを技術的に支援することに興味を持ち、その一つとして「顔学」の構築に尽力。科学技術と文化の融合にも関心がある。現在東京大学特任教授。

大谷能生 氏

受賞企業の皆さまおめでとうございました。
今年もメセナアワードの審査に携わることで、たくさんの企業のメセナを知ることができ、音楽の制作と演奏を行っている立場からも非常に勉強することができました。
その中でも個人的に印象に残ったのが、新しい才能の発掘と育成を目指したメセナの活動です。新人の発掘というのは時間も労力も、継続的にかかわることは大変長い時間と、創造力、新しい価値に対する意思の力といいますか、新しいものをかたちにしていくためのたくさんの働きかけが必要になってくるので、とても大変な作業だと思っています。そうしたことに多くの企業がメセナというかたちでかかわっていたことに大いに勇気づけられました。
これからも新しい価値、才能、そうしたものに対してたくさんの支援をいただけたらと期待しております。

おおたに・よしお|音楽家/批評家
音楽家として多くのバンドに参加、また、近年はダンスや演劇など舞台作品への楽曲提供・出演も多い。批評家としての著作は『憂鬱と官能を教えた学校』(菊地成孔との共著・河出書房新社)など。

中島信也 氏

まずは受賞企業の皆さま、おめでとうございます。受賞企業だけでなくて、メセナアワードに応募されている各社の皆さま、本当に私は一企業人として大変尊敬をしております。
私の仕事は、テレビのコマーシャル、つまり広告をつくっているわけですが、テレビのコマーシャルというのも私はある種一つのメセナ活動なのではないか、そのような位置づけでありたいと思っています。モノを売るとか、どこかに来てもらうとか自社の経済活動を担うのが広告でありますが、民間放送を通じて人々に、良質な情報やみんなで楽しめるコンテンツを提供する、みんなを幸せにするものでなければならない、と考えています。しかしこの昨今、広告を取り巻く経済情勢は大変厳しく、あくまでも広告メディアとして出資に見合った見返りを強く求める企業も増えてきています。
メセナ活動も企業が出資に見合った見返りのみを求め出すと立ち行かなくなるのでは、と危惧するところでありますが、それは杞憂でした。今年の審査で、この厳しい経済状況を乗り越えてすばらしい活動を展開されている多くの企業に出会えたからです。私が注目した点は、メセナ活動が地域を支え、文化を発展させる原動力になっているだけではなく、メセナ活動をしている企業そのものが活性化する、という事例です。活動が企業自体を豊かにしていけるのではないか、という認識に立って進めておられる、ということです。それは先程の原島先生のお話にもありましたように、「企業の文化」の賜物でもあります。
竹中工務店さんのこのすばらしい「聴竹居」を守られている活動なのですが、やはり竹中工務店さんの社風あるいは会社の企業文化がにじみ出て、こういう活動を通して自分たちが何者なのか、どのような企業であるのかということを確認されていっているのではないかと思います。私は京都のほうで京都デザイン賞という京都の建築・デザイン・工芸の審査もさせていただいているのですが、こちらでも竹中工務店さんはすばらしい、これは企業活動というよりも文化活動に近い建築物をつくっておられています。このようにこれからのメセナ活動は、自分たちの会社をも元気にしていく、自分たちの会社の文化を育てていくという視点がないと、単に経済的な余裕を文化に向けていくということだけでは成り立っていかないだろうなと思います。
さらに今、働き方も問われる時代です。仕事以外の時間の使い方に大変ナーバスな社会になっています。だからこそメセナ活動というものが自分たちの会社のためにも、そして社員のためにも意義のあるものになっていけたら、と思います。ありがとうございました。そしておめでとうございます。

なかじま・しんや|東北新社取締役副社長/CMディレクター
1959年福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。武蔵美視覚伝達デザイン学科卒。デジタル技術を駆使した娯楽性の高いCMで数々の賞を受賞。武蔵野美術大学客員教授(情報デザイン学)、金沢工業大学客員教授(メディア情報学)。

萩原なつ子 氏

まずは受賞企業の皆さま、おめでとうございます。
今年初めて委員を務めております。すべてのメセナを見させていただいて、本当におもしろく五感が刺激されました。ここに行ってみたいなとか、見てみたいなということを感じた審査でございました。またそれぞれの受賞された企業の方々への賞名を考えるときは、一番楽しかったかもしれません。思いを馳せながら、これはぴったりになるよねというのを皆さんと一緒に考えました。
日本NPOセンターの代表理事として、いろいろな企業さんと連携することもあるのですが、今回選定させていただいて、やはり連携、協働というのが大きな社会の課題の解決や社会を豊かにしていくためのキーワードになっていると感じました。そして企業さんが、本当に緩やかにいろいろな主体をつなぐ役割を果たしているというのを実感いたしました。
そして今、個人のワークとして4つのワークというのがいわれています。たとえば、お金を稼ぐワーク、家庭生活のワークと、学びのワークと、そしてもう一つがギフトワークといわれています。たとえばNPOにはたくさんのボランティアをしてくださる方がいらっしゃいます。もしかしたらメセナ活動は、企業にとってのギフトワークなのではないかと思いました。社会を元気にしていく、そして人々に勇気や笑顔やいろいろな潤いを与えてくれる、そのようなギフトワークとしてのメセナ活動、これからも受賞企業のみならずさまざまな企業が進めていただけることを期待しております。本当におめでとうございます。

はぎわら・なつこ|立教大学・教授/(認特)日本NPOセンター代表理事
お茶の水女子大学大学院修了。博士(学術)。(財)トヨタ財団アソシエイト・プログラム・オフィサー、宮城県環境生活部次長、武蔵工業大学助教授等を経て、現職。専門は環境社会学、非営利活動論。

馬渕明子 氏

受賞企業の皆さま、大変おめでとうございます。
今年3度目の審査をさせていただいておりますが、自分の本業と結びつくような、いろいろな発想をいただきました。
私の本業は美術館の館長として展覧会や作品の収集活動をしております。美術館にいるということで、あたかもそこにいること自体が文化活動というように、内部でそう思っている人もいますし、外部からそう思われる方もいると思います。やはり美術作品というのが歴史の中で特権化して、有名な作家、価格の高い作品、そういったものが表に出ると、皆さんこれが文化なのかという風に思われることがあるのです。たしかにそれは否定できない部分があるけれども、美術館の活動というのはその特権に乗っかっていてはいけないのではないかと最近思っております。そういうものをどのようにつないで、どのようにお見せして、どのようなストーリーを語っていくのか、というのがやはり観客の方を惹きつけたり、それが後世に残っていったりするという風に考えております。
そういう視点から見ると、今回受賞をなさった企業のプロジェクトというのはみんなストーリーを持っていて、そして、中の方たちがそのストーリーを語りたい、こういう風に自分たちの持っている資源をつないで物語を語っていく、そういう姿勢が私たちに感動を与えてくださったのだと思います。
ですから、これから文化というのは一つひとつの単独のものでなくて、それを企画する人たちの思いや、後の世界につなげていきたいといったものを話せる、語れるプロジェクトとなっていくとありがたいなと思います。今回大賞も含めまして、大変すばらしい語り手として、メセナという活動をつくっていただいたと思っております。大変おめでとうございました。

まぶち・あきこ|国立西洋美術館長
東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専門は近代西洋美術史。パリ第4大学大学院博士課程で学び、日本女子大学教授等を経て2013年より現職。サッカー通でもあり、日本サッカー協会副会長退任後は顧問を務める。

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