メセナアワード

メセナアワード2008贈呈式

2008アワード贈呈式_全体集合写真

2008年11月28日(金)、「メセナアワード2008」贈呈式をスパイラルホール(東京・港区)にて開催しました。 贈呈式では各受賞活動の紹介につづき、青木保文化庁長官より「文化庁長官賞」部門、企業メセナ協議会 福原会長より「メセナ大賞」部門の賞の贈呈をおこないました。 受賞企業・団体の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からはそれぞれ審査評が述べられました。
当日は受賞各社・財団関係者のみなさま、「メセナアワード2008」応募各社・財団のみなさまをはじめ、企業メセナ協議会会員、関係者、報道関係等、総勢300名を超える方々にご出席いただきました。また贈呈式終了後は、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2008贈呈式 受賞者スピーチ

サントリー株式会社 専務取締役 寺澤一彦 様

メセナ大賞:~美を結ぶ。美をひらく。~ サントリー美術館の運営と活動


メセナ大賞という名誉ある賞を受賞し大変光栄です。1994年に、サントリーホールの活動を通じてメセナ大賞を受賞しており、栄えあるメセナ大賞を2度も受賞でき大変喜ばしいことです。 サントリーは創業以来、利益三分主義という考え方のもと、事業で得た利益を事業の拡大・再生産のために投資するだけでなく、その一部をお客様、お得意先、さらにはその一部を社会との共生のために還元してきております。 企業は社会の中で生かされているのですから、美術館や音楽ホールといった弊社の社会貢献活動は、我々が社会の中で企業活動を続けていくためにむしろ必要なことではないか、というふうに考えています。そういった考え方に基づくサントリーの活動を高く評価いただいたこと、大変嬉しく思います。
さてサントリー美術館は、1961年に弊社の創業60周年記念事業として丸の内のパレスサイドビルに開館したのが始まりでした。当時は、まさに高度経済成長に突入していくときで、逆に言えば、心の豊かさが求められた時代でありました。そういった時代背景のもと、生活文化の豊かさの実現にいささかなりとも貢献できればという思いがありました。
その後、1975年に東京支社ビルが赤坂見附に移転するとともに、美術館も赤坂見附に移り、昨年3月に、六本木の東京ミッドタウンに移転をして、かれこれ50年近い歴史を刻んできたのです。六本木の移転に際し「美を結ぶ。美をひらく。」というミュージアムメッセージを掲げました。「日本を祝う」展を第1回の特別企画展としまして、「鳥獣戯画」展など特別企画展を計9本開催し、この1年間で60万人を超える皆様にご来館いただきました。
今、10本目の特別企画展「巨匠ピカソ」展を、国立新美術館と同時開催しています。改めましてこのような栄えある賞を受賞いたしましたことに厚く御礼を申し上げますとともに、この受賞に際しましてご尽力を賜りました関係各位の皆様に深く感謝を申し上げまして、御礼の言葉とさせていただきます。

株式会社伊予銀行 代表取締役会長 麻生俊介 様

地域文化支援賞:「伊予銀行地域文化活動助成制度」による草の根文化支援

優秀賞:地域文化支援賞 株式会社伊予銀行受賞写真
麻生俊介権威あるメセナ賞をいただき、光栄かつ名誉なことと心から感謝申し上げます。私個人にとりましても、この「伊予銀行地域文化活動助成制度」の発足時に担当部長として当企画に関係して、このような賞をいただき感慨もひとしおです。 この助成制度に三点思うことがあります。
一つは、愛媛県に私ども店舗が120軒近くあります。各店舗のエリア内で、各行員が地域の文化に目を向け、どのような文化活動が行われているかをつぶさに勉強し、そのなかから推薦をあげて選考していく仕組みです。そういうことから文化に関心を深める組織になってきたのではないか、また企業文化にまで発展していると自覚をしているところです。
二つ目に、地域の皆さまが活動しておられる草の根の文化を将来に伝承していくには記録に残さなければならないということで、「ふるさとのちからこぶ」という冊子に助成先の活動を収録しました。いま三冊の「ふるさとのちからこぶ」が出来上がっています。これを小・中学校、高校、大学、図書館など、公的な機関に寄贈しています。県内での草の根文化の状況がよく分かると高い評価をいただいております。
そして最後に、私どもが忘れてならないのは、この助成制度の選考にあたり、県内6名の有識者がボランティアで文化振興顧問団を編成くださり、17年間にわたり的確な評定をされ、この制度を支えてくださったことです。皆様のご支援がなければ、この助成制度は続いていなかったのではないかと思うところです。
このメセナ賞を励みに、地域の文化振興、さらに文化力は経済力のもとであるというスタンスで尽くしてまいりたいと覚悟を新たにしております。関係者の皆様方に、心から御礼を申し上げましてご挨拶とさせていただきます。

佐藤電機株式会社 代表取締役 佐藤行雄 様

たたかう劇場賞:王子小劇場の運営と、若手劇団への支援

優秀賞:たたかう劇場賞 佐藤電機株式会社受賞写真

佐藤行雄このたび初めて「メセナアワード」に応募して、実際に「受賞したよ」という連絡を受けたときには、私はじめスタッフ一同本当にびっくりいたしました。「これは大変なことになった!」というようなことでございます。
過去のメセナアワードの受賞会社・団体を見ても、皆、知名度の高い一流企業がほとんどではなかったかと思っております。今回、私ども中小企業が行っている規模の小さなメセナ活動に、光を当てていただきまして感謝申し上げたいと思います。
本日この受賞にあたって、企業メセナ協議会のスタッフの皆さん、推薦いただいた「ジョブウェブ」の社長さん、そして王子小劇場のスタッフの皆、さらに小劇場を利用いただいている劇団の皆さんに、御礼を申し上げたいと思います。本日は本当にありがとうございました。

財団法人竹中大工道具館 理事長 竹中統一 様

伝統技能継承賞:竹中大工道具館での交流・体験重視型活動

優秀賞:伝統技能継承賞 財団法人竹中大工道具館受賞写真
竹中統一本日は栄誉あるメセナアワード「伝統技術継承賞」、さらに「あなたが選ぶメセナ賞」を重ねて賜り、私どもにとって大きな喜びです。
竹中大工道具館は、竹中工務店の創業85周年の記念事業として、弊社発祥の地、神戸に1984年に開館、約25年にわたって活動を続けてきました。年間約1万人の来場者を迎える比較的小さな博物館です。ものづくりの心と技を後世に伝えたい、という初代・理事長、竹中錬一の情熱と、また建築史家の村松貞次郎先生をはじめとする諸先生方、諸先輩のご支援、兵庫県をはじめとする皆様のご理解とご協力、また各理事、評議委員の皆様、学芸員の皆さんの努力によって、今日まで至っております。
わが国は法隆寺、東大寺、唐招提寺や薬師寺など、古来より多くの優れた木造建築が誕生しました。我々はどうしても完成した建物に眼を奪われがちですが、その影には、よい仕事をしたいという職人の心意気と、磨きぬかれた技、そしてそれを支える大工道具の存在があることを忘れてはなりません。優れた職人の大工道具には、職人の仕事にかける思いが実に豊かにあらわれております。
一方、慈しみ使われた大工道具は磨かれ、また使い古され摩り減り、いずれは消えていく宿命を持っています。職人の魂の宿った大工道具を守っていくことにより、匠の精神、匠の技を後世に伝えていきたい。また建築に携わる一人として、そうした建築の精神的原点を見失わないようにしたいという思いを、しっかり受け継いでいくことが責務でないかと思っています。
この受賞を励みとし、日本文化の継承に寄与できるよう、次代につながるメセナ活動の展開に一層の力を尽くしてまいりたいと覚悟を新たにしています。今後とも、私どもは精一杯、この伝統技能の継承に邁進してまいりますことを誓い、挨拶にかえさせていただきます。

トヨタ自動車株式会社 常務役員 中井昌幸 様

音楽文化普及賞:「トヨタコミュニティコンサート」~アマチュアオーケストラによる訪問コンサート~

優秀賞:音楽文化普及賞 トヨタ自動車株式会社
中井昌幸このたびは「トヨタコミュニティコンサート」に音楽文化普及賞をいただき、ありがとうございます。選考にあたられた先生方、このアワードの運営を支えてこられた企業メセナ協議会の皆様はじめ多くの方々に、心から御礼を申し上げたいと思います。
今日は本当に明るい気持ちでここに臨ませていただいております。今回の「音楽文化普及賞」とは「トヨタコミュニティコンサート」が目指してきたもので、ありがたく感じています。
「トヨタコミュニティコンサート」は、1981年に音楽を通じて地域の文化に少しでもお役に立てないだろうかとスタートし、以来、27年間続いてまいりました。今では、当社を代表するメセナ活動となっていますが、これまで続いたのは、トヨタというより我々のパートナーであり、今回の主役である日本アマチュアオーケストラ連盟の森下理事長さんはじめ、全国の地域のアマチュアオーケストラの方々、あるいはその関係者の絶え間ない熱意・ご努力の賜物だろうと思います。この場をお借りして敬意と御礼を申し上げます。
私もコンサートにお邪魔して、レベルの高い演奏に非常に満足しておられる会場の様子や、練習を重ねた本番が終わり、達成感いっぱいのアマチュアオーケストラの皆様のお顔を拝見することで、継続に向けての大きな力にもなってまいりました。
また今回このような栄えある賞をいただきまして、新たな30年、50年と続けるための大きな弾みにさせていただきたいと思っております。最後になりますけれども、メセナアワードのご発展を祈念いたしまして、私の御礼の言葉とさせていただきます。

株式会社ふくや 代表取締役社長 川原正孝 様

網の目コミュニケーション賞:博多の伝統芸能、祭りの普及・支援

優秀賞:網の目コミュニケーション賞 株式会社ふくや受賞写真

川原正孝メセナアワード2008「網の目コミュニケーション賞」の受賞、本当にありがとうございます。このような権威ある賞をいただき、今まで受賞された歴代の会社さんをみても、うちみたいなところが本当に受賞したのだろうか、ということでびっくりしました。
一番喜んでくれたのは我々の社員さんです。それから地域の方々、お祭りの関係者の方々に本当に喜んでいただきました。
博多というところは芸どころでございます。お祭りをしょっちゅうやっているところでございます。こういう賞をいただきましたことで、地域がまた、このメセナアワードをもらおうという気持ちになっていただければありがたいと思うと同時に、我々ももう一度この賞を受けたいな、という思いになっています。そういった意味で、この賞をいただきましたことは地域にとっても、我々ふくやにとりましても本当にありがたいことでございました。
今後も、自分たちの身の丈にあったメセナ活動を続けていきたいと思っております。本当にどうもありがとうございました。

財団法人ソニー音楽芸術振興会 理事長 大賀典雄 様

文化庁長官賞:クラシック音楽を通じた次世代育成と、若い演奏家への支援活動

特別賞:文化庁長官賞 財団法人ソニー音楽芸術振興会受賞写真

大賀典雄この度は、ソニー音楽芸術振興会に対し「文化庁長官賞」という栄えある賞をいただき、心より嬉しく存じます。
ソニー音楽芸術振興会は、今から遡ること24年前に活動を開始して以来、クラシック音楽の普及・振興に努めてまいりました。また私たちは同時に「今、クラシック音楽が、次世代のために出来ることは何なのか」ということを常に自らに問い、数々の企画を実施してまいりました。
なかでも妊婦さんとそのご家族のための音楽会、未来を担う子どもたちの感性を磨くコンサートや、若手の演奏家・音楽家の発掘、育成支援活動は、その主軸を成すものです。こうした活動を通じ、さまざまな地域社会と文化交流を深めることが出来たと思っております。
今回の受賞は、これまでの長きにわたる活動内容を評価いただいてのものと思うのですが、この受賞を励みに、更なる高い文化貢献につながる活動を目指してまいります。最後に、改めて企業メセナ協議会の皆様、文化庁の皆様方、審査された先生方、そしてこれまで私どもの活動にご支援いただいた数多くの関係者の皆様に、心より御礼申し上げる次第でございます。本日はどうもありがとうございました。

選考評

審査委員 いとうせいこう 氏

いとうせいこう今年の審査は去年にも増して、また面白い議論がいろいろと出てきました。「これは、メセナじゃないのではないか。」、「いやこれこそ、メセナだ!」。その議論の結果、企業メセナの境界線が、また少し動いたなという実感がありました。
毎回、受賞活動の賞名を審査会で考えるのですが、多様性が非常に増しているとともに、応募くださる企業・団体の数も増えている。それでこんなに種類の多い、多種多様なメセナがあったのだ、ということを我々審査員が認識いたしました。
メセナ アワードの賞よりも、企業メセナの実態のほうが進んでいるということです。実際は、審査委員が追いつかないくらいのほうが良いので、素晴らしいことではなかったか、と考えているところです。
私達審査委員は、3年の任期を無事に終了しました。そして、来年は次の審査委員の方々に、この審査をお渡しします。この三年間、我々は、いろいろな企業のメセナ活動を見てきましたので、審査委員でなくなっても、メセナ活動となると、すぐにピンッとくるような身体になっております。私が見ているからといって、どうなることでもございませんけれども、皆様の活動をしっかりと、この目で見ているのだということを、メッセージとしてお伝えしたいと思った次第です。受賞の各企業・団体の皆様、本当におめでとうございます。

【プロフィール】
作家、クリエイター。活字や映像、舞台、音楽、ニューメディアなど幅広いジャンルで表現活動を行う。著書に『ボタニカルライフ』(99年)、『見仏記』シリーズ等多数。2006年より、園芸ライフスタイル・マガジン『PLANTED』(毎日新聞社)の編集長。11月より文化放送の新番組『グリーンフェスタ』で久々にラジオのパーソナリティを行い、2008年はデジタルショートアワード『600秒』の審査員も務める。

審査委員 岡部真一郎 氏

岡部真一郎受賞された皆様、おめでとうございます。昨日、ドイツから帰国しました。ベルリンで、茶道・武者小路千家、千宗屋さんが、東洋美術館でお茶会を、その後ケルンで講演をされるというので行ってきました。彼は、「せっかくドイツにいるのだから、ベルリン・フィルを聞きたい」とおっしゃられましたが、あいにく来日公演中でした。実は、昨日成田につき、サントリーホールに直行しまして、大変に素晴らしい演奏会でした。千さんは、「ベルリンで私の茶会に来て、東京に戻り、ベルリン・フィルを聞くなんて、ずいぶん酔狂だね」と笑われていましたが、その酔狂のおかげで、ひとつ改めて気づいたことがあります。
ベルリン・フィルの素晴らしい演奏が私たちの心を打つのは、ベルリン・フィルが名門だからではありません。芸術監督のサイモン・ラトル氏が、新しい試みを次々と続けて、音楽の場を活性化させたからだと思います。また、千さんは千利休から数え、直系の15代目ですが、彼のお茶がベルリンの人たちの心に響いたのは、彼が15代目だからではなく、日本の美術・文化はもちろん、建築、現代美術にも造詣が深い千さんが、現代に生きる我々にとってお茶とは何か、茶道とはどうあるべきかを考え、新しい提案を続けているからにほかならないと思います。
こう申し上げると、あまりにも安易なクリシェだと思われてしまうかもしれません。けれども、改めて申し上げるまでもなく、メセナ活動にとって最も大事なこと、それは本物を伝えること。本物の素晴らしさ、その感動をごく一部の限られた人たちだけではなく、より多くの人たちと分かち合うためにサポートをしていくことだと思います。
一方、もし普及とか教育とかいう名のもとにその本物の感動が水で薄められ、あるいは口当たりをよくするために甘味がつけられ、人目を引くために派手な色合で、その本質がゆがんでしまうのであれば、私はむしろ芸術の壁や、敷居は高いままでいい、とさえ思います。
サントリーはじめ受賞された活動は、言葉にすれば簡単ですが、実際に現実のものとするには大変に困難な、そういった理念、理想を活動の中で結実し、その成果を積み上げられてきた、そういう活動だと思います。
受賞された皆様に心からお祝いを申し上げるとともに、多くの企業の方々のお力添え、ご理解をいただきながら、そして企業のメセナ活動を通じて、今この世に生きている我々の社会が本当の意味で豊かなものとなっていくように、心から願いたいと思います。

【プロフィール】
音楽学者・評論家、明治学院大学教授。専攻は音楽学、特に20世紀音楽および同時代音楽。『日本経済新聞』、『朝日新聞』、『レコード芸術』、『音楽の友』等で評論活動を展開するほか、NHKテレビ・ラジオの音楽番組の解説、キャスターなどを務める。著作に『ヴェーベルン 西洋音楽史のプリズム』(2004年)、『消費社会の指揮者像』、『装置としてのオペラ――タン・ドゥン:《マルコ・ポーロ》序論』などがある。

審査委員 樺山紘一 氏

樺山紘一 受賞されました各団体・企業の皆様、大変お喜びのことと存じます。日本を代表する大企業から王子駅前の小さな企業。地域から見ましても、東京首都圏、名古屋、京阪神から愛媛、福岡にいたるまで、バリエーションのある、さまざまな形のメセナ活動に、アワードの賞を差し上げられたことは、私ども審査委員として大変に満足しています。
音楽や美術といった、かねてからメセナの対象となっているジャンルの活動も多くありましたが、これに加え、竹中大工道具館という、とりわけ芸術文化という範囲ギリギリかな、と思うところにまで、アワードの賞を差し上げることができました。それを嬉しく感じた理由は、お手元の『メセナnote 58号』(協議会・機関誌6頁「産業博物館のオンリーワン」)に掲載してあります。
これからもメセナ活動の広がりがますます大きくなるように、企業皆様のご支援とご協力をお願いしたいと思います。近年、「メセナ」よりはむしろ「CSR(企業の社会的責任)」と呼ぶほうがいいのではないか、というご意見もあります。そうかもしれません、メセナの芸術文化支援活動だけでなく、社会、地域活動に力点を置いてはどうか、という考え方は間違ってはいないと思います。
しかし、CSRという言葉が使われるとき、どうしても硬い意味が加わります。例えば、「法令遵守」や「環境保全」など、これらを話題にするときは、どうしても背筋を伸ばし、眉間にしわを寄せ、ネクタイを締め、時には企業役員が45度のお辞儀をして不祥事を謝る。こういうのが企業のCSR(社会的責任)に付きまとってきます。しかし、アワードに応募される活動は、どちらかといえば楽しく、企業の方々は背広ではなく、Tシャツやセーターを着て笑顔で、社員と地域のいろいろな人々と共に手をつないでやるという感じがします。
この楽しさや喜び、これこそが今後、メセナ活動を支える大きなエネルギーになるのだと思います。先ほど受賞企業・団体の代表者様に受賞スピーチをいただきましたが、皆様ほとんど異口同音にそれぞれの活動の楽しさや喜びをお話されました。それが大事だと思うのです。企業の社会的責任も、もちろん必要、でも同時に企業メセナのさまざまな活動がこれからも楽しく、社員の方々が喜んで参加することが出来るような、そういう方向に発展していっていただきたいと思います。

【プロフィール】
東京大学名誉教授、印刷博物館館長。元・国立西洋美術館長。専攻は西洋中世史、西洋文化史。現代における市民社会、地域社会と、学術・文化・芸術活動との連携や協調のあり方を幅広く探る。著書に『西洋学事始』(82年)、『ルネサンスと地中海』(96年)、『地中海―-人と町の肖像』(2006年)、共著『解はひとつでない―グローバリゼーションを超えて』(2004年)など多数。

審査委員 北川フラム 氏

北川フラムこの3年にわたるメセナ アワードの印象は、明治以降あった日本の狭い芸術から、今は、相当広いところにも芸術の視点が行き渡り、生活文化に非常に近いところまできているということでした。この間のいろいろなことを見るにつれ、経済は大切だけど、やはり国をつくっているのは文化だ、文化の力がなければ意味がないと、最近、感じています。
今日、受賞された企業の方々は、お金が余っているからメセナをするのではなく、日本の文化を支えるため、また地域や、諸ジャンルの活動を応援したい!という気持ちがまずあって、各々の活動をおやりになっている。そのことが、私の心を打って、このアワードという賞をぜひお渡ししたいということになったわけです。
今、私たちは、「ふるさと納税」※という寄付金制度を持っています。個人が、文化活動を選んで寄付をすると、住民税と所得税から一定の控除を受けられます。いったん行政にお金を入れなくてはなりませんが、文化に寄付したものが控除されるのは、日本の政府がはじまって以来のことです。例えば、ある企業が行政と組んでやっている文化活動があるとすると、そこに住んでなくても、税金の一部を入れたいと申し出ることができます。企業メセナとは違いますが、私たち個人が、文化活動に貢献できる仕組みが出来たので、皆様も、個人のメセナをぜひやっていただきたいと思います。
私たち審査委員は、今年でこのアワードの審査を終わります。これは残念なことで、個人的にはもっと続けてやらせていただきたい。というのは、本当に多くの企業が、非常に面白い活動をしている。これを審査会で見るのは、本当に楽しみでした。
数々お引き受けしている委員会の中でも、滅多にない経験でした。そのうえ、先に話された岡部先生は、僕とはかなり考え方が違うわけです。僕はあまり立派な芸術がいいとは思わないし、芸術の壁は低いほうがいいと思う側ですが、そういうことが議論できるということも非常におもしろかったと思います。
本日の受賞の皆様おめでとうございます。
それから、3年間審査員をさせてくださって本当にありがとうございました。とても楽しい3年間だったと同時に、まだ日本のいろいろな企業、あるいは、それぞれの地域文化が元気だということも確認させていただきました。

【プロフィール】
アートディレクター、アートフロントギャラリー主宰。女子美術大学教授。主なプロデュースとして「アントニオ・ガウディ展」(78年)、「アパルトヘイト否!国際美術展」(88年)等。まちづくりの実践では「ファーレ立川アート計画」、「越後妻有アートネックレス整備構想」ほか。2000年より「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の総合ディレクターを務める。

審査委員 楢崎洋子 氏

楢崎洋子企業メセナとは直接関係ないことですが、今、大学ではFD(Faculty Development)、“大学教員の教育能力を高めるための実践的方法”が話題になっています。実際には、大学生に「この授業をどう評価しますか」というアンケートをとり、その結果を教員が見て、授業の改善案を学内のFD委員会に出します。そして、実際に改善策を講じた結果、半年後にどのような成果が得られたか、という報告書を提出するわけです。
そんな半年間で見える成果というのは、私は成果ではないと思うのですが、しかし成果を急ごうとする。このように成果を早く欲しがる傾向は、現代社会のさまざまなところで増えているのではないかと感じています。
一方で、メセナ活動の応募案件を見てみますと、そういった社会の傾向に逆行するような活動が行われています。メセナは芸術や文化に成果を出すことを急がせません。むしろ待っていてくれます。
成果主義が、もしかしたら切り捨てるかもしれないことを、メセナはあえて切り捨てないで、それを支援している。5年、10年、20年・・・より長い支援をされることで、個性的な文化がゆるぎないものになってきていることを感じ取れました。
「育てる」という、本来時間のかかることにおいてさえも急ごうとする世の中で、現代が失いかけているものを、メセナはあえて見失わないで実践している、という大事なことも応募案件から実感しました。そういった良いことは、これからも続けてもらいたいと思います。本日はご受賞、おめでとうございました。

【プロフィール】
武蔵野音楽大学教授。音楽学専攻。愛知県立芸術大学教授を経て2005年より現職。『毎日新聞』ほかで音楽会批評を執筆。著書『武満徹と三善晃の作曲様式――無調性と音群作法をめぐって』(94年)で第9回京都音楽賞研究評論部門賞受賞。他に『日本の管弦楽作品表 1912-1992』(94年)、『作曲家◎人と作品 武満徹』(2005年)、共著に“A Way a Lone : Writings on Toru Takemitsu”(2002)がある。

審査委員 山根基世 氏

山根基世 受賞された皆様、おめでとうございます。私も、これら活動を選ぶことができて本当によかったという満足感がたちのぼってきました。
世の中では本当に人間不信に陥るようなニュースが溢れているのですが、この3年、メセナ アワードの審査委員を受け持ち、それぞれの企業が独自の方法で、メセナ活動に取り組んでいることを知ることは、本当に人間を信じることのできる希望を見せてもらったような気がします。
先日、企業メセナ協議会から『メセナリポート2008』が届きました。毎年、企業を対象に行っている「メセナ活動実態調査」の報告書です。今年は662社が回答しているそうで、そのうち70%の企業が、メセナ活動をCSRの一環として位置づけていると答えています。この問いを設けた4年前に比べ20ポイント増加しているというのです。「企業の社会的責任」という言葉をどういうふうに解釈するかによって、この数字の読み方が違ってくるかと思いますが、回答企業は、企業の社会的責任を外部から押し付けられた義務だと考えているのではなく、先ほど樺山先生がお話しされたように、自分達の楽しみとして捉えているのではないかと思うのです。
私は、昨年まで36年間、放送局で仕事をしてきました。その例で申しあげますと、放送現場の記者やディレクター、アナウンサー、カメラマンにしても、仕事として取材をしなければならない、番組を作らなければならないという義務でやっているあいだは、疲労困憊するものです。
けれども、今の時代に、世の中に伝えたいという志を持って、自らこの仕事に向き合っているときは、本当に仕事が仕事でなくなる。自分の人生とカチッと噛み合ったときに、それは仕事を超えたものになっていく。
つまり企業で働く一人一人が、自ら社会的責任ということを、先程の例ならば、「放送」が今、何をこの世の中ですべきか、ということを腹に落として、自分のやるべきことを見つけたときに、人はそのことによってむしろ救われるのです。それは私自身が現場で体験したことですし、そのことによって企業体そのものが活性化する。
そういう意味で、企業の社会的責任というものを、働く一人一人が自分のこととして捉えたとき、日本中の企業が、自分の持ち場で、自分のやるべきこと、自分にできることをきちんと果たしていったならば、今よりずっといい日本が実現するという大きな希望を見る気がします。
そして、今回、受賞された活動を見ると、地域の中で自分達のやるべきことを見据えて、それぞれの企業規模、あるいは企業の性格に応じた、まさにオンリーワンのメセナをなさっている。本当に素晴らしいことだと思います。願わくは、こうした思いが全国の日本の企業に行き渡りますように、と思っています。3年間大変勉強させていただきました。ありがとうございます。

【プロフィール】
LLP ことばの杜 代表。NHKアナウンサー現役時代、旅番組で全国各地を取材するほか、10年あまり美術番組を担当し、400人以上の芸術家を取材する。国土庁地域表彰委員、文化庁国語審議会委員などを務める。2000年、放送文化基金賞受賞。著書に『であいの旅』(91年)、『歩きながら』(94年)、『ことばで「私」を育てる』(99年)等がある。

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