メセナアワード2020 メセナ大賞受賞

研究者への継続的な助成で 若手を育て、美術界を下支えする

高橋 司 公益財団法人鹿島美術財団 専務理事

―このたびは「メセナアワード2020」メセナ大賞のご受賞、誠におめでとうございます。数少ない美術研究への支援を長年継続し、若手研究者の育成に貢献している点、 美術界を支える人材を顕在化し、研究の質を高め、芸術文化全体の発展に寄与している点が高く評価されました。

ありがとうございます。美術研究への助成という、一般には中々注目されづらい活動をこのように評価いただき、大変うれしく思っています。財団賞の発案者は、当時、選考委員であった青柳正規理事(元・文化庁長官、現・多摩美術大学理事長)で、青柳理事ご自身も当財団の最初の助成者の一人です。財団賞は、今年で27回を数え、現在では日本美術界の三冠と称されるまでになりました。第1回の財団賞受賞者が第一線の教授として活躍されるようになり、今度は教え子の一人がまた、財団賞を受賞されるということがあるなど、 38年にわたって地道に行ってきた事業の成果が、着実に根づいてきていると感じています。

―1982年に設立されましたが、財団が設立された当時の経緯をお聞かせください。

鹿島建設「中興の祖」といわれる鹿島守之助氏の妻・卯女(うめ)名誉会長の美術に対する深い思いから、鹿島美術財団は誕生しました。若いころにイタリア・ローマに3年ほど滞在した経験をもち、また洋画家・岡田三郎助に師事するなど絵画に造詣の深かった鹿島卯女名誉会長は、後年「何か美術のために役に立ちたい」と考えるようになったそうです。
芸術家の作品に賞を授ける構想もあった中で、財団による援助の対象を「美術研究」と定めるには、現在も選考委員をご担当いただいている美術史家・高階秀爾先生とのご縁によるところが大きく関係しています。高階先生は、鹿島卯女名誉会長の長男で現在の理事長であります鹿島昭一鹿島建設(株)取締役相談役と小中学校の同窓で、当時から親交があったそうです。財団立ち上げの折にもアドバイスをいただき、現在の財団の活動である、①調査研究助成②出版援助③国際交流援助という三本柱ができました。
残念ながら鹿島卯女名誉会長は、財団設立の直前に急逝してしまうのですが、鹿島昭一理事長がその遺志を継いで今日まで活動を続けてきました。日本学術振興会の科学研究費では一部、対象外になってしまうものも、優れた研究であれば所属機関が大学でも美術館でも国公立私立を問わず、漏れなく援助できるよう、また選考の際にも、東京だけでなく全国から応募しやすい推薦委員制度の仕組みを整えています。
私たちがもう一つ大切にしているのが、本事業を通して研究者同士の交流を図ることです。毎年実施している研究報告会には、選考対象となった研究者は全員参加できるので、互いに刺激を与え合いながらネットワークを築ける場となっています。またそのような会とは別に、美術の普及振興を目的にした講演会も年に一度実施しています。新型コロナウイルスの影響で2020年は開催を延期いたしましたが、来年以降は状況に合わせたかたちを検討していきたいです。

―顕彰事業の今後の展開について、どのようにお考えでしょうか?

まず現状の調査研究助成の事業については、2021年以降予算を増額して、財団賞受賞者への副賞を増額する予定です。また若手研究者への支援としては、かなり定着してきている実感がありますので、中堅以上の研究者への助成制度をさらに充実させていきたいと考えています。具体的には、3年間研究して、その成果を本にまとめて出版してもらうという内容です。今年度より、財団賞の第11回受賞者へ助成しています。
こうした当財団の活動については、美術界の中ではおかげさまで徐々に知名度を獲得してきていますが、今後は業界を超えて、より多くの方々に知っていただき、美術界によりよい貢献をするべく邁進してまいります。

[聞き手・構成:中森葉月]
取材日:2020年10月7日


たかはし・つかさ

1948年4月20日生まれ
早稲田大学商学部卒
1971年 鹿島建設株式会社入社
1984年 営業本部営業推進部情報課長代理
1986年 営業本部企画部企画課長
1989年 建築設計本部総務部秘書課長
2001年 建築設計本部事務統括グループリーダー
2003年 建築設計本部本部次長
2008年 鹿島美術財団常務理事
2019年 鹿島美術財団専務理事

メセナアワード2020 メセナ大賞受賞

公益財団法人鹿島美術財団
鹿島美術財団賞

活動内容
鹿島美術財団贈呈式鹿島美術財団は、「美術の振興をはかり、日本の文化の向上と発展に寄与する」ことを目的に、1982年に設立された。主に全国の若手・中堅の美術研究者を対象に、美術に関する調査研究助成を始め、出版援助や国際交流援助、美術講演会の開催などの事業を行う。設立からおよそ40年にわたり、約2,600件(総額約20億6,000万円)を助成してきた。
1994年の第1回に始まる「鹿島美術財団賞」は、毎年、美術に関する調査研究の助成者の研究成果をまとめた報告論文『鹿島美術研究』の中から、特に優れたものに対して贈呈している。
主に絵画や美術史、美術館学(美術品の保存・修復・維持など)に関する調査研究を対象に、テーマや地域、時代、考察手法など、幅広く美術研究全体に開かれており、5名の選考委員によって日本・東洋美術部門、西洋美術部門で1名ずつが選ばれる。授賞式では賞状と副賞50万円が授与されるほか、150名ほどの招待者を前に研究発表会が行われる。
受賞を経て、大学や研究機関の職に就き、執筆・講演依頼が来るようになったという声も多く、「自身のキャリアに影響を受けた」という受賞者は8割近い。科研費などの申請権利を手にできる機会が限られた美術館や博物館所属の若手研究者にとって、同財団の助成は数少ない励みであり、賞が大きな精神的支援も果たしている。今後の研究にむけて、著書の出版や論文の発表機会を目指し、出版援助やメディアへの紹介など、受賞後のステップアップ支援を求める声も多くある。
長く険しい道のりの中で、背中を押してもらったことへの感謝とともに、自分を信じて前へ進んでいく大切さが研究のさらなる前進につながっている。財団の継続的な支援が、これからも優れた研究を引き出し、美術界全体の質を高めていく。

評価ポイント
数少ない美術研究への支援を長年継続しており、若手研究者の育成に貢献している。
美術界を支える多くの人材を顕在化し、研究の質を高め、芸術文化全体の発展に寄与している。

企業プロフィール
団体所在地:東京都港区
創立年:1982年
資本金:68億円
従業員数:5名
主な事業:美術に関する調査研究、出版物の刊行、国際交流の助成援助、美術普及振興など
URL:http://www.kajima-fa.or.jp/
(2020年6月現在)

『メセナアワード2020』掲載(2020 年11 月20 日発行)

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