メセナアワード2023 メセナ大賞受賞

「文化芸術をカラフルに」

里見治紀 一般財団法人セガサミー文化芸術財団 代表理事/セガサミーホールディングス株式会社 代表取締役社長 グループCEO

―企業メセナ大賞の受賞、おめでとうございます。

大変光栄です。セガサミー文化芸術財団は、設立してまだ5年目ですので、驚きと喜びを感じています。

―御社が2019年に文化芸術財団を立ち上げ、メセナ活動に尽力されるようになった経緯から教えていただけますか?

私が創業者から社長を引き継いだ2017年にグループミッション/パーパスとして「感動体験を創造し続ける~社会をもっと元気に、カラフルに。~」を掲げました。我々が展開するエンタテインメントビジネスは人の創造性によって支えられているビジネスです。演劇やオペラ、ダンスなど複製不可能な先端的芸術は、まさにクリエイティブコアです。そのような文化芸術をカラフルにすることは、我々の事業にとっても非常に重要であると考えました。 以前から社会貢献活動は行っていましたが、メセナ活動を本格的に始めたのは2019年に財団を立ち上げてからです。加えて、我々の事業と「時間軸の違い」があることに意義を感じたことも、理由の一つです。

―時間軸の違い、とは?

我々の商品やコンテンツは、立ち上げたらすぐに結果が求められます。それは上場しているため当然なのですが、長い時間をかけて事業を育てる視点や思考が育まれにくい面があり、多少危惧していました。 しかし、結果が見えづらい文化芸術活動は、長い時間軸でしっかり評価をしていくことが必要で、それがまさにサステナビリティだと感じています。我々のようなエンタテインメントビジネスを展開する企業が手がける意義と、そこから得る知見は大きいと考えました。財団を立ち上げたのも、よりじっくり支援できる環境をつくるためです。

―そして翌年2020年、横浜にダンスハウス「Dance Base Yokohama」(通称DaBY=デイビー)を立ち上げられました。数多ある文化芸術の中で、コンテンポラリーダンスへの支援を決められた理由は?

音楽や美術などのメセナ活動には、すでに多くの企業がいます。その末席に加えていただくよりは、決してメジャーではないけれど、高いポテンシャルを持つジャンルを支援するほうが貢献する意義が大きいと考え、コンテンポラリーを中心としたダンスへの支援を決めました。愛知県芸術劇場エグゼクティブプロデューサーであり、DaBYアーティスティックディレクター、当財団の理事の唐津絵理さんとの出会いも大きなきっかけです。表現の場はもちろん、何より「創造の場」が大きく求められていたこともあり、「拠点づくり」を始めました。ダンスのイベントなどに対し精力的に取り組んでいらっしゃる横浜市に拠点をつくることで、地域とのかかわりができ、ダンスが社会につながることができました。

―DaBY立ち上げより4年目を迎えて、どのような手応えを感じていますか。

受賞の評価ポイントにもしていただきましたが、「DaBY」は、誰でもアーティストたちの創作過程をオープンな環境で間近に見学できるユニークな施設です。狙い通り「創作の場が少なかった」クリエイターには質の高い環境とモチベーションを提供できていることを感じます。加えてダンス関連の勉強をされている方や、あるいは施設周辺で働く方やお住いの方にも気軽に訪れていただいているのは、とても喜ばしいです。 予算的にも力をいれている海外ダンスカンパニーの招聘では、学生や子どもたちを招待し鑑賞機会を積極的につくっています。保護者の方を含めて活動への理解が少しずつですが浸透していくのを感じています。また「『DaBY』となら一緒にやりたい」と国内のみならず海外のダンス関係者からも名が知られ始めているのは一つの成果です。

―メセナ活動において、今後のビジョンは?

地道な活動の積み重ねの中で、ダンスのジャンルにおいてきちんと評価がなされ、しっかりと我々の立ち位置を明確にしていくことと、コンテンポラリーダンス自体の価値も高めたい。「民間」ならではの支援や活動そして役割を担えるようにしていきたいですし、その他の領域でも我々ならではのご支援をさせていただきたいです。もっともっと文化芸術をカラフルに彩っていきたいですね。

[聞き手・構成:箱田高樹(カデナクリエイト)]


さとみ・はるき

1979年 東京都出身
2001年 明治学院大学卒業
2001年 国際証券[株](現 三菱UFJモルガン・スタンレー証券[株])入社
2004年 サミー[株]入社
2005年 [株]セガ入社
2005年 SEGA of America, Inc. Director
2012年 UCバークレー大学経営大学院(MBA)卒業
2012年 [株]サミーネットワークス代表取締役社長CEO
2012年 [株]セガネットワークス(現[株]セガ)代表取締役社長CEO
2015年 [株]セガゲームス(現[株]セガ)代表取締役社長CEO
2016年 サミー[株]代表取締役社長COO
2017年 セガサミーホールディングス[株]代表取締役社長COO
2021年 セガサミーホールディングス[株]代表取締役社長グループCEOに就任、現在に至る。

メセナアワード2023 メセナ大賞受賞

一般財団法人セガサミー文化芸術財団
Dance Base Yokohama


活動内容
セガサミー文化芸術財団は、文化・芸術活動の発展への寄与を目的に2019年に設立された。音楽部門、映像部門、舞踊部門などを展開し、舞踊分野では2020年にダンスハウス「DanceBase Yokohama(DaBY)」を横浜・馬車道にオープン。日本の舞台芸術の創作環境の改善を目指し、「ダンスを拓く」をミッションに掲げ、アーティスト、スタッフ、観客に向けた実験的な取り組みを行う。
アーティスト支援としては、プロフェッショナルなクリエイターによるダンス作品の創作やリサーチの場を提供し、活動の成果発表の場としてトライアウト公演を実施する。官民連携を行う愛知県芸術劇場から唐津絵理をアーティスティックディレクターとして迎え、DaBYで創作した作品を愛知県芸術劇場で上演する取り組みを行うほか、さらに全国の劇場やフェスティバルとも連携し作品の再演と発展につなげる仕組みをつくっている。また、若手のサポートを目的に、海外在住の一流ダンサー、音楽家・美術家・研究者など異ジャンルの専門ワークショップ、法律に関するセミナーなども行い、多様な交流機会を創出し、ダンサーの自立を後押ししている。
また、創作プロセスの一般公開や情報発信、劇場にアクセスしにくい人に向けたプログラムも試みる。視覚障がい者をモニターに迎え「ダンス観賞とは何か」を考え、新たな表現の可能性を見出す実践と対話の研究会や、関内駅南口広場を舞台にパフォーマンスや公開クリエイション、過去のアーカイブ映像・書籍展示などの同時多発イベントも開催。公共空間の魅力の発信とともに、ダンス文化への理解や普及に努める。
さらに、世界的な作品の招聘や海外カンパニーとの連携公演など、国際的な交流も拡がる。誰もが垣根なく集えるプラットフォームを築き、業界の改革に挑戦している。

評価ポイント
アーティストの創作活動と多様で実験的なプログラムを通し、ダンス文化の発展に寄与している。
社会に開かれた場をつくり、全国、世界へとダンスにかかわる人々の交流を促進し、業界全体の改革に向けて挑戦している。

団体プロフィール
団体所在地:神奈川県横浜市
設立年:2019年
正味財産:2,462万7,799円
職員数:10名
主な事業:音楽、舞踊の振興・普及
URL:https://www.segasammy.or.jp/
(2023年3月現在)

『メセナアワード2023』掲載(2022年11月28日発行)

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