メセナアワード2012 支援のこころ賞受賞

心をつなぎ、未来に向けた「人づくり」「ものづくり」を

豊田章男 トヨタ自動車株式会社代表取締役社長撮影:若松聖和

豊田章男 トヨタ自動車株式会社 代表取締役社長

ー「メセナアワード2012」での「支援のこころ賞」受賞、おめでとうございます。これまでの社会貢献活動の蓄積やネットワークをいかした点が評価されました。

ありがとうございます。本当にいい名前の賞をいただきました。思えば3月11日、震災が発生した時、当社のメンバーはその日のうちに現地に入りました。情報を充分に収集すること、そして人命第一、次が地域の復旧、そのあとが生産の復旧という順序で考え、行動してきてほしい、私はそういって送り出したのを覚えています。私もすぐにうかがいたかったのですが、実現したのは3月末でした。ちょうど高速道路が一般にも開放された日で、並んで走る他の車を見ると、全国各地から来た車がたくさんの荷物を積んで被災地を目指しているんです。その様子を見て、確かに車は人やものを運ぶ道具かもしれないですが、心も一緒に運んでいるのだなと感じました。そういう話をしている中で、社内から「ココロハコブプロジェクト」が生まれてきました。だから「支援のこころ賞」という受賞名はとてもうれしく感じます。
また本業の再建に際しても、日頃の人とのつながり、ネットワークが非常に大きな力となりました。トヨタの販売店や仕入れ先さんの多くは直営店ではなく、独立資本で現地に二代目、三代目となる経営者さんもいますが、彼らとのネットワークは工場の再建や生産ラインの復旧、販売の再開に重要な役割を果たしました。震災後に、早い復旧ができたのは、こうした仲間の心が一つになったからでしょう。よく人脈をつくろうといいますが、本当の人脈というのは、こういう時に「誰のために/なんのために、なにをやるか」ということに表れてきます。自分たちのためじゃない、他の人の役に立つため、そして自分たちのふるさとを守るために動く、社員は本当にすばらしいことをやってくれたと思います。

ー震災復興は、新しい日本社会をつくるプロセスでもあります。「ものづくり」の精神に通じるかと思うのですが。

復興には長い時間がかかります。人の力、お金の力、発信する力などが必要です。トヨタにはなにができるのか。震災直後から「早く日常を取り戻してほしい」と願っておりましたので、「こういう時こそ、工場の音と匂いと、車が運搬されていく姿を見せてほしい」という声に、とにかく本業を通じて貢献したいと考え、東北を中部、九州に次ぐ国内第三の生産拠点とすべく、トヨタ自動車東日本を設立しました。
そして地域と一体となったものづくりを目指し、トヨタ自動車東日本と関係会社の間では、工業団地とその周辺地域も含めた、総合的なエネルギーマネジメントを行うスマート・コミュニティーにも取り組んでいます。節電に加え、もしもの時は東北電力と協力して、自家発電した電力を融通することも可能です。また、当社が生産するアクアやプリウスのようなハイブリッド車はクルマ自体が発電機であり蓄電設備ともいえます。このように工場というインフラと車という商品を結ぶことによって、今までになかった効用を新しい社会にいかせるのではないかと考えています。

ー今後の社会貢献活動に込める思いをお聞かせください。

自動車は何年かに一度モデルチェンジし、継続的に前進していく産業です。社会貢献も一過性ではなく長期的に考える必要があります。民間企業として本業にしっかり取り組み、税金を納めること、そして地元の雇用や従業員の生活の基盤をつくり、守っていくことが一番の社会貢献だと思います。
また、ただ車をつくるだけではなく、未来に向けた投資としての人材育成も大切です。車づくりは人づくりから始まります。宮城県大衡村に開校したトヨタ東日本学園では将来のものづくりリーダーの育成を目指し、4月に一期生を迎えました。
当社はこうした社会貢献活動を長年行ってきているのですが、長く「陰徳」でやってきました。それも素晴らしいことではありますが、皆様の笑顔につなげたいとの活動ですので、少しずつお話しもしながら、またその先へと活動を進めていくようにしていけたらと思っております。

[聞き手:荻原康子|構成:坂本麻里絵]

取材後記
終始一貫、活力にあふれた口調で語られる中、印象深かったのは、社長が忘れてはいけない日として挙げた2つの日。それは震災のあった3月11日と、トヨタ自動車が品質問題を問われた際、米国下院公聴会に呼ばれた2月24日とのこと。「自分事とし、風化させない」、これは社内にも徹底されているそうです。毎年被災地を訪れており、今年はその2つの日の合間に岩手の小学校などを訪れたと話されました。校舎をなくした小学校が、他の小学校と一緒に一つの場所で授業を行っていました。「車が好きな人?」と聞いてみると、「好き!」「うーん」と答えはさまざま。この子どもたちが日本の将来を担う日がやがてくる。思わず「頑張って!」とエールを送られたそうです。子どもたちの反応を楽しそうに話し、「皆可愛かった」と笑顔で答えられていました。


とよだ・あきお

1956年愛知県生まれ。79年慶応大学法学部卒業。84年トヨタ自動車株式会社入社。Gazoo事業部主査、取締役などを経て、2009年取締役社長に就任。

メセナアワード2012  支援のこころ賞受賞

トヨタ自動車株式会社
ココロハコブプロジェクト~芸術・文化を通した復興支援活動~

活動内容
メセナアワード2012優秀賞:支援のこころ賞トヨタ自動車株式会社2012年3月11日、宮城県南三陸町の総合体育館。東日本大震災犠牲者南三陸町追悼式で、町内5校の小学生135名の歌声が響いた。
この歌は、トヨタ自動車の社会貢献活動「トヨタ・子どもとアーティストの出会い(以下「子ども×アーティスト」)」のワークショップで子どもたちが創作したものだ。
東日本大震災に際し、同社は人やモノだけではなく被災地に「支援の心」を運びたいと考えのもと「ココロハコブプロジェクト」を立上げ、さまざまな支援活動を行っている。芸術・文化を通した復興支援活動ではこれまでのネットワークを活用し、活動の拡充を図るとともに、被災地の負担にならない、本当に必要な支援を心がけてきた。
長年にわたるメセナ活動「トヨタコミュニティコンサート」では、全国のアマチュアオーケストラの「音楽で被災地の皆さんの力になりたい」という声により、13ヶ所の復興支援コンサートが実現。04年から続く「子ども×アーティスト」では、コーディネーター・吉川由美氏が南三陸町でアート活動を行っていたことが縁となった。学校関係者やコーディネーターとの会議を重ね、11月、現地から「追悼式で、子どもたちの歌で町の人たちを元気づけたい」との発案を受けた。大事にしたのは、子どもたち自身の言葉と旋律による曲づくり。「町の人たちや自分たちがこの一年がんばったなあと思うこと」などをテーマに紡ぎ出された言葉が歌になった。
子どもたちの歌声は、被災地の方々のこころに勇気を運んだ。復興への長い道のりの中、同プロジェクトは長期的な継続を目指し、震災2年目の支援活動を進めている。

評価ポイント
震災後の早い段階で活動を開始し、被災地の状況を見極めながら支援に取り組んでいる。
メセナ活動の蓄積をいかし、アーティストやアートNPOとの協働を通じた多様な活動で被災地の方々を勇気づけている。

企業プロフィール (2012年3月現在)
本社所在地:愛知県豊田市
業 種:輸送用機器
設立年:1937年
資本金:3,790億5,000万円
従業員数:69,148名
URL:https://www.toyota.co.jp/

『メセナnote』77号掲載(2013年6月発行)

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