メセナアワード2013 大賞受賞

小さなコマから日本のものづくり精神を世界へ開く

緑川賢司 全日本製造業コマ大戦協会 会長

―メセナ大賞受賞、誠におめでとうございます。コマという遊びを通じて製造業を活性化している点が評価されました。

ありがとうございます。ミナロは、11年前に僕が職人として勤めていた町工場の閉鎖に伴い、リストラされた3人で起業した会社です。木型屋といって車や船の部品などのモックアップをつくるのが仕事ですが、当初、頭を悩ませたのが顧客獲得でした。情報発信のためにホームページをつくり、ブログやツィッター、フェイスブックも活用し、BtoBからBtoCにビジネスを広げた効果で、顧客数は現在300を数えます。しかし町工場は疲弊しやすい。納期はどんどん短くなり、料金はたたかれる。発注されたものしかつくれない下請け体質ではモチベーション維持は困難です。それでも職人は、好きなものをつくるときには眼の色が変わる。町工場の設備と材料を使い、空いた時間に好きなものをつくってもらうことで、お金ではないモチベーションが生まれました。町工場の多くが10年でつぶれるといわれる中、こうしたやり方でミナロは存続しました。これを業界全体で共有したかった。コマ大戦では情報発信とBtoCを実践し、コマを設計図から完成まで自分でつくる。そのコマで職人同士が勝負をする。みんなが一つになれるもの、夢中になれるものとして、手軽につくれるコマは町工場にあっという間に受け入れられました。

―コマ大戦は世代や地域を超えて広がっています。町工場の現場で、どのような変化がありましたか。

ふだん町工場の外に出ることのない職人に光が当たりました。テレビに出て、近所の方から声をかけられたり、子どもから「お父ちゃんかっこいい」といわれる。大会では大勢の観衆の中、ステージ上で対決する。横のつながりも生まれました。試合後の懇親会ではお互いの悩みや技術の話を時間も忘れて語り合い、仲間になる。大阪の“歳近い職人さんや、工業高校の学生さんも参加しますし、子ども向けや老人ホームでの大会を企画するチームも出てきています。本業へのリターンとしてはコマの材料を見て製品加工の注文があったり、昔のお客様が戻ってくることが頻発しているほか、協会のサイトを介したコマの発注で、日本全体で年間1200万円の利益がありました。海外にも波及し、2015年は世界大会を日本で行います。それに先立ち、すでにインドネシア場所、ボリビア場所が始まり、来年はアメリカ、韓国、フィリピン、ドイツ、ロシアなどで開かれる大会に参戦します。コマづくりには、職人のこだわり、日本のものづくりのよさが出ます。世界大会ではその日本の技術を見てもらう。大手に納品して組み立てられた製品ではなく、町工場でつくったものをダイレクトに見せて、何を感じてもらえるかが楽しみです。

―産業構造が変化していく中、今後の展望についてお間かせください。

これからの日本の夢を語れるのは、地域に根ざして従業員の雇用を守っている中小企業のオーナーだと思います。彼らが日本の将来や地域、業界をどうしたいかを真剣に考えれば大きな力を発揮できる。消費増税一つとっても、今は政府や大企業、経団連の意見ばかりが聞こえてくる。政府は中小企業が経済の主役だといい、就労人口の7割を占めます。それなのになぜ、その声が国づくりに反映されないのか?中小は横の連携がないために総意が形成できず、世に問えないのです。僕は今、中小企業家同友会神奈川県支部の政策委員会副委員長を務めていますが、中小企業連合をつくりたいと思っています。中小企業団体サミットを開催し、意見をマスコミに発表する。大手の意見と並べた中から国民が賛同できるものを選び、国の方針とする。そういう社会をつくりたい。コマ大戦はそれに向けたステップの一つですね。今回の受賞でコマ大戦は「文化」として評価されましたが、来年5月高松市で、地域や業界の垣根を飛び越え、日本の優れた文化や環境、産業、教育などを次世代に受け継ぐためのプラットフォームを形成する「ALL JAPAN PROJECT」に参加します。今、子どもたちに将来の夢をきくと「安定」と答えるそうです。それじゃあつまらない。かっこいい経営者が出てくれば子どもたちも大きな夢を持ってくれるだろうと、起業塾も始めたところです。

[聞き手・構成:坂本麻里絵|阿部絵里子|荻原康子]


みどりかわ・けんじ/全日本製造業コマ大戦協会会長

1967年、横浜市生まれ。高校卒業後、木工所勤務を経て起業。現在12期目。(株)ミナロ代表取締役。全日本製造業コマ大戦会会長。心技隊隊長。町工場界の「カリスマブロガー」として、ものづくりをする人達の思いを伝えている。

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