メセナアワード2012 大賞受賞

点から面へ―ネットワーク形成を通じた新たな文化の創出

荻田 伍 アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 CEO

―メセナ大賞受賞、誠におめでとうございます。日本書地のアートNPOをパートナーとし、活動のネットワークにより全国に大きな流れをつくり出されことが評価されました。

ありがとうございます。もともとビールやお酒はその土地に根づいた「食文化」で、芸術文化と近いところにあります。アサヒビールは、日比谷野外音楽堂などでの「アサヒビールコンサート」や民藝運動を積極的に進めた初代社長・山本篤三郎以来、芸術文化支援を行ってきました。そのDNAは社員に脈々と受け継がれ、創業100周年の1989年、未来の文化を創造する芸術文化活動への寄与を目的として現アサヒグループ芸術文化財団を設立しました。ちょうどその頃本社ロビーでロビーコンサートを始め、その後各地の支店や工場へ展開しました。それがやがて、全国的な広がりのある支援を目指し、NPOとの協働による活動につながりました。財団は理念をアサヒビールと共有していますので、継続的にNPO への助成も行い、連携して活動しています。「アサヒ・アート・フェステイバル(以下AAF)」は、われわれより高い専門性を持つ各地のNPOがあってはじめて実現したのですが、一方でNPOのみなさんが活動の継続などの課題を抱えていることを知り、NPO同士がともに話し合う場を用意しました。われわれ企業と財団も一緒に課題解決に取り組むことで、一つひとつの点だった活動が一企業の枠を超えてAAFのネットワークという面の活動になっていったのです。きっかけはアサヒビールですが、皆さんの「思い」が共有された結果だと思います。大きな市民活動の流れをつくり、市民の力により日本の文化政策を牽引するに至ったといえるかもしれません。

―「地域」は事業活動としても重要なキーワードでしょうか。

首都圏と関西の味の感覚が違うように、地域の風土や歴史を理解するのは非常に大切なことです。地域に根ざした事業活動をしていくときに、AAFのネットワークは大きな力になります。芸術文化支援を通して、アサヒビールという企業を知っていただける。同時にビジネスとしても、企業として伝えたいことを地域に知ってもらうことが大切です。メセナ活動を担うスタッフは、地域密着で「もの」をつくって売る社員と比べ、なかなかその成果が見えにくいと思いますが、長年地域とともに活動してきたことで、コンサートや文化発信のために各地で頼っていただけるようになったのはうれしいことです。またAAFに参加した団体が、企業の名前が入ったことで信用度を増し地元自治体の支援につながった例もあると聞いています。こうした地域の信頼に応え続けていくことも企業の使命です。今や企業は、売上がよいだけではすべてのステークホルダーを満足させることはできません。社会にどうやって貢献するかもまた問われているのです。

―東日本大震災時にもAAFのネットワークは逸早く動かれました。

震災に際し、アサヒビールは義援金、物品、人的側面などさまざまな形で支援を行いましたが、AAFではこれまで培ってきた全国のネットワークによる積極的な支援活動が光りました。アサヒグループの社員からは250名ほどが自発的にボランテイアに参加しており、こうした動きを見ると、社員の働き方が変わったと感じます。仕事のうえで地域に尽くし、必要とされるだけでなく、プライベートでも自分のできる貢献を行うようになっています。社員が成長し企業活動を豊かにしてくれるのですから、人の成長が企業の成長であるといえます。

―活動のアーカイブ化や本の出版による情報発信にも取り組まれています。

AAFを通して現在まで200件ほどの活動を応援してきましたが、今後も地域やNPOとともに持続的に成長していくためには、情報の蓄積や分析を通じ、活動を成功させるノウハウやメカニズムの開示が必要です。同時に、企業の社会貢献活動を実りあるものにするにはどうすればいいか、その情報を共有することも有益だと思います。情報の時代である今、アサヒビールがどんな形で地域と芸術文化を支援するかを広く知っていただくことが大事です。われわれのメセナ活動がどのようなインパクトを社会に与えていくか精査しながら、今後も地域のNPOとともに成長していきたいと思います。

[聞き手・構成:坂本麻里絵|倉知千里|若林朋子]


おぎた・ひとし/アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役会長 兼 CEO

1942年、福岡生まれ。九州大学卒業後アサヒビール株式会社入社。九州地区本部長、関信越地区本部長などを経てアサヒ飲料株式会社出向中に副社長・社長を歴任。2006年より4年間、アサヒビール株式会社代表取締役社長を務める。11年7月より現職。

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