メセナアワード2011 メセナ大賞受賞

クリエイティブな活動の集積がまちの価値を変える

芝川能一 千島土地株式会社代表取締役社長

芝川能一 千島土地株式会社 代表取締役社長

―メセナ大賞の受賞、誠におめでとうございます。造船所跡地や空き家をアートの拠点とするなど、文化による地域創造の取り組みが高く評価されました。

ク・ビレ邸1階には、ひと息つけるバー・カウンターがある

ありがとうございます。すばらしいメセナ活動をしておいでの多くの企業と比べ、当社の活動はまだまだ及ばずと思っていましたので、今回このような評価をいただいて正直驚くとともに、今後の励みになると大変うれしく思っています。
北加賀屋は造船業で栄えたまちですが、工場の移転や閉鎖で人口が減り、高齢化が進んでいます。1989年に借地返還された名村造船所大阪工場跡地もその一つで、しばらくは無人管理で灯りもつけず、真っ暗な状態でした。それが2004年に劇場プロデューサーの小原啓渡さんに出会い、その年の9月に開催した「NAMURA ART MEETING」という30年間継続するアートイベントで耳目を集めてからは、〈ナムラ〉のポテンシャルを確信したんです。そこでアートセンターとして恒常的に使えるように整備してきました。大阪では劇場などの拠点が次々と閉じていましたし、安定して長期的に使えるアートのプラットフォームを目指そうと。2005年には「クリエイティブセンター大阪(CCO)」と名付けて、さまざまなアート活動が行われる場として生まれ変わりました。こうして活動を始めたころ、大阪は「創造都市」を掲げて2009年には「水都大阪」を開催すべく準備に着手していました。水の都である大阪を文化の観点から再生したという趣旨で、我々も民間の立場から協力させていただいた。ちょうど2006年視察先の仏ナントで手にしたパンフレットに掲載された、ロワール川に浮かぶ巨大アヒルの作品を思い出して、アーティストと交渉して高さ約10mの黄色いラバー・ダックを制作してもらったんです。水にかかわる作品ですし、CCOでつくって木津川から中之島まで曳航していきました。予想を超える話題となってレプリカも売れ(笑)、今も何かとイベントなどにお声がけいただきます。

ー「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」についてお聞かせください。

ここ北加賀屋エリアで、我々が所有する空き家や工場跡をアーティストやクリエイターの方々にお貸しして、オフィスやギャラリー、レジデンスなどに使っていただいています。築数十年の木造建築で「本当に使えるのだろうか?」と思うような物件が、アーティストの手で見違えるほどにきれいにリノベーションされ、息を吹き返しています。
2009年から始めて現在20軒ほどになりましたが、長屋を改装したインフォメーションセンター〈ク・ビレ邸〉ができてからは、それぞれの施設で今何が行われているかがわかるようになり、このエリア全体で情報を発信することで、アート関係者や若い人たちが訪れるようになりました。さらに、それまであまり接点のなかった地元の方々との交流が生まれたことが大きいですね。千島土地という不動産会社が地域のためになにかをやっているらしい、と伝わるようになってきた、もちろん我々は黒子に徹して、場は提供しますが実践するのはアーティストの方々です。ただ、それぞれの点が面になることで地域の魅力を高め、発信するお手伝いは十分にできるわけです。
今、新しく計画しているのが「おしゃれ農」プロジェクトです。このエリアの空き地で野菜作りを楽しく、おもしろく、美しくやりたい。地域にお住まいの方々と若い人たちと、アーティストが農作業を通じてコミュニケーションを深めていく。水汲みをするのもユニークな手法を考えたり、農機具を通じてデザイン性に優れたものが生まれてくるかもしれません。創造的な活動の集積が〈クリエイティブ・ビレッジ〉ですから。

ーアートがまちにかかわることの意義をどのようにお考えでしょうか。

アートの世界の人たちは同じものを見ても〈見えるもの〉が違うんですね。用途変更のきかない造船所跡地がアートの創造拠点にふさわしいなんて、不動産の発想では決して思いつかなかった。古い空き物件も一転して、地域のコミュニケーション拠点となり、新しい価値を持ったわけです。それがまた、新たな人々を惹きつけます。
今では地元の方や行政とともに地域活性化委員会を組織して、おやじバンドが出演する「すみのえミュージックフェスタ」もCCOで行い、年々盛り上がっています。北加賀屋にお住まいの方々が元気になり、若者が住みたいと思うまちになることが我々の一番の目的です。まもなく財団を設立して、より活動に柔軟性を持たせます。創造的なまちづくりへの挑戦はまだまだこれからです。

[聞き手・構成:山元 愛|萩原康子]


しばかわ・よしかず
1948年生まれ。住友商事を経て80年千島土地入社。2005年社長。大阪土地協会副理事長。クリエイティブオオサカ(大阪創造都市市民会議)発起人。趣味は多岐にわたるが、近年は国内外のアートスペースやアートフェアに足を運ぶことに休日を費やす。

メセナアワード2011 メセナ大賞受賞

千島土地株式会社
「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」~創造的なまちづくりへの挑戦

活動内容
2011メセナ大賞 千島土地株式会社大阪・北加賀屋、かつて造船業で栄えたまちは、1980年代から船舶の大型化などに伴い造船所が次々と移転。大阪湾河口の木津川沿いには、休眠した工場跡が幾つも並ぶ。そのうちの一つ、名村造船所大阪工場跡地をアートスペース「クリエイティブセンター大阪(CCO)」として蘇らせたのが、千島土地である。まもなく株式会社設立100年を迎える不動産賃貸事業者で、大阪を中心に約33万坪もの土地を所有する。北加賀屋エリアで工場が撤退し、住人も減少する中、名村造船所から借地返還された約4万2,000㎡の敷地に残されたドック(船渠)や工場建物をアートの創造の場として提供し、まちの活気を取り戻そうとのねらいだ。
2004年の「NAMURA ART MEETING」を皮切りに、ジャンルを問わず多くのアーティストが集い、広大な空間だからこそ制作可能な作品も生み出されていく。さらに09年からは、CCOの周辺で同社が所有する不動産にアート関係者を誘致し、滞在制作や発表の拠点として活用してもらう「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」を打ち出した。古いアパートや空き家、店舗だった建物を、借主であるアート関係者がリノベーションし、ギャラリーやレジデンス等に使用。長屋を改装したインフォメーションセンター「ク・ビレ邸」等、現在約20軒のアートスペースが点在し、若手アーティストやクリエイターが活動を展開している。
産業が衰退し高齢化が進むまちをアートの力で活性化する。文化による地域創造の好事例ではなかろうか。

企業プロフィール (2011年4月現在)
本社所在地:大阪府大阪市
業 種:土地・建物・航空機の賃貸事業
設立年:1912年
資本金:4,800万円
従業員数:21人
URL:https://www.chishimatochi.com

『メセナnote』71号掲載(2011年11月25日発行)

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