メセナアワード2008 メセナ大賞受賞

美意識をはぐくみ社会を潤す「水」として

佐治信忠 サントリー株式会社代表取締役会長兼代表取締役社長

佐治信忠 サントリー株式会社 代表取締役会長兼代表取締役社長

―メセナ大賞のご受賞、おめでとうございます。
サントリー美術館独自の継続的な活動が高く評価されました。

名誉ある賞をいただき、たいへん光栄に存じます。サントリー美術館は1961年、敗戦からの復興を遂げたわが国が高度経済成長にさしかかろうという時期に開館しました。「モノの豊かさは実現するであろう。これからの社会に必要なのはむしろ心の豊かさだ」との確信の下、「生活の中の美」を基本理念に活動を始めたのです。
日本には美しい四季の彩りに恵まれた風土と、そこで暮らす人々の繊細な感性に培われたオリジナルの美意識があります。そこに焦点を絞り、伝統的な絵画や工芸を身近に親しみ、現代人が忘れがちな優れた美の世界を見直すことを趣旨とした斬新な展覧会を開催してきました。

―2007年に六本木に移転されてから一層アクティプに活動を展開していますね。

東京ミッドタウンに移転・開館するにあたり、新たなミュージアムメッセージとして「美を結ぶ。美をひらく。」を掲げました。たとえば古きものと新しきものを、あるいは洋の東西を結ぶことで、人と美との間に新しいつながりを開いていきたいと考えています。多彩なエデュケーション・プログラムも行っていて、特に子どもたちには、日本の文化のすばらしさを伝えながら、美と触れ合うことの楽しさと感動を知ってもらいたいですね。
六本木には、国立新美術館、森美術館があり、またサントリーホールも近いことから、都心の新たな一大文化ゾーンとして注目を集めています。日本人の美意識を世界に発信する当館への期待も、より大きくなったと心得ています。企業がそれぞれの経営資源をうまく活用して個性的な文化活動を行っていくことこそ、自由闊達な都市文化の形成を可能にするのではないでしょうか。

―御社はほかにも幅広い分野でメセナ活動に取り組んでおられます。
文化振興と経済の関係についてどのようにお考えですか。

サントリーには創業以来、「利益三分主義」という考え方があります。事業で得た利益は、事業の拡大、お客様へのサービスに加えて、社会との共生のために還元しなければならない、というものです。企業は社会によって生かされているわけですから、サントリーにとって文化・社会貢献活動は事業を継続していくために必要な基盤なのです。企業の支援によって文化活動が活性化すれば、多様な美や感動という価値が盛んに創造されていく。そのことが社会に活力を与え、経済にもプラスの影響をもたらすと確信しています。
また弊社は2005年に「水と生きる」をコーポレートメッセージとして打ち出しました。酒類や飲料の製造を事業の核としていますので、なによりも貴重な資源である「水」を大切にする企業でなければならないからです。このメッセージは同時に、「社会を潤す水のような企業でありたい」との志をも表現しています。
当美術館やサントリーホールの運営を通じて、皆さまの心に潤いと豊かさを提供することもまた私どもの使命と考えて、今後も活動してまいります。

[文責:編集部]


さじ・のぶただ

1945年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校経営大学院卒業。1982年取締役に就任後、取締役副社長などを経て、2001年より代表取締役社長、2002年より現職。
日本経済団体連合会常任理事、ビール酒造組合代表理事、日本ワイナリー協会会長や公共広告機構理事長などを務める。趣昧は読書、水泳、ゴルフ。

メセナアワード2008 メセナ大賞受賞

サントリー株式会社
~美を結ぶ。美をひらく。~サントリー美術館の運営と活動

活動内容
サントリー美術館は1961年、同社の創業60周年を記念して、東京・丸の内に開設された。当初より「生活の中の美」を基本理念に掲げ、日本人が生活の中でめでてきた器や調度を収集。現在は国宝・重要文化財12件をはじめ、絵画、漆工、陶磁、金工、染織、ガラスなど多岐にわたるコレクション約3,000件を誇る。
1975年には赤坂見附のサントリービルに移転。「三十六歌仙絵―佐竹本を中心に」「光悦と宗達」など伝統美術の展覧会のほか、サントリーホール創設記念の音楽文化展や「サントリー美術館大賞」展など独自で多様なテーマで、2004年の一時休館までに303回の自主企画展を開催してきた。また館外展にも力を入れ、同館コレクションを通じて日本の伝統美を紹介してきた。
2007年春、六本木の東京ミッドタウンに移転・開館。展示面積を倍増し、茶室やホール、カフェなども併設。新たなミュージアムメッセージ「美を結ぶ。美をひらく。」の下、古今東西の美を結び、多くの人に開いていく場として活動を再開した。話題の展覧会を次々と手がけ、エデュケーションプログラムにも力を入れるなど、よりダイナミックでグローバルな展開で注目を集めている。

サントリー美術館4階展示室サントリー美術館開館記念展「日本を祝う」(2007年)。4階展示室。

サントリー美術館3階展示室サントリー美術館開館記念展Ⅱ「水と生きる」(2007年)。3階展示室。

APANモダン~暮らしを潤す優雅な品々~をコンセフトとするショップ「JAPANモダン~暮らしを潤す優雅な品々~ 」をコンセプトとするショップ。
©木奥恵三

所蔵品の一つ国宝「沃懸地浮線綾螺鋼蒔絵手箱(いかけじふせんりょうらでんまきえてばこ)」所蔵品の一つ 国宝「沃懸地浮線綾螺鋼蒔絵手箱(いかけじふせんりょうらでんまきえてばこ)」(鎌倉時代、13世紀)。

茶室「玄鳥庵」茶室「玄鳥庵」。六本木の高層ビルを借景とした都市の中の静寂な空間。
©木奥恵三

企業プロフィール(2008年3月現在)
本社所在地:大阪府大阪市
業種:食料品
資本金:300億円
設立年:1899年
従業員数:約4.300人
URL:www.suntory.co.jp/sma/

『メセナnote』58号掲載(2008年11月15日発行)

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