メセナ大賞2002 メセナ大賞受賞

音楽界の歴史を刻んだ20年

柴田俊治 朝日放送株式会社 代表取締役会長

―受賞おめでとうございます。率直なご感想はいかがですか。

放送会社と音楽とは、密接な関係にあります。ですから音楽ホールを運営し、クラシック音楽を支援することは本業そのものであるともいえるわけです。その意味で、私たちが文化や芸術を特別に擁護しているのだといきがるつもりはありません。しかし、1982年に大阪にオープンした当ホールが、日本の音楽ホールの先駆け的な存在となったこと、以来息の長い活動をしてきたことを今回評価していただいたのだと思い、嬉しく賞をいただきました。

―長年の活動を通じて印象深い出来事はございますか。

2000年に当社の創立50周年記念事業として迎えた、小澤征爾の指揮によるウィーン・フィルの演奏が大変印象的です。また、ホールの逸話としては〈カラヤン神話〉があります。1984年にカラヤンが指揮した際、サイン帳に“The best hall in the world.”と記したのです。ホールの特長である残響のすばらしさを評した言葉でした。1988年に迎えた際にも当ホール自慢のパイプオルガンを使った曲目を選んでくれまして、関係者一同の嬉しい思い出となっています。さらに、ザ・シンフォニーホールは故・朝比奈隆との深い縁なくしては語れません。大阪フィルの常任指揮者だった朝比奈さんは、当ホールで100回を超えるコンサートを指揮しています。1985年からは年3~ 5回のシリーズ公演を開始し、年末の「第九」は大阪の風物詩ともなりました。朝比奈さんは昨年、93歳で惜しまれつつ他界されましたが、齢とともに若いフアンが増えた不思議な人でした。彼の強烈な個性とパワフルな指揮の中に、若い人たちは一種の父性を見ていたのかもしれません。

―今後はどのような活動をご予定でしょうか。

次世代のスターを育てたいですね。大阪には4つのオーケストラがあり、佐渡裕や金聖響などの若手指揮者もいますが、若い才能を積極的に発掘・支援したいと思います。―方で、受け手の育成も大切です。現在もフアミリーコンサートや小中学・高校生向けの芸術鑑賞会を実施したり、本業と連携してテレビやラジオで音楽番組を放送するなど、クラシック音楽に気軽に親しめる環境づくりに取り組んでいますが、今後もこうした活動に場を提供し、音楽フアンの裾野を広げていくつもりです。

―企業のメセナ活動についてのお考えをお聞かせください。

モノづくりは絶えざる技術革新の恩恵を享受できますが、芸術文化はそうはいきません。恩恵をこうむっている企業がそれのおよばない分野に支援することは社会的必然ではないでしょうか。長びく景気低迷にもかかわらず、地方や中小の企業がみずからにふさわしいかたちでメセナをつづけている現状は、とても健全だと思います。その意味で私たちにはメディアを通じたクラシック音楽の支援という使命が課されています。この度の受賞もそうした期待の表れであると受けとめ、今後の励みにしたいと思っております。

[聞き手:山紘一|取材/執筆:高野香子]


しばた・としはる

1953年京都大学文学部卒業、朝日新聞社入社。1973年ヨーロッパ総局長、1983年大阪本社編集局長、1987年朝日放送取締役総合計画室長。その後報道局長、テレビ本部本部長などを経て、1993年代表取締役専務取締役、1995年代表取締役社長、2002年代表取締役会長に就任。1989年フランス国家功労シュバリエ勲章受章。

 

メセナ大賞2002 メセナ大賞受賞

朝日放送株式会社
ザ・シンフォニーホールの運営と事業活動

活動内容
ザ・シンフォニーホールは、1982年、朝日放送の創立30周年記念事業として、大阪北区の本社隣りに建設された。同社ではそれまでもクラシック音楽の主催公演をおこなっていたが、本格的なコンサートホールがまだ日本になかったことから、当時社長の原清氏の提案により実現されたものである。パイプオルガンを擁した1,704席のコンサートホールの誕生は、後に続く専用ホールの先駆けであり、関西のみならず日本の音楽界に大きな波紋をもたらした。
開設当初より「地元に愛されるホール」をめざし、「グローバルスタンダードとなりうるオーケストラを大切に」との方針を掲げて、関西フィルの定期演奏会の場として活用され、大阪フィルの主催公演も多く開催。後に大阪センチュリーや大阪シンフォニカーも定期演奏会に用いるなど、在阪オーケストラの活動拠点となってきた。自主事業でも関西の演奏団体を起用しており、故・朝比奈隆氏が指揮する大阪フィルには、1985年より年3~5回の公演を依頼、同ホールの性格を特徴づけるシリーズとして定着した。
一方、1999年からは、小中学生・高校生を対象とした芸術鑑賞会を実施したり、学生や子どもたちの見学を受入れるなど、地域の人たちの利用を促している。また放送との連携をはかり、テレビでは、バラエティ番組「クラシック解体新書」や「朝比奈隆のブルックナー」などを制作・放送。ラジオでも毎週日曜日の朝に「ザ・シンフォニーホールアワー」という番組を設けてコンサートの様子を紹介するなど、気軽にクラシック音楽に親しめる番組づくりに取り組んでいる。
内外から一流の音楽家を招いて上質のプログラムを提供するとともに、クラシックファンの拡大にも努める。「100年後に真価が問われる」という同ホールの活動は、ちょうど20年の節目を迎えたところである。

評価ポイント
コンサート専用ホールとして先駆的な存在であり、日本のクラシック音楽界に果たした役割は大きい。
バラエティに富んだプログラムや社業との連携などに工夫が見られる。

企業プロフィール(2002年9月現在)
本社所在地:大阪府大阪市
業 種:一般放送業
創立年:1951年
資本金:18億円
従業員数:766人
URL:https://www.asahi.co.jp/

『メセナnote』23号掲載(2003年1月15日発行)

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