メセナ大賞1998 メセナ大賞受賞

優れた都市設計に応える文化活動

朝倉徳道 朝倉不動産株式会社 代表取締役/朝倉健吾 朝倉不動産株式会社 専務取締役

都市の中の最高の場所をパブリックスペースに

―メセナ大賞受賞おめでとうございます。まずは率直なご感想をお聞かせください。

社長 大変うれしいですね。それと同時にまったく予想していなかったことなので、いささかの驚きも感じております。メセナ大賞のことは存じていましたが、初めての応募でこの賞をいただけるなんて本当に名誉なことです。

―これまで代官山ヒルサイドテラスが、貴社のメセナの精神にもとづいた活動だと知らなかった人も多いのではないでしようか。この受賞を機に貴社の活動への理解が深まればと思います。ところでヒルサイドテラスは現在の姿を想定されて建設された建築群ではないとのことですね。

社長 1967年から構想が始まりまして、建築家の槙文彦さんに設計をすべてお願いしました。依頼してから設計が始まるまでに1年間、設計に1年間、計2年間かけてマスタープランをつくりました。その後、それにしたがって少しずつ形にしてきたのですが、建設が進むうちに毎回、面白い空間ができてきたんです。今思うと、槙さんにとっても気に入った場所だったのでしょう。

専務 最近わかってきたのですが、一番いい場所というのは人に貸すのではなく、パブリックスペースであるべきなんですね。だから槙さんはそこに力を注ぎ、面白い場所にしようと意図して設計された。それをどう使っていくかを私どもが考えていかないといけないと感じています。

―ヒルサイドテラスは構想から8年もたっているとは思えないほど新しい印象を受けますし、落ち着いた雰囲気や整備された街並みなど、大変すばらしい場所ですね。

社長 やはり、はじめの設計が優れていたのでしょう。それをもとに次の建物を設計するという、いい意味での「ハード先行」のまちづくりの典型だと思います。これも槙さんの意図したことかもしれませんね。

地域に密着した活動の充実が目標

―ヒルサイドテラスで展示をおこなった人から、アーティストに大変寛容で自由に活動する場を提供していらっしゃると聞きましたが。

社長 信頼できるアーティストに自由にやっていただきたいと思っています。ただし文化活動がテナントにとってよく思われないこともありますね。たとえば、ヒルサイドテラスでは看板を出さないようにしているのですが、「パブリックアートならいいのか」という意見もありますし……。

専務 15年ほど前、「工事中」というタイトルで建物に廃材をつけていく川俣正さんのパブリックアートを展示したのですが、これはテナントの方々に猛烈に怒られましたね。でも川俣さんにしてみれば怒られるのもひとつの反応というのがあったので、それなりに対応しては、また廃材を増やしていく(笑)。これは新聞や写真週刊誌に取り上げられるなど、かなり話題になりました。そういった意味では、あれはよかったなと思っています。また、こうしたことがあるにもかかわらず、いつも協力していただけるテナントの方々には大変感謝しております。

―その他、30年にわたる活動の中で印象に残っていることなどございますか。

専務 初期の「SDレビュー展」では、私どもも模型を運んで展示したりと大変でした。そんな手づくりの展覧会に、安藤忠雄さんや高松伸さんなども入選されており、多数の著名な建築家の方々にお集まりいただけたのには驚きました。

社長 最近ではクリストが印象に残っています。クリスト夫妻が非常にヒルサイドテラスのフォーラムというスペースを気に入ってくださいました。この場所はアーティストが気に入るようで、訪れたアーティストから「何かやらせてくれ」とよくいわれますよ。

―最後に今後の計画や目標についてお教えください。

社長 ハードの面での計画はほぼ終了していますので、これからはソフト面での充実を図っていきたいと思っています。具体的な事業はまだ決まってはいませんが、もっと地域に密着した活動にしていきたいですね。今は若者が多い街ですが、大人の方や地域の人々にも魅力的な場所にしたいと考えています。

―どうもありがとうございました。

[聞き手:久保田大介|取材構成:丑田滋]


あさくら・とくどう

1931年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。1968年代官山ヒルサイドテラスに着手、1971年朝倉不動産(株)設立、代表取締役に就任、現在に至る。

あさくら・けんご

1941年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1971年朝倉不動産(株)専務取締役に就任、現在に至る。徳道氏の実弟。

メセナ大賞1998 メセナ大賞受賞

朝倉不動産株式会社
代官山ヒルサイドテラスにおける文化活動

活動内容
代官山ヒルサイドテラスは、1967年、朝倉家が代々所有してきた東京・代官山に、集合住居計画として構想された。建築家・槙文彦が中心となって手掛けたこの街区は、「モダニズムと都市建築」、「建築と自然・地形・周辺環境との関係」、「文化のインキュベーターとしての建築」など、その建築を中心に国を越えて語られ、高い評価を受けてきた。また、ヒルサイドフォーラム、ヒルサイドプラザ、ヒルサイドギャラリーなどの豊かなパブリックスペースを活かし、建築・美術・音楽を中心とした文化イベントを開催することで、新しい都市文化の発信に努めてきた。
このスペースを管理・運営する朝倉不動産は朝倉徳道、健吾兄弟が経営している。オーナー自らがこの町に長く住み続けていくために、町に寄せるこだわり、楽しさ、美しさを求めつつ、ゆるやかに開発を進めてきた。その成果は「代官山」のテイストともなって現れている。
代官山ヒルサイドテラスにおける文化イベントの企画には、槙文彦の他、元倉真琴(建築家)、岩橋謹次(アスピ代表)、北川フラム(アートフロントギャラリー代表)の各氏がボランティア的なブレーンとして参画。単独主催イベントとして「代官山アートフェア」、「ヒルサイドプラザコンサート」などを行うほか、共催事業も多数実施している。とりわけ「SDレビュー展」(鹿島出版会編集部主催)は建築・環境・インテリアのドローイングと模型による展覧会で、すでに16回を数え、新進気鋭の建築家の登竜門として高い評価を受けている。
1997年には最初の設計を依頼してから30周年を迎え、ブルガリア現代美術展、アントニオ・ガウディ展、「場所の状態:フランス文化省パブリックアートプロジェクトの記録」日本展など一連の記念文化事業を、各国の大使館や文化人などにより結成された実行委員会との共同で実施した。新しい都市景観・都市設計の提言の時代を経て、ハード面の計画もほぼ終了した現在、積極的なソフト展開を図り始めた代官山ヒルサイドテラスは「アーバンビレッジ」として、いよいよ成熟期を迎えつつある。

代官山ヒルサイドテラス   
代官山ヒルサイドテラス                  アントニオ ガウデイ展

企業プロフィール(1998年6月末現在)
本社所在地:東京都
業種:不動産賃貸・管理
創立年:1971年
資本金:1,000万円
従業員数:14人
URL:http://www.hillsideterrace.com/

『季刊メセナ』冬 35号掲載(1999年1月20日発行)

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