メセナアワード2019 メセナ大賞受賞

地域と企業が一体となって日本の優れた建築文化を遺す

宮下正裕 株式会社竹中工務店 取締役会長

―このたびは「メセナアワード2019」メセナ大賞のご受賞、誠におめでとうございます。御社OBである建築家藤井厚二氏の設計した歴史的建造物「聴竹居」の保存を基軸に、地域の人々の交流による拠点づくりと建築文化から地域文化の創出へ大きく寄与された点が高く評価されました。

ありがとうございます。元々は当社設計部有志が先輩の遺していった「聴竹居」の価値を見出し、その実測調査から始まった活動です。さらに地元である京都府大山崎町の方々と一体となって保存・公開活動を続けてきたことで大きく広がり、創立120周年にあたる2019年に評価いただけたことを大変光栄に思っております。2016年末に一般社団法人聴竹居倶楽部を設立し、「聴竹居」の保存と管理、ガイドに至るまでの運営は、地元の方々を中心とした現地スタッフのご協力で成り立っています。さらに2018年には町内に点在する重要文化財の所有者を中心に「大山崎町重要文化財ネットワーク」が設立されました。地域の人々が歴史ある建物に誇りを持ち、サポーターとして文化的価値を発信するだけでなく、現在では住民が互いに連携し、さまざまなイベントを開催しています。2017年、重要文化財となった「聴竹居」を契機に地域に新たな価値が創出されていることをとてもうれしく思います。

―代々宮大工の流れをくみながら日本の伝統的な建築文化の継承を担いつつ、一方で時代の先を見据えた事業展開をされていらっしゃいます。経営の中でメセナ活動をどのように位置づけていらっしゃいますか?

当社は1610年に宮大工の棟梁として創業し、「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」を経営理念として掲げています。建築は、個人、企業、国家にとって生命、財産を守る器であるとともに、そのもの自体が貴重な財産であり、時代を超える文化遺産として捉えています。古くから脈々と受け継がれてきた日本の建築文化を背負いながら、「建築文化」の発信、振興に努め、次世代を担う人材の育成や地域の発展に貢献していくことも大きな使命だと考えています。そういった私どもの想いの中では、メセナ活動は極めて自然なものであり、いわば「竹中工務店らしい」企業風土に即した活動と捉えて推進しています。

―今後の展開はどのようにお考えですか?

藤井厚二が提唱した木造モダニズム建築「日本の住宅」は、日本の気候風土に合った、いわば日本の住宅の理想形です。現代においても学びが多く繊細な建築は、我々のこだわりとも合致します。まずはこうした古きよきものに宿る普遍的な価値を、今後も発信していきたい。
また昨今「SDGs(持続可能な開発目標)」の重要性が叫ばれています。環境問題や都市の持続可能性などの社会課題の解決が企業に問われる中、地域文化の新たな価値創造は今後も求められるのではないでしょうか。建築物を柱にしたコミュニティの活性化など「聴竹居」の取り組みは一つのよいモデルケースになると考えています。近年、まちづくりにおいて「シビックプライド(住民の地域に対する誇りや愛着)」が重視されていますが、まさに「聴竹居」のような建築がその起点になりうると確信しています。

[聞き手・構成:星久美子]
取材日:2019年10月21日


みやした・まさひろ

1946年6月27日生まれ
1971年6月 東京大学工学部都市工学科卒業
1971年7月 竹中工務店入社 大阪作業所
1972年4月 開発計画本部
1986年4月 開発計画本部課長
2001年3月 開発計画本部本部長
2002年3月 役員補佐
2003年3月 取締役
2007年3月 常務取締役
2010年3月 専務執行役員
2012年3月 取締役執行役員副社長
2013年3月 取締役執行役員社長
2019年3月 取締役会長

 

メセナアワード2019 メセナ大賞受賞

株式会社竹中工務店
木造モダニズム建築「聴竹居」による社会貢献と建築文化発信

活動内容
京都府大山崎町の天王山の麓にある「聴竹居」は、1928 年に建てられた建築家・藤井厚二の自邸である。
同氏は、竹中工務店の設計組織に在籍した後、海外視察で見聞した欧米の様式と日本の気候風土や自然環境を融合させた「環境工学」を研究し、「日本の住宅」の理想形を追求した。それらの研究成果をもとに日本の住宅の近代化を試み、木造モダニズム建築の傑作「聴竹居」に結実させている。
同社と藤井家とのかかわりは、20 年以上前に遡る。貴重な住宅の保存活用のために、2000 年に空き家となった「聴竹居」の実測調査を大阪本店設計部の有志で行い、2008 年には管理体制を整えてウェブサイトを制作、予約制で一般公開を始めた。全国各地から見学者が徐々に訪れ、2013 年には天皇皇后両陛下(当時)が行幸啓された。後世に残していくべき歴史的建造物として、創立120 周年記念事業に位置づけ、2016 年に土地・建物を譲り受けた。2017 年には国の重要文化財に指定され、今では年間来場者が1万人を超えている。
ガイド付き見学対応を担うのは、地元住民で構成された一般社団法人「聴竹居倶楽部」である。日常的に建物の維持管理をしながら、新緑と紅葉の時期には予約なしで見学できるイベント「愛でる会」も開催し、地域全体で保存公開に努めている。また、大山崎町にある千利休の唯一現存する茶室・国宝「妙喜庵・待庵」をはじめ6 つの重要文化財の所有者・管理者が語りあう場「大山崎町重要文化財ネットワーク」も設立され、地域での誇りや愛着も増している。
2018 年は「聴竹居」竣工90 年・藤井厚二生誕130 年の記念に、「聴竹居」展を竹中大工道具館で開催。
これからも、先人の工夫と知恵が息づく住まいを支え、建築文化の発信とともに、人と地域を未来へつないでいく。

評価ポイント
地域主体で歴史的建造物の保存と公開に取り組み、建築文化を発信している。。
建物を通じた人と人との交流を育み、地域に対するシビックプライドを醸成している。

企業プロフィール (2019年3月現在)
本社所在地:大阪府大阪市
創立年:1899 年(創業1610 年)
資本金:500 億円
従業員数:7,500 名(2019 年1 月 現在)
主な事業:建築工事および土木工事に関する請負、設計および監理ほか
URL:https://www.takenaka.co.jp/

『メセナアワード2019』掲載(2019 年11 月20 日発行)

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