メセナアワード2006 庭園文化賞/あなたが選ぶメセナ賞受賞

庭園の維持保全を通して地域の歴史を伝える

真鍋雅彦 富士建設株式会社 代表取締役/財団法人中津万象園保勝会 理事長

―「庭園文化賞」「あなたが選ぶメセナ賞」のダブル受賞、おめでとうございます。ご感想や思い出深い出来事などをお聞かせください。

たいへん名誉なことであり、社員一同とても喜んでおります。特に一般の方からもご支持をいただいての受賞ということで、非常に意気に感じ、これからもがんばろうと気持ちを新たにしております。
先代である私の父が、1970年に中津万象園を買い取ったときには、庭はかなり荒廃していました。復元にあたっては、大阪芸術大学の中根金作先生にご指導いただきながら作業を進めましたが、中でも苦労したのは、琵琶湖を模した八景池の周囲の石組みが全部池の中に落ちてしまっていたのを元通りに組み直したことです。水底をさらって石を拾い上げ、藻や水草を取り除き、地面の葦を刈り取って組み上げました。また、直径15mもある大傘松も、原形をとどめぬほど朽ちてしまっていたのを、5〜6年かけて成形し、元の姿に生き返らせました。そうした努力が実り、1982年には丸亀市の名勝としてオープンすることができたのです。

―先代様は文化に大変理解のある方だったとうかがっております。

「建築は文化なり」が父の口癖でした。30歳のころ、京都大学名誉教授だった田村実造先生に「会社運営は経済だけではない。文化を知らないと寂しいものだ」という言葉をいただいて以来、父は文化や芸術に関する勉強を続けてきました。私はその背中を見て育ちましたが、父は亡くなる少し前、池に架けた邀月橋の上で「自分が死んだらこの庭はどうなるのか」とつぶやいたのです。そのとき、父の遺志とともにこの庭を守り続けていこうと決意しました。

―今や中津万象園は観光名所として地域に貢献していますね。

おかげさまで、丸亀市の観光コースに仲間入りしました。万象園も、そんなに広告・宣伝をしていないのに、開園以来大勢のお客様に足を運んでいただいています。庭と同時に美術館も楽しめる点が人気をいただいているようです。丸亀市には丸亀城もありますが、城と庭園のあるまちは四国にそうありません。ですから、今後はそうした他の市と連携して、情報交換や共同ツアーなどを企画していきたいですね。また、子どもたちに万象園や丸亀市の成り立ちを教えるための教育ツールをつくりたいと思い、現在、脚本づくりを進めています。これを基にアニメーションなどをつくれればと思っています。丸亀市民の方々自身が意外に自分のまちを知らなかったりしますので、教育機関と組んで、小学校の低学年から丸亀や四国の歴史を教えていくことが必要です。そして、こうした計画に賛同する企業を募り、何十社、何百社が一丸となって地域の文化を支えていく仕組みをつくっていきたい。万象園の維持保全を通して文化を伝えていくことが、企業としての地域への恩返しだと思います。
建設業界は、ご存じの通りバブル崩壊後苦境に立ち、当社も経済団体から「文化で飯は食べられん」と言われたこともありました。しかし、衣食住という人間の生活に欠かせないものにこそ文化は宿ります。建設に携わる者として、住まいの中に文化や芸術を取り込んでいくような建物をつくっていくことが、現在の私の夢です。

[聞き手:角山紘一|取材執筆:高野香子]


まなべ・まさひこ

1947年香川県三豊市生まれ。1969年日本大学生産工学部卒業。1992年富士建設株式会社代表取締役に就任。
1998年財団法人中津万象園保勝会を設立、理事長に就任。
そのほか、1995年より観音寺法人会詫間支部長および丸亀商工会議所常議員を務める

メセナアワード2006 庭園文化賞受賞

富士建設株式会社/財団法人中津万象園保勝会

活動内容
元禄元年(1688年)、丸亀藩二代目藩主の京極高豊侯により築庭された「中津万象園」。長い歴史のなかで荒廃していたこの庭園を富士建設が買い取ったのは1970年のことである。以降12年の歳月を掛け、社員一丸となって庭園の復元にあたってきた。
1万5000坪の園内に立ち並ぶ1000本の老松を活かし、さらに5000本の樹木を植栽。京極家先祖の地である近江の琵琶湖を模った八景池の石組みを組み直し、そこに点在する島々を橋で結んだ。二亭ある茶室を江戸当時の姿に修復し、樹齢630余年ともいわれる「大傘松」を整えるなど、回遊式大名庭園の往時の面影を取り戻していった。
それとともに庭園を散策しつつ美術にも親しむ場にしようと「丸亀美術館」を併設、バルビゾン派絵画と日本画を展示する「絵画館」はじめ、「陶器館」、「ひいな館」が園内に配されて82年の一般公開を迎えた。以来、「中津万象園」は丸亀市の観光スポットとして紹介され、多くの観光客が訪れる場となった。
さらに98年には、安定した運営を目指して中津万象園保勝会を設立。社業を活かした取り組みで、地域文化の発展に大きく貢献してきた。

「中津万象園」八景池にかかる邀月橋

企業/財団データ(2006年4月現在)
所在地:香川県三豊市
業種:建設/財団
設立年:1952年/1998年
資本金:8,200万円/正味財産:5,500万円
従業員/職員数:72人/10人
URL:www.fujikensetsu.jp/

『メセナnote』47号掲載(2007年1月15日発行)

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