吉本光宏(企業メセナ協議会理事/ニッセイ基礎研究所研究理事)

「オリンピックと文化プログラムについて」レポート


■レクチャー:(公社)企業メセナ協議会理事/(株)ニッセイ基礎研究所研究理事 吉本光宏氏
■2014年11月10日
■会場:DNP銀座ビル会議室

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、「文化プログラム」が実施されることが決まっています。現在の東京都の取り組みと今後の展望はどのようなものでしょうか?そして、企業メセナはどのような役割を果たしていくのでしょうか? 2012年に開催されたロンドン大会を参照しながら、協議会理事の吉本光宏氏が語ってくださいました。

1. オリンピックの文化プログラムとは

吉本氏は、「オリンピックは文化にとっても非常に大きなチャンス」とおっしゃったうえで、そもそも「オリンピックの文化プログラムとはなにか」について説明されました。

オリンピック憲章の根本原則第1には「スポーツを文化、教育と融合させ、生き方の創造を探求する」と明記されています。オリンピック・パラリンピックは「スポーツの祭典」と考えられがちですが、実はオリンピズムは「人生哲学」要するに「人間の祭典」であるので、スポーツだけではなく文化が非常に重要だということになります。オリンピック村の開村期間中に文化プログラムを実施することも明記されています。教育についても、東京都の教育庁のなかでオリンピック・パラリンピックと教育プログラムの検討会が始まっています。
また、文化プログラムは100年以上前から行われています。1896年のアテネ大会から1908年のロンドンまでは実施されませんでしたが、1912年のストックホルム大会から「芸術競技」というかたちで文化プログラムが始まりました。競技というからには実際に競いあって、絵画・彫刻・音楽・建築・詩歌(文学)など全5部門でメダルの授与がありました。1948年のロンドンまでそういうかたちだったのですが、1952年のヘルシンキ大会からは、芸術を競いあうということではなく、芸術展示に切りかわっています。
1964年、つまり前回の東京大会でも芸術展示が行われました。実はそれまでは芸術作品はすべてスポーツモチーフ(「走者」「円盤投げ」など)でした。東京大会ではスポーツモチーフをやめて、「日本最高の芸術作品を展示する」というコンセプトで文化プログラムを行いました。芸術部門4種目、芸能部門6種目でさまざまな公演や展示が行われました。特に「日本古美術展」が東京国立博物館で行われ、『鳥獣人物戯画』や『平家物語絵巻』など国宝級の作品が展示され40万人が来場しました。

ほかに、東京五輪で世界的に話題になったのが「デザイン」です。亀倉雄策さんのポスターのデザインも話題になり、いまでは当たり前になったピクトグラムというサインも初めて開発されました。五輪の5つの輪のプロポーション、そして日の丸のプロポーションが正式に決まったのも東京大会だと言われています。それくらいこの東京大会は重要でした。
その後1992年のバルセロナでは、ソウル大会終了直後からさらに多様な文化プログラムが行われるようになり、2012年のロンドン大会ではかつてない規模でさまざまなものが行われました。


2. ロンドン大会の文化プログラム

では、具体的にロンドン大会ではどのような文化プログラムが、どのようにして運営され、実施されたのでしょうか。
文化プログラムは、前のオリンピックが終わったときから、当該開催都市のオリンピックにわたる4年間の「カルチュラル・オリンピアード(Cultural Olympiad)」といわれる期間に実施されます。この期間中に、ロンドン大会ではロンドンだけでなくイギリス全土で実に18万件のプログラムが実施されたのです。
こうした大規模なロンドン大会の文化プログラムを、運営(予算・スポンサー・組織体制)の側面からご説明いただくとともに、吉本氏が現地で視察された文化プログラムも含め、その様子をご紹介いただきました。

① 概要
北京オリンピックが終わった2008年の9月から「カルチュラル・オリンピアード(Cultural Olympiad)」という4年間のプログラムが始まりました。競技大会が7月の下旬からで、それに先駆ける4週間前からフェスティバル(London 2012 Festival)が12週間にわたって開催されました。つまり4年間のフィナーレとしてこの12週間の大規模なフェスティバルが行われたわけです。
テーマ(ビジョン)として掲げられていたのは ”Once in a lifetime” =「一生に一度きりの経験を文化でしてもらおう」。オリンピック全体のテーマが「インスパイア」で、特に若い人たちにいろんなことに刺激を受け吸収してもらおうということでした。文化プログラムでもイギリスの誰もが「ロンドン2012」に参加できるチャンスを提供し、文化に共通する創造性をとりわけ若者たちに喚起させるということになっていました。
文化プログラムの内容は、音楽、演劇、ダンス、美術、文学、映画、ファッション等幅広く、さらに重要なのはアスリートと同じ204の国と地域から4万464名のアーティストが参加していること。つまりイギリスの芸術を海外にアピールすることだけを行ったわけではないのです。そこには若いアーティスト(6,160名)もいれば障害のあるアーティスト(806名)も含まれています。イベント総数は4年間で約18万件、新しい作品も5,000作品以上生まれました。ロンドンだけではなくてイギリス全土、しかも歴史的建造物、広場、自然環境、浜辺など、中小都市も含め1,000か所以上でプログラムが行われました。自宅の郵便番号と、芸術分野(たとえば「音楽」)を入れると家の近くで何が行われているのかが調べられる専用サイトも立ち上げられていました。4年間で4,340万人(うち無料イベント:3,980万人、ロンドン以外:2,580万人)の人が参加したといわれています。

*ロンドン大会データ1
■会期
Cultural Olympiad:2008年9月-(4年間)
London 2012 Festival:6月21日-9月9日(12週間)
London 2012 FestivalはCultural Olympiadのフィナーレ
Olympics:7月17日-8月12日、Paralympics:8月29日-9月9日

■テーマ・ビジョン
英国の誰もがロンドン2012 に参加するチャンスを提供し、あらゆる文化に共通する創造性を、とりわけ若者たちに、喚起させること
Once in a Lifetime(一生に一度きり)

■参加アーティスト
アスリートと同じ204の国と地域から4万464名が参加
London 2012 Festivalには、2万5,000名
新進アーティスト6,160名、障がいのあるアーティスト806名
音楽、演劇、ダンス、美術、文学、映画、ファッション等

■イベント総数
17万7,717件
London 2012 Festival 33,631件

■新作委嘱
5,370作品
London 2012 Festival 2,127作品

■会場
英国全土1,000箇所以上で開催(地方小都市、町村含む)
文化施設+歴史的建造物、公園、通り、広場、自然環境、浜辺など
会期中は郵便番号、芸術分野でイベントを検索可能

■参加者数
4,340万人(うち無料イベント:3,980万人、ロンドン以外:2,580万人)

② 予算・スポンサー・組織体制
組織体制としては、オリンピックの組織委員会が主催で、それにロンドン市、アーツカウンシル・イングランド(イギリスの文化庁に相当)が協働する体制です。文化プログラムには、組織委員会の主催とロンドン市の主催によるものがありました。
組織委員会の中にあってプログラムの内容を最終的に決定するのが、オリンピック文化プログラム理事会(Cultural Olympiad Board)で、理事長はTony Hall氏(英国ロイヤルオペラ理事長、元BBC)。アーツカウンシルの理事長がAlain Davey氏。ロンドン市の副市長で文化担当がMunira Miruza氏というように、組織委員会のボードの中に三つの機関の代表がいて、合同で責任をとれるようになっていました。チームの一員であるRuth McKenzie氏がフェスティバルのディレクターで、ほかに5名のキュレーター、60名からなるフェスティバルチームが組織されましたが、それだけでは約18万件のイベントを運営しきれません。実際には、各地の約600の文化施設や芸術機関等が事業のパートナーとなり、具体的な事業の運営を行いました。例えばロンドンでは、ロイヤルオペラハウス、英国王立建築院、ロイヤルアカデミーオブアーツなど著名な文化施設・文化機関が含まれています。そして、全国展開で重要な役割を担ったのが、全英13地域に配置されたCreative Programmerという専門スタッフでした。
スポンサーについては、さまざまな枠組みとランクがあります。メインスポンサーの英国石油と英国テレコムはIOCのパートナーとしては一番ハイレベルの国際パートナーではなく、その次のローカルパートナーであり、BMWも同様です。パートナーには4ランクあり、ユーロスターとフレッシュフィールドはさらにワンランク下になります。パナソニックとサムスンはワールドワイドのスポンサーです。実際の準備から開催までには紆余曲折があったそうです。実施後発表されたレポートのタイトルは” Square pegs and round holes”(丸い穴に四角い杭を打ち込む)。それほどこの文化プログラムは大変だったそうです。2008年にカルチュラル・オリンピアードをスタートして参加型プログラムを中心にさまざまなプログラムが行われましたが、理事会は2010年になってやっとできたのです。それまで全国各地で多数の文化プログラムが立ち上がってきて、全体のディレクションが不明瞭になり、玉石混交のプログラムになってきたということで理事会ができ、ルース・マッケンジーさんがディレクターに就任したという経緯です。ルースさんが来日されたとき、「とにかく早くディレクターを決めることをアドバイスします」とおっしゃっていたそうです。

 

*ロンドン大会データ2
■総予算
1億2,662万ポンド(約220億円)
拠出の内訳:組織委員会(58億円)/ アーツカウンシル・イングランド(62億円)/ レガシートラストUK(宝くじ基金から)(61億円)/ ロンドン市(8億円)
/ 共同資金提供者(Co-funding)(28億円)

■スポンサー
メインスポンサー:英国石油(BP)、英国テレコム(BT)、
サポーター・スポンサー:BMW、ユーロスター、フレッシュフィールズ、
パナソニック、サムスン

■組織体制
組織委員会、ロンドン市、アーツカウンシル・イングランド
オリンピック文化プログラム理事会(Cultural Olympiad Board)
理事長:Tony Hall(英国ロイヤルオペラ理事長、元BBC)
Director(Ruth Mackenzie)、Curator(5名)、Festival team(60名)、
Creative Programmer(全英13地域)
事業パートナー(600団体・機関)

③ 「ロンドン2012フェスティバル」の6つの特徴とプログラムの紹介
ここで、吉本氏が実際にイギリスで視察されたプログラムも含め、フェスティバルの具体例をご紹介いただきました。

(1)ART IN UNUSUAL PLACES|あり得ない場所でのアートプロジェクト
劇場や美術館はもちろん、町中や海岸などで開催するもの。たとえば、テムズ川の観覧車でダンスパフォーマンス/ロンドン市庁舎でダンスなど。
 The World in London
 All the bells london olympic welcoming(国内のあらゆる鐘を出来るだけ速く、出来るだけ大きく、3分間鳴らせ!) http://www.telegraph.co.uk/sport/olympics/london-2012-festival/9431580/London-2012-Martin-Creeds-Work-No.-1197-All-the-Bells-St-John-at-Hackney.html
 Peace camp

(2)FREE|無料イベント
催し物の過半、7~8割は無料だった。オリンピック競技のチケットは決して安いものではなく、競技をライブで観られるひとは非常に限られている。そこで無料の文化イベントを全国で展開して、イギリスの人みんながオリンピックに参加しているという状況をつくりだした。文化政策的な狙いとしては、低所得の方々にも文化に触れてのちのち文化の鑑賞者になってほしいということがあった。

(3) OLMPIC & PARALYMPIC THEMES
オリンピック・パラリンピックのテーマに基づいた作品。Unlimited 障がい者の方に向けたプログラム。
 The Big Dance
http://www.telegraph.co.uk/culture/cultural-olympiad/9395962/London-2012-The-Big-Dance.html
 Creating the Spectacle!
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-17255235
https://vimeo.com/46485171
 Candoco http://www.candoco.co.uk/

(4) ARTISTS WHO CHANGED THE WORLD|世界を変えたアーティストたち
 World Shakespeare Festival
37か国から劇団を招いて37か国語でシェイクスピアを上演。
 オノ・ヨーコの作品展示:
Wish Trees http://imaginepeacetower.com/yoko-onos-wish-trees
White Chess Set  https://youtu.be/DAIGhflQU-A
 ピナ・バウシュの全作品をサドラーズウェーズで上演。
 フィリップグラス「浜辺のアインシュタイン」再演。
 Damien Hirst:テートモダンで大規模な回顧展。
http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/exhibition/damien-hirst
 Olafur Eliasson :テートモダンでのプロジェクト。 Little Sun, Tate black out
http://www.tate.org.uk/whats-on/tate-modern/exhibition/olafur-eliasson-little-sun

(5)COMMISSIONS AND PREMIERES|新作委嘱と世界初演
 シュトックハウゼンのオペラ作品リヒト7部作『水曜日の光』
http://www.birminghamopera.org.uk/
https://youtu.be/pGsw0HyA4OY

(6) POP UP|前触れなく出現する文化イベント
 Piccadilly Circus Circus https://youtu.be/ljQrwwS7LWA
1945年 以来初めて道路を閉鎖して一日中サーカスが行われた。
 Art Drive!
 HATWALK

また、ロンドン東側に建設されたオリンピックパークにもパブリックアートが設置されました。
中でもメインスタジアムとオリンピックプールの間にそびえる独特の形をした赤いタワーArcelorMittal Orbit(アルセロールミッタル軌道)はアニッシュ・カプーアの彫刻作品です。この建設費は約30億で9割近くは鉄鋼会社であるアルセロールミッタルが寄付したのでその名前がついています。http://arcelormittalorbit.com/
同じくオリンピックパークに設置された作品として、Winning wordsと題した詩のプロジェクトがあります。英国詩人の巨匠 Carol Ann Duffy を含む5人の詩人の5編の詩が永久設置されたものです。その中の一つ、Alfred Lord Tennyson のUlysses という詩は、最後の一行「To strive, to seek, to find, and not to yield(努力し、追い求め、探求し、そして諦めない)」が選考委員会で選ばれ、選手村の石碑に大きく刻まれました。

 Winning words
http://www.telegraph.co.uk/culture/books/9429766/London-2012-Olympic-poetry-winning-words.html

3. 2020年東京オリンピック|文化プログラムの実現に向けて

●東京の状況
それでは、東京オリンピックでは、文化プログラムはどのように実施されていくのでしょうか。
吉本氏は、まず東京都がオリンピック・パラリンピック招致にあたってどのような提案をIOCに行ったのか、そこで文化プログラムはどのような内容であったかに触れられました。
まず、オリンピック・パラリンピック招致にあたっては「立候補ファイル」というものがあり、文化プログラムはこの中で提案されたそうです。IOCからの質問に答えていくかたちで、東京芸術文化評議会というところで議論を重ねたものが反映されています。以下のように要約いただきました。

・日本文化は極めて豊かで刺激的である。何百年という伝統に深く根ざし、現代のトレンドの発信源として若者に影響を及ぼしている。
・開催時期が決定したらすぐに文化プログラムを開始。アスリートと同規模のクリエーターが世界中から集い、大会期間中にピークを迎える。
・「東京文化発信プロジェクト」をさらに発展させ、すべての市民にオリンピズムのメッセージを伝えていく。
・ 大会期間中は都市が劇場となる。「TOKYO2020フェスティバル・オブ・アーツ・アンド・カルチャー」の開催。未来(あした)をつかむことを目指した、世界の若手芸術家の対話。
・2012年ロンドン大会の「アンリミテッド」プロジェクトの成功を継承。

「立候補ファイル」にはこうした内容が盛り込まれました。海外のメディアからも「オリンピック招致にあたり文化プログラムの力は大きかったか」と質問を受けるなど関心を寄せられているそうですが、まさにその通りだといえるでしょう。
今の状況(2014年11月現在)ですが、舛添要一氏が2014年2月に東京都知事に就任後、芸術文化評議会の新しいメンバーが何人か加わりました。この評議会は創立以来福原義春氏(資生堂名誉会長)が会長です。評議会の下に、新しく文化プログラム検討議会が立ち上がり、この部会長を吉本氏が務められ、メンバーには副部会長としてメセ協理事の片山正夫氏([公財]セゾン文化財団)、同じく副会長として監事の太下義之氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 芸術・文化政策センター主席研究員)。6月(2014年)にそれぞれ開催しており、内容はHPでも公表されています。
文化庁のほうも「文化芸術の振興のための基本的な方針」を文化審議会の文化政策部会で検討しています。メンバーに加藤種男専務理事、太下義之氏、大林組会長の大林剛郎氏、吉本氏が委員に入っています。来年度以降の5年間の文化政策がメインですが、そのなかにオリンピックの文化プログラムが入っています。

次に、東京での文化プログラムについて吉本氏がされた示唆や具体的なご提案をご紹介いたします。


●文化プログラム3つの提案
まず、文化プログラムを行うには目的を明確にさせる必要があるという示唆がありました。ただイベントをやって終わってしまってはいけない。そこで目的を「2020年までに、『日本は文化の国である』ことの再発見とそれを国際的にアピールする機会にする」というアイディアに基づき、文化庁に提案している試案についてご説明いただきました。

まずは、日本の文化の多様性、混在性です。特に東京が際立っていますが、日本には多くの伝統的な文化、歌舞伎や能などがあり、西洋の現代的なものあり、アニメやオタク文化ありで、それらが混然一体となっています。これだけ多様性のある文化が混在している、ある意味混沌としている国は他に類を見ません。そこがアピールポイントになるということです。メセ協も進めている「文化による地域創造」は全国で展開されており、世界にアピールすることが重要になってきます。
そのうえで、第一にこれからの文化を振興することについて、東京/日本は国際的な貢献をするべきではないかということ。東京には世界中から多くのアート作品やアーティストが招かれてやってきていますが、では東京発でどれだけ新しい芸術作品が生み出されているでしょうか。日本のアーティストはすばらしいし世界中で活躍していますが、それを東京が生み出せているのかというと多いとはいえない状況です。その延長線上で考えたときに、高齢社会に突入している日本で、文化やスポーツに支えられた新たな社会モデルを提示できないかということを示唆いただきました。

これについて、具体案を3つお示しいただきました。

まず一つ目は「アートサイト日本2020」です。2020年東京五輪を東京だけのものに終わらせないためにはどうすればいいか。「without Tokyo」という加藤専務理事の言葉がキーワードになりますが、全国各地の文化的なリソース2,020件(各都道府県約40件ほど)を選出し、日本文化の多様性とポテンシャルを世界にアピールするというアイディアです。どんな文化を選ぶのかは各地域にまかせ、幅広く「ゆるキャラ」とか「B級グルメ」なども含めてわが町の世界に誇れる文化は何かを挙げてもらい、その専用サイトをつくるアイディアです。これを4年間のカルチュラル・オリンピアードに合わせて準備をしていく。
イギリスのラフガイド社という旅行ガイドブック大手のWEBサイトで”Things not miss” の日本編では6番目に直島がきています。京都、スキー、築地、札幌雪祭り、奈良そして直島という順番で、要するに文化的なものがいっぱい入っているそうです。それも参照に「アートサイト日本2020」の専用サイトを立ち上げ、いってみれば日本文化ミシュラン的なものをつくるイメージです。ブリヂストンがオリンピックのスポンサーになったので、「日本文化ブリヂストン」としてブリヂストンにスポンサーしてもらえないか。ポイントとして、200以上の国と地域から訪問があるはずですから、全ての言語に対応させることが重要です。まさに「おもてなし」です。これを五輪の間につくりあげて五輪後も残してレガシーとして更新していくというものです。
「Without Tokyo」にからみ、「最近地方都市が元気です。」ということで、ある映像を見せてくださいました。吉本氏の故郷、徳島県のPR映像「vs.東京」です。

【vs.東京】
https://youtu.be/JN-bmtN9OjA
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[「vs.東京」概要]
鮮やかな映像と、温かく豊かな声色の徳島弁で「“ジャパンブルー”とよばれた阿波藍」「400年からの歴史がある阿波踊り」どちらも世界一、とうたったあとで、「徳島はあまり知られていない・・・子どもの数は減るし年寄りは増えるし、結局田舎の県はどこも同じことで困っている」。けれども、と徳島の値打ちを粘り強く伝え、最後は「徳島が日本の都道府県で初めて東京の価値観を変えてみせる。徳島は変わり東京を変える。東京が変わったら日本が変わり、もっと豊かな日本になるんちゃう。東京がどないしたん。・・・徳島が東京を救ったるわ」という言葉と、日本では徳島で初めて全曲が演奏されたベートーヴェンの第九で締めくくられる。
—–
「この映像で、故郷を誇りに思う気持ちが沸き起こりました。」という吉本氏。この映像は徳島県神山町にサテライトオフィスを持つ映像作家の菱川勢一氏がつくられました。東京五輪のときに全国の都市がどれだけ元気になれるかがオリンピック全体にとっての大きな課題。日本全国の良さを伝えるPR映像を各地が持つといいのではないかとのご提案がありました。

実は文化プログラムを全国展開するための素地はいろいろすでに日本にあります。アートプロジェクトが全国で展開しており各地の企業が支援しています。
国際芸術祭のトリエンナーレ、ビエンナーレが全国各地で展開され、都市型だけでなく里山型などもあちこちにあります。今年8月には「三陸国際芸術祭2014」が開催されました。ここでは金津流獅子躍という岩手県南から宮城県北に広く伝わる伝統芸能の群舞があり、それはすばらしいものとなったそうです。同時に韓国とインドネシアからも伝統舞踊を招いて上演してもらっています。芸術祭は現代的なものと思われがちですが、伝統も芸術として大切にできると吉本氏は考えています。


「三陸国際芸術祭2014」

●文化プログラム3つの提案(続き)

2つ目は「クリエイティブ・フロント東京/日本」。東京や日本から新しい芸術の未来をつくっていく。国内外のアーティストに東京がプロポーザルを求め、やってみたい夢を東京に寄せてもらい、そこから作品を選ぶ。アーティストの夢が実現できる都市東京、世界の芸術を牽引する国日本をぜひ実現したい。これも全国展開できる可能性が十分にあるとのこと。アーティスト・イン・レジデンスが全国あちこちで行われています。国際交流基金のパンフレットによると全国50か所ほどで行われている。小さいものも含めるともっとあると思います。世界中のアーティストに前もって日本に来てもらって全国各地のレジデンスに滞在して作品をつくってもらうというものです。

3つ目は「日本人はみなアーティスト」。実は多くの日本人が日常的にアート活動に取り組んでいます。2012年ロンドン五輪の文化プログラムの一環としてWorld Cities Culture Summitがロンドンで行われ、東京、パリ、ニューヨーク、ベルリンなど世界主要12都市の文化的特性の国際比較を行ったそうです。ロンドン五輪を期に都市政策における文化の重要性をアピールする狙いがありました。そこでもっとも驚かれた東京の数字は、「一般家庭のピアノの保有数83万台」だったそうです。それくらい日本人はピアノを演奏しているということ。これはほかの国にはない数字なので国際比較はできませんでしたが、アマチュアのダンススクール748件、これは比較ができて世界一。お茶やお花を日常的に楽しんでいる市民の数46万人。新聞の発行部数は540万部で主要紙には俳句コーナーがある。日本人は芸術を鑑賞するだけではなく、プロ顔負けの芸術活動を日々営んでいる、ということを世界にアピールできる。それが成熟社会の新しいモデルになるということです。

さらに吉本氏は「東京にピアノが83万台あるということは、学校や病院もふくめ全国に1,000万台あるでしょう。開会式でロンドンでは鐘を鳴らしましたが、日本では開会式に合わせて1,000万台のピアノを鳴らす。それこそ都響の大野和士の指揮で仲道郁代さんに合わせてみんなが弾くということができたら面白いですね。そして第九です。日本ほど第九を演奏する国はないでしょう。2020年はベートーヴェンの生誕250年なので、250万人でパラリンピックの閉会式で第九を歌う」というアイディアにも触れられました。

そして「盆踊り」です。なくなってしまった昔の盆踊りを、いま、アーティストが復活させたり新しい盆踊りをつくったりしているので、それを披露するというものです。お盆はオリンピックとパラリンピックのインターバルにあるのでそこで全国で展開できるというわけです。

こうしたことを実施することで、UNLIMITEDといったときに東京では高齢者、障がい者を含め、みんなが文化を楽しんでいる姿を世界にアピールすることになります。文化もスポーツもあわせて高齢社会を支えている、年をとっても元気で楽しく人生を謳歌している国がここにあるということを発信できるという吉本氏のお考えが大変印象的でした。

「東京五輪はイベントをするのが目的なのではなく、文化が本当に生活のなかに根づき、高齢社会を支える重要な要素となるといいと思っています。」

●課題
東京都と文化庁は文化プロジェクト検討を始めていますが、肝心の組織委員会がまだ検討を始めていません。全国の都道府県や市町村に2020年にこういうことをやりたいという案が出てきているがそれを提案する先がないわけです。芸術団体・アーティスト・NPOなども考えていると思いますが同じ状況です。
ロンドン五輪では2010年に組織委員会のなかにカルチュラルオリンピアードボードができましたが、できるだけ早く委員会を立ち上げるということもあります。
そして予算の220億円をどうやって工面していくのか。スポンサー企業として、文化プログラムに対して資金提供する企業の開拓の必要があります。

もうひとつ文化庁に提案しているアイディアとして、文化庁を文化省にするべきだということです。そういう意見はたくさん出ていますが、なかなか実現に向けた具体的な動きにはなっていない。しかしこの機会を逃したらもう創設のチャンスはありません。本当は文化省といいたいところですが、それでは弱いということならば、スポーツや、相性のよい健康・環境・食文化・デザイン・創造産業を取り込んでいくのがいいと思います。省庁の壁を超えるということも考えると、スポーツ・文化・食文化省ができると面白いですね。そういうのも含めて東京五輪のレガシーとできればいい。東京五輪はイベントをするのが目的なのではなく、文化が本当に生活のなかに根づき、高齢社会を支える重要な要素となるといいと思っています。
*2014年11月現在の状況

●オリンピックはスポーツとアートのマリア―ジュ
最後にご紹介いただいたのが、ピエール・クーベルタンの言葉でした。
「“The Olympics is the wedding of sport and art” オリンピックはスポーツとアートのマリア―ジュです。」
そして、「2020年にぜひスポーツだけではない文化の祭典を実現できたらいいなと思います。そのためにメセ協でも『2021 Arts Fund』も立ち上げているし、会員企業さんもいろいろ計画されていると思うので、そのご参考にしていただければ幸いです。」という言葉で締めくくられました。

参照:
「基礎研レポート」文化の祭典、ロンドンオリンピック 東京オリンピック 2020 に向けて 社会研究部門 主席研究員 吉本 光宏
http://www.nli-research.co.jp/report/nlri_report/2012/report120905.pdf
「2020年オリンピック・パラリンピックに文化の祭典を~新たな成熟先進国のモデルを世界に提示するために」
http://nettam.jp/course/tokyo2020/1/
「三陸国際芸術祭2014」
https://sanfes.com/

(2015年6月16日2015

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