株式会社電通/公益財団法人 吉田秀雄記念事業財団

アドミュージアム東京

メセナライター 中原和樹
外部ライターによる「メセナの現場」体験記をお届けします。


宙に吊るしてあるのは「4つのきもち」をイメージしたオブジェ。
オブジェの中でそのジャンルに沿ったCMを視聴することができる

汐留駅からほぼ直結、新橋駅からも近いカレッタ汐留。その地下2階に現れる、ひときわ目を引くガラス張りの入り口。そこはアドミュージアム東京という、日本初にして唯一の広告とマーケティング専門のミュージアムである。その中は明るく楽しげで、偉ぶったような雰囲気がまったくなく、入口からすでに、「何があるんだろう」という好奇心を刺激された。

「心を動かす」展示
大きくはB1フロアとB2フロアに分かれ、B2フロアにはインフォーメーション、常設展示室、企画展示室が、そしてB1フロアにはライブラリーがある。


インフォーメーションではオリジナルグッズや広告関連書籍なども販売している

常設展示室では、「広告は社会と人間を映す鏡」をコンセプトに、江戸期から現代までを6つの時代区分で構成し、それぞれの時代での広告方法の変遷や、ルーツを知ることができるようになっている。
また、アドミュージアム東京が所蔵する広告資料を視聴することもでき、ただ広告を見るということではなく、楽しみながら広告を体験できる。


一目で概要がわかり、かつ興味を鷲掴みにされるキャッチコピー。
説明文も簡潔さとわかりやすさに重きを置いているとのこと

常設展示室をぐるりと一周すると、江戸時代から始まった日本の広告の流れがわかり、広告の知らない面にさまざまな角度で触れることができる。ポスター、看板、チラシといったアナログな広告のラインナップはもちろんのこと、CMや音声、江戸時代の広告にかかわった人物の映像が話すコーナーといったデジタル作品のアーカイブも充実しており、総合的に広告という概念に接することで、広告のイメージをよい意味で覆される。心地よい体験だった。

アナログな広告資料。壁一面に所狭しと並んでいるが、不思議と見にくさをまったく感じさせない

デジタルな広告資料のコーナー。
解像度の高い、鮮明な画面でダイナミックに楽しむことが可能


CMの絵コンテ。他では見ることのできない資料だ

B1フロアのライブラリーでは、「〇〇の本棚」と題して、ちょっとした本の展示も行っている。広告関連の本が国内・外問わず揃っており、広告を専門にしている人以外も、ヴィジュアルとして楽しめるものが多数あり、ゆっくりとライブラリー内で閲覧をすることができる。居心地の良い空間で、ゆったりと時間をかけながら、知らない広告の世界に浸ってみるのもよいだろう。

「広告」の地位向上への情熱
アドミュージアム東京は、2002年12月、財団法人(当時)吉田秀雄記念事業財団が(株)電通4代目社長の吉田秀雄生誕100周年を記念して開館。
財団は、日本の広告界近代化の基礎を築いた吉田秀雄の功績を称え、その遺志を継承するために設立され、広告およびマーケティング等の領域に関する事業を通じて社会に貢献することを目的としている。
2017年12月にリニューアルオープンし、より多角的に、多様なアプローチで広告というものを理解することができる場所となった。今では10~70代の幅広い客層が訪れ、近隣の住人だけでなく、学生や海外から訪れる人も多いと言う。

担当者の想い
そんな他に類を見ないミュージアムにかかわる、三浦善太郎さん(事務局次長 / 学芸員)と敦賀タッカー美子さん(Exhibition Director / PR)にお話を伺った。
「江戸時代からこんな広告があるんだと感銘を受ける方がいらっしゃったり、昭和の当時の広告を懐かしんだり、若い人には逆に新鮮に映ったり。ここを訪れた方がよくおっしゃるのは、広告の見方が変わったということです。」と敦賀タッカーさん。
「広告を専門で総合的に扱っているミュージアムというのは世界的に見てもなかなかないので、現在は日本唯一ですが、将来的には世界の中で、『広告・マーケティングといえばアドミュージアム東京』という存在になりたいと思っています。東京だけではなく、日本の国内外問わず、どこかにアドミュージアム●●ができればいいですね(笑)。巡回展もしてみたいと思っています。」とはお二人共通の想い。
「根源にあるのは、人間の愛しさ・人間っていいねという気持ちです。心を動かすということが始まりです。」
この言葉が一番印象に残った。


三浦善太郎さん

取材を終えて
広告のミュージアムということで、広告戦略や考え方、コンセプトなどといった切り口で広告を扱っているかと思っていたが、展示を見てすぐにその考えは吹き飛んでいった。人が人の心を動かすために頭と感性を使いつくり上げる広告というジャンルの、一番深く大事な部分に触れられ、自分の遊び心までも刺激されるような時間。江戸時代から連綿と続く日本人の知られざる素敵な一面を見ることができるような場所だった。広告にかかわる人もそうでない人も、広告という不思議なモノの魅力を知りに来てほしいと心から思った。


メセナライター:中原和樹

・訪問日:2019年8月20日(火)
・訪問先:アドミュージアム東京 https://www.admt.jp/(東京都港区東新橋1-8-2カレッタ汐留)

(2019年10月31日)

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