凸版印刷株式会社

『印刷博物館』(1) 活動編
~印刷の歴史を通して、印刷の未来を思う~

印刷博物館は、凸版印刷株式会社の創立100周年記念事業の一環として2000年に誕生した。開館当初から「社会・文化の発展に大きく寄与してきた印刷の役割と意義を広く社会に公開する」ことを主要なミッションとして掲げ、印刷に関する資料の収集・研究、展示・発信、そして体験・普及に資する活動を続けてきた。凸版印刷(株)の本社ビル内にありながら、会社の商材を置くことはせず、純粋に“印刷”という営みの拡がりと可能性を追究することに徹する姿勢を貫いている。

館の運営に携わるのは、社内の他部署を経験した印刷技術や歴史への知見と印刷愛が深い社員たち。今回博物館を案内してくださった式洋子さんも学芸員資格を保有する社員の一人で、数年前に他部署から異動で博物館へやってきたという。

印刷博物館を案内してくださった 印刷博物館学芸員 式洋子さん

2020年には、印刷博物館設立20周年を機に展示室の大幅なリニューアルが行われた。来館者に印刷の歴史的な流れをより体感してもらいやすいよう、テーマ別展示から歴史展示に刷新し、過去から現在への印刷文化の変遷を「印刷の日本史」/「印刷の世界史」の2つの軸からたどっていける体験動線をデザインした。また、「印刷×技術」のコーナー(企画展開催時は非公開)では、印刷技術に特化した展示をしている。

壁面には巨大な年表がずらり。
印刷の果たす役割や印刷技術が社会の変化とともに移り変わっていく様子がわかる。

展示方法についても、台展示中心から壁面展示とモノ展示の組み合わせによって、視覚的に技術革新の流れを追いながら、触れたり、動かしたりといったリアルな手触りを伝えられるように工夫が施された。そのほかリニューアル時に整備された多言語対応やQRコード付きのタッチパネル式解説等も、コロナ禍にあって来館者の鑑賞・体験のサポートに役立っている。

壁面展示とモノ展示を組合わせた展示構成

スマホカメラでQRコードを読み取ると解説が読める


■博物館から飛び出して、印刷の魅力を伝えるアウトリーチ活動
印刷博物館の活動は、館内だけに留まらない。学校や他の文化施設に出かけていき、SDGsに関する特別授業や出張ワークショップを通して、印刷に興味を持ってもらうきっかけづくりに取り組んでいる。近隣の小学校との交流も長年来続いており、毎年高学年の生徒が印刷工房を訪問し、新1年生に渡すためのメッセージカードを作成するのが恒例となっているそうだ。思い出と伝統の中に、印刷技術の体験を通して込められたぬくもりが受け継がれていく。また、コロナ禍で大学へのコマ単位の出前授業を始めたことを機に、印刷博物館を定期的に訪問していた特別支援学校からも出前授業のオファーが入った。会いに来てもらう工夫を凝らすだけではなく、会いに行くことも惜しまない。印刷博物館の静かな情熱が感じられる。

■過去から現在、そして未来のコミュニケーションを巡る印刷の旅へ
これまでの積み重ねられてきた歴史の先に、私たちが今生きている社会があるように、印刷の歴史に目を向けることは、印刷の未来を考えることにつながる。そして、印刷を考えることはコミュニケ―ションを考えることだ。人間が生きていく限り、情報の伝達やそれを通じたコミュニケーションは常に行われ続ける営みであろう。デジタル化が進む現代において、その原点として印刷の意義・役割をとらえ直すとともに、これからの暮らしの中に印刷がどのようにかかわり、社会に影響を与えていくのか、という問いに、印刷博物館は正面から向き合い続ける。

決して受け身にならず、常に新しい情報を取り入れて館内外問わず多くの人々を巻き込みながらアクティブに動き続けていることが印刷博物館の大きな強みだ。常にアップデートを続け社会の変化とともに印刷のあり方を考えるプラットフォームとして、さまざまな試みにチャレンジしていく活動体なのである。

印刷博物館エントランス

 

*取材を終えて
東京都内には小さいながらも専門性に特化した魅力的な美術館や博物館が実はひっそりと点在している。印刷博物館もその一つだ。企業の社屋内にありながら、誰でも歓迎してくれる開放的な雰囲気と温かさがある。今回の訪問にあたり、どこか懐かしい気持ちを感じたのは、私自身にも小学3年生の夏休みに母と弟と3人でここを訪れた思い出があったからだろう。リニューアル以前の面影を確かめながら、式さんの解説を頼りに新鮮な気持ちで展示室をめぐった。開館から20年以上、きっと私以外にも、幼いころの体験を胸に、懐かしく新鮮な体験を求めてこの場所に帰ってくる仲間がいるに違いない。館内で行われる体験イベントや企画展、アウトリーチ活動など、多様なタッチポイントを設けることで、それらを体験した人々の心の中に印刷文化への興味の縁が結ばれていくのである。

メセナライター:前田真美
・取材日:2022年9月22日(木)
・取材先:印刷博物館(東京都文京区水道1丁目3番3号 トッパン小石川本社ビル)

arrow_drop_up