アコム株式会社

「やる側もみる側も笑顔に アコム“みる”コンサート物語」

 

足立梨花さんのテレビCMでお馴染みの方も多いかもしれない。実はこのコンサート、1994年から30年近く続いているアコムのメセナ活動の一つ。これまでに254回を全国各地で開催し、のべ25万人が来場している。2018年にはメセナアワードで優秀賞「みんな笑顔で賞」を受賞した。

2022年8月の真夏日、厚木市文化会館で開催された「“みる”コンサート物語『ピーター・パン』」に足を運び、担当の広報・IR室の皆さんに、その舞台裏も聞いた。

第一部は、ピアノ・ヴァイオリン・チェロによる女性トリオ「プルミエ」が、誰もが知る曲から楽器の音を生かした伝統曲など、全6曲を演奏する。曲のテーマに合わせた影絵パフォーマンスも視覚に楽しい。

 

第一部「プルミエ・プチ・コンサート」

 

第二部は、メイン演目の「影絵劇団かしの樹」による「ピーター・パン」。語りと演奏、そしてスクリーンいっぱいに映し出される繊細で巧妙な影絵に惹きつけられ、客席全体がぐっと集中して静まり返るのを感じた。司会・語りの松田環さんによる複数の役の声の演じ分けも見事だった。

聴者もろう者も楽しむ手話
コンサート全体を通して印象的だったのは、手話だ。開演前のアナウンスから上演の通訳まで、コンサートのアイコン的存在にも感じられる武井誠さんの表情・表現豊かな手話には、聴者の私も目が釘づけになった。「さんぽ」の歌詞を、手話で観客も一緒にやってみるコーナーでは、コロナ禍で声は出せないながらも会場の一体感を感じられ、こんな風に手話を楽しめるのかと驚いた。

現在は「バリアフリーコンサート」とも称される「アコム“みる”コンサート物語(以下、「みるコン」)」だが、開始当初から手話通訳がついていたわけではない。1997年、当時のアコム社員が、来場者の要望に応え、舞台上で手話通訳を始めたことがきっかけだった。その後、当時大学生だった武井さんが、友人や他大学の手話サークルも巻き込み、手話通訳としてコンサートにかかわるようになった。

コンサートを“手づくり”する社員たち
「みるコン」の特徴といえば、企画運営をすべてアコム社員が担う“手づくり”のコンサートである点だ。広報・IR室メンバーが中心となり、コロナ禍前は各地域で市民ボランティアを募っていたが、現在は20名ほどの社員ボランティアとともに運営にあたっている。

「会場の設営もすべて自分たちで、こだわりを持って楽しんでやってるんです。来場されるお客さまをイメージして、『検温、アルコール消毒、入場チケットの確認、パンフレット配付』をどこでやろうかを考えて、テーブルの設置や、ポスターの貼り付け、検温機のセットなどしているんです。」(岡本)

「そういう細かい作業があるからこそ、お客さまも暖かさを感じ取ってくださっているのかな。」(萩生田)

 

開場前の社員ボランティアとのミーティング

 

社内では、社員がボランティアに参加しやすい環境も整備している。ボランティアとして「みるコン」に参加するための交通費や宿泊費を会社が支援している。実際にボランティアに参加した社員からは、「普段とは違う業務に携わることができて新鮮で楽しい」という声が聞かれる。

「普段の我々の業務の中で、一度に大勢のお客さまと接点を持つことってあまりないんですよね。金融サービスなので、特定のお客さまに対しての電話応対が中心なので、なかなかお客さまの表情をうかがえないのが現状なんです。会場では、お客さまと直接お会いして、笑顔を見たり、感謝の言葉をいただくことができ、心が洗われるように感じます。」(萩生田)

 

来場者へ景品を配布している様子

 

つなぎ止めたのは、来場者の声
会社経営が厳しい時代には、活動中止の危機に追い込まれたこともあった。子会社をなくしたり、社会貢献活動を減らしたりと、会社全体で事業整理が進む中、「みるコン」が継続できたのは、アコム社員の強い思いに加え、お客さまからのアンケートも大きな力になった。

「みるコン」では、毎回来場者にアンケートを実施しており、お子さまからお年寄りまで、ハンディキャップのあるお客さまなど、さまざまな方からの声が集まる。来場者からの感謝の声が、アンケートという見えるかたちで残していたことで、「みるコン」が「社会から必要とされ、続けるべき活動である」という社内の共通認識が生まれ、活動継続を後押しした。

来場者からの声は、現場社員のやりがいにもつながっている。

「『コロナ禍で開催してくれてありがとう』、『自分が子どものころ観て、今回は自分の子供と一緒に来ました』とか、そういった声を聞けるのがうれしいです。ハンディキャップのある方からも『あきらめずに来てよかったです』というお言葉をいただき、開催してよかったなって思います。」(勝村)

 

会場内での車いすの誘導

 

主催者もお客さまも、ともに楽しいものじゃないと
担当のみなさんに、「“よいメセナ”とはどういう活動だと思いますか?」と聞いてみる。

「主催者もお客さまも、ともに楽しいものじゃないといけないと思う。お客さまから『長く続けてほしいな』と思ってもらえるような活動、社会からしっかりと評価される活動がよいメセナ活動だと思います。」(岡本)

 

(写真左から)広報・IR室 萩生田さん、勝村さん、岡本さん、秋山さん

 

「誰かのために何かをしたい」、「多くの人の笑顔を見たい」、「地域社会との良好な関係を気付きたい」という3つの思いで開催している「みるコン」は、地域社会はもちろん、社員も笑顔にする好循環を生んでいるように感じた。28年間、地道に開催を継続してきたことで、リピーターとなって再び会場に訪れる方も多いという。地域、年齢、ハンディキャップの有無も問わないこのコンサートは、全国各地でファンを増やし続けている。

 


取材を終えて
取材中、社員の皆さんが生き生きとお話されていたのが印象的に残っている。企画運営を外注せず、長年社内でノウハウや思い出を積み重ねてきたからこそ、携わる社員一人ひとりが、活動への愛着や、継続することへの強い想いを育んできたのではないかと感じた。また、昨今でこそ注目されるようになった「インクルーシブな」視点や取り組みが、「みるコン」では活動開始初期から、来場者や社員の声によって自然に生まれている点にも感銘を受けた。みんなを笑顔にしたい、という根底にある軸は変わらず、このコンサートが今後も、観客や社員を含む、そこに集う人々のためにどのような進化を遂げていくのか、注目だ。

メセナライター:寺田 凜
・取材日:2022年9月9月(金)
・訪問先:アコム株式会社
(東京都千代田区丸の内二丁目1番1号 明治安田生命ビル)

 

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