リンナイ株式会社

中川運河再生文化芸術活動助成事業(中川運河助成ARToC10)への支援

メセナライター 天田 泉
“企業の文化施設・アートスペース” “新会員や話題のメセナ活動”をテーマに、外部ライターによる「メセナの現場」体験記をお届けします。

名古屋港(愛知県名古屋市港区)から中川区の旧国鉄笹島貨物駅を結ぶ中川運河。全長約8km、幅は広いところでは約90mになる。

子どものころに運河で泳いだ思い出のある高齢の方もいるなど、地域住人にとって運河は暮らしとは切り離せない存在だ。

名古屋の中心を流れる“中川運河”は、かつて“東洋一の運河”と呼ばれ、昭和初期から30年代まで地域の水上輸送の大動脈として名古屋の近代化を支えてきた。しかし、時代の流れとともに、インフラの中心が鉄道に、そして自動車に移ると、その役割を終えた……。

長きにわたり、中川運河の存在は経済社会からは切り離されてきたが、多くの地域住民にとって運河は日常の風景であった。2012年から始まった、“中川運河再生文化芸術活動”は、水辺空間である運河を芸術の場とし、まちづくりの核とし再生しようとする計画だ。リンナイ株式会社(以下、リンナイ)はその動きに賛同し、2013年、助成という形で地域に貢献している。その活動について広報部の小川拓也さん、樋口哲也さんにお話を聞いた。

歴史ある運河をアートで再生する

「中川運河ができる以前の昭和のはじめに、リンナイの本社・工場は中川運河の“堀止め”と呼ばれる場所に位置していました。運河の工事に伴い、現在の本社所在地に移転した経緯があり、中川運河との縁は深く長いのです」(小川さん)

2012年、名古屋市と名古屋港管理組合は「中川運河再生計画」を策定。まちづくりの中心として運河の再生を計画した。その空間計画として、運河周辺のエリアを「にぎわいゾーン」「モノづくり再生ゾーン」「レクリエーションゾーン」の3つに分け再編を試みる。

リンナイの本社ビルがある「にぎわいゾーン」では、運河沿いに緑地とプロムナードを設置し、カフェやレストランなどを誘導。水上交通の運行などが再生の構想にあげられている。

「そして、中川運河再生計画に賛同するかたちで、リンナイは文化芸術で協力しようということになったのです」(小川さん)


にぎわいゾーンのイメージ図

中川運河のある光景はアーティストたちにとっても、なんともいえない味わいがあり、インスピレーションがわくという。こうして中川運河再生文化芸術活動助成事業(愛称:中川運河助成ARToC10)がスタートし、リンナイは本助成事業における資金提供を担うことになった。

「当社は大正9(1920)年の創業以来、“快適な暮らし”を社会に提供する熱機器メーカーとして、モノづくりを行ってきました。そして、革新的なモノが求められる今の時代だからこそ、モノづくりの原点である豊かな“発想力”と“創作力”が必要であり、こうした点から文化芸術活動となんらかの親和性があると考えています。また、この場所で創造力のある人を育てたいという思いもあり、助成事業への支援をはじめました」(小川さん)


アートによるまちづくりを支援することで、地域に恩返しをしたい

リンナイは2013年から10年間、毎年1000万円、総額1億円を寄付することを決定し、すでに5回の寄付を行ってきた。また、それ以外にも中川運河沿いの倉庫を、アーティストの作品制作や制作資材の保管場所として、無償で提供している。


中川運河キャナルアートを応援する会Art&Party

「現在、6回目の対象者が決定しました。助成の部分では、主催の名古屋都市センターの決定により、これまで3つのプロジェクトや団体に寄付してきたのですが、今年度は一部助成金を下げた部門を新設し、小さなプロジェクトや団体にも寄付することで助成団体を増やし、助成対象そのものを活性化する試みを行いました。

そこには、地域の方々や市民の参加がもっと増えるようにという願いがあります。私自身も地元の美術大学出身なのですが、愛知県は美術大学や美術系の学部のある大学が多いので、学生が参加してくれたらいいなと思っています。全体として芸術のクオリティは下げることなく、裾野は広がってほしいですね」(樋口さん)

名古屋には、まだ美術活動の場や発表の場が少ないこともあり、若手アーティストに活動の場を提供したいと考えている。また、地域の子どもたちが芸術・文化に触れる機会や場になることも、地域への貢献において欠かせない視点だ。

「中川運河は地元の方にとって慣れ親しんだ存在です。リンナイの本社があるにぎわいゾーンが、文化芸術を通して変われば、地元の方にも還元ができる。地域に恩返しをしたいという思いが中川運河助成ARToC10にはありますね。助成活動も6回目となり、2018年度はある意味折り返し地点です。主催の名古屋都市センターが助成金の額を下げた部門を新設したことで、参加プロジェクトが増え、地域の方々が通年を通してアートに触れられるような場にしていきたいですね。“中川運河に来ればいつも何かやっている”。訪れる人たちにそう思ってもらえるように、中川運河とアートをこれからの5年で育てることに貢献したいですね」(樋口さん)

◎中川運河助成ARToC10
http://www.nup.or.jp/nui/human/nakagawa/index.html

左から管理本部・広報部の樋口哲也さん、同じく管理本部人事部長兼 広報部長の小川拓也さん。

*取材を終えて*
2年前に運河のまち、アムステルダムを旅したことがあります。都市の水辺は、人々は憩いの場であり、集いの場でした。中川運河助成ARToC10を通して、地元の人の慣れ親しんだ運河が新たな魅力ととともに生まれ変わりつつあることは、すばらしいことです。地元企業であるリンナイの貢献は、地域の人たちのつながりや、この場所ならでは芸術・文化の創造に大きな役割を果たしておられると感じました。今後、中川運河がどのような場所になっていくのか、とても楽しみです。

◎訪問日:2018年4月12日(木)
◎訪問先:リンナイ株式会社 [愛知県名古屋市中川区福住町2-26]

(2018年7月26日)

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