会員ネットワーキンググループ

第9回会員ネットワーク勉強会 トークシリーズ「芸術支援にいま、必要なこと」~Vol.2 ブリティッシュ・カウンシルの最新事例と英国の文化政策から学ぶ~

「芸術支援」をテーマに、毎回さまざまな切り口から先進的なゲストをお招きし、芸術支援のいまと今後について学び、考えるトーク企画。第2回目のゲストは、イギリスの公的な国際文化交流機関として、長年にわたり英語教育支援やアート分野における人材育成などを展開する「ブリティッシュ・カウンシル」のアーツ部長である須藤千佳氏。
会の前半では、日本における組織の役割や、これまで取り組んできた日英の文化芸術団体や行政、企業などとの連携プログラム、そして近年の英国の文化政策や文化芸術機関の動向などをヒアリングします。後半はインタラクティブな場として、社会における芸術文化の役割や共通の課題について、参加者と意見交換をしながら考える場を設けます。
芸術支援に携わる企業メセナの担当者はもちろんのこと、芸術文化全般に関わる皆さまにとってもヒントとなる内容です。ぜひお誘い合わせのうえ、ご参加ください!

チラシはこちら(PDF)


【ゲストプロフィール】
須藤千佳(ブリティッシュ・カウンシル アーツ部長)
国際基督教大学卒業後、メーカー勤務を経て2001年に渡英。ロンドン大学大学院にて修士号を取得。2005年より英国の公的な文化交流機関ブリティッシュ・カウンシルで15年以上に渡ってアートを通した日英間の文化交流プログラムに従事。近年では特にアートと社会課題(障害や高齢社会、孤立等)をテーマにしたプロジェクトを英国のアート機関および日本の美術館や劇場、ホール、オーケストラ、自治体、NPO等とともに展開し、日英間の文化関係者の交流、協働を推進している。2022年より現職。


◎日時:2023年8月29日(火)16:00~17:30

◎会場:ブリティッシュ・カウンシル (飯田橋)
https://www.britishcouncil.jp/about/japan/access)

◎予定プログラム:
16:00~  ゲストトーク
16:50~  質疑応答・ディスカッション&交流会
17:30   閉会

◎参加費:
協議会会員:無料/一般:1,500円

◎お申込み方法:
①上記チラシの裏面にあるお申込書に必要事項をご記入のうえ、メール:mecenat@mecenat.or.jp またはFAX:03-5439-4521 までお送りください。
②件名を「ブリティッシュ・カウンシル勉強会申込み」とし、mecenat@mecenat.or.jp  宛に下記内容をお知らせください。
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1)お名前
2)ご所属・お役職
3)ご連絡先(住所・電話番号・Email)
4)アンケート(任意)※トークの参考とさせていただきますので、ぜひご自由にお書き下さい。

1.今回とくにご関心あるテーマをお選びください。(複数可)
・芸術文化機関と企業・行政などとの連携のあり方(具体的に:                 )
・国内外芸術文化業界の動向(具体的に:               )
・芸術支援全般(具体的に:                     )
・その他(具体的に:                        )

2.ゲストへの質問、特にお聞きになりたい事柄などございましたらご記入ください。

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◇会員ネットワーキンググループとは?
会員相互の交流・連携強化、および情報交換・相談・研鑽等を恒常的に行える場を設けるため、2011年発足。
企業メセナ協議会会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、メセナ活動にかかわる課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。

◇会員勉強会とは?
メセナの現場を知る機会として視察やレクチャーなどを開催しています。

◇お問合せ
企業メセナ協議会 会員ネットワーキンググループ担当
TEL:03-5439-4520、Email:mecenat@mecenat.or.jp

開催報告

企業メセナ協議会の会員が集い・出会う場を生み、メセナ活動にかかわる情報交換・研鑽の場として開催する会員ネットワーク勉強会。第9回目は、2023年8月29日(火)に、飯田橋駅近くのブリティッシュ・カウンシルにて、トークシリーズ「芸術支援にいま、必要なこと」が開催された。
「芸術支援」をテーマに、さまざまなジャンルからゲストを呼び、芸術支援のいまと今後について学び、考える本企画。今回は、英国の公的な国際文化交流機関である「ブリティッシュ・カウンシル」のアーツ部長・須藤千佳氏をゲストに招き、現在の英国の文化セクターの動向や、ブリティッシュ・カウンシルの芸術支援の取り組みについてお話いただいた。

●ブリティッシュ・カウンシルについて
須藤氏からまず、ブリティッシュ・カウンシルという組織についての説明があった。1934年に、王立憲章によって英国で設立されたブリティッシュ・カウンシル。当時は世界的な金融恐慌の最中であり、ドイツやイタリア、スペインではファシズムが台頭していた時期であった。そうした世界情勢の中でも、政治的な影響を受けることなく、英国と諸外国との国民同士が相互理解や信頼を深めていってほしい、そうした思いから誕生した。現在は英国外務・英連邦・開発省を後援省庁とする政府外公共機関として、世界100カ国以上で活動を展開している。日本においては1953年に活動を始め、今年がちょうど開設70周年にあたる。

ブリティッシュ・カウンシル アーツ部長 須藤千佳氏

ブリティッシュ・カウンシルが掲げているミッションは以下の通り。
「We support peace and prosperity by building connections, understanding and trust between people in the UK and countries worldwide.」
日本語訳:「私たちは英国と諸外国の人々の間で関係性をつくり、理解や信頼を深めることで、平和と繁栄に寄与します」

このミッションを達成していくため、「文化芸術」「教育」「英語」を3つの柱に活動している。
具体的な活動として、まずは個人に対してのプログラムがあり、子どもから学生、ビジネスマンまで幅広い人々を対象にした英語コースや、IELTSなどの英語試験を実施している。そうした個人への活動の一方、パートナーの団体と協力した活動にも力を入れている。たとえば「文化芸術」の活動では、オーケストラ、美術館といった文化芸術団体、「教育」では大学などがパートナーとなり、ともにプログラムを展開している。

世界100カ国以上にまたがるブリティッシュ・カウンシルの働き方の特徴として挙げられるのが「regional work」。日本オフィスはオーストラリアや中国、フィリピン、インドネシアなど14カ国から構成される「East Asia」地域に所属しており、このように多様性に富んだ国々と、横の連携をしっかり取りながらプログラムを展開することに力を入れているという。
たとえば、「アートと高齢社会」というテーマのプログラムを実施する場合、日本だけでなくシンガポールやタイ、香港などでもとても関心が高いため、そうした国々とも協力することもある。プログラムが国を超えて展開しやすい環境にあるのだ。また、英国本部に各芸術分野の専門家がおり、彼らとも密に連携を取りながらプログラムが展開されていく。
東アジア地域の中での国を超えた連携と、本国との連携。国内のパートナーとも密な連携を取り、プログラムが発展していくことがブリティッシュ・カウンシルの大きな強みとなっている。

 

●近年の英国の文化セクターの動向
続けて須藤氏から、近年の英国の文化セクターの動向や文化芸術に関する政策・指針についてのいくつかの例を取り上げて説明があった。

(1)アーツカウンシル・イングランド
イングランドにおける芸術文化の持続可能な発展と、社会のあらゆる人々が芸術に触れる機会を提供することを目的とし、多様な芸術活動への資金提供や支援を行なっている。2020年には2030年に向けた戦略「Let’s Create」を発表し、この“戦略”には2030年までの10年間で達成すべき「3つの成果」が挙げられている。

①「創造的な人々」:誰もが生涯を通じて創造性を伸ばし、表現することができること。
②「文化的なコミュニティ」:村、町、都市が文化を通した協働的なアプローチを通じて繁栄すること。
③「創造的で文化的な国」:イングランドの文化セクターは革新的で、協力的で、国際的であること。

これらを達成するための、さらに4つの原則もあわせて挙げられている。
アーツカウンシル、そしてアーツカウンシルが支援・助成する団体や人々は下記の4つの原則に基づいて、行動していくことが求められる。

①「野心とクオリティ(Ambition & Quality)」:野心的であり、作品の質の向上に尽力すること。
②「包括性と妥当性(Inclusivity & Relevance)」:イングランドの多様性が、アーツカウンシル・イングランドが支援する組織や個人、そして彼らが生み出す文化に十分に反映されていること。
③「ダイナミズム(Dynamism)」:文化機関が力強く繁栄し、次の10年の課題に、ダイナミックに対応できるようになっていること。
④「環境への責任(Environmental Responsibility)」:気候変動という非常事態へのアプローチを先導すること。

実際にアーツカウンシル・イングランドが助成している「ナショナル・シアター」では、サステナビリティやダイバーシティの面でどういった取り組みをしているかをホームページで積極的に発信している。
特にコロナ禍以降、芸術自体のあり方が見直される中、演劇や音楽の公演を行うこと自体の是非も議論されるようになっていった。公演を行うために芸術団体が世界各地を移動することで、大量の二酸化炭素が排出される。そうしたカーボンフットプリントの問題は、近年どの芸術団体も配慮している。ある英国のオーケストラでは、より環境負荷がかからないルート、移動手段を考慮してツアーの場所や日程を組むようにしているという。
現代におけるさまざまな社会課題の中でも、特にサステナビリティの面は、どの芸術団体も力を入れて取り組んでいるという。

(2)「Creative Health: The Arts for Health and Wellbeing」
2017年に英国の超党派議員連盟が出したレポート「Creative Health: The Arts for Health and Wellbeing」。芸術が、人々の健康やウェルビーイングにどれだけ効果があるものなのかを、さまざまな事例と数字でまとめているもので、一例として、音楽の活動に参加したことで、認知症の方々の67%の人が興奮状態の軽減や薬の摂取量が減ったというデータが示されていた。

(3)マンチェスター市
英国の地方自治体における取り組みとして、マンチェスター市の事例が紹介された。
マンチェスター市はWHOが提唱した「エイジフレンドリーシティ(=高齢者にやさしい都市)」に英国の都市として初めて登録された自治体で、医療・福祉だけでなく、アートの面でも突出した取り組みを行っている。高齢化や福祉にかかわる社会課題に、アートがどのように寄与できるのか、市の担当者とアート関係者が常に議論しているような活気ある場所だ。また、昨年発表された「Creative Health Strategy」によると、高齢者に関する問題のみならず、コロナを経て問題視されている子どもや若者のメンタルヘルスの問題にも、アートを取り入れた解決法を示して対応していくことが書かれている。
また、今年1月に須藤氏が視察した中から、印象的な取り組みを紹介してくれた。

マンチェスター・ミュージアム
2023年にリニューアルオープンした際に、「Belonging Gallery」を新しく設けた。このギャラリーでは、「帰属、所属する」とはどういうことなのかを考えることをテーマにした展示が企画されている。コロナ以降、人々が孤独な状態になりがちな中で、「自分の居場所」への関心が高まっていった。そうした人々の潜在的なニーズを受けて、新たな展示室の設置が決まったという。通常、博物館のミッションステートメントの柱の一つには「コレクションのケア」あるが、マンチェスターミュージアムでは「人々のケア」もしっかりとミッションに謳われている。このようにマンチェスター市ではアートとウェルビーイングが結びついた政策指針が、実際にまちの芸術空間にも反映されている。

ウィットワース美術館
緑豊かな公園の中にあるウィットワース美術館。公園と隣接した場所を生かしたアウトリーチプログラムやエイジフレンドリープログラムが盛んに行われている。須藤氏が視察に訪れたときは、カリビアンのアーティストの展覧会が行われていた。人種やLGBTQ、ジェンダーなど社会的なメッセージが込められた展示は、英国の美術館では近年より盛んになってきており、自分の表現が社会課題に対していかにアプローチできるかという視点で創作活動に取り組むアーティストも増えてきている。

(4)「Creative Industries Sector Vision」
英国の文化・メディア・スポーツ省が今年新たにまとめた方針「Creative Industries Sector Vision」では、2030年までにクリエイティブ産業を500億ポンド成長させ、100万人の雇用を新たに創出することを目標に掲げている。
英国ではクリエイティブ産業と呼ばれる業種が、日本でイメージされるものよりも広く、映画、音楽、広告、出版、デザインといった分野だけでなく、IT全般も含まれる。すでにこれらのクリエイティブ産業が英国の他の産業と比較しても成長率が高く、政府はさらに加速させたいと考えている。R&DやAIなど、新たなイノベーションを生み出す分野への積極的な投資や、クリエイティブセクターで働く人材を増やすための、スキル開発のプランもこの方針にはまとめられている。

 

●文化芸術分野に関して ブリティッシュ・カウンシルの日本での活動
これまでの話を踏まえたうえで、実際にブリティッシュ・カウンシルの日本オフィスは「文化芸術」の分野においてどのような活動を行っているのか。
日本での活動を展開する中で意識しているのは、「日本側のニーズに合わせながら、英国の強み、専門性を共有できるプログラム」をつくっていくこと。近年は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催もあり、文化芸術セクターにおいても「アートとウェルビーイング」や「インクルージョン」、「アクセシビリティ」といったテーマへの関心が高く、英国の実践を紹介したり日英の協働を促す活動を展開してきた。

また、分野を横断したコラボレーションなどは英国の強みの一つだ。先端技術を活用した新しいアートの創出など、クリエイティブ産業の中でイノベーションを起こしていくことは、上述した「Creative Industries Sector Vision」でも、英国政府の重要な投資分野と位置づけられている。英国の実践を紹介しながら、文化芸術、テクノロジー、リサーチなど、分野を超えた日英の連携を生み出していければと考えている。

具体的にプログラムがかたちとなるにあたっては、「種蒔き」を意識しているという。日英の文化芸術関係者をつなぐ場を設けて、そこから双方が交流を持ち、コラボレーションにまで発展していくように促していく。どうなるかわからないが、とにかく双方がお互いを知ることでしか、コラボレーションの可能性は生まれない。双方の出会いの場を提供することが、後のコラボレーションの成就に欠かせない「種蒔き」となるのだ。

以下に、ブリティッシュ・カウンシルの日本オフィスが近年展開した具体的なプログラムの概要を紹介していく。

かわさき♪ドレイク・ミュージック プロジェクト(2017年〜2021年)
「音楽のまち」として知られる川崎市は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会では英国チームのホストタウンを務めた。さらに、誰もが暮らしやすいまちづくりを推進する「かわさきパラムーブメント」のビジョンを2016年に立ち上げるなど、インクルーシブなまちづくりにも熱心に取り組んでいる自治体でもある。そうした縁もあり、川崎市とブリティッシュ・カウンシルが、英国のアート団体「ドレイク・ミュージック」が協働し、障害の有無にかかわらず誰もが音楽を楽しみ、創造性を発揮できる社会の実現を視野に、多様なプログラムをこれまで展開してきた。2021年にはドレイク・ミュージックの音楽家、日本の音楽家とともに、川崎市内の特別支援学校の生徒が新しい曲づくりにも挑戦。完成した楽曲は『かわさき組曲』と名づけられ、東京交響楽団によって音楽フェスティバルで演奏もされた。

アートと高齢社会をテーマにした交流プログラム(2015年〜)
英国は高齢者人口の割合が2021年時点で全人口の約18%。上述したように、英国では高齢化に関する問題に医療・福祉といった既存のサポートに加えて、アートを取り入れた新しいアプローチも実践されている。「文化の処方箋」と言われるようなこのアプローチは、英国よりもさらに高齢化が進む日本でも関心が高いものとなっている。
ブリティッシュ・カウンシルは、英国のベアリング財団から支援を受け、複数年にわたって「アートと高齢社会」をテーマとした双方の国への視察プログラムを組んできた。
これらのプログラムから生まれた日英コラボレーションの一つが、55歳以上の劇団員のみで構成される演劇集団「さいたまゴールド・シアター」と英国のエンテレキー・アーツ芸術監督(当時)であるデービッド・スレイターとの共同野外パフォーマンス『BED』(2018年)。ベッドに横たわった高齢者を埼玉の街中に出現させ、通行人たちとの交流を図っていくというサイトスペシフィックな作品が誕生した。
また、岡山県を拠点に活動する「老いと演劇」をテーマにした劇団「OiBokkeShi」の徘徊演劇『よみちにひはくれない』が、2021年に英国・コヴェントリーで公演されたことも紹介された。こちらは『BED』とは逆に日本から英国へと展開された例。実際に俳優が市街地を徘徊しながら、認知症の妻を探す老いた夫の物語を、「コヴェントリーバージョン」につくり替えて、登場人物も現地の俳優が演じた。

高齢社会と音楽 お茶の間オーケストラ(2017年)
②に連なるものだが、「音楽」という切り口でもプログラムを展開している。認知症の人々の生活の質の向上を目的としたプログラムを展開している英国の室内管弦楽団「マンチェスター・カメラータ」が、大阪府豊中市に本拠地を置く日本センチュリー交響楽団とともに、豊中にある市営住宅で、2017年に高齢者を対象にした音楽づくりワークショップを約3カ月に渡って行った。

Playable City Tokyo(2015年〜2018年)
「Playable City」とは英国・ブリストルにあるメディアセンター「ウォーターシェッド」が2012年に立ち上げた、“遊び(Play)”を都市に実装するイノベーション・プラットフォーム。未来の都市のあり方を考える、この非常にユニーク取り組みを東京にも紹介すべく、「Playable City Tokyo」が立ち上げられた。
ブリティッシュ・カウンシルとウォーターシェッドが、ライゾマティクスや森ビルなどの協力を得て、アーティストやデザイナー、技術者、建築家、学生、企業関係者などさまざまな人が参加するワークショップやクリエイティブラボを実施したほか、英国のアーティストが東京に滞在し、東京のまちに眠るクリエイティブな魅力を調査するレジデンス・プログラムなども展開した。

伊勢市アーティスト・イン・レジデンス(2019年、2023年)
ブリティッシュ・カウンシルは伊勢市と協働し、英国を拠点とするアーティストを伊勢市に招へい、アーティスト・イン・レジデンスを2019年と2022年の2度に渡り実施した。2019年は600名を超える応募者の中から6組のアーティストが審査で選ばれ、2週間の滞在の中で伊勢神宮をはじめとする日本古来の文化や地元の工芸作家と触れていった。そのうち3組のアーティストが、2023年1月に再び伊勢市を訪問し、今度は具体的な作品制作に臨むため、現地でインタビューや撮影、ワークショップなどを行った。

⑥アートとテクノロジー(2022年〜)
ブリティッシュ・カウンシルが今特に力を入れているテーマ。VRやARといったクロスリアリティをはじめ、さまざまな先端テクノロジーとアートを融合させた領域で、日英の新たなコラボレーションの可能性を追求していく。2023年3月には、英国から先進的な取り組みを行っているアート関係者を招き、日本のアート機関や企業、大学のラボなどを訪れ、双方の交流を深めた。

このほかにも、アジアで行われているHSBC(香港上海銀行)による協賛事業や今年10月に開催が予定されている国立アートリサーチセンター、東京藝術大学と行うシンポジウムについても紹介があった。

 

●Due Diligence / Safeguarding
最後に、ブリティッシュ・カウンシルがさまざまな団体とのプログラムの共催や、助成を行う中で、現在重要視している「Due Diligence(適正調査)」と「Safeguarding」の考え方についての説明があった。
たとえば、負債を抱えていないか、倫理的に問題がある団体ではないかなど、社会的組織に要求される当然の責任を果たしているかを確認するプロセスが、英国だけでなく世界的にみても必要になってきている。
また、ブリティッシュ・カウンシルでは、子どもと弱い立場にある成人の擁護および保護(= Safeguarding)に力を入れている。英国では、たとえば保護者が学校でのボランティア活動にかかわる際などでも、過去に犯罪をしていないかの証明書を提出する必要があり、そうしたチェックのシステムは学校で活動を行うアーティストなどにも適用される。それほど、子どもたちの立場を守ることが当然と考えられているのだが、日本ではまだそこまでのシステムの整備は進んでいないように思われる。ブリティッシュ・カウンシルでは、自らがかかわるプログラムで子どもたちの不利益があってはならないよう、共催団体や助成団体にも自らのポリシーを共有するようにしている。

 

●質疑応答
その後、質疑応答の時間が設けられた。その中のいくつかを紹介していく。

Q)たとえばSafeguardingの証明書の提出を求められても、日本ではマニュアルやフォーマットがないため、どう対応すればよいかわからない。英国ではそういった証明書を取得することは容易なのか。
英国ではDBS(Disclosure and Barring Service)という犯罪証明管理および発行システムがあり、入手しやすい。かつ、それを求めるのが失礼ではなく、当たり前になっている。証明を求められた側が「自分を犯罪者と思っているのか?」と思うことはない。子どもたちのためなら当然、という感覚がある。

Q)プログラムを継続していくうえで大切にしていることは?
これはとても大事な視点で、私たちもそこを常に考え模索している。理想はプログラムを続けていく中で、日本の中で担い手が増え、より日英の間で持続可能な形でプログラムが継続・発展していくこと。たとえば川崎市には、今年も英国からドレイク・ミュージックからファシリテーターが訪れる予定だが、市や地元のオーケストラがよりイニシアチブをとって、プログラムを展開していくかたちになっている。

Q)「アートとテクノロジー」のプログラムのゴールはどういったところに置いているのか。どこかで展示をすることか。
最終目標は別に展示というかたちでなくてもいいと考えている。英国のアーティストと日本のテクノロジーの研究者が何か新しいことにトライした、というだけでも大きな意味がある。コラボレーションの結果がアート作品につながったり、アーティストの実践に変化が起きたり、異分野をつなげるプロデューサー人材が生まれるなど、さまざまなかたちの成果が生まれることを期待している。

そのほか、英国のアート業界に携わっている人々のキャリアや、日本と英国のアーツカウンシルの位置づけの違い、アート事業に関する評価の状況なども語られ、質疑応答の時間は大いに盛り上がり、盛況のままイベントは終了した。

 

◎訪問日: 2023年8月29日(火)
◎訪問先: ブリティッシュ・カウンシル(飯田橋) https://www.britishcouncil.jp/about/japan/access

会員ネットワーキンググループとは:
企業メセナ協議会会員の相互交流・連携強化、および情報交換・相談・研鑽などが恒常的に行える場を設けるため、2011年に発足。会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、会員自らのメセナ活動にかかわる日常的な課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。
*2023年度幹事(企業・団体名のみ):
TOPPANホールディングス、朝日新聞社、神奈川芸術文化財団、ギャラリーエークワッド、ベネッセホールディングス、リクルートホールディングス、リソー教育 (計7社団体・敬称略)

【報告】平木理平/メセナライター

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