メセナアワード

メセナアワード2017贈呈式

2017年11月28日(火)、「メセナアワード2017」贈呈式・記念レセプションをスパイラルホール(東京・青山)にて開催しました。
当日は、受賞者と受賞関係者、メセナご担当者、アーティスト、文化機関などのほか、約20名のメディア関係者を含め、約220名の方々にご出席いただきました。 贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、文化庁より「特別賞:文化庁長官賞」(1件)、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)へ表彰状とトロフィーを贈呈。 受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からは選考評が述べられました。贈呈式終了後には、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2017贈呈式 受賞者スピーチ

三菱地所株式会社 執行役社長 吉田淳一 様

メセナ大賞:三菱地所のShall We コンサート(出張コンサート)


今回はメセナ大賞をいただき、本当にありがとうございます。
三菱地所の「Shall Weコンサート」は、私どもだけでできることではなく、コンサートの演奏をお願いしている「MUSIC PLAYERSおかわり団」「こけももブラスクインテット」「日墺文化協会」の3つの団体の皆さまにご協力いただいております。皆さま、誠にありがとうございます。コンサートの開催にあたり、都内の特別支援学校の先生方はじめご関係の皆さま、さまざまな方にお世話になっております。
当社としての文化・芸術への取り組みについては、基本使命のなかで「まちづくりを通じて、真に価値ある社会の実現に貢献します」と謳っています。文化・芸術は、私が考えるに、新たな発想を生み出す源泉であり、人によっては国力の源泉だという方もいらっしゃいます。まさにそうだと思いますし、先ほど審査委員の先生方もおっしゃっていましたが、次世代へつなげていく非常に価値の高い大事なものだと思います。
三菱地所グループとして、まちづくりの中でさまざまな活動をし、文化・芸術をその中に取り込むことで深みや奥行きが生まれていきます。これからのまちというのは、グローバルになっていくべきだと思っており、2020年の東京オリンピック・パラリンピックにおいて、世界の方々によく見て評価していただけるように、ダイバーシティが豊かで、ダイナミックにハーモナイズするようなまちづくりを心がけていきたいと考えています。
当社は2013年にメセナアワード特別賞の「文化庁長官賞」をいただきまして、障がいのある子どもたちの絵画コンクール「キラキラっとアートコンクール」を、現在も継続してやっております。東京藝術大学の先生方に審査員になっていただき、全国津々浦々さまざまなところからご応募をいただいています。これらの受賞を励みに、文化・芸術を大切にして、グループが一丸となってメセナ活動を継続し、また深めていきたいと思っております。本日は誠にありがとうございました。

株式会社アーバネットコーポレーション 代表取締役社長 服部信治 様

優秀賞 アートの玄関賞:アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション


本日はメセナアワードの優秀賞という素晴らしい賞をいただきまして、社員一同非常に喜んでおります。
私は一級建築士として長年マンションの設計を続けてきました。マンションの機能性、利便性、効率性を追求して設計していくわけですが、それらを追求すればするほど、マンションの中のあそびやゆとりがなかなか取れないというジレンマがありました。そうした状況の中で、ふとした気づきがありました。マンションの室内では、ゆとりやあそびをつくることができませんが、マンションの玄関ホールという比較的大きな空間、これを活用できないかと考えました。建築家と彫刻家がコラボレートして彫刻を飾り、玄関ホールをミニ美術館のように仕上げ、住む方のゆとりや心の潤いになるような建物にしようと、この活動を続けてきました。当社が年に十数棟つくっているマンションには、全てオリジナルの彫刻の作品を飾るという活動をしています。
この活動を続ける中で、さまざまな方に出会い、ある美術大学の先生に言われたことがありました。「彫刻家になりたいと大学を受験する学生が毎年数百人いるが、その中で数十人が大学に入学し、大学院には十数名が進学する。しかしながら、卒業後に彫刻家として創作を続けていく人は、年に一人いるかいないかだ」と聞きました。絵画と違って彫刻は、材料費が非常に高い、広い創作スペースを必要とする、作品そのものが重い、作品設置が大変など、さまざまな困難があります。一番大きな問題は、創作活動のチャンスが少ないことです。彫刻家として仕事を続けていくことが非常に難しいというのが日本の現状です。そのような中で、学生の皆さんに気づいてほしいと思ったことがあります。それは、「年間で数千棟建つ日本のマンションの玄関ホールに、創作活動のチャンスがある」ということです。そのために「アート・ミーツ・アーキテクチャー・コンペティション」、アートと建築が出会うコンペというものを2001年から開催し、17回目が終わったところでございます。
その途中、2009年にリーマンショックがありました。当社も大きな赤字を出し、この活動を継続するか非常に悩んだ時期がございました。しかし、優勝賞金を一時的に下げさせていただいたほか、審査委員の先生方にも事情を説明し、手弁当で参加していただきました。また、協賛企業にもお願いをしながら続けてまいりました。本日、このような素晴らしい賞をいただき、あの時に中止しなくてよかった、続けてきてよかったと、今しみじみと感じております。
最後になりましたが、協賛企業の皆さま、審査委員の先生方、建築界、芸術界、大学関係の皆さま、そして社員の皆に感謝し、本日の御礼の言葉とさせていただきます。ありがとうございました。

株式会社沖縄タイムス社 専務取締役 上原 徹 様

優秀賞 しまんちゅ心と技賞:沖縄タイムス伝統芸能選考会・選抜芸能祭


このたびは「しまんちゅ心と技賞」をいただき、誠にありがとうございます。社員一同この一報があった時に、喜びよりも先に驚きがありました。といいますのも、企業メセナ協議会に参加させていただいてまだ間もなく、ものは試しということで今回初めて応募し、このような賞をいただきました。我々が60年以上に渡って地道に続けてきた文化事業・芸能事業を高く評価していただいた結果だと、大変誇らしく思っております。「しまんちゅ心と技賞」という賞名にも感激しております。
当社は1948年7月の創刊になります。焼け野原と化した郷土、復興の足音が聞こえはじめたとはいえ、米軍統治が続く時代、県民は将来の夢や希望どころか、どのように生きていくか、生きる術さえも見つけることができない時代でした。そうしたすさんだ心の中に「沖縄の人間としての誇りと自信を取り戻すのは、文化であり芸能である」という強い信念のもと、創刊1年目に始めたのが「沖展」の前身である「沖縄美術展」、そして1954年にスタートした、今回の「沖縄タイムス伝統芸能選考会・選抜芸能祭」になります。「沖縄の先人たちが受け継いできた文化芸能こそが、我々の魂を取り戻すのだ」と、いわばしまんちゅの誇り、魂、心を取り戻すことを願って始まった芸能事業です。当社は、新聞発行と文化事業を2本の柱に位置づけており、今回の受賞は、私どもの思いを深く汲み取っていただいたものと思っております。
少子化の中で、選考会への若い応募者は少なくなってきていますが、同時に20代でのグランプリ受賞者、さらには高校生での最高賞受賞も珍しくなくなってきています。若い芽は確実に育ってきており、若い芽を見守りながら、しまんちゅの心の拠り所としての芸能文化をこれからも発展・継承していくためにも、私どもはこれまで以上に力を注いでいきたいと考えています。
今回の受賞は当社だけでなく、選考委員の先生方、応募者の皆さん、合格者の皆さん、そして日々舞台に上がっていらっしゃる実演家の皆さん、沖縄の芸能に携わる全ての皆さんの力に対する賞だと思っております。今回の受賞を心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

株式会社ジェイティービー 常務取締役 大谷恭久 様

優秀賞 地域光らせ賞:JTB交流文化賞


この度は「地域光らせ賞」という栄えある賞を受賞しましたこと、心から皆さまに感謝申し上げます。社員一同、大変喜んでおります。また、「地域光らせ賞」という大変素敵ですばらしいネーミングをいただき、心から感動しました。ありがとうございました。
「JTB交流文化賞」は、2005年に「地域の多様な魅力を発掘して磨き上げ、国内・海外へと発信し、新しい出会いを創造しよう」という目的で創設しました。当社が今進めている「交流の創造」「地域活性化」を具現化する活動として、本年度で13回目を迎えました。応募のテーマは三つあります。一つ目は「持続可能な地域活性化・観光振興によって、交流人口を拡大させよう」という具体的取り組みです。二つ目が、地域・人・文化との出会いであり、まさに交流文化を題材とした旅行体験です。三つ目が「ジュニア体験部門」で、第8回目から創設しました。最近、若い人が旅に出なくなっています。ぜひ若い世代に旅に出てもらい、新たな感動や旅で見つけた新しい発見を体感していただきたいと始めました。回を追うごとに応募数も増え、応募してくださった大勢の皆さま、審査委員をはじめ関係者の皆さまには、この場を借りて感謝申し上げたいと思います。
受賞作品については旅行商品化をして、継続的に地域の活性化につなげるような取り組みを図っています。最近のテーマで多いのは、限界集落の再生、移住・定住の促進、環境や文化財の保護、地域伝統芸能の活用で、昨今の社会的課題を正面から捉えた作品が大変多くなっております。ぜひ当社でも、支援協力していきたいと考えております。これからも「ヒト・モノ・コト」をキーワードに、交流の創造により社会的な課題の解決、地方創生、芸術文化の振興、交流文化創造のさらなる高みを目指して進めていきたいと思います。
結びに、皆さまに感謝を申し上げまして受賞の挨拶とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

公益財団法人東日本鉄道文化財団 理事長 清野 智 様

優秀賞 プラッと音楽賞:駅コンサートの開催


このたびは「プラッと音楽賞」をいただき、誠にありがとうございます。JR東日本が誕生して30年が経ち、当財団はJR東日本を母体としてできた財団で、JR東日本発足より5年後に設立しました。現在25年が経ち、このような節目の年に受賞することができました。
「とうきょうエキコン」通称「エキコン」は、JR東日本が東京駅で最初に始め、それを当財団が引継いでまいりました。その後、皆さまご承知のように東京駅の保存・復原工事があり、お客様の通行の妨げになるということで、作曲家の池辺晋一郎先生にアドバイスをいただきながら、2006年から上野駅と仙台駅でコンサートを開催することになりました。上野駅では「上野の森コンサート」、仙台駅では「杜の都コンサート」として、両駅を合わせて120回ほど開催しました。この間、声楽家、弦楽四重奏、仙台フィルなど、多くの方々にお越しいただき、演奏をしていただきました。上野駅では、正面にある「ガレリア」と呼ばれる場所で、座席で約130名、立席を含め1,000名ほど、仙台駅では上野駅より少し広くステンドグラス前の広場で、立席を含め約1,500名のお客様に鑑賞していただけるようになっています。年のうち春と秋に、上野駅は2日間連続で、仙台駅は3日間連続でコンサートを開催し、多くの方のご協力のおかげでここまで続けることができました。
当財団にはいくつかの目的があり、一つ目は「鉄道に関する学術・科学技術の振興」、鉄道文化を後世へ伝えていくことで、埼玉県の大宮にある鉄道博物館などがこの活動になります。二つ目は「鉄道をとりまく地域文化の振興」です。東京駅の東京ステーションギャラリーや、2011年のメセナアワードで優秀賞「文化の枕木賞」をいただいた地方文化の支援事業で、主に東日本地域のお祭りや神楽など伝統文化を支援する活動です。三つ目は「鉄道を通じた国際理解・国際交流の推進」で、主に東南アジアとなりますが、各国の技術者の方に日本へ来て鉄道の技術を学んでいただいております。
2011年の「文化の枕木賞」、そして今回の「プラッと音楽賞」もあわせ、これからも継続して地元に愛される駅、鉄道にしていきたいと考えています。改めまして、池辺晋一郎先生をはじめ、出演していただいた音楽家の方々に感謝を申し上げつつ、受賞の挨拶とさせていただきます。本当にありがとうございました。

ポラス株式会社 代表取締役 中内晃次郎 様

優秀賞 街が踊る賞:南越谷阿波踊り


本日は「メセナアワード2017」優秀賞「街が踊る賞」をいただき、誠にありがとうございます。
ポラスグループは、住宅不動産を中心に地元の越谷市などから車で一時間以内の場所で事業を展開しています。特に地元の越谷市と創業の地である隣の草加市では、毎年供給される新築住宅の2~3割のシェアを当社が占めさせていただいており、地域を絞った事業をしています。
このエリアは東京のベッドタウンと言われており、もともとはこの地域とは縁もゆかりもないお客様がかなりの割合でいらっしゃいます。創業者の中内俊三も同様に、徳島出身でこの地域とは縁もゆかりもありませんでした。このような地域特性のあるまちに住んでいただき、そして本当に良いまちにするにはどうすればいいかと考え、地域に愛着や誇りが持てるような活動をしようと、徳島の伝統芸能である阿波踊りの開催を考えました。そうはいっても、よそ者がお祭りを開催するには厳しい面もありましたので、地元の越谷市の皆さまをはじめ、商店街、自治会の方々にご賛同いただき、警察の方も応援してくださり、また創業者の故郷である徳島の阿波踊り関係の方々にも非常に大きな支援をしていただきました。以降「南越谷阿波踊り」は毎年開催されております。
当社は1969年の創業で、「南越谷阿波踊り」が始まったのが創業から16年目の1985年でした。当時は企業規模もまだ小さく、手作り感満載のこじんまりとしたお祭りでした。そうした活動を続けながら、創業者は、私を含めた自分の子ども達に対して、「お前たちは、もしかすると経営の力量がなく、会社を潰してしまうかもしれない。でも、南越谷阿波踊りだけは潰すなよ」と言っておりました。当時はなぜそんなことを言うのかなと思っておりましたが、会社に入り経営理念を読むと、一番初めに「新しい暮らし文化、地域文化の価値の創造」という一節があります。それが会社の目的であり、そういうことかと納得しました。それから現在に至るまで、どちらかというと阿波踊りを一生懸命やり、そして事業もやるといった形できているのかなとも思っています。本日は小規模ではありますが、当社の社員が阿波踊りの演舞をお披露目させていただきます。阿波踊りですので、「踊る阿呆に見る阿呆」と楽しんでいただければと思います。
最後に、今回このような賞をいただいたことを契機に、よりいっそうの地域文化への貢献、「南越谷阿波踊り」のさらなる発展を宣言し、受賞の挨拶とさせていただきます。本日は誠にありがとうございました。

 
※レセプションではグループ社員の皆さまを代表して、阿波踊りを披露していただきました。

富士ゼロックス株式会社 CSR部部長 吉江則子 様

特別賞 文化庁長官賞:文化伝承活動


この度は文化庁長官賞をいただきまして、誠にありがとうございます。
富士ゼロックスは、企業理念の一つに「文化の発展への貢献」を掲げています。私どもの古文書の複製の活動も、「価値ある古文書を次の世代へと伝えていく」と、文化への貢献の一つとして全社を挙げて取り組んでおります。先ほどもご紹介いただきましたが、当社の最新技術を使っていることが一つ目の特徴です。カラーマネジメントの技術や、金・銀などのトナーを使って再現するなど、技術者と一緒になって行っています。この活動は京都で始まりましたが、当社は横浜にR&Dの技術拠点がございますので、今は2拠点で活動しています。二つ目の特徴は、古文書を地域ごとに活用していただくことを念頭においており、地域におけるステークホルダーの方々と連携しています。これまでに250点ほどつくり、本日も絵巻物などを展示していますので、ぜひお手に取って見ていただきたいと思います。中には、昨年ロシアのプーチン大統領が来日した際に、安倍首相からお土産として贈られたものもございます。
これまでに色々な活動をしてきましたが、子どもたちが郷土の偉人を学ぶ時に、複製物を手に取って見てくれていたり、大学の学生が、パソコンで何でも見ることが出来る時代だからこそ、手に取って研究に役立てていたり、また、伊勢物語の複製かるたでかるた大会を開催したりと、さまざまな形で楽しく使っていただいております。そういうものを見る瞬間が、私は一番うれしいといつも感じています。
今、国連が2030年を目指して世界で取り組んでいこうと「Sustainable Development Goals(SDGs)」という17項目を掲げていますが、その最後の17番目に「パートナーシップを持って目的を達成しよう」とあります。もちろん、メセナ活動もSDGsと関連付けて考えており、このパートナーシップ、地方との連携、色々な方との連携というもの、これ無くしてこの活動は成り立っていきません。
私ども富士ゼロックスは、より良いコミュニケーションをお客様に提案する企業です。「時を超えたコミュニケーション」として、歴史を未来の世代につなげていくこの活動をこれからも強化していきたいと考えております。本日はどうもありがとうございました。

選考評

委員長 原島 博 氏

受賞企業の皆さま、担当の方々おめでとうございます。
今回の審査で私自身が感じたことは、企業のメセナ活動というのは、企業が収益をあげたから、その一部をいわば社会貢献として文化活動を支えるといったものなのか。直接的にはそうかもしれませんが、各々の活動を拝見していると決してそうではない。むしろ文化が企業活動を支えている。自分が上に立って文化を支えているのではなく、恩返しをしているのだという気持ちで活動されているのではないかと思いました。特に担当の方は、そういう気持ちが無いと地道な活動できないのではないかという気がしています。そういったことも含めて、私たちも勉強させていただいたのが今回の審査会でした。皆さま、本当にありがとうございました。

はらしま・ひろし|東京大学名誉教授
2009年東京大学を定年退職。人のコミュニケーションを技術的に支援することに興味を持ち、その一つとして「顔学」の構築に尽力。科学技術と文化の融合にも関心がある。現在東京大学特任教授。

大竹文雄 氏

受賞された皆様、誠におめでとうございます。
人文社会科学系の学問研究は、その成果が直接誰かの役に立つとは限りません。しかし、人々が学問的知識を学ぶことで、政治や経済といった社会の意思決定をよりよくすることで、社会全体には貢献しています。文化活動や芸術活動も、それらの活動から当事者が経済的な利益を得ることは少ないのです。しかし、その活動によって世の中の人の生活は確実に豊かになります。こういうタイプの活動は、社会全体で支援しないと衰退します。それを防ぐには、利益には直接的にはつながらないが社会的に重要な活動をしている企業を社会的に評価していくことが重要です。本賞がそのために大きな貢献していることを、選考作業を通じて感じました。

おおたけ・ふみお|大阪大学社会経済研究所教授
京都大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。大阪府立大講師等を経て2001年より現職。博士(経済学)。専門は労働経済学・行動経済学。08年 日本学士院賞受賞。

大谷能生 氏

今回初めてメセナアワードの審査委員をやらせていただきました。普段は演奏や執筆活動をしていて、企業の皆さま方とはそこまで関わり合いがなく、ある種の外側にいる、ものをつくっている人間として、どのような人達がどういった状況で文化に関わっているのかを勉強させていただきました。
全国の色々な場所から、さまざまな形で、企業の特質や地域との関わり合いなどの自分たちの資源を、どのような形で文化活動へ再度組み上げていくのか、多くの事例を拝見することができました。私自身、こんなにも数多くの企業のメセナ活動が行われているとは思ってもいませんでした。審査は本当に大変で、2つ並べてどちらがいいかというわけにはいかず、審査委員がメセナ活動とは何かとういうことまで突き詰めて考えるいい機会となり、文化活動というのはこうした形で行われていくのかと実感が湧きました。私自身が、審査に加えていただいてありがとうございましたという気持ちしかありません。受賞された皆さま、本日はおめでとうございました。

おおたに・よしお|音楽家/批評家
音楽家として多くのバンドに参加、また、近年はダンスや演劇など舞台作品への楽曲提供・出演も多い。批評家としての著作は『憂鬱と官能を教えた学校』(菊地成孔との共著・河出書房新社)など。

松田法子 氏

ご受賞された皆さま、本日は誠におめでとうございます。
今年度の審査を通じ、企業メセナの底の深さ、また社会に果たしうる可能性の広がりを感じました。それらについて、三つの視点から申し上げたいと思います。
一つ目は、地域と企業メセナという組み合せの可能性です。「JTB交流文化賞」をはじめ、地域の人の集まり方を変えたり、地域の見方を変えたり、あるいはその土地やコミュニティをより広い世界につなぎ直したりする取り組みが注目されました。それらのメセナ活動は、従来あった資源をさらに彩り豊かな姿に育てていると感じました。
二つ目は、世代をつないでいこうとする運動の重要性です。地域が充実し、活力があり、しかも多様で深みのある実態を保ち続けていくためには、数世代が一つの文化的経験を共有し、その文化のディテールは更新しながらも、本質は変えずに次世代へ引き継いでいくことが極めて重要です。かつて、年中行事や祭礼などは、地域に根差した生産活動を前提に行われていました。しかし、その構造が変化した現代あるいは未来において、文化伝承に企業メセナが果たしうる役割には実はかなり可能性があるのではないかと思いました。「沖縄タイムス伝統芸能選考会・選抜芸能祭」に加え、新しく地域祭礼をつくったといえる「南越谷阿波踊り」は、その意味からも非常に意義深いご活動と感じました。
その可能性をふまえて、 三つ目は、時代をつないでいく活動を挙げたいと思います。多くの企業の皆さまは、時代を“つくる”という使命をお持ちなのではないかと想像します。しかしメセナ活動を通じて、実はその使命には時代を“つなぐ”という活動も組み入れられてきたのではないでしょうか。「文化伝承活動」を代表に、今年度の受賞活動にはそれが芽吹いていたと思います。こうした展開が大きな花を咲かせていくことに、これからさらに注目したいと考えております。
今回の審査会は、企業メセナの諸活動が社会において文化のインフラになりうるということ、そしてその可能性が広がりつつあることを実感し、多くを学ぶ機会になりました。皆さま、本日はおめでとうございました。

まつだ・のりこ|都市史・地域史・生活文化論/京都府立大学講師
博士(学術)。東京大学工学系研究科学術支援専門職員などを経て現職。日本観光研究学会賞ほか受賞。著書に『絵はがきの別府』、共著に『危機と都市』等。国内外でフィールドワークを中心とした調査研究を行う。

馬渕明子 氏

今回初めて審査に参加させていただきました。私は美術館の館長として、与えられた予算で何が出来るのか、学芸員たちがやりたいことをどうやって実現させるかについて、日々考えながら仕事をしています。企業の方々とは、展覧会のスポンサーになっていただいたり、美術館内の小さな事業にご支援いただいたり、そうした形でしかお付き合いしてこなかったものですから、他の審査委員の先生方がおっしゃっているように、こんなにも多くのアイデアがあったり、企画があったりと、審査委員になるまで思いもせず、非常に勉強になりました。
審査会に臨み、企業のメセナ活動を支えるプロフェッショナルが育っているなと感じました。単発のおもしろい企画を立てることも重要ですが、毎年毎年の積み重ねで前年の反省を活かし、さらに高みを目指す活動が継続されて行われていました。地域に根差していたり、協力・応援する人たちがいたり、それぞれ活動の形がしっかりと形成され、メセナ活動を担う人材が育ち、未来を見据えて継続されていらっしゃることが素晴らしいと感じました。
最近は文化も幅広い意味で解釈され、観光などの分野、日常の食生活・住生活など、多方面に広がってきています。企業のメセナ活動に携わっている皆様が、集まって新たな事を考えたり、私たちのようなちょっとお堅い国立機関にいる人間へアイデアをもたらしてくださるなど、日本の今後の幅広い文化活動を支える重要な人材としてご活躍いただけたら本当にうれしいなと思います。
私は、今回の初の審査会では混乱の極みで、なぜこれがメセナなのかと悩んだり、またこんなにすごい活動があるのか、など驚きの連続でした。来年は今年の反省をふまえて、戦力になれるよう、さらに勉強させていただきたいと思います。今回受賞されました企業の皆さま、たまたま受賞に至らなかった企業の方々も、今後も素晴らしい活動を続けてくださるようお願いいたします。どうもありがとうございました。

まぶち・あきこ|国立西洋美術館長
東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専門は近代西洋美術史。パリ第四大学大学院 博士課程で学び、東京大学助手、国立西洋美術館主任研究官、日本女子大学人間社会学部教授等を経て現職。 文化審議会会長。

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