株式会社東横イン

会員ネットワーキンググループ 第7回会員ネットワーク勉強会「ART FACTORY 城南島」見学ツアー ~まちの新たなアート拠点を訪ねる~

企業メセナ協議会の会員が集い・出会う場を生み、メセナ活動にかかわる情報交換・研鑽の場として開催する会員ネットワーク勉強会。第7回目の勉強会として、2019年5月28日(火)、「ART FACTORY城南島」を訪問した。

会の前半では見学ツアーを行い、2つのグループに分かれて本館をご案内いただいた。
総床面積3,500㎡の施設の1階は大規模展示場として、世界的に活躍している現代彫刻家・三島喜美代さんの作品を常設展示。広大なスペースに氾濫する情報やゴミをテーマにした陶器のインスタレーションが並び、迫力ある空間となっている。

 
1階の展示場の様子。三島喜美代さんの世界観に引き付けられながら、立地や建物の活用について考える機会となった

 
キャットウォークには、パブロ・ピカソなどのコレクションが壁面に並ぶ。上から見下ろすと、改めて壮観な景色に圧倒される

3階は浮世絵の高精細データを和紙に印刷した展示室となっており、音声ガイダンスに導かれながら、当時の生活文化を細部まで理解することが出来る。4階は作品制作を行うアーティストに安価に場所を提供する貸しスタジオとなっている。広さは部屋によって異なり、つくり手同士、また鑑賞者との敷居を無くして、いつでも自由に見学出来るようになっている。

 
(左)浮世絵はボストン美術館にあるスポルティング・コレクションの高精細データを活用(右)3階展示室の創設から携わっている、東横インの執行役で文化担当の牧野健太郎氏

  
(左)4階の制作スタジオの様子(右)屋上では羽田空港に離着陸する飛行機を間近で見ることが出来る

会の後半では、(株)東横イン元麻布ギャラリーの内田智士氏より、「ART FACTORY城南島」を始めとする東横インのメセナ活動と、現在スタジオを利用しているアーティスト2名から話をうかがった。

 
                                    東横イン元麻布ギャラリー 専務・内田智士氏

 

1. 東横インのメセナ活動について
■ ART FACTORY城南島
東横インの創業の地、東京大田区に城南島があり、過去に倉庫として利用していた建物を「文化の香りがする場所に生まれ変わらせよう」と創業者の発案から、文化振興を柱とした社会貢献活動を行う場として、2014年にスタートしました。場所を東横インが提供し、運営をグループ会社である東横イン元麻布ギャラリーが行っています。主な活動として、

①大型美術作品・浮世絵展示
倉庫跡の巨大空間を利用した大型美術作品の展示、3階では東横インの基本理念である「清潔、安心、ねごろ感」と親和性の高い江戸の社会を写し取った浮世絵を題材とした展示を展開。
②貸しスタジオの運営
立地環境を生かしたアーティストの活動支援としての制作スタジオの運営。本館・別館と分かれており(※当日は本館のみを見学)、別館にある金属木工の加工スタジオでは、溶接や切削、木枠加工などが出来る機械も導入しています。部屋数22室のうち、現在は20組が制作活動をしています。
③ワークショップの開催
「大田のモノづくりに触れる」ことを目標にワークショップを開催。スタッフ間で企画を立ち上げるとともに、スタジオ利用者にも講師となり、技術や材料を生かした内容で月1回程度行っています。

また、3つの活動を通して、地元地域の活性化に寄与するために、観光協会や企業、NPO団体とも連携した文化的な取り組みを重ねてきました。

①大田オープンファクトリー
年に一度、大田観光協会と町工場組合が協働で、工場に住んでいる人や近隣住民に向けて行うイベント。「ART FACTORY城南島」ではバスツアーによる館内案内や、金属プレス加工の工場から提供された廃材を使ったアクセサリー作りなどを行っています。
②区内学校の校外授業
「ART FACTORY城南島」で主催している鉄道ジオラマのコンテストと関連して、大田区内の小学校の夏休みの校外授業として、手のひらサイズのジオラマを制作体験するワークショップを開催しています。
そのほかにも、「東京国際写真祭」の公募展覧会会場や美術大学の学生の作品展としての施設の活用、JR浜松町駅や東京モノレール羽田空港第2ビル駅等を会場に優秀作品の展示やワークショップを行っています。

■ 元麻布ギャラリーや浮世絵館の運営、100万人のクラシックライブ
それ以外のメセナ活動としては、2004年から元麻布ギャラリーの本社事務所がある東京元麻布と、甲府、佐久平、平塚の東横インのホテルの一角にギャラリースペースを設けて、地域の方たちを中心とした展覧会やワークショップを開いています。また、「ART FACTORY城南島」の3階とも連動して、成田空港に近いホテルの店舗の地下に浮世絵を題材とした展示を展開しており、そこでは映像を使った展示や芝居小屋のような仕掛けを行い、趣の変わったものを行っています。そして、若手演奏家に向けて演奏の場を支援している「一般財団法人100万人のクラシックライブ」を応援し、全国にある東横インのロビーを会場として提供するなど、ホテル空間を活用したメセナ活動に取り組んでいます。

2. 滞在アーティストによる作品紹介
■ タノタイガさん
立体造形、映像、パフォーマンス等、メディアを問わない多様な表現手法によって、社会制度やルール、法律などの記号性と媒体性を誇張した風刺的表現をおこなう。2019年7月20日から東京都現代美術館で開催の「あそびのじかん」展に出品予定。

絵画や彫刻など、様々な媒体やメディアを使っての作品制作、写真や映像を撮ってパフォーマンスのような活動をしています。

作品①:モノグラムライン
ルイ・ヴィトンのバッグを木彫で作り、模様はすべて色鉛筆で塗っていく作品です。彫刻家としてではなく、何か社会実験するために制作しています。木彫のバッグを肩から下げて空港から飛行機に乗り込み、国境を越え、パリのルイ・ヴィトンに行き、最終的にはつまみ出されるのですが、最後に日本へ帰国できるのか、「ボーダーラインプロジェクト」という映像作品をつくりました。また、ヤフーのインターネットオークションに出品したらどうなるのかという検証プロジェクトも行いました。

作品②:おもてなしプロジェクト
「銀座の歩行者天国で勝手にツーリストインフォメーションをやってみた」という作品です。ツーリストインフォメーションは往々にしてデパートの地下の奥や人目のつかない場所にしか設置していないため、個人的に移動しながらツーリストインフォメーションをやるという作品・行為を試みています。警察や商店街の方に止められることもありますが、「パフォーマンスではなく、個人的なおもてなしボランティア活動を路上で行っている」と説明します。実際、5分に1回は聞きに来られるので、外国人観光客も自分がアーティストであること、これがアート的行為であることも感じずに、このようなものがあったら面白いのではないかと思っています。こうした社会のルールの境界や矛盾点を探りながら作品制作をしています。

 

 

 

■ 新藤杏子さん
生き物の営みをテーマに油彩・水彩・アクリルを使用した平面作品と映像作品を作成している。2019年10月にTAGBOATギャラリーにてグループ展に出展予定。

平面作品を制作して、主に所属ギャラリーでの発表やアートフェアへの出展などをしています。
「人の営み」をテーマに、人と話して、生活の中にあるものや関心あるものとを掛け合わせた作品をつくっています。2005年に入院をした時に、出会った人や患者、看護師を一人ずつドローイングにして、裏面にはその人から聞いた話をプロフィールとして書くという作品を制作した事がきっかけです。

2017年には「鉱物と子ども」というテーマで、自分の息子と一緒につくった20点を青山のスパイラルギャラリーで発表しました。生物のルーツである木や鉱物、雨などに興味をもち、自分の子どもとかけ合わせたら面白いのではと制作しました。
最近では、自分の祖父母の写真や友人の両親の写真などを借りて対話をし、その人の人生を聞いて作品にしています。また、人間や動物の食物連鎖、生まれてから死ぬまでの輪廻転生のようなものを、説明的ではなく人の想像を喚起するような作品を展示しています。それ以外では、城南島に滞在してから初めて映像作品に取り組んでいます。
自分の身近な、普遍的であるけれども言葉にできないものを作品化することから始まり、実際に人との対話や自身の経験からモチーフなどを選んでいます。

 

 

最後に、内田氏は現在の城南島の活動を通して、このように総括した。

3. 「ART FACTORY城南島」でのアーティスト支援を通して
施設運営から5年目を経て感じることは、アーティストは本人の力だけで地位を確立していくのではなく、周りのサポートを必要とする点です。現在では海外で個展を開くほどの著名なアーティストに成長した方をみると、制作に専念出来る環境を与えることはとても重要だと思います。プロモーションや仕事を精査する上でのサポートなど、バックアップ体制が十分に整っていることにより、アーティストが制作に専念し、飛躍的に成長出来ると感じました。
また、城南島のような制作スタジオのサポートに限らず、これからはアーティストと企業が連携して、企業内や社会課題と対峙して模索していくことがますます求められる、それを考える価値があると思っています。
もう一つには、著名なアーティストは拠点を海外に移しています。例えば中国は、アーティストに対するサポート体制や社会的地位の確立などに大変力を入れており、マーケットとしてどんどん成長しています。この状況は若い作家にとっても魅力的で、今後さらに加速していくと、結果的に日本のマーケット自体の魅力が低迷して、才能が海外に流出してしまう恐れがあると感じています。
企業にとっては評価されるか実績となるか、アーティスト支援の難しさを担当者として感じながらも、社会の中でアクションを起こしている彼らの表現活動を支えることは、今後の日本社会にとっても大変重要であると思います。
「ART FACTORY城南島」は、誰でも中に入って自由にアーティストと話をすることが出来ますので、今回のツアーをきっかけに、これからもアーティストと接点を持っていただけたら幸いです。

 

「ART FACTORY城南島」の独自の取り組みを通して、アーティストとの深い信頼関係を築き上げてきた担当者の想いを受け、参加者からは、活動の継続性や本業とのかかわり、アーティストへの支援のあり方など、様々な質問が寄せられた。最後に、会場に展示されていたアーティスト両名の作品を鑑賞しながら、参加者同士、企業担当者とアーティストの垣根を超えた交流の輪を広げ、双方にとって刺激的な勉強会となった。

 
制作と発表の場、どちらも重要であるアーティストの話を受け、自社における企業メセナのあり方を今一度考える機会となった。勉強会の終了後も、終始和やかな雰囲気で参加者同士の交流は続けられた。

◎訪問日: 2019年5月28日(火)
◎訪問先: ART FACTORY城南島 http://www.artfactory-j.com/
◎協 力:  (株)東横イン https://www.toyoko-inn.com/
◎関連記事: 「メセナライターが行く、企業メセナ訪問記 ~企業の文化施設・アートスペース編~
Vol.3 株式会社東横イン/アートファクトリー城南島」
https://www.mecenat.or.jp/ja/column/visit/2359

会員ネットワーキンググループとは:
会員相互の交流・連携強化を目的に、情報交換・相談・研鑽などが恒常的に行える場を設けるため、2011年に発足。企業メセナ協議会会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、メセナ活動にかかわる課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。
*2019年度幹事(企業・団体名のみ):
凸版印刷、白寿生科学研究所、朝日新聞社、竹中工務店・ギャラリーエークワッド、ベネッセホールディングス、リクルートホールディングス、リソー教育 (計7社団体・敬称略)

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