メセナアワード

メセナアワード2018贈呈式

2018年11月29日(木)、「メセナアワード2018」贈呈式・記念レセプションをスパイラルホール(東京・青山)にて開催しました。
当日は、受賞者と受賞関係者、メセナご担当者、アーティスト、文化機関などのほか、約30名のメディア関係者を含め、約230名の方々にご出席いただきました。贈呈式では、各受賞活動の紹介に続き、文化庁より「特別賞:文化庁長官賞」(1件)、企業メセナ協議会より「メセナ大賞」(1件)および「優秀賞」(5件)へ表彰状とトロフィーを贈呈。 受賞企業の代表者はそれぞれ受賞の喜びをスピーチされ、審査委員からは選考評が述べられました。贈呈式終了後には、同会場にて記念レセプションを実施しました。

メセナアワード2018贈呈式 受賞者スピーチ

株式会社講談社 代表取締役社長 野間省伸 様

メセナ大賞:本とあそぼう 全国訪問おはなし隊


このたびは、「メセナアワード2018」メセナ大賞を頂戴いたしまして誠にありがとうございます。
また、ご選考いただきました審査委員の先生方、改めまして感謝申し上げます。
「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」は1999年7月に弊社の創業90周年記念事業として始まりました。北海道から沖縄まで全国の幼稚園、保育所、小学校などを訪問し、現在は日本列島の10周目を走っているところでございます。その間、訪問した回数は2万2000回以上を数え、ご参加いただいた方は延べ190万人を超えました。長年にわたりこの事業を継続できましたのも、訪問先の皆さま、読み聞かせボランティアの皆さま、「おはなし隊」の隊長およびドライバーの皆さま、本の寄贈をいただく出版各社の皆さまのご協力の賜物と感謝いたしております。この場をお借りいたしまして、心より感謝申し上げます。
今回の受賞にあたっては、出版文化の裾野を広げ、読書文化の継承に寄与していることが評価いただけました。本の読み聞かせと、実際に絵本を手に取って読書体験をするという、「おはなし隊」の地道な活動が絵本好きの子どもたちを育てることにつながれば、何よりのことだと思っております。「おはなし隊」の活動を見ていますと、子どもたちは本当に本が好きなのだと実感いたします。しかしながら、地方には書店も図書館もないという自治体も増えてきております。出版物を取り巻く環境は厳しいものがありますが、この「おはなし隊」の活動を通して、全国の子どもたちに本に触れる喜びをいつまでも届けられればと願っております。また、それが読書文化を継承することになると考えております。近年では、「おはなし隊」に参加した子どもたちの中から、編集者や記者など出版関係の仕事につく人も出ていて、とても嬉しく思っております。
私ども講談社は来年、創業110周年を迎えます。大きく様変わりする出版業界ではありますが、これからも多様な出版物を多くの方に提供できるよう努力してまいります。
最後になりましたが、ご出席の皆さま、企業メセナ協議会の皆さまとすべての関係者の方々に改めて厚く御礼申し上げます。本日は誠にありがとうございました。

アコム株式会社 代表取締役副社長 木下政孝 様

優秀賞 みんな笑顔で賞:「笑顔のおてつだい」バリアフリーコンサート アコム“みる”コンサート物語

このたびは、メセナアワード「優秀賞」という名誉ある賞を戴きまして、誠にありがとうございます。
社員一同、大変喜んでおります。我々が続けて参りました、「“みる”コンサート物語」は24年間で、すべての都道府県で実施しており、これまで延べ22万名の方々にお越し戴いております。
数字だけを申し上げると非常に明るい話題に聞こえますが、ここまで来る道のりは、決して平坦なものではございませんでした。この10年間の経営環境は、非常に厳しいものでした。激変する経営環境に対応すべく、様々なコスト・リダクションを推進しなければいけない中で、本当にこの「“みる”コンサート」を継続すべきなのか、という声も社内で出ておりました。ただ、私としては、この活動は、これから先も続けなければならないと判断しました。その理由と致しまして、お越し戴いたお客さまの笑顔、そしてお帰りの際の「ありがとう、楽しかったよ」との数多くのお言葉を戴けたからで、その一言に尽きます。そのような中で、今回、メセナアワードの優秀賞を受賞し、我々と致しましては、本当にやり続けてよかったなと、社会に認めて戴けたという実感が持て、大変嬉しく思っております。
我々の「“みる”コンサート」は各都道府県で公演しておりますので、もし皆さまのお住まいの地域で、開催しておりましたら、お足を運んでいただければと思います。
本日は誠にありがとうございました。

損害保険ジャパン日本興亜株式会社 執行役員 広報部長 兼 SOMPOホールディングス株式会社 グループCBO 青木 潔 様

優秀賞 アートで未来盛り上げ賞:SOMPO アート・ファンド


このたびは、メセナアワード2018の優秀賞をいただき、選考いただきました皆さま、ありがとうございました。社員一同、大変喜んでおります。
SOMPO アート・ファンドは、全国の文化芸術活動を支援するファンドで、個性あふれるアートプロジェクトや国際的なアートフェスティバルなどへの助成を通じて、地域の活性化に貢献することを目的とした取り組みでございます。2016年の開始から今年で3年目になり、これまでに全国54の活動に助成をさせていただいております。活動の目的は、復興支援、高齢化社会への対応、国際交流やダイバーシティの推進など社会的課題を解決することをテーマとした活動が多く、内容も音楽祭、映画祭、人形劇、ダンス、工芸、写真展など趣向を凝らした多彩な取り組みに助成をさせていただいております。
今年は皆さまご存知のように災害がたいへん多い年でして、我々保険会社としましては、保険金をお支払いして復興支援にお役立ていただいておりますが、東北地方や熊本など被災地でも「アートの力で街を元気にしたい」と、復興支援や被災地支援につながる活動が活発に行われています。私どもは、全国の支店と連携しながら、各地の活動を支援させていただいております。
私どもSOMPOホールディングスでは「保険の先へ挑む」というスローガンのもと、保険の枠組みを超えて、お客さまに「安心・安全・健康に関わる最高品質のサービス」をご提供して社会的課題を解決し持続可能な社会に貢献していこうと取り組んでおります。そのなかでCSRやSDGsは経営の基盤と位置付け、特に環境・福祉・文化芸術活動に力を入れて取り組んでおります。文化芸術活動に関しましては、新宿本社42階に企業美術館を持っておりまして、30年前に購入したゴッホのひまわりの絵を一般公開しております。当時の経営者の日本にいながら世界の名画に触れてほしいという強い思いがありまして、それを受け継ぎながら、これまで550万人以上の皆さまにご覧いただいております。2020年に向けて、現在、同じ敷地内に6階建ての新しい美術館を建設中であり、さらに多くの方にお越しいただけるのではないかと思っております。
当社は、長年、文化芸術に取り組んでまいりましたので、今回の受賞をたいへん嬉しく思っております。これを励みに、今後も文化芸術の振興を通じてより良い未来社会の形成に貢献していきたいと思っております。本日はありがとうございました。

株式会社東横イン 代表執行役会長 渡辺憲二 様

優秀賞 芸術創庫賞:ART FACTORY 城南島の運営


本日は素晴らしい名誉ある賞をいただき、ありがとうございました。社員一同と喜ぶとともに、約30年前、資生堂の福原さんが「メセナ」ということを言われ始めたときの感覚を思い出しております。我々、ビジネスマンというのはある種、相反することをいかに現実的に解決していくかが仕事でありますが、企業の価値創造に対して、企業の文化貢献という新しいテーマの設定が非常に新鮮だったのを覚えています。
東横インは32年前に創業されたエコノミーホテルで、20数年前から急成長し、いまや客室数で日本一となりました。そして本日、東海道新幹線の静岡駅に新店舗がオープンしたことで総客室数は6万室を超え、また東海道新幹線の全駅に出店を果たしたという、我々にとって記念すべき日にこの賞をいただけたことを本当に嬉しく思っております。
東横インは「清潔・安心・値ごろ感」の宿泊サービスの提供を会社の使命と考えており、各店舗の支配人は儲けることよりも、この使命のバロメーターである稼働率をいかに高くするかということを最重要目標に設定しております。この「清潔・安心・値ごろ感」を実現するのに最適なのが主婦の方で、支配人の98%は女性ですし、社長も女性です。東横インでは男性はマイノリティーなのです。そして、もう一つ大事にしているのは、それぞれの店舗は地元と一緒に生きるということです。私どものホテルにはレストランがありませんので、お客様は地元の飲食店を利用します。地元の小学校4年生を招待する「はじめての出張」という企画では、日曜の晩にホテルに泊まり月曜の朝にホテルから登校してもらう、彼らのお父さん達が日頃やっている「出張」を、子どもたちに体験してもらっています。一般財団法人100万人のクラシックライブとのコラボで、地元の方に来ていただき、ホテルのロビーで行うミニコンサート「100万人のクラシックライブ@東横INN」も好評をいただいています。
私どもはグループ会社内でホテルの開発、設計、建設、集客から運営まで行っており、建設用の資材を置く倉庫を城南島に保有していました。この倉庫をもっとうまく活用しようと創業者が発案し、若手芸術家の活動の場、そして日本の大切な財産である浮世絵を多くの人に見てもらうための場として、「ART FACTORY 城南島」が誕生しました。この思い、この活動が認められ、表彰していただけたことを本当に嬉しく思っております。本日はありがとうございました。

八戸酒造株式会社 代表取締役 駒井庄三郎 様

優秀賞 酒芸の極み賞:sake×art 日本酒を通じた陸奥八仙の取り組み

酒蔵が現在、全国で1300件ぐらいあろうかと思います。酒蔵というのは元来、どちらかというと閉鎖的で蔵に人を入れないところが多いのですが、それを何とかお酒に親しんでもらうために蔵にお客様をお呼びしたい、そして蔵を開放したいという思いがずっとあり、父が亡くなってから私がそれに取り組んでおります。先ほどの映像にもありました通り、地元ではそれぞれ文化芸術や地域の芸能がございますが、八戸には、豊作祈願の伝統芸能として無形文化財となっている「えんぶり」というすばらしい行事がございます。これを本当は皆さまにお見せしたいんです。先ほどの映像にはなかったので、ぜひ八戸においでいただきたいと思います。また八戸にはユネスコ無形文化遺産になった「八戸三社大祭」もあります。
このようにそれぞれの地域には各々の文化があると思います。私どもも酒蔵として、それらを生かして地域の役に立つことをしたいと思っております。
今日は同業の酒蔵の方もいらしています。それぞれの酒蔵ではいろいろなことをしています。私どもが受賞したということは、地方の皆さまの代表として賞をいただいたという気持ちでおります。
今日、うちの社員の今川というものがいますが、この今川が私どもの活動をうまく皆さまにお伝えするということがうまくできて賞をいただけたと思います。私どももこれからもいろいろな酒蔵の方々に、うちも賞をもらえたんですよということを伝えて、皆さんももっとアピールして一緒にやっていきましょうという気持ちです。本日は賞をいただきありがとうございました。

富士フイルム株式会社 代表取締役社長・COO 助野健児 様

優秀賞 瞬間の芸術賞:「写真の過去・現在・未来」を発信し、「人」と「人」をつなぐ FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)の活動


本日は「FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)」の活動に対しまして、「瞬間の芸術賞」という名誉ある賞を賜りまして、誠にありがとうございました。会社を代表いたしまして、厚く御礼申し上げます。
私ども、富士フイルムは1934年の創業以来、写真のすばらしさ、価値を広く伝えることに邁進してきました。西暦2000年を境としてデジタルカメラの普及という大きな波が押し寄せ、写真を事業としている多くの会社が、写真事業から撤退、あるいは一部の会社は会社そのものがなくなってしまうという状況になりましたが、我々は写真の文化を後世に伝えていくことが使命であると考え、事業を継続してまいりました。ここにいらっしゃる皆さまのなかにも、小さかったころご両親が撮ってくださった写真をアルバムに整理して、宝物としてお持ちの方が多くいらっしゃると思います。そのアルバムを開きますと、1枚1枚の写真を撮っておられる方の笑顔が浮かんでくるのではないでしょうか。アルバムの中でしか会うことのできない方の笑顔もそこにはいっぱいあると思います。写真というのは、このように喜びも悲しみも感動も愛情も、多くのことを伝えていくことができる貴重なツールです。この写真の文化をこれからも育成して、さらに私たちの子どもや孫の時代にも伝えていくことが我々の使命だと思っています。
フジフイルム スクエアは写真文化を伝える拠点です。活動としては、「富士フイルムフォトサロン」という展示場、「写真歴史博物館」、そして「フジフイルムフォトコレクション」という三つの柱があります。2007年に開設して以来、年中無休、入場無料で運営しています。2007年から1300回以上の写真展を開催し、600万人を超える多くの方に来ていただいております。もちろんこの活動は、写真を私どもに提供していただく方、そして鑑賞いただく方々とともにギャラリートーク等を通じて双方向のコミュニケーションで成り立っている活動です。
2017年、SDGsの考え方に沿って、CSR中期計画「Sustainable Value Plan 2030」を発表しました。この中で多くの社会課題に対して、たゆまない努力により、解決の道を探していくということを謳っております。この中で大事なことは皆さまの心を豊かにする、豊かな心を持った人が、将来、心豊かな社会をつくっていくことができる、ということであり、その活動の中心が写真文化を普及していくことだと、私は確信しております。活動を通じて、写真の良さを後世に伝え、心豊かな社会をつくるということに貢献していきたいと思っています。本日はどうもありがとうございました。

ぺんてる株式会社 代表取締役社長 和田 優 様 /キヤノンマーケティングジャパン株式会社 代表取締役専務 臼居 裕 様

特別賞 文化庁長官賞:校舎の思い出プロジェクト

ぺんてる株式会社 代表取締役社長 和田 優 様
本日は過分な文化庁長官賞をいただきありがとうございます。心から感謝申し上げます。
私どもは1946年に創業いたしました。創業者が戦後の荒廃の中で、これからは子どもたちの教育だということで絵の具やクレヨン、パスといった画材製品を生業とする会社を立ち上げました。創業者の想いがこれらの製品をもって社会に貢献せよということでして、その薫陶を受けて、今日この賞をいただくことができ、その想いが実ったかなと思っております。
キヤノンマーケティングジャパンさんのご協力、そしてご一緒させていただいたことに感激しております。私どもは単なる思い出をつくるということですけども、その思い出は残さなければいけないということで非常に重要な役割を担っていただきました。改めて感謝申し上げます。
写真にもありましたように、廃校になる校舎に絵を描いて、最後にニコッと笑う子どもたちを見て、こういう感性を育てることを本業にしてきて良かったなと思っております。これからも地域や社会に貢献する企業として頑張ってまいりたいと思います。本日は誠にありがとうございました。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社 代表取締役専務 臼居 裕 様
弊社は今年で50周年を迎えまして、その区切りの年にこのような栄えある賞をいただけて本当に喜んでおります。ありがとうございます。
このプロジェクトの内容は申し上げるまでもないとは思いますが、子どもたちが絵を描きます。キャッチコピー風に言いますと、「みんなで描いたペインティング、それはもうそれでアート」という感じです。ただ、それだけではなく、もう一つ大事だと思うのは、雰囲気や香りとしてある、消えゆくもの、去りゆくものへの感謝、愛着、愛情、哀愁。そういったものがあらゆる場所に波及して、思い出の場所をつくり上げています。きっと子どもたちには成長してもその記憶は残っているでしょうし、再会した時には熱く語り合うこともあるのかなと思いながら見ておりました。もちろんその姿を私たちが見ることはできませんが、そういうことを楽しく想像しながら、このプロジェクトを運営しています。
ぺんてる様には非常にお世話になっております。思い出づくりの雰囲気を映像に出来ているのかというのが我々の課題です。今後も一生懸命やっていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

選考評

委員長 原島 博 氏

まずは今回受賞された企業の皆さまおめでとうございます。
企業メセナ協議会では企業メセナを「芸術文化の振興とそれを通じた社会創造」としています。審査委員会もこれに基づいて賞を選定していますが、何しろ難しいのが、芸術文化とはいったい何だろうということです。特に難しいのが文化です。文化庁長官がいらっしゃいますけど、たぶんお答えになれないと思います。文化というのは定義したらそこでつまらなくなります。むしろ審査を通じて応募していただいた活動を拝見させていただいて、これも文化なんだと勉強させていただく、それが本当のところでございました。
たまたま今年はメセナ大賞が「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」、文化庁長官賞「校舎の思い出プロジェクト」と「子ども」がキーワードになりました。考えてみたら、「文化というのは未来につながるもんだよね」、まさに子どもは未来です。また「文化は未来を盛り上げるものだよね」ということで、優秀賞の中にそういう活動もございました。さらには、優秀賞の中には酒をテーマにしたものがあって、「酒こそ文化だよね」と一人、悦に入っている審査委員がおりました。現在、医者から酒を止められている私でございます。「文化はやっぱり継続だよね、こだわりだよね」あるいは「目に見えないところでの活動が文化かもしれない」、「現場でやっている人たちに喜ばれる活動が文化かもしれない」。そのような形で審査委員会を面白く務めさせていただきました。そして「文化はやはり笑顔だよね」、盛り上がりました。是非これからも審査委員会が楽しくなるようなメセナ活動を盛り上げていただければと思います。

はらしま・ひろし|東京大学名誉教授
2009年東京大学を定年退職。人のコミュニケーションを技術的に支援することに興味を持ち、その一つとして「顔学」の構築に尽力。科学技術と文化の融合にも関心がある。現在東京大学特任教授。

大谷能生 氏

今年で二回目の審査となりましたが、今年もたくさんのメセナ活動があり、本当にこんなにいろいろなものがあるのかと勉強になりました。企業が開発し生産して販売している商品は、基本的に不特定多数のお客様を対象につくられていますが、一方、それを買ってそれを楽しんだりする人というのは不特定多数ではなく、一人ひとりがそれぞれ暮らしている場所があり、それぞれの生活を持つ個人の方々がそれを楽しむわけです。一人ひとりがその商品を自分の楽しみとして使っていく。そうしたものをつくり出すものとして、僕は音楽に関わる人間なんですが、音楽や芸術というのは、一人ひとりの大切にする経験に関わってくる。企業もそうしたところに積極的に関わっている傾向を今回も見ることができました。受賞された企業の皆さまおめでとうございました。

おおたに・よしお|音楽家/批評家
音楽家として多くのバンドに参加、また、近年はダンスや演劇など舞台作品への楽曲提供・出演も多い。
批評家としての著作は『憂鬱と官能を教えた学校』(菊地成孔との共著・河出書房新社)など。

中島信也 氏

このたびは本当におめでとうございます。今年から初めて選考委員として参加させていただきました。私は、35年間ずっとCMの演出をやってきていまして、これだけ長い間やっていると会社の経営の部分にも携わっていかなければならない立場にあります。各社相当厳しい環境の中にありながら、メセナ活動をやっているということに敬意を表したいなと思いました。
広告という仕事は、企業と生活をしている人のコミュニケーションをつくっていくことでありまして、メセナ活動も、芸術作品をつくるわけではなくて、総じて生活している人と企業の良い繋がりをつくるということが根底にあると思います。これが私がやっているCMづくりとすごく近いものがあると感じました。
選考では皆さんの熱い思いがひしひしと伝わってきますし、決して楽ではないんですけれど、いろいろな活動からたくさんの学びを得たと感じています。経済的な面だけでなく、心や生活の部分も明るく豊かな社会をつくっていきたいとつくづく感じました。
おめでとうございました。

なかじま・しんや|東北新社取締役/CMディレクター
1959年福岡生まれ大阪育ちの江戸っ子。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒。デジタル技術を駆使した娯楽性の高いCMで数々の賞を受賞。武蔵野美術大学客員教授(情報デザイン学)、金沢工業大学客員教授(メディア情報学)。

松田法子 氏

ご受賞の皆さま、本日は誠におめでとうございます。
いま世界では移民や貿易などの局面をめぐって、グローバリゼーションへの疑問や軋轢が生まれています。グローバル化は世界を豊かにする。それは、現代経済を長らく支えてきた根幹的な思想でした。けれども、各地でそれが揺らぎ始めています。今までとは明らかに違う世界が回り始めているのです。
グローバル化への疑問の背景には、格差の存在が言われることが多いかと思います。しかしながら私たちは、多様な世界に手を差し伸べ合い、さらなる共生をはかっていくことの大切さとその必要性を、以前よりも強く感じているのではないでしょうか。それは遠回りのやり方に思えるかもしれませんが、人が人を豊かにする、唯一の方法のように思います。
文化や芸術が醸成され、花を開くにはたくさんの時間がかかります。具体的な目標や数値が求められつづける現場のなかで、それでも、草の根的活動を大切に育てていくこと。国益や私益だけが最優先なのではないという見識を育てること。企業メセナには、そのような重要な役割があるように思います。今回ご受賞された活動には、そのような気概を感じました。企業メセナが今後も多様な方向性のもと益々盛んになっていくことを心から願っております。

まつだ・のりこ|都市史・地域史・生活文化論/京都府立大学准教授
博士(学術)。東京大学工学系研究科学術支援専門職員などを経て現職。日本観光研究学会賞ほか受賞。著書に『絵はがきの別府』、共著に『危機と都市』等。国内外でフィールドワークを中心とした調査研究を行う。

馬渕明子 氏

皆さま仰っていましたように、いろいろな試みがリストとして出てきて、その文字と画像の裏に、かかわっている皆さんの熱意とか努力とか新しい発想とか、いろいろなものが行間からにじみ出ているような応募者リストでありました。企業というのは収益をあげる一方で、何か人の役に立ちたい、自分たちがもっているもの、自分たちが手にしているもので何かをしたいという思いがあり、そのようなエネルギーが日本の中にこれほどあるんだということを感じて非常に嬉しい思いがいたしました。
企業メセナはいろいろな形があります。私は美術館の人間ですので、やはり将来、美術を担っていけるような人材が育ち、それを受け取る人々が元気づけられ幸せになるというサイクルに、今回特に注目しました。例えば、「芸術創庫賞」ですね。いま日本のアーティストの方々は、作品を作る場所がなく困っています。東横インさんの目の付け所というのは非常に素晴らしいと思います。
斬新な発想以外にも、長い間コツコツ、大きな変化はないけれど無くなると水や空気と同じように困るというようなメセナ活動もあって、どれも評価させていただく側としては有難いものだと思いました。
メセナ活動が、子どもの未来や、人と人の気持ちをつなぐ重要なツールであってほしいなと思って審査させていただきました。受賞の皆さまおめでとうございます。

まぶち・あきこ|国立西洋美術館長
東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。専門は近代西洋美術史。パリ第四大学大学院 博士課程で学び、東京大学助手、国立西洋美術館主任研究官、日本女子大学人間社会学部教授等を経て2013年より現職。日本女子サッカーリーグ理事長。

大竹文雄 氏

※大竹委員は所用でご欠席となりましたので、こちらのメッセージが紹介されました。
少子化時代なので技術開発に直接役に立たない国立大学の人文・社会科学系の学部を縮小すべきではないか、という議論があります。この背景には、科学技術だけが新製品の開発に役に立っているという多くの人の思い込みがあります。実際、企業では自社の研究開発には多額のお金をかけても人材の育成や文化・芸術への支援には力を入れないところが多いのです。しかし、AI時代にはAIが取り扱いにくい分野こそが人のする重要な仕事になります。それには、豊かな文化や芸術が栄えるための土壌が重要です。企業が文化や芸術を支援していくことは、これからのAI時代に日本の企業が成長していくために必要なことです。そうした活動している企業を目に見える形にするのがメセナアワードだと審査をしていて実感しました。

おおたけ・ふみお|大阪大学大学院経済学研究科教授
京都大学経済学部卒業。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。大阪府立大講師、大阪大学社会経済研究所教授等を経て2018年より現職。博士(経済学)。専門は労働経済学・行動経済学。2008年日本学士院賞受賞。

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