「SDGsとメセナ」vol.10

国際セミナー「これからの企業メセナを考える」

企業メセナ協議会では、株式会社ベネッセホールディングスとの共催による国際セミナーを開催します。
基調講演には、同社の塩田基氏より世界的な評価を得ている「ベネッセアートサイト直島」や「瀬戸内国際芸術祭」などの最新事例をうかがいます。そのほか、占部まり氏とスベンドリニ・カクチ氏をゲストに招き、SDGsの目標である2030年、その先の未来に向けて社会における芸術文化、そして企業メセナの可能性について国際的な視点も交えながらお話しいただきます。
新型コロナウイルスや世界規模での自然環境の破壊などの影響で、世の中の価値観が大きく変化する中、企業メセナも進化しさらなる拡がりをみせています。
本セミナーは来年2月に開催するフィールド視察の事前セミナーとして、持続可能な社会に向けて芸術文化が果たす役割、そしてこれからの企業メセナを考える機会としています。当日はライブ配信も行いますので、ぜひお誘い合わせのうえご参加ください。


【開催概要】チラシ(PDF)
日 時|2023年12月21日(木)14:00~16:00(開場13:30)
会 場|御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンター ホール【EAST】(東京都千代田区神田駿河台4-6 2F)
参加費|一般3,000円(協議会会員は無料) / 学生500円
定 員|会場:80名 / オンライン(Vimeo):人数制限なし
※オンライン視聴の方は、本申込のうえ、所定の方法でお支払いいただいた後、開催日前日までにURLをご案内します
※見逃し配信有:2024年1月11日(木)~25日(木)

申込方法|
(1)カード(VISA, Master, JCB, AMEX)支払いの方(一般・学生)
□  Peatix: https://internationalseminar2023vol2.peatix.com
(2)事前振込、当日現金支払い(一般・学生)/無料(協議会会員)の方
□  専用フォーム: https://pro.form-mailer.jp/fms/e6f38f9f300447

申込締切|2023年12月13日(水) 
※オンライン視聴については、締切後も受け付けています。
また、開催日当日以降のお申込みは、専用フォームのみ受け付けています。見逃し配信をご希望の場合は、(2)よりお申込み下さい。


【プログラム】
14:00 開会

14:05 基調講演「ベネッセアートサイト直島、瀬戸内国際芸術祭にみる企業とアートの関係性」
□   塩田 基氏(株式会社ベネッセホールディングス 本社・直島統轄部 渉外課 担当課長)

14:45 ゲストトーク
□     1.「SDGsから未来へ 社会的共通資本と考える」 /占部まり氏(宇沢国際学館代表取締役)
□     2.「海外企業のアートと文化のCSR活動」 /スベンドリニ・カクチ氏(Tokyo Correspondent, University World News. UK)

15:25 クロストーク
□    パネリスト:塩田基氏、占部まり氏、スベンドリニ・カクチ氏
□    ファシリテーター:澤田澄子(企業メセナ協議会 常務理事)

16:00 閉会


【ゲストプロフィール】(敬称略)

塩田 基 [株式会社ベネッセホールディングス 本社・直島統轄部 渉外課 担当課長]
公益財団法人福武財団経営企画特命部長。株式会社ベネッセホールディングス本社・直島統轄部渉外担当課長。1991年 福武書店(現 ベネッセコーポレーション)入社。高校営業(進研模試)、総務(ファシリティマネジメント)、障がい者雇用の特例子会社立ち上げ、経営企画を経て、2014年 公益財団法人福武財団に出向。渉外担当としてベネッセアートサイト直島ならびに瀬戸内国際芸術祭での企業連携を担当。
占部まり [内科医/宇沢国際学館代表取締役/日本メメント・モリ協会代表理事]
シカゴにて宇沢弘文の長女として生まれる。地域医療に従事するかたわら、人々の幸福のための経済学を突き詰めた宇沢弘文の理論、社会的共通資本などをより多くの人に伝えたいと活動をしている。京都大学社会的共通資本と未来寄附研究部門発起人。
スベンドリニ・カクチ[Tokyo Correspondent, University World News. UK]
30年以上東京に在住し、日本とアジアの関係について取材・執筆活動を続けるジャーナリスト・作家。取材・著作の主なテーマは、地域開発、教育、環境、マイノリティー問題。現在は、世界各国の高等教育機関に関するニュースや研究事業について配信する英国のニュースサイト「ユニバーシティー・ワールド・ニュース(University World News)」(本社ロンドン)の東京特派員。2021年から2022年にかけては、公益社団法人日本外国特派員協会(FCCJ)の会長を務めた。
澤田澄子 [公益社団法人企業メセナ協議会 常務理事]
大学卒業後、キヤノン株式会社入社。カメラ、ビデオ、知財、人事、広報部門を経て社会貢献推進室長、社会文化支援部長、CSR推進部長。退職後、2018年3月より現職。特定非営利活動法人日本NPOセンター評議員、静岡県文化政策審議会委員、船橋市文化振興推進協議会委員。一般社団法人「協力隊を育てる会」理事、公益財団法人日本自然保護協会理事など。

◆本セミナーとの関連イベント:「瀬戸内国際芸術祭」の舞台を体感する、ガイド付特別ツアー

出発日|2024年2月9日(金)・10日(土)
視察先|直島、豊島、男木島(※現地のガイドがご案内いたします)
募集人数|16名(最小催行人数8名)
詳細URL| https://www.mecenat.or.jp/ja/events/15739
申込URL| https://nao-tour2.resv.jp/direct.php?direct_id=7003 (WEB予約システム)


主 催 公益社団法人企業メセナ協議会
共 催 株式会社ベネッセホールディングス
助 成 文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(次代の文化を創造する新進芸術家育成事業))
□   独立行政法人日本芸術文化振興会

 

 

開催報告

2023年12月21日(木)、御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにて、「これからの企業メセナを考える」と題した国際セミナーが開催された。本企画は、ベネッセホールディングスと企業メセナ協議会との共催である。
コロナ禍を経てなお、世界は大きな変化の渦中にある。本当の豊かさとはなんだろうか? 「SDGsの目標である2030年、その先の未来に向けて、芸術文化の価値や企業メセナの可能性について、改めて考える機会になればと思います」と 企業メセナ協議会 常務理事 澤田澄子が開会の挨拶を述べて、基調講演が始まった。
開催概要はこちらから


◆基調講演
「ベネッセアートサイト直島、瀬戸内国際芸術祭にみる企業とアートの関係性」
塩田 基氏(株式会社ベネッセホールディングス 本社・直島統轄部 渉外課 担当課長)

基調講演の登壇者は、「ベネッセアートサイト直島」「瀬戸内国際芸術祭」で企業連携を担当する、ベネッセホールディングスの塩田基氏である。


”Benesse”という社名は、ラテン語の「bene(良く・上手く・善;benefitの語源)」と、「esse(存在・本質; essenceの語源)」を組み合わせた語源で「よく生きる」ことを表している。この企業フィロソフィにもとづき、ベネッセは幼児から社会人までの教育事業や介護事業を展開してきた。
ベネッセアートサイト直島は、そんな同社が30年もの長きにわたって、瀬戸内海の島々で取り組んできた文化事業の活動の一つだ。創業社長である福武哲彦氏と当時の直島町長・三宅親連氏が出会い「瀬戸内海の島に世界中の子どもが集い、楽しめるキャンプ場をつくりたい」と、意気投合したことが活動のきっかけだった。その半年後に福武哲彦が急逝 、福武總一郎がその意思を継いだ。
「『営利事業だけでなく、文化に投資することが企業価値を向上させる』という強い意志が、当時からあったのです」と塩田氏は語る。

1989年の直島国際キャンプ場オープンを皮切りに、安藤忠雄の監修のもと、ホテルと美術館が融合した「ベネッセハウス ミュージアム」や、古民家などを改修・アート化する「家プロジェクト」、地下にありながら自然光を採り入れた「地中美術館」などを公開。活動は直島を中心に、犬島、豊島でも展開されていった。
自然の中に溶け込んでいることがベネッセアートサイト直島の展示の特徴だ。岸壁に設置された杉本博司の《タイム・エクスポーズド》や、海に突き出た桟橋にぽつんとたたずむ草間彌生の《南瓜》など、作品が周囲の環境に調和しながらも、それでいて独特の体験を提供している。
「アート・建築それ自体が目的ではありません。アートを通じて、自然の魅力や人とのつながりを改めて感じてほしいと思っています」と、塩田氏はいう。
「もともと瀬戸内海の島々は、シーボルトやトマス・クックといった識者が賞賛する美しい場所でした。しかし時代が下るにつれ、環境への負荷が懸念される製錬所設置や産業廃棄物の不法投棄事件の発生など、経済成長の負を引き受ける場所となってしまいます。アーティストには、そんな島の自然や歴史を理解してもらったうえで、島民と協働しながら作品をつくってもらっています。」

アートサイトの一つ、豊島は、大規模な不法投棄事件が起きた場所である。1976年から1990年にかけて、廃タイヤ、金属くず、廃プラスチック、廃油など合計約100万トンにおよぶ産業廃棄物が持ち込まれ、多大な健康被害や風評被害をもたらした。産廃の撤去と投棄現場の整地がようやく完了したのは、2023年になってからだ。
そんな豊島の、休耕田となっていた棚田を地元住民とともに再生させた敷地の一角に、豊島美術館は建てられた。季節の移り変わりや自然の魅力を最大限感じることができる美術館となっている。
こうしたアートの力で、現在では活動の中心、直島には、毎年およそ50万人が島々に訪れるようになった。島民自身が島の美観・歴史を守るための政策を打ち出し、飲食店や宿泊施設が増加するなど、地域経済にも好影響を与えている。

こうしたベネッセアートサイト直島の活動を、瀬戸内の海全体に拡張したのが瀬戸内国際芸術祭だ。「海の復権」をテーマに、12の会場でアートの展示やお祭りが行われる。100日の会期中に、世界中から約100万人が訪れるイベントだ。
「来場者の9割に『よかった』と評価してもらっていますが、私たちがより重要視しているのは、”島民の満足度”で、こちらはアンケートによると、7割ほどに満足してもらっています。会場の一つ男木島では、芸術祭をきっかけに移住者が増え、休校していた小中学校が再開しました。これは日本で初めてのことです」

ベネッセと瀬戸内海の島々の取り組みは、海外からも魅力的に映っている。米紙ニューヨーク・タイムズが2019年に発表した「52Places to Go in 2019」では、「瀬戸内の島々」が第7位に選ばれた。日本国内では唯一だ。

瀬戸内国際芸術祭はベネッセ以外の企業にとっても、ウェルビーイングを考え直すきっかけとなっている。2022年には262の団体・企業から協賛を受けたが、塩田氏によれば、とくに近年は寄付だけでなく、企業連携によって新たな価値をつくる「共創型」が増えているという。たとえばホッピービバレッジは会期中に古民家カフェバーを運営し、家具メーカーのイトーキは、社員の生産性とウェルビーイング向上を図る「ワーケーション」の実証実験をメイン会場で行った。
「対話型鑑賞の体験を通し、観察力や批判的思考力・コミュニケーション力といった『アート思考』を育てる場としても瀬戸内の島々は注目されています。当初はベネッセの社内だけで実施していたのですが、最近は企業研修として提供することが増えてきました」
文化活動は企業に大事な視点を与えてくれる、と塩田氏は総括する。
「どの企業も『顧客』の課題解決には取り組みますが、お客様である以前にみな『人』であり、過疎・差別・環境破壊といったことは、等しく課題であるはずです。文化活動は、より根源的な社会課題に気づかせてくれます」

 

◆ゲストトーク
「SDGsから未来へ 社会的共通資本と考える」
占部まり氏(内科医/宇沢国際学館代表取締役/日本メメント・モリ協会代表理事)

続いてのゲストトーク登壇者は占部まり氏である。氏の父親である宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」という経済理論をもとに、SDGsの達成に向けた未来が語られた。

社会的共通資本とは、自然環境や社会インフラなど、すべての人々が豊かな生活を営むための基盤のことだ。市場原理だけに任せたり、一元的な管理ではうまく立ちゆかない。
占部氏は「経済は人間の心が動いて初めて動き出すものです」という。
「父は、人間が存在することが経済活動の始点であり、その根本がなにより重要と考えていました。アダム・スミスは『社会は共感からなる』と言っており、state(行政的な国家)ではなくnation(文化的な国民共同体)を豊かにする方法を説いています。お金に換算できないものの価値を、もっと大事にしなければなりません」

金銭化できない価値、言語化できない感覚こそ、改めて見直す必要があると占部氏は続ける。
「たとえば、一人ぼっちを感じる『孤独』は、タバコ1日15本分の健康被害をもたらすと言われています。逆に、アートを通じて自己表現することや、コミュニティのゆるやかなつながりを持つことが、健康につながります。また、地域の文化環境に満足している人ほど、 ユーダイモニア(意義あることに打ち込む幸せ)を感じているという結果が現れています。企業のメセナ活動は、社会的な健康・ウェルビーイングを守るうえでも重要な取り組みなのです」

 

「海外企業のアートと文化のCSR活動」
スベンドリニ・カクチ氏(Tokyo Correspondent, University World News. UK)

ゲストトーク二人目の登壇者は、ジャーナリストのスベンドリニ・カクチ氏。カクチ氏は、ヨーロッパとアメリカにおけるアート支援のトレンドを語った。

アート活動の支援には公共(助成金や奨学金など)、民間(スポンサーシップや財団など)・個人(寄付やメンバーシップなど)の3つのセクターがある。
ヨーロッパでは政府の役割が大きく、アートと文化に対する公的支援が充実している。地方自治体が伝統文化を保護し、維持するために大きな支援を行うことは、地域住民の文化的アイデンティティを守る重要な手段として機能している。一方、アメリカは自由経済主義が色濃く、政府の支援は限定的だ。民間の財団や個人の寄付が大きな役割を果たしており、映画業界なども大きな影響力を持っている。
「西洋では、特に若い世代がアート活動を人権の一部と捉え、自らのアートへの関与を重視しています。企業もこの変化にこたえ、単なる広告ではなく、本格的なスポンサーシップを通じたアート活動に貢献しています。劇場や博物館にとっても、財政難によって政府の支援が減少する中で、民間のサポートを集めることが重要になってきています」

さらにカクチ氏は、より社会変革を意識した支援が行われるようになったと続ける。
「たとえば気候変動などグローバルな社会課題を意識づけするエキシビションへのサポートが重視されるようになっています。企業にとってアート活動の支援は、文化への貢献を超えて、よりよい社会を目指す動きとして認識されているのです。このトレンドは今後も拡大していくことでしょう」

 

◆クロストーク

最後のクロストークでは、瀬戸内国際芸術祭の意義と、アートのこれからの可能性について改めて話し合われた。

占部氏:
「父がベネッセハウスを訪れたとき、『自然の中に安藤建築を置くなんて』と憤って帰ってくるのではと思っていたのですが、実際は『わからない』といっていたのが印象的でした。私自身、瀬戸内の魅力にとりつかれて30回近く行っているのですが、魅力を言語化できないんです。感じ方は違っていい。雄大な自然にアートがあって、謙虚さと創造性が発火する。そんな現場が共有できているのかなと思っています」

カクチ氏:
「瀬戸内国際芸術祭は、もっとコンセプトを高らかに謳うべき、よい成功例だと思います。私は千葉から来たという若いアーティストと出会いました。有名アーティストだけでなく、地元でコツコツやっている若者も参加できる、開かれた場だということです。今後さらに日本社会が多様になっていく中で、企業にとっては、さまざまな生き方・考え方に触れるよい機会となるでしょう」

塩田氏:
「最後に、自分がこれまでの活動を通じて気づいたポイントを三つお伝えしたいと思います。一つ目は、『事業活動だけでなく、事業とメセナ(文化活動)を立体的に考えていくこと』です。利益を追求するだけが企業ではありません。社会課題を考えていくことこそが企業本来のあり方だと、経営レベルで捉えることが大事です。
二つ目は『ロングコミット』。文化活動は5年10年と時間がかかるものです。どんな小さなことでも継続が必要であり、時間がかかることを前提にしましょう。
そして、三つ目は担当者の心構えです。ともすれば孤独で、周りの協力を得にくい状況に陥るかもしれません。そういう時は、メセナネットワークのような緩やかなつながりに加わりましょう。そして自分たちの会社がなぜこの活動をしているのか? そして、『見えない価値の言語化』に努めていきましょう」

 

本セミナーを通じて、アートが企業・社会にもたらす効用は多岐にわたると再認識できた。コミュニティのウェルビーイングの向上、社会的な課題に対する意識の高揚、そして長期的な価値創造につながる可能性を、メセナ活動は秘めている。とくに瀬戸内国際芸術祭は、さまざま企業が参加・協力可能な「共創の場」となっている点も見逃せない。
ビジネスはアートと相互作用することによって、より豊かな社会を構築することができる。そんな実感を得られるセミナーだった。

【報告】瀬戸義章/メセナライター

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