「SDGsとメセナ」vol.11

「2023年度メセナ活動実態調査」報告会 ~人を育てる・つなぐメセナ活動とは~

企業による芸術文化振興の取り組みに関する「メセナ活動実態調査」の2023年度調査結果の報告会を開催します。
最新の調査結果報告とともに、若手芸術家の支援や次世代教育、地域の人々にかかわるメセナ活動を行っている企業・団体のご担当者様から事例をご紹介いただきます。
後半は昨年までのメセナアワード選考委員でCM演出家の中島信也氏をモデレーターに迎え、ご登壇者の皆さまとともに実践的な見地から議論を深めます。


【開催概要】※チラシ(PDF)

■日 時:2024年7月23日(火) 14:00~16:00(開場13:30)
■会 場:大手町フィナンシャルシティ カンファレンスセンター ホール
(〒100-0004東京都千代田区大手町1-9-7サウスタワー3F)
■参加費:一般:3,000円 学生:500円 協議会会員:無料
■定員:
・会場:70名
・オンライン:人数制限なし ※アーカイブ配信[7月30日(火)~8月31日(土)]
■お申込み締切:7月16日(火) ※アーカイブ視聴のみ8月7日(水)まで受付中
■お申込み方法:
(1)【受付終了】クレジットカード(VISA, Master, JCB, AMEX)払いの方
Peatix:https://mecenatresearch2023.peatix.com
(2)【8月7日(水)までアーカイブ視聴のみ受付中】事前振込または当日会場支払い(現金のみ)の方、協議会会員の方
※振込は7月17日(水)まで→アーカイブ視聴は8月7日(水)まで
専用フォーム:https://pro.form-mailer.jp/fms/0843da37314855


【プログラム】

◇開会ご挨拶 夏坂真澄[企業メセナ協議会 理事長]

◇2023年度メセナ活動実態調査結果報告 天野真一 氏[企業メセナ協議会 調査研究部会長/キヤノン(株) サステナビリティ推進本部 社会文化担当主幹]

◇メセナ活動のご紹介
(1)公益財団法人クマ財団 *株式会社コロプラ創業者 馬場功淳氏設立
「次世代クリエイター支援 『クマ財団』の取り組み」
野村善文 氏[(公財)クマ財団 事務局長]
(2)株式会社東京ソワール
「東京ソワールのメセナ活動 服育『僕の私のフォーマルウェア』」
齋藤由美 氏[(株)東京ソワール 人事総務部 CSR担当]
(3)田辺三菱製薬株式会社
「田辺三菱製薬史料館の運営」
岡村美香 氏[田辺三菱製薬(株) PR部 グループコミュニケーショングループ]

◇クロストーク
モデレーター:中島信也 氏[CM演出家・クリエイティブディレクター/武蔵野美術大学 客員教授]
野村善文 氏、齋藤由美 氏、岡村美香 氏

◇閉会ご挨拶 澤田澄子[企業メセナ協議会 常務理事]

 

開催報告

公益社団法人企業メセナ協議会は、2024年7月23日(火)、大手町フィナンシャルシティ カンファレンスセンターホール(東京都千代田区)にて、「2023年度メセナ活動実態調査」の報告会を開催した。

報告会のテーマは「人を育てる・つなぐメセナ活動」。プログラムはまず、2023年度メセナ活動実態調査の結果報告から、傾向といくつかのポイントについて解説。その後、メセナ活動の紹介として3社・団体の企業が登壇し、各社のメセナ活動の取り組みについて発表した。最後は、クリエイティブディレクターの中島信也氏と、登壇者3名で「人を育てる・つなぐメセナ活動」をテーマに意見を交わした。

開催概要はこちら

 

◇2023年度メセナ活動実態調査結果報告
天野真一 氏[企業メセナ協議会 調査研究部会長/キヤノン(株) サステナビリティ推進本部 社会文化担当主幹]

2023年度メセナ活動実態調査は、調査対象期間を2022年4月~2023年3月とし、日本国内企業2,088社・企業財団309団体を対象に実施。調査結果をまとめた『Mécénat Report 2023』を3月26日に発行した。

調査結果の主なポイントは3つ。
1.メセナ活動の実施件数が前年に続き増加し、回復傾向が鮮明になっている。
2.「地域」とともに、「人を活かすこと」がメセナ活動の目的として重視される傾向が強まっている。
3.障がい者の方の文化芸術活動支援において、「作品の販売」などを通じた新たな価値創造へのチャレンジが進んでいる。

まず1つ目のポイントであるメセナ活動の企業実施件数は、2023年度調査で1,568件となり、2022年度の1,379件に対して189件増加した。新型コロナ以前、2020年度調査の実施件数1,645件にはまだ到達していないが、2021年、2022年と順調に増えてきており、回復傾向が鮮明になっている。

企業の実施内容を見ると、「自主企画・運営」が221件となり、コロナ以前の2020年度時点と同じ件数となっている。一方で、「他団体への支援・提供」は20年度の267件より31件少ない236件とまだ回復には至っていないことがわかる。また、活動分野では音楽が1位、次いで美術、工芸と続く。

次に「メセナ活動の取り組み目的と重視した点」に関して、まず取り組み目的は「芸術文化支援のため」が最も多く全体の73.2%だった。
その中で重視した点の1位は「芸術文化の振興」、2位が「地域文化の振興」となっている。3位の「青少年への芸術文化支援」、4位の「若手などの芸術家への支援」においては、20年度よりも割合が高くなっており、若手アーティストなどへの支援が重視されていることが見えてくる。

全体の38.5%の「芸術文化による社会課題解決のため」という目的の中で、重視した点は、1位が「次世代育成・社会教育」、2位が「まちづくり・地域活性化」、3位が「社会福祉」。全体の70.2%と2番目に多い「社業との関連・企業価値向上のため」においては、「地域社会との関係づくり」が最も重視されていた。
調査結果全体から、メセナ活動全体として「地域」とともに「人を活かす」という点が重視される傾向が強まっていることが調査結果から明らかになった。

3点目として、障がいのある方の文化芸術支援については、企業・財団ともに4~5割が対応を実施または検討していると回答した。


平成30年に「障がい者による文化芸術活動の推進に関する法律」が施行されており、「芸術上価値が高い作品の販売などに係る支援」について「施行前から実施している」より「施行されて以降、実施している」と回答した企業が20%高く、作品の販売などを通した新しい価値創造のチャレンジが進んできている。


メセナ活動のご紹介
(1)公益財団法人クマ財団 事務局長 野村善文 氏
  「次世代クリエイター支援 『クマ財団』の取り組み」

公益財団法人クマ財団は、若手クリエイターの育英事業を行ううえで3つの柱がある。最も大きな柱となるのが「クリエイター奨学金制度」で、これまで339名の若手クリエイターを支援してきた。そして奨学金の卒業生を対象とした「活動支援助成事業」、また奨学生や卒業生がプロジェクトを発表する場としての『クマ財団ギャラリー』を六本木に構え「ギャラリー運営事業」も行っている。財団自身で場を持ち、多種多様な催し事を開催することで若手クリエイターと社会がつながる場の実現を目指している。

「奨学金制度」は財団設立時からの事業であり、25歳以下の学生クリエイターを対象とし、年間120万円の給付型奨学金を支給する制度だ。特徴は「返済不要・使用用途不問」。若手クリエイターは、奨学金を制作費や素材費に充てたい人、家賃を稼ぐためのバイト時間を減らし制作時間を増やしたい人とさまざまであり、用途の自由度を高くすることにより、財団設立者の「本気で取り組む1年を」支援したい、という想いのこもった制度設計となっている。また、新しい価値を生み出そうとする才能を応援するためには、ジャンルの縛りが足枷になることもあるため、「ジャンル不問」としている。これまでに”29″ものジャンルへの支援実績がある。

奨学生にとっての一番の財産となるのは、資金援助だけでない包括的サポートがあること。毎年50人ほどの同じような志を持ったクリエイターが集まりつながることができる。たとえば合宿への参加やグループに分かれて開催する展示会などが、新しい知見や違う分野に触れる機会となり、クリエイターたちの刺激になっている。
クマ財団は、このような支援を通じて、タグラインとして掲げる「創造性が共鳴する、世の中へ」の実現を目指していく。


(2)株式会社東京ソワール 人事総務部 CSR担当 齋藤由美 氏
 「東京ソワールのメセナ活動 服育『僕の私のフォーマルウェア』」

レディースフォーマルウェアのリーディングカンパニーである東京ソワールのメセナ活動のテーマは、服育『僕の私のフォーマルウェア』。学校へ出向く「出前授業」を行ったり、会社へ来てもらい「体験授業」を実施したりしている。
東京ソワールでメセナ活動が大きく進展したのが2014年。全社的なメセナ活動を推進する「社会貢献委員会」を設立した。社内の全部署を横断する委員の任期は2年で、1年目はメンバー、2年目はリーダーとして活動を牽引する役割を担う仕組みだ。10年間で、211人の社員全員がメセナ活動を経験した。

服育の活動では、「学ぶ」「創る」「伝える」という3つキーワードがある。体験授業では、まず海外での生産から船での運搬、販売に至るまでのプロセスを聞いたり、パタンナーから服のパーツつくりの説明を聞くことで、生徒たちはアパレル業についての「学び」を深める。
次に、「創る」においては、アナログクリエイティブな体験として、限られた時間でテーマに沿って、フォーマルドレスを「どんな人に着てもらいたいか」「どんな生地・ボタンを使うか」などのイメージをかたちにするイメージマップを作成する。
最後に重要なのが、「伝える」だ。イメージマップを作成した生徒は、東京ソワールの社員に向けて発表していく。
生徒たちから「人を笑顔にする職業につきたい」「仕事でも学校生活でもスピードを大切に役割を果たしたい」「プレゼンは相手のことを考えて行いたい」などの感想が集まっており、服育が職業観の形成や学校生活を送るうえでの気づきを得る機会となっている。

さらに、「服のリサイクルを知り、自分も使わなくなった服をリサイクルしたいと思った」という声もあった。東京ソワールは、アパレル企業としてSDGsにも取り組んでおり、服育の活動がその一環であるとともに、生徒たちがSDGsを理解する第一歩にもなっている。


(3)田辺三菱製薬株式会社 PR部 グループコミュニケーショングループ 岡村美香 氏
  「田辺三菱製薬史料館の運営」

医療用医薬品を中心に製造販売する田辺三菱製薬株式会社は、大阪の道修町(どしょうまち)に本社を構える創業1678年の老舗企業だ。本社ビルの中にある「田辺三菱製薬史料館」は3つのゾーンにわかれ、「くすりの道修町ゾーン」では創業当時の看板などの展示、「あゆみゾーン」では田辺三菱製薬の歴史、「いまと未来ゾーン」では新薬開発などの紹介を行っている。2015年に開設し、年間来館者数は約6,000人、地域と社会に開かれた場として利用されている。

道修町は日本の医薬品産業発祥の地といわれる歴史と伝統のある「くすりの町」。50社近い医薬品関連会社が立ち並んでいる。日本の医薬品産業の中心地として栄える道修町や医薬品産業の歴史を伝えていくために、田辺三菱製薬が少彦名神社や近隣の製薬会社に呼びかけ、道修町通約300メートルの各館を「道修町ミュージアムストリート」として一体運営している。たとえば、神農祭の合同イベントや市民向け歴史講演会・学生向け見学会を行ったり、一つの館だけではできない活動の広がりをつくり出し、道修町全体の認知向上を図っている。また、同業他社の新入社員教育の合同受入れなども、田辺三菱製薬が取りまとめをすることで実施することができ、来館者へより大阪の歴史と文化を知ってもらう活動が可能になっている。

また、史料館が単独で取り組む地域コミュニティの振興活動として田辺三菱製薬の公式キャラクターの「たなみん」をアイコンにした「道修町たなみん寄席」を年2回、開催。この活動は社員もボランティアとして参加し、社内の一体感醸成にも寄与している。さらに、地域認知向上活動として企画展を開催したり、地域他団体や行政との連携も深めている。

田辺三菱製薬史料館がハブとなり、道修町を知らない一般の方への認知度向上と地域住民への地域コミュニティの振興、および次世代への情報発信を行い、今後も道修町を中心とする大阪の歴史や文化の認知向上を図っていく。

クロストーク
野村善文 氏、齋藤由美 氏、岡村美香 氏
モデレーター:中島信也 氏[CM演出家・クリエイティブディレクター/武蔵野美術大学 客員教授]

クロストークでは、CM演出家でクリエイティブディレクターの中島氏をモデレーターに迎え、事例紹介の登壇者3名がパネリストとして意見交換を行った。

今回発表した3社・団体はそれぞれが人を育てる・つなぐメセナ活動を行なっている。クマ財団は奨学金制度などを通じて若手クリエイターを育てている。東京ソワールは服育によって生徒の職業体験となっているだけでなく、それが社員にもプラスに働いている。田辺製薬では、地域全体を育て、人と人をつなぐことによって、人を育てる取り組みとなっている。

田辺三菱製薬の岡村氏は「学生さんたちが道修町に来てもらって、医療用医薬品というなじみのない世界を体感する。それがキャリア教育に結びつき、なにか薬に携わる仕事に就きたいなといってくださる方もいる。まちを育てていくことが、人を育てるということにつながっていくと感じている」と話し、中島氏も「地域を育てることが、体感する場所をつくることになり、子どもたちや学生にとってもよい経験になり、そこを軸に人は育っていくのではないか」と語った。

また、中島氏はクマ財団・東京ソワールが若手クリエイターや学生に発表の機会をつくっていることに対して「発表の場が若者を育てることになる。とても大事なこと」と指摘した。

クマ財団では、奨学生が1年間の最後に6名くらいのグループをつくってグループ展を行う機会を作っている。コロナ禍で制限されるタイミングもあったが、野村氏は「作品を外に出せないと、どういう感想やフィードバックがあるか、自分の作品がだれにどう響くのかがわからない。クリエイターも作品で語れば、と思っていても意外とプレゼンしなければならない、ということもある。発表する場であったり、仕組みとして整えておく、ということが大切だ」という。

中島氏も「何かを自分たちが発表するとなると入り込み方、深さが変わってくる。発表の機会、発表の場が人を育てるメセナ活動の一つの軸になる。」と述べた。

さらに中島氏は、メセナ活動は社会や社外に向けての活動だが、最近のメセナ活動を見ていると、活動することによって会社の中・社内が活性化し、会社にもメリットがあるという活動が増えてきている、と投げかけた。

東京ソワールでは、211人の社員全員が一度は社会貢献活動に参加している。斎藤氏は、服育で生徒が発表を行う時に、社員に声をかけているという。「社員も影響を受けることができて、生徒にとっても社員にとってもよいこと。初心を思い出しましたといってくれるデザイナーもいる」と語った。

調査報告においても「企業価値向上」をメセナ活動の目的とする企業も多くなっている。社員の意識が変わるなど企業にとってもよい影響があることはメセナ活動に取り組むうえでのメリットといえるのだろう。

最後に中島氏から「人を育てるという視点をメセナ活動が持つことで、活動が一味も二味も変わり、活動が広がって企業が生活者とともに豊かになっていくことができるのではないかと感じました」と締め括った。

【報告】辻陽一郎/メセナライター

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