第11回会員ネットワーク勉強会「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ」視察ツアー
企業メセナ協議会の会員が集う場・出会う場を生み、メセナ活動にかかわる情報交換・研鑽の場として開催する会員ネットワーク勉強会。今回は、大阪・北加賀屋でアートによるまちづくりを展開する千島土地(株)を視察します。かつて造船業で栄えた工場エリアを再生し、企業やアーティストと共創して約50の創造拠点へと生まれ変わらせた「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」。その取り組みから、社会・経済・文化のサステナブルな循環をつなぐ企業メセナの可能性を考えます。
ぜひお誘い合わせのうえ、ご参加ください!
◎日時:2025年6月6日(金)14:00~16:30
◎視察先:北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ拠点
◆◆◆◆◆https://www.chishimatochi.com/regional/base/
◆(受付:北加賀屋千島ビル地下1階会議室(大阪市住之江区北加賀屋2-11-8))
◎予定プログラム:
14:00~ 担当者による活動紹介
◆◆◆◆◆・千島土地のメセナ活動について
◆◆◆◆◆・「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ構想」の取り組み
◆◆◆◆◆・各プロジェクトの詳細 など
14:35~ 創造拠点視察ツアー
◆◆◆◆◆クリエイティブセンター大阪、千鳥文化、MASK、SSK など
16:10~ 質疑応答・ディスカッション
16:30 終了
※同日、クリエイティブセンター大阪(名村造船所大阪工場)では、現代美術のアートフェア「ART OSAKA 2025 Expanded Section」が開催中です。
上記プログラム内では簡単にご紹介しますが、個別に鑑賞される場合は別途チケット代がかかります。
◎参加費:
協議会会員:無料/一般:3,000円
◆申込方法
①上記チラシの裏面にあるお申込書に必要事項をご記入のうえ、メール:mecenat@mecenat.or.jp またはFAX:03-5439-4521 までお送りください。
②件名を「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ視察ツアー申込み」とし、mecenat@mecenat.or.jp 宛に下記内容をお知らせください。
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1)お名前
2)ご所属・お役職
3)ご連絡先(住所・電話番号・E-mail)
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※申込期限:6/2(月)(定員20名様に達し次第〆切)
[会員ネットワーキンググループとは?]
会員相互の交流・連携強化、および情報交換・相談・研鑽等を恒常的に行える場を設けるため、2011 年発足。企業メセナ協議会会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、メセナ活動にかかわる課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。
「会員ネットワーク勉強会」では、メセナの現場を知る機会として視察やレクチャーなどを開催しています。
お問い合わせ:企業メセナ協議会 会員ネットワーキンググループ担当
TEL|03-5439-4520 FAX|03-5439-4521 E-mail|mecenat@mecenat.or.jp
開催報告
企業メセナ協議会の会員が集い・出会う場を生み、メセナ活動にかかわる情報交換・研鑽の場として開催する会員ネットワーク勉強会。第11回目の勉強会として、2025年6月6日(金)、大阪・北加賀屋を訪問した。
会の始めに、千島土地(株)代表取締役名誉会長の芝川能一氏よりご挨拶いただいた。
江戸時代から続く大阪の商家であった芝川家は、現在ほど資産価値のなかった土地を購入、貿易業から不動産業に転じ、1912年に千島土地を設立した。社名の由来は大正期にあった「千島町」という町名から来ており、能一氏は八代目にあたる。北加賀屋は大阪市の南方・住之江区に位置し、近くに木津川が流れていたこともあり、大正デモクラシー後、「東洋のマンチェスター」と大阪が呼ばれる時期に造船業で栄えた。同社もまた、工業地帯として賃貸事業を展開・拡大していった歴史がある。
左から、千島土地(株)代表取締役名誉会長 芝川能一氏、 総務部・広報 宇野好美氏
アートとの関わりについて、同氏は「水都大阪2009」民間連携イベントとして、2009年にオランダ人アーティスト・フロレンタイン・ホフマン氏の《ラバーダック》を購入し、日本で初めて展示した。以来、様々なコレクションを所有し、現在ではアートを地域創生事業に位置づけている。
その後、千島土地(株)総務部・広報の宇野好美氏より、「不動産業から地域の未来を考える~アートを切り口とする地域活性化の試み~」と題し、千島土地がアート支援を行ってきた経緯や、現在のプロジェクトについて話をうかがった。
地域の課題から不動産の活用、アートによるまちづくりへ
1970年以降、産業構造の変化に伴い、北加賀屋の多くの造船所が撤退・移転していき、基幹産業が失われていった。まちの人口減少と空き家・空き地の増加、さらには高齢化も進み、こうした課題や危機感から、同社ではアートを切り口とした地域活性化に取り組んでいる。
契機は2004年、劇場プロデューサー・小原啓渡氏より依頼を受け、名村造船所の跡地でアートプロジェクト「NAMURA ART MEETING」を開催したことに始まる。1988年に返還された約42,000㎡あるこの建物付敷地について、立地の特性上新たな活用を模索していたが、3日間のイベントを通して大勢の来場者を目の当たりにし、地域の創造性を喚起するアートの可能性を体感することとなる。そして翌年、名村造船所大阪工場跡地の一部を改装し、芸術文化活動の拠点「クリエイティブセンター大阪」として活用を開始した。
この場所を起点に、少しずつ活用の範囲を北加賀屋のまち全体に広げ、2009年には「北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ(KCV)構想」を打ち出した。芸術文化が集積しクリエイティブな活動によるまちの活性化を目的に、所有地内に点在する空き家・倉庫・工場跡などをアーティストやクリエイターへ安価な賃料で貸し出している。
次第にネットワークが広がっていき、現在ではギャラリーや建築設計事務所、カフェ、ショップ、アトリエなど、約50拠点・150名が活動するほか、同社で自主運営する拠点も設ける。さらに、KCV構想の理念や目的を共有したアーティストや建築家と協働してまちづくりを進め、行政・地域NPOなどとも連携してイベントを主催している。
空き家・空き地の活用事例
2022年からは、(一社)日本現代美術振興協会が運営する現代技術のアートフェア「ART OSAKA」に特別協賛している。北加賀屋では大型作品・インスタレーション作品に特化した拠点(Expandedセクション)として、毎年クリエイティブセンター大阪を会場に展示される。広大な場所は、アーティストたちには挑戦の機会が与えられ、鑑賞者・購入者にとっても新たな発見や楽しさがある特徴的なフェアとなっている。視察した当日は、ちょうどイベントの開催日にあたった。
まちの変化とこれから
アーティストやクリエイターの誘致により空き地・空き家の活用促進とともに付加価値が生まれ、賃料収入が従来の約3倍に増加した。新たな拠点の開設によってまちを訪れる若者や、地域住民の参加も増えている。人が交流し、コミュニティの醸成を図る取り組みにより、SNSの発信拡大やメディア掲載も増え、情報発信力が高まっている。北加賀屋が内外から”アートのまち”として知られるようになり、少しずつまちのブランド力向上につながっている。
「2025年の今年は『クリエイティブセンター大阪』の開設20周年にあたりますので、アートを軸に、さらに裾野を広げた取り組みを進めています。ファッションをはじめアートと親和性の高いカルチャーを取り入れる、またバーベキュー場やサウナイベント、まち歩きの謎解きゲームを仕掛けるなど、北加賀屋の新たな魅力発信につなげていきたいです」とまとめられた。
後半では創造拠点の一部を巡る視察ツアーを開催した。ここでは一部を紹介する。
千鳥文化
2017年にオープンした、地域住民とクリエイターの交流拠点。元は船大工が自らの手で増改築し、住居として使用していた建物を、当時のくらしの意匠は残したまま、複合施設として生まれ変わらせた。
建築設計事務所・(株)ドットアーキテクツがリノベーションを手がけ、食堂・バー・ショップ・ホール・アトリエなどが入っている。
船大工が船の材料を使って増改築した建物で、外観・ファサードは当時の部材を残している
2階にはアーティスト・金氏徹平氏のインスタレーション作品を展示
SMASELL SUSTAINABLE COMMUNE
2024年にオープン。鉄工所跡地を活用し、「サステナブル」をキーワードに衣・食・住にまつわる様々なブランドショップが集まる。
オンラインのアウトレットモール「SMASELL」を展開する(株)ウィファブリックによって運営され、千島土地が工事費用の一部負担やスタートアップ投資を行った。
MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)
1,000㎡ある鋼材加工工場跡を大型作品の保管倉庫として活用。現在7名のアーティストの作品を無償で保管し、年に数回無料で一般公開している。大型作品の制作・保管・展示をシームレスに行える施設は他にあまり無く、貴重な場所となっている。
アート教育の場としても機能しており、京都芸術大学と協働で対話型鑑賞プログラムも開催。2024年に開館10周年を迎えた。
持田敦子《拓く》
ヤノベケンジ《黒い太陽》
左:やなぎみわ《ステージトレーラー「花鳥虹」》/右:宇治野宗輝《THE CAR》《THE HOUSE》
Super Studio Kitakagaya
20~30代のアーティスト・クリエイターを対象とした貸スタジオで、2020年にオープン。制作ジャンルは問わず、24時間使用可、安価での提供により若手作家を支援している。
区画の広さで分かれており、屋外キッチンやラボなどの共有スペースもある。定期的にスタジオの一般公開や、入居者の作品展示・販売なども行われる。
大型作品を制作するラージエリア(50㎡:1枚目)と個室スタジオ(25㎡:2枚目)の2種類がある
元トイレをキッチンに改築。週末には食イベントも開催される
ラボ
コーポ北加賀屋
家具工場(材木加工場)の跡地を建築設計事務所・(株)ドットアーキテクツの事務所として貸し出し、現在はNPO法人やパフォーマーなど、7組が共同利用している。レーザーカッターや3Dプリンターなど、地域住民が工作機械を安価に使用できる工房「ファブラボ」も備える。
当日はドットアーキテクツ代表・家成俊勝氏にご案内いただいた。
国内だけではなく、アジアやヨーロッパのアーティストが北加賀屋に滞在したり、屋外作品を発表するなど、北加賀屋が世界からも注目される場所になっていることがうかがえた。
「何年後か先の未来を見据えて、試行錯誤しながら一つひとつ進めています」と宇野さん。
まちの歴史や過去の遺産を受け継ぎながら、自由に創作活動に打ち込める環境、そして生活の中でアートを楽しむ基盤をつくる企業メセナの懐の深さに、参加者も大いに感心していた。
◎訪問日: 2025年6月6日(金)
◎訪問先: 北加賀屋クリエイティブ・ビレッジ拠点(大阪府大阪市)
会員ネットワーキンググループとは:
企業メセナ協議会会員の相互交流・連携強化、および情報交換・相談・研鑽などが恒常的に行える場を設けるため、2011年に発足。会員有志からなる幹事メンバーが中心となり、協議会事業・行事に関連づけた会合を開くほか、会員自らのメセナ活動にかかわる日常的な課題について話し合うなど、集いの場・ネットワークづくりのため活動しています。
*2025年度幹事(企業・団体名のみ):
竹中工務店、朝日新聞社、チャーム・ケア・コーポレーション、TOPPANホールディングス、ベネッセホールディングス、リソー教育
(計6社団体・敬称略)
【撮影・報告】企業メセナ協議会