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 11月8日日曜日、「坂田早苗クリスマスコンサート」を聴きに、群馬県高崎市にあるガトーフェスタ ハラダの本社を訪ねる。

 高崎線の新町駅から車で5分ほど行くと、住宅と工場が点在する中、ギリシア建築の列柱をモチーフにした建物が目に飛び込んでくる。あいにくの雨天の中、ひときわ白く輝くこの建物が、ガトーフェスタ ハラダの本社工場だ。

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本社工場「シャトー・デュ・エスポワール(希望の館)」。
1階はメイン・ロビーとホール、2階はオフィス、3・4階は工場となっている。

 
 開演時間の1時間前になり、原田社長夫妻と文化事業部の5人がスタンバイすると、先ほどまで本社の受付ロビーだった空間が、コンサート会場へと変貌する。お客さまが次々と訪れ、約200ある座席が埋まった。

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本社工場1階のメイン・ロビー。
コンサートのある日は、工場見学やコンサートに訪れる人々をアートなメイン・ロビーが迎える。


 金色のドレスをまとった坂田早苗氏が舞台に現れる。日本人離れした華やかな姿は舞台に大輪の花が咲いたよう。無言のまま〈枯葉〉を歌い始めると、空間が瞬時にパリのライブハウスと化する。歌の力ってすごい!

 「ふだんは着られない、ゴージャスなドレスを着てきました!」

 1曲目が終わると、坂田氏が、自身の近況や歌にまつわる話を、ユーモアを交えた調子で語り始める。それを観客は「待ってました」とばかりに受け止める。

 坂田氏は、前橋市出身でタンゴ、カンツォーネ、シャンソンなど幅広いレパートリーを持つ歌手である。ガトーフェスタ ハラダのコンサートへの出演は、今回で3回目となり、観客の多くは、彼女の舞台のリピーターなのだ。
 「初恋の相手と結婚した人、手を挙げて!」と会場へ質問を投げかけた後に歌いだしたのは、大人の再会の歌〈時は魔法ね〉。

 シャンソンは、人生を重ねてきた深みがそのまま歌に表れて、いいなあと思う。

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コンサート第1部風景。左からピアノ:上里知己、歌:坂田早苗、バイオリン:牧千恵子。

 恋の歌が続いた後は一転、「戦後70年を迎えた今年は、私もいろいろなことを考えました……」としんみりと語り、〈ひまわり〉〈死んだ男の残したものは〉〈鶴〉などの反戦歌を熱唱する。中でも〈死んだ男の残したものは〉の、死んだ男~女~子ども~兵士~かれら~歴史、と主語が替わってリフレインされる詩が、胸に迫った。

 第一部を締めくくるのは、〈アヴェマリア〉だ。
 「アヴェマリアは、ずっと歌いたいと思いながら、まだその力量ではないと延ばしてきました。でも、“いつやるか、今でしょ!(笑)”と一念奮起し、今日初めて皆さんの前で歌わせていただきます」 
 入魂のアヴェマリアにコンサートはクライマックスを迎える。美しい旋律を生の歌声で聴くと、不意に涙が出る。取材中だというのに油断がならない。

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コンサート第2部風景。最後の曲「黒い鷲」を熱唱。

 第二部は、坂田氏の十八番の〈ミロール〉で始まる。歌い込まれた小気味いい歌いっぷりに、客席から手拍子が起こり、「ブラボー!」の声が飛ぶ。 
 第一部とは趣を変え、歌謡曲を織り交ぜた軽快な構成だ。和田アキ子の〈今あなたにうたいたい〉、チョウ・ヨンピルの〈冬物語〉、五輪真弓の〈恋人よ〉などを、自在に歌い上げる。
 最後の曲は〈黒い鷲〉。ミステリアスでドラマチックなエンディングだ。
 そしてアンコールは「一番の勝負歌!」という〈カルメン〉。坂田氏の豪快な雰囲気とぴったりで、思わず一緒に口ずさむ。

s-hanataba.jpg 坂田氏は、舞台を「温かいスタッフとお客さまの中で、今歌える最高の歌を歌えたと思います」という言葉で締めくくった。
 “温かいスタッフとお客さま”の言葉に実感がこもっていて、このコンサートをとても大切に思う気持ちが伝わってくる。
 聴き手にとっては、坂田氏の人間味と音楽が一体となって感じられ、音楽っていいな、と思うと同時に、心がほんわかと温かく幸せな気持ちになれるステージだった。                田義人代表取締役から花束の贈呈。

 出演者と観客が一体となる、この幸福感はどこからくるのだろう?
 それはきっと、社員たちが手作りでコンサートをつくり上げているからだ。
 まず出演者の選出・交渉から広報部の社員5人が相談して行う。上演当日は、ホールに椅子を並べ、自社で製造しているお菓子をお土産として袋詰めし、来場したお客さま一人一人に手渡しする。演奏後は、社長夫妻が出演者とともに玄関でお客さまを最後の一人までお見送りする。それら一連の応対には、我が家に客人を迎え入れるときのような手づくり感がある。

 原田の広告宣伝・文化事業・広報部主任の森下匠氏にコンサート事業の経緯をうかがう。

 本コンサートは、2010年に不定期の形で始まり、2011年からは毎月(繁忙期の12月は除く)開催となり、今回で47回目を迎える。入場料は、お土産つきで2000円。チケットの売上金は、高崎市の文化振興やドクターヘリなど様々な分野へ寄付される。

 「群馬県や近隣県で活動する作家やアーティストに発表の場を提供することを目的に始まりました。当初は集客に苦労しましたが、今では毎回チケットが売り切れるほどの人気で、全国的、さらには世界的に活躍されるアーティストの出演も増えていて、まさに“継続は力なり”と感じています」と森下氏は語る。
今後もクラシック、ジャズ、雅楽、落語など、さまざまなジャンルの芸術・文化を紹介していきたいという。

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広告宣伝・文化事業・広報部の5人。
左から山田真也氏、森下匠氏、永井彩香氏、長沼千絵氏、小田澤真二氏。

 驚くことに、同社の経営憲章の最初の一文には「人間とは、人間らしさとは…芸術的感動を味わう喜びの中にあります」と、芸術の文字が入っている。その憲章に則りお菓子文化と芸術・文化の融合を目指している。

 お菓子も芸術も、生きていくのに必要不可欠ではないかもしれない。でも、確かに人生を心豊かにしてくれる。

 コンサートから帰宅してお菓子を口にしたとき、あるいは、生活のふとしたシーンで、コンサートでの感動が蘇り、顔がほころぶのだ。

2015年11月8日訪問

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