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 杉並区の西永福町駅から徒歩約10分、参道周辺の会場は、多くの人で賑わっていた。2015年も残すところ2週間あまり、小春日和のお天気に恵まれた師走の土曜日に、大宮八幡宮「杉並花笠祭り」が開催された。

DSC_0194.JPG 初冬の風物詩として地元の方々に親しまれている本祭りは、食品スーパーのサミット株式会社(以下、サミット)等が1990年から主催しているもので、例年来場者が2万人を超える。

 

 呼び物は200名以上が参加する「花笠踊りパレード」、経営陣が率先して踊るのも見どころである。その他、募金箱を設置して「いも煮」や「ラムステーキ」、「もつ煮込み」などが数千食も振る舞われる「チャリティープレゼント」、そして「山形物産品の即売会」など催し物は盛りだくさん。賑やかさばかりでなく、始まりに際しては本殿で神事を行い、チャリティに寄せられた募金は杉並区社会福祉協議会に寄付、出店で購入した品を入れるエコ用のバックを配布したりするなど、人と環境に優しい地域に根差した祭りであるといえる。

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祭り開催前のご祈祷の様子 木育ひろば


 そもそも、サミットのメセナ活動は、なぜ「山形の花笠祭」なのだろうか。
 企業メセナ協議会の発足もみられた90年当時は、企業の社会的責任としての文化活動支援が注目され始めた時代である。当時の荒井伸也社長が、食品スーパーならではのメセナスタイルに至った過程を振り返り、『Winter 2003 No.39 EPIC World 企業のクロスカルチャー活動㉟』に記している。以下要約してみたい。

 サミットの当時の経営陣が就業後に集まった居酒屋でもメセナの話になった。
 「うちもメセナというやつをやりましょうよ」言い出したのは役員の一人。
 荒井元社長は「猫も杓子もメセナ、どことなく気取って、世の中が褒めてくれるに違いないとばかり、平凡なアイディアに金をかける。馬鹿馬鹿しい」と言下に「NO」を出す。
 しかし社員も負けてはいない。「平凡じゃないメセナをしましょう!」と返した。「食に関連した何かを」と食品スーパーならではの提案をしたのだ。発案者は、里芋と牛肉を煮た山形県の郷土料理『いも煮』がうまかった、近所のお客さまに食べてもらいたいのだという。
                     「杉並花笠祭り」で供される名物、「芋煮」
芋煮_トリミング.jpg 「いくらうまくても、それだけではしょうがない。単に『いも煮』をご馳走してもメセナにはならない。何か文化的なものがないとね」と元社長も簡単には納得しない。
 ところが、今度は別の社員が「それなら、山形の花笠音頭を」と言い出した。サミットは、同業者である山形のヤマザワというスーパーと懇意であった。当地に馴染みのある社員も多く「本物の祭りは歌も踊りもいいですよ。花笠を手にして大勢で踊るんです。とてもきれいです」と盛り上がり始めた。

 荒井元社長も、むかし仕事で訪れた山形の華やかで楽しい花笠祭りを思い出した。頭の中で「ある祭りの形」がまとまり始めていく。

 サミット本社地元、靖国神社や明治神宮と並ぶ大神社である大宮八幡宮に場所の提供をお願いしたところ、快諾を得た。そして山形県観光協会や花笠踊りの専門家などの協力も得て、「食」と「祭り」をテーマにした杉並花笠祭がスタートしていった。〈要約以上〉 
                                                  
 サミットは、「この祭りが本物の祭りとして、永遠にこの地に残って欲しい」という想いから、なんと、社名を冠にはつけなかったとのこと、粋である。

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来賓およびサミット株式会社社長による鏡割り

 参道を歩いていると本当ににぎやかだ。
 「いも煮ゲットに30分ならんだよ、でもやっぱり旨いねぇ」という声が聞こえる。「おでんの最後尾は階段付近でーす!」、人気の『いも煮』だけでなく、チャリティ で振る舞われる食事の各ブースには長蛇の列ができている。私も何かあやかりたい と、協賛しているエバラ食品のカレーの列に並んだ。数十円を寄付しいただいた一皿。屋外で食べるあたたかいカレー、美味しかった。食は元気の源である。食欲を満たし気取らず楽しめるメセナ、私にとって新しいメセナ体験であった。

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いも煮チャリティーの様子

 参道を埋め尽くす出店は、何回往復しても飽きない。中には地元にある具志堅スポーツジムの「パンチ打ち体験」や警察署、消防署、病院までが出店している。過去には白バイ体験試乗会まであったそうである。街一丸となっての祭りだ。
 花笠踊りパレードが始まった。確かに先頭は、経営陣のような貫禄ある方々が踊っている。赤い花が飾られた花笠を器用に操って本格的だ。「踊れないと役員にはしない」と荒井元社長が言い続けたそうであるが、プロから何回も習って当日を迎えるくらい気合が入っている。そんな踊り手たちは、実に楽しそうに踊っている。サービス精神も旺盛で、時に来場者も巻き込みながら踊った後は、興奮冷めやらぬうちに花笠を来場者にプレセントしてしまうほどだ。

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花笠踊りパレード

 そして、花笠をもらった来場者は、以来、本祭りの常連となった。

DSC_0200.JPG パレードの最後尾で、足取り軽く上手に踊っている着物を召したご夫婦に声を掛けた。千葉県市川市から参加した高橋さんご夫婦(写真)。以前、本祭りに足を運んだ時、帰り際、サミットの経営陣(と思われる)の一人が「花笠」をくれたのだという。それが嬉しくて、2009年以降毎年参加しているとのこと。なんと自称盆踊りマニアで、一年に80~90回も各地の盆踊りに参加しているのだという。
 ということは、各地の盆踊りを知り尽くしているはず。そんなお二人に本祭りの印象を伺ったところ、「やっぱり『サミットさん』でしょ!社員の方がこんなに一生懸命になって盛り上げている祭りは他に知りません。素晴らしいですよ。掛け声も独特で楽しい!」と話して下さった。


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 どうも、本祭りでは例年、流行語を盆踊りの掛け声に取り入れているそうで、今年は「ごろうまる」「はいてますよ」などであった。毎年どんな掛け声になるかも注目なのだ。

 社員約350名のほか協賛企業、地域のボランティア、踊りの指導等、社外の運営スタッフは総勢230人強。いわゆる持ち出しは1000万円を超えるという。広報室マネジャーの中村聖氏は「メセナは業績に関係なく、真心、かたり継いでいくもの。ブームではなく食に関係した文化活動だから、長く続けられる。何より、お客さまが喜んでくれるから」と話し、「企業の経営陣から新入社員までが一緒に事に当たり、時には肩を並べたり、コミュニケーションが深まることも本活動の嬉しい部分だ」という。会場でチャリティ配布された白菜は、山梨県の丹波山村の土地を社長と社員が一緒になって開墾し育てた野菜だ。

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広報室マネジャーの中村聖氏 「杉並花笠祭り」は「This is MECENAT2015」に認定されている

 本祭りは25回目をむかえた。何百年も続いているような祭りに比べたら歴史は浅いのだが、どうだろう、サミットの想い通り、この祭りが永遠にこの地に残っていって欲しいと願うのは私だけではないと思う。サミットが創り上げた「食と祭りのメセナ」は地域の文化になりつつある。

2015年12月12日訪問

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