調査報告会レポート2021「SDGsとメセナ」Vol.7・企業メセナ協議会設立30周年記念特別企画

「2021年度メセナ活動実態調査」報告会 ~サステナブル経営と企業メセナの役割~

2022年7月6日(水)大手町フィナンシャルシティ カンファレンスセンター ホール(千代田区大手町)にて、(公社)企業メセナ協議会主催による「2021 年度メセナ活動実態調査」報告会が行われた。
本報告会は、2018年から企業メセナ協議会が継続して取り組む「SDGsとメセナ」についての7回目のセミナーにあたる。
通常の調査報告に加えて、2022年1月に刊行された協議会設立30周年記念書籍『サステナブル経営と企業メセナの役割』を受けた特別記念企画と題し、吉本光宏氏[(株)ニッセイ基礎研究所]による基調講演、サントリーホールディングス(株)中村ブレイス(株)日機装(株)の各社の取り組み紹介、さらに原島博氏[東京大学名誉教授]をモデレーター迎え、登壇者全員によるパネルディスカッションが行われ、これまでの企業メセナの歴史を振り返るとともに、今後の企業メセナのあり方について議論を深める機会となった。

開催概要はこちらから


1.基調講演「企業メセナの30年、その軌跡と展望」

吉本光宏氏(株式会社ニッセイ基礎研究所 研究理事・芸術文化プロジェクト室長)

企業メセナ協議会 尾崎元規理事長からの開会挨拶に続き、吉本氏による基調講演が行われた。
企業メセナ協議会の設立以来30年の間に、企業が芸術文化を支援する・かかわる根拠や動機は、日本社会の変遷とともにそのあり方を変えながら継続・発展を遂げてきた。1980年代後半バブル期の好景気を背景に、文化によって企業のイメージアップと販売促進を図ろうとする動きが活発化した。2000年代になって、人々の価値観を変え、行動変容を促すアートの新たな側面へ注目が集まり、芸術への投資が企業の社会的課題に向き合う姿勢と密接に結びつくようになった。そこには「文化のためのメセナ」から「社会のためのメセナ」への移行が見られる。そして今、2010年代後半以降、コロナ禍を経験し社会全体がドラスティックな変化に見舞われる時代にあって、変化に柔軟に対応し、複雑な課題を解決して事業を持続、発展させていくための要素として、企業経営にはアート思考や美意識が求められるようになっている。企業にとって芸術は支援する対象ではなく、むしろ企業経営の中にその考え方や発想を取り込む時代になった。企業がメセナ活動に持続的に取り組むことは、アート思考を養い、その成果を企業経営に還元していく可能性にもつながるのではないか、という期待を込めて基調講演は締めくくられた。


2.メセナ活動の紹介

サントリーホールディングス株式会社 福本ともみ氏
「人間の生命の輝き」をめざして~なぜ、芸術文化を支援するのか~

その時代を生きる人々がどうしたら幸せになるのか、豊かになるのかを考え、そのために実践してきたサントリー。サントリーホールディングス(株)のメセナ活動の原点には創業者・鳥井信治郎氏が抱いた「サントリーの活動を通して社会を豊かにしたい」という熱い志があるという。
サントリーの社会活動の特徴の一つは「継続」だ。時代の変化によってかたちを変えながら今日まで続けてきていることに大きな価値がある。本業のビジネスだけでなく、サントリーホールやサントリー美術館の運営から、演奏家や作曲家の育成・支援、次世代の育成やすそ野を広げる活動、音楽や美術による災害復興支援に至るまで、メセナ活動は時代を追うごとに広がりを見せているが、それらの多岐にわたる活動の根幹には、常に創業者の企業理念と、社会貢献と社会参画を重視する企業の姿勢が貫かれているのである。さらにこれらのメセナ活動を社員が体験する機会を積極的に設けることで、社員の企業理念の浸透にも寄与しているという。同社のメセナ活動は、社内外にプラスの効果をもたらす循環的な活動として、今後も時代のニーズに応えながら企業の発展とともに進化を遂げていくに違いない。


中村ブレイス株式会社 中村宣郎氏
社会課題への取り組み「郷土への思いが実現する企業の成長と地域の再生」

中村ブレイス(株)は、義肢装具の製造・販売を行うとともに、シリコーンゴムを使ったインソールを世界で初めて製造した実績を踏まえて、それらのシリコン技術を応用して、よりリアルに、より美しく、アートの概念を取り入れた義肢(乳房、指、耳、鼻など)も製作している企業である。世界遺産である石見銀山の麓に本社を構え、メセナ活動としては地元大森町の古民家再生プロジェクトを通じて、かつて銀山で栄えた地域の再興・活性化に取り組んでいる。
これらの古民家再生プロジェクトが大森町にもたらした最大の効果は、人口増加である。まちの魅力が向上したことで、アーティストや若者の移住・Iターンが増加した結果、平成25年以降出生率は右肩上がりで、現在は人口400人の町に対して、保育園の園児が30人弱にのぼる。現代の地方都市の多くが抱える人口減少、過疎化の課題に対して、地元企業のメセナ活動が、地域を魅力的にし、そこで暮らす人々の生活を豊かに持続的に育てていくことに直接的に貢献している本事例は、日本の未来に希望の一石を投じるものであると同時に、企業メセナの意義を体現する事例ともいえるだろう。


3.2021年度メセナ活動実態調査結果報告

澤田澄子(企業メセナ協議会常務理事)

企業メセナ協議会の澤田澄子常務理事兼事務局長より「2021年度メセナ活動実態調査」についての報告があった。調査対象期間は2020年4月~2021年3月の1年間で、503社の企業及び186団体の財団から回答を得ることができた。
引き続くコロナ禍においても、メセナ活動は各企業によってオンラインを含め着実に工夫・改善されながら継続されることで成熟し、社内外で成果を上げていることが明らかとなった。ただし、メセナ活動への社員参画規模については、コロナ以前と比較して少人数の参画が増加し、50名以上の大規模な人数が参加する活動は減少しており、活動のあり方を模索している様子がうかがえる。
メセナ活動の取り組みの目的については、「地域」「SDGs」「企業価値創造」を重視する傾向が続いている。特に近年では、自社の企業文化の確立や知名度の向上など、企業ブランディングを目的とした活動も増えている。
メセナ活動の成果については「地域」や「社内」へのプラスの効果をあげる声が増加した。メセナ活動に取り組む意義は、企業から社会という外向きのベクトルだけでなく、社内への内向きのベクトルへの注目も高まっていることがわかる。コロナ禍でリモートワークやオンライン会議など、働き方に変化が生じたことで、社内の一体感の醸成に課題を抱えている企業も多い。メセナ活動が社員同士のコミュニケーションの一助となることは、今後これまで以上に期待されるだろう。


4.メセナ活動の紹介

日機装株式会社 中田典子氏
公益財団法人宗桂会を通した「地域」を重視した企業価値創造

日機装(株)が支援する公益財団法人宗桂会は、加賀象嵌の振興発展をもって地域産業の基盤強化と伝統文化の向上に寄与することを目的として設立され、作品収集、普及活動、後継者育成、技術習得・研究に関する助成や奨励事業などがあり、日機装金沢製作所敷地内にある宗桂会館では加賀象嵌に関する展示が年中無休で一般公開されている。(※現在は感染対策により休館中)
同社が宗桂会を通して取り組むメセナ活動の大きなテーマは「地域社会との共存・共栄」だという。創業者の音桂二郎氏に所縁のあった加賀象嵌を通して結ばれた金沢のまちとの縁を大切にして、地域にも社会にも貢献できる企業を目指す姿勢がメセナ活動の原点にある。普及活動の一環として、近隣小学校での体験教室や出張授業を行うなど、宗桂会の活動は、金沢の独自の地域資源を守り、地域ブランドの確立など、地域の価値創造にも寄与・貢献している。地域に根差した持続的なメセナ活動が、企業価値と地域の価値を同時に高めている事例といえるだろう。

パネルディスカッション
「これからの企業メセナに向けて」
モデレーター:原島 博氏(東京大学名誉教授/企業メセナ協議会 理事)
パネリスト:福本ともみ氏、中村宣郎氏、中田典子氏、吉本光宏氏

パネルディスカッションでは、モデレーターに原島博氏を迎え、パネリストとして基調講演を行った吉本氏と事例紹介を行った3社の登壇者(福本氏、中村氏、中田氏)が議論を交わした。
吉本氏は、3社の具体的な取り組みに共通している点として、「創業者が描いた企業理念・企業の社会的付加価値に各社のメセナ活動の原点があること」を挙げた。創業者の想いがDNAとして息づいており、それが代々受け継がれることによって現在のメセナ活動につながっていることが、各社の取り組みに表れていると評した。
時代の流れや会社の経営状況の変化は少なからずメセナ活動にも影響を与えるはずだが、それでもぶれることなく活動を継続し、さらに発展に導いていくために重要な点として、3社の登壇者からそれぞれ「社内理解の促進」の重要性が語られた。
また、モデレーターの原島氏より、SDGsと企業メセナの関係について、「社会問題の解決のために、というのがメセナにとっては諸刃の剣になるのではないか。」という問題提起がなされた。吉本氏はこれに対して、SDGsの17の目標に掲げられる社会課題を芸術が直接的に解決することはないが、芸術に投資することの延長線上に、それらの社会課題に対して何らかのかたちで資する可能性は確実にあると強調した。
本会の中でも度々注目された「継続」は、企業メセナにとって重要なキーワードだ。短期的・直接的な効果にとらわれすぎず、社会のあり方の変化に対応するしなやかさと企業理念に基づく芯の強さを兼ね備えて、長期的・持続的に人々の生活をより豊かで彩のあるものにしていけるよう、今後の企業メセナのさらなる発展に注目していきたい。

【報告】前田真美/メセナライター
1992年生まれ、東京都出身。東京大学建築学科を卒業後、同大学学際情報学府にて修士号を取得。大学院では、島根県の《しいの実シアター》で行われる国際演劇祭にボランティアとして参加し、「劇場とまちづくり」テーマに研究を行う。2017年より建設コンサルタント会社に勤務し、公共施設の整備や海外の都市開発計画を経験。アーツアカデミー東京芸術劇場プロフェッショナル人材養成研修・令和3年度研修生(演劇制作)。

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