メセナアワード

メセナ大賞1996

メセナ大賞

アサヒビール株式会社

ロビーコンサートを中心とする社会に開かれた未来文化創造型メセナ活動

活動内容

メセナ活動は企業の大切な構成要素

1989年、創業100周年記念に隅田川のほとりに建設された本部ビルと隣接の屋上に金色の巨大な炎のオブジェをいただくフラムドールが、自社の営業基地としてだけではなく、東京の新しい川の手文化の発信基地となればとの考えから、また、「メセナ活動は企業を構成する一要素だ」という社の方針に基づいて、地域に密着した個性的な文化活動を展開している。
本部ビルのロビーでは気鋭の音楽家を中心とした斬新なロビーコンサートを、会議室では時代の精神を切り開く文化講座を定期的に開催し、社員参加により行っている。同様のものを各地の支社や工場でも開催している。これらの活動は社有施設を使って常に新しい文化価値情報を発信したい、地域文化の発展に寄与したいという願いのもとに進めており、社員の声を反映しつつ、企業文化部が全社の旗振り役をつとめている。芸術文化の専門家のアドバイスは得つつも、あくまで社員が主体的に企画運営を行うという形で展開されている。メセナ活動を推進することにより、自らの企業文化度の向上も目指しているのである。
他には、音楽、美術、ダンス等の様々なジャンルの挑戦的な新進アーティストの発掘支援や、ミラノスカラ座やオルセー美術館の支援などと共に、フラムドール内のアートスペース・スクエアAの運営、また、財団活動として海外からの芸術留学生へのスカラシップや音楽会、美術展への助成などを継続的に行っている。
このように、例年経常利益の2~3%のメセナ予算を継続して確保し、年間主催行事を約50件、協賛約70件、財団助成約30件を継続実施している。

評価ポイント

1954年から外国のアーティストを招いて毎月2回コンサートを開始するなど、同社のメセナ活動には長い伝統があるが、創業100周年、東京墨田区に本部ビルを建設したのを機に、全社横断の企業文化委員会と専任部署企業文化部を創設し、新たに明確な方針を打ち立てた。以後、①社有施設から地域への斬新な文化の発信・提供、②若手アーティストの発掘と支援、③世界の優れた芸術の紹介を三本柱とした多彩で独創的なメセナ活動を、幅広い社員参加による文化活動の形をとって、積極的に展開している。このように、同社の傑出したメセナ活動への総合的な取り組み、特に未来にむけての芸術文化創造支援、地域文化発信を目指す取り組みが高く評価され、受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:東京都
業 種:食料品
創立年:1949年
資本金:1307億円
従業員数:4404人
URL:https://www.asahigroup-holdings.com/
(1996年時点)

審査委員特別賞

キヤノン株式会社

「アートラボ」の企画・運営

活動内容

新たなアートを創造するマルチメディア実験工房

「映像・情報分野で培ったキヤノン独自のデジタル技術をアートに展開させたい」。芸術と科学の融合による可能性を、より深く洞察し、実践するために構想されたアートラボ。1991年4月より同社の文化支援活動の柱としてはじまったプロジェクトは、社会・文化支援センター文化支援推進課が事務局となり、今日まで活動全体の企画・運営を行っている。
アートラボ企画展として、毎年コラボレーシ∃ンによる展覧会を行い、開催後には日英併記のカタログを発行している。アートラボの作品は内外の評価も高く、ニュー∃―ク近代美術館やデンマーク・ルイジアナ美術館など、海外の著名な美術館から招待され出品している。
また、1995年からアートラボ・プロスペクト展がスタートした。これはアートラボのオリジナル制作にとらわれず、多様化するマルチメディアの可能性を拓いていく斬新なアート作品、才能を幅広く―般に紹介していくプログラムである。上記の展覧会以外にも、機器のサポートやレクチャーを随時開催するなど、積極的な活動を続けている。
今後はインターネット上にアート・プロジェクトやアーカイヴを展開し、通常の展覧会とともに活動の幅を広げていくという。デジタルネットワークが急速な発展をとげる中、企業の技術と芸術との融合によって新たなアート領域の創造をめざすマルチメディア実験工房のこれからの活動が楽しみである。

評価ポイント

「アートラボ」とは、デジタル技術を用いた今までにないアート作品を創造するため、同社のコンピューター・エンジニアとアーティストとの共同作業(コラボレーション)により、構想から展覧会のプレゼンテーションまでを行う世界に類を見ないスタイルのプロジェクトである。
この自社の技術と人材を生かした、新しいアートを制作するメセナ活動は、アート界に新風を吹きこみ、これからのアート界のアーティストヘの育成にもつながったと言える。企画の先鋭性やアイデアの斬新性が高く評価され、今後の活動への期待も大きいことから、今回の審査委員特別賞の受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:東京都
業 種:カメラ・精密機器・OA機器
創立年:1937年
資本金:1427億円
従業員数:20261人
URL:https://global.canon/
(1996年時点)

アートラボ第1回プロスペクト展「TERRAIN」

アートラボ第1回プロスペクト展「TERRAIN」

アートラボ第4回企画展 古橋悌二”LOVERS-永遠の恋人たち”

アートラボ第4回企画展 古橋悌二”LOVERS-永遠の恋人たち”

 

メセナ育成賞

株式会社毎日新聞社

「第64回日本音楽コンクール」(主催 毎日新聞社・日本放送協会)の開催と長年にわたる同コンクールの運営

活動内容

コンクールでの成功が、国際的な活動と評価につながる

現在国内外で活躍する邦人演奏家の大部分が日本音楽コンクールの出身者といっても過言でないほど、わが国で最も長い歴史と実績を誇り、また応募部門の多さと高い水準、そして公正な審査などで世界楽壇の注目を浴びているコンクールである。昭和7年に旧時事新報社の主催で「卓越せる実力を有する音楽家の推薦」「楽壇レベルの向上」を目的として開始され、第6回からは毎日新聞社(時事新報社が同社に合併されたため)が主催となった。第18回から日本放送協会との共催となり、規模が拡張し機構が充実され、日本音楽コンクール委員会という形で運営されている。入賞者は新聞、放送ならびに発表演奏会によって広く世に紹介され、さらに世界楽壇ヘの登場へと前途が開かれている。

評価ポイント

楽壇への登竜門としてわが国最高の権威と水準で知られる「日本音楽コンクール」は1932年(昭和7年)に始まり、以来毎年1回開催され1996年で65年になる。この間、数多くの有為な新人音楽家を発見し、日本のみならず世界の楽壇へ送り出してきた。毎日新聞社は創設以来、戦時中も休むことなくコンクールを開催し続け、1949年の第18回からは日本放送協会との共同主催の形をとりながら、音楽文化の発展、普及、向上に多大な役割を果たしてきた。同社のコンクールを通しての、長期間にわたる音楽界への、特に若手音楽家育成への貢献が高く評価され、受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:東京都
業 種:新聞
創立年:1872年
資本金:42億円
従業員数:3975人
URL:https://oncon.mainichi-classic.net/
(1996年時点)

第64回受賞者(1995年10月28日)

第64回受賞者(1995年10月28日)

創立委員会総会(昭和6年10月)

創立委員会総会(昭和6年10月)

 

終戦後第1回目の開催(昭和21年5月)

終戦後第1回目の開催(昭和21年5月)

 

メセナ企画賞

株式会社ヨークベニマル

絶版になった地域歴史書の復刻・発刊事業

活動内容

地域史研究に対する文化貢献活動

新店舗出店地域の人々の郷土理解に対する一助となることを願い文化貢献活動として何が適しているかを模索するなか、「もっと形に残るものを」と社員が提案したのがきっかけでこの事業が始まった。
1992年11月以来、本社のある福島県を始め、宮城県、栃木県、山形県各地で既に絶版になった質の高い歴史的文献を掘り起こしては、それを現代仮名づかいに直して復刻させてきた。現代の研究者が書き下ろした論文集も一部ある。1996年3月末には13冊に上り、それぞれ発行部数は2,000部前後で、いずれも郷土史家を始め研究者などからの評価は高い。―般の方からも希望は多く、同社は今後もこの事業を継続していく方針である。

評価ポイント

スーパーマーケットの地域貢献といえば一般的に地域への寄付等が多いなか、株式会社ヨークベニマルは、新たな地域に出店するたび、その地域に関連した貴重な歴史的文献の復刻という発想豊かな事業を行ってきた。発行した刊行物は、関係する県、市町村、学校、図書館等に寄贈するほか、一般希望者にも無料で提供している。
地方文化発展の確実な基礎となる文化的役割、質の高い独創性ある企画という点が高く評価され、今回のメセナ企画賞の受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:福島県
業 種:スーパーマーケットチェーン
創立年:1948年
資本金:99億円
従業員数:1700人
URL:https://yorkbenimaru.com/
(1996年現在)

 

メセナ国際賞

凸版印刷株式会社

「欧米のポスター100」復刻事業

活動内容

ポスター文化への貢献

わが国の戦後ポスターは欧米からの影響を受けて開花した。それはグラフィックデザインにとどまらず、芸術性や思想性、社会性を含めた「ポスター文化」全般にわたるものであった。多くのポスターの印刷を手掛けてきた同社は、1991年に「日本のポスター100」収集と復刻事業を実施し、さらに今回欧米グラフィックデザイン界に対する感謝の念を含んだ事業として、本事業に取り組んだ。ポスターの選定は、アメリカのミルトン・グレイザー氏、ニュー∃―クタイムズのスティーブン・ヘラー氏、そしてフランスのアラン・ヴェイユ氏が、
全体の監修は亀倉雄策氏が行った。世界の代表的なポスターを復刻し、また「日本のポスター100」と同様に、世界各国の美術館等へ寄贈し広く鑑賞の機会を設けたことは、わが国の国際文化交流にとって大変意義深いことである。

評価ポイント

戦後日本のポスターは欧米のポスターに大きな影響を受けて開花したとの認識に立ち、その感謝の思いをこめて、創立95周年を機に、1945年から1990年に制作されたアメリカとヨーロッパの代表的なポスター100点を選定し復刻した。復刻された世界各国のポスターは、日本で紹介した後、歴史的・文化的資料として保存、国内・海外200の美術館、教育機関等に寄贈し、広く世界に鑑賞の機会を確立しており、国際的な文化交流の一助となっていることが高く評価され、今回の受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:東京都
業 種:印刷業
創立年:1900年
資本金:1049億円
従業員数:13766人
URL:https://www.toppan.co.jp/
(1996年現在)

「欧米のポスター100」展 (財)東日本鉄道文化財団・東日本旅客鉄道(株)との共催

「欧米のポスター100」展 (財)東日本鉄道文化財団・東日本旅客鉄道(株)との共催

 

メセナ奨励賞

株式会社海文堂書店

「アート・エイド・神戸(阪神大震災文化復興)」の実施

活動内容

阪神大震災で被害を受けた芸術夕の救済と神戸の文化を再生

神戸の文化を自らの手で守るという決意と芸術家自身も神戸の復興のために力を結集するという二重の意味で命名された「アート・エイド・神戸」。これは阪神大震災で大きな被害を受けた芸術関係者に緊急支援を行うとともに、閉塞状況から再開した芸術活動に対して助成支援をする活動である。
震災直後、震災前から文学・美術・音楽の普及・育成にかかわってきた同社が緊急出動としてはじめ、1995年2月アート・エイド・神戸実行委員会発足。同社が事務局となり、島田社長が事務局長をつとめ、スタッフや事務機等を提供するなど、中心となって活動してきた。芸術家個人や活動への支援、美術展・コンサート・詩朗読会を主催するなど、被災者に芸術の力による励ましと勇気と心の癒しを与え続けている。

評価ポイント

阪神大震災の被災地にあった従業員35名の書店が緊急事態の中ではじめた「芸術文化で震災復興を目指す活動」は、規模こそは大きくないが、時宜を得た企画であり、神戸の芸術文化復興に果たした役割は大きく、すべての審査委員から高い評価を受けた。
自社が被害を受けたにもかかわらず、「被災者に生きる勇気や希望を与える芸術活動を早く立ち上げる」ために、先頭になっての積極的な活動は賞賛に値し、今回のメセナ奨励賞の受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:兵庫県
業 種:書籍販売・画廊経営
創立年:1914年
資本金:800万円
従業員数:35人
(1996年時点)

「アート・エイド・神戸」ギャラリー展

「アート・エイド・神戸」ギャラリー展

鎮魂と再生のために展-長尾和と25人の詩人たちー

鎮魂と再生のために展-長尾和と25人の詩人たちー

 

メセナ地域賞

財団法人八十二文化財団

心の豊かさを求めて~八十二文化財団10年のあゆみ~

活動内容

八十二銀行が設立した地域の文化情報センター

1985年の設立から、長野県内の芸術・文化に関する調査ならびに資料、情報の収集を行い、その成果を広く県民に公開してきた。1993年にはマルチメディアに対する「新文化情報システム」を構築。当財団のコミュニケーションスペース「スペース82」「ライブラリー82」に設置された―般開放用のパソコンは誰もが気軽に利用している。
芸術・文化の普及啓蒙活動を通じて地域の振興と豊かで潤いのある生活づくりに寄与することを基本理念に、郷土にまつわる調査研究、雑誌や報告書等の発行や資料集の出版、ロビーコンサートや教養講座等の催し物の開催、「ギャラリー82」をはじめとするコミュニケーションスペースの提供と、「地域」を大切にした広範囲な活動を手掛けている。

評価ポイント

「伝統文化の継承」「自然環境の保護」「人材の育成」を三本柱に、地元長野県の「地域の文化情報センター」を目指してきた10年間の同文化財団の活動は、地道ではあるが、地域社会・文化に密着した堅実な内容で、まさに「地域とともにあゆんできた10年」だといえる。とりわけ、発行・出版物は充実しており、読みやすい機関誌やわかりやすい調査報告書は多くの人々に親しまれてきた。
芸術。文化の普及活動を通じて地域の振興に寄与してきた功績が高く評価され、メセナ地域賞の受賞となった。

団体プロフィール

本社所在地:長野県
創立年:1985年
基本財産:2億円
URL:https://www.82bunka.or.jp/
(1996年時点)

 

メセナ普及賞

大日本印刷株式会社

「ギンザ・グラフィック・ギャラリー」10周年企画の実施

活動内容

グラフィックデザインの情報センターを目指して

同ギャラリーは大日本印刷が印刷企業として関わりの深いグラフィックデザインの社会的機能や役割を優れた作品を通して広く紹介し、その向上に寄与することを目的に1986年3月にグラフィックデザイン専門ギャラリーのパイオニアとして設立した。企画展は月1回、年間12回開催しているが、すべての企画は印刷と関わりのある手作りの自主企画で、着実と継続を基本として同社の費用で運営している。出展作家によるレクチャーも参加者が多く、質疑応答も活発に行われている。これまでの来場者は34万人を超え、10周年の企画展だけでも2万1千人が来場している。また、活動の成果として、gggブックスの刊行やインターネットでの情報提供などを行っている。

評価ポイント

ギンザ・グラフイック・ギヤラリーは開設10周年の記念企画として、戦後50年の節目を踏まえて「日本のグラフィックデザインの流れ」をテーマにレクチャーを含めた特別企画展の開催と記念出版物の刊行を行った。この企画は同ギャラリーがこの10年に開催した118回の企画展などの集大成として日本のブックデザインやモダンタイポグラフィーなどの歴史的な評価・研究の未開拓分野を取り上げ、「日本のグラフィックデザイン戦後史」の総括を行った点で、企業の枠を超えて芸術文化の普及に尽くした実績が高く評価され、今回の受賞となった。

企業プロフィール

本社所在地:東京都
業 種:印刷業
創立年:1876年
資本金:1052億円
従業員数:14514人
URL:https://www.dnpfcp.jp/gallery/ggg/
(1996年時点)

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