メセナアワード

メセナ大賞2002

メセナ大賞

朝日放送株式会社

ザ・シンフォニーホールの運営と事業活動

活動内容

ザ・シンフォニーホールは、1982年、朝日放送の創立30周年記念事業として、大阪北区の本社隣りに建設された。同社ではそれまでもクラシック音楽の主催公演をおこなっていたが、本格的なコンサートホールがまだ日本になかったことから、当時社長の原清氏の提案により実現されたものである。パイプオルガンを擁した1,704席のコンサートホールの誕生は、後に続く専用ホールの先駆けであり、関西のみならず日本の音楽界に大きな波紋をもたらした。
開設当初より「地元に愛されるホール」をめざし、「グローバルスタンダードとなりうるオーケストラを大切に」との方針を掲げて、関西フィルの定期演奏会の場として活用され、大阪フィルの主催公演も多く開催。後に大阪センチュリーや大阪シンフォニカーも定期演奏会に用いるなど、在阪オーケストラの活動拠点となってきた。自主事業でも関西の演奏団体を起用しており、故・朝比奈隆氏が指揮する大阪フィルには、1985年より年3~5回の公演を依頼、同ホールの性格を特徴づけるシリーズとして定着した。
一方、1999年からは、小中学生・高校生を対象とした芸術鑑賞会を実施したり、学生や子どもたちの見学を受入れるなど、地域の人たちの利用を促している。また放送との連携をはかり、テレビでは、バラエティ番組「クラシック解体新書」や「朝比奈隆のブルックナー」などを制作・放送。ラジオでも毎週日曜日の朝に「ザ・シンフォニーホールアワー」という番組を設けてコンサートの様子を紹介するなど、気軽にクラシック音楽に親しめる番組づくりに取り組んでいる。
内外から一流の音楽家を招いて上質のプログラムを提供するとともに、クラシックファンの拡大にも努める。「100年後に真価が問われる」という同ホールの活動は、ちょうど20年の節目を迎えたところである。

評価ポイント

コンサート専用ホールとして先駆的な存在であり、日本のクラシック音楽界に果たした役割は大きい。
バラエティに富んだプログラムや社業との連携などに工夫が見られる。

企業プロフィール

本社所在地:大阪府大阪市
創立年:1951年
資本金:18億円
従業員数:766人
業種:一般放送業
URL:https://asahi.co.jp/
(2002年9月現在)

企業文化賞

鹿島建設株式会社

「KAJIMA彫刻コンクール」の実施

活動内容

「KAJIMA彫刻コンクール」は、1989年、鹿島建設の創立150周年記念事業としてスタートした。彫刻は建築とのかかわりが深く、これからは彫刻によって建築物の芸術性や付加価値を高めていくことが求められるであろうとの考えから、現・最高相談役の鹿島昭一氏が発案したものである。以来、隔年で実施され、2001年には第7回をおこなうにいたった。
同コンクールは、実物の3分の1サイズの模型で第一次審査をおこない、15名の入選者に実際に作品を制作してもらったなかから各賞を選ぶというものである。制作された入賞作品と入選作品2点を、東京・赤坂にある同社KIビルのアトリウムに展示し、次のコンクールがおこなわれるまでの2年間、一般公開している。また、コンクールの実施直後には、模型も含めての展覧会を開催し、優れた応募作品を紹介。入選作品の制作にかかる費用を同社が補助するほか、賞金も授与している。
毎回、300点前後の応募があるうち半数近くがリピーターであり、30~40歳代で数々の彫刻コンクール経験者が多いが、一方で若手作家の登竜門としても知られている。また、ホームページでも募集をおこなっているため海外からの応募もあり、第7回の応募総数は338点で、そのうち海外からの応募は36点を数えた。
応募作品の選考については美術の専門家を委員として迎えているが、コンクール全般の運営は社内で「KAJIMA彫刻コンクール実行委員会」を組織してあたっている。広報、総務、建築設計エンジニアリング本部、関連会社など、さまざまな部署から委員が出て横断的に取り組む。
2年近くにわたって作品を展示するなかで、作品の斡旋や作家の紹介にもつとめており、入選者の後の作家活動にも寄与するコンクールとして、彫刻界・建築界ともに広く知られている。

評価ポイント

建築にたずさわる企業ならではの発想や視点が活かされたコンクールである。
長期にわたり作品を自社ビルに展示することで、広く作家を紹介している。

企業プロフィール

本社所在地:東京都港区
創立年:1930年
資本金:640億円余
従業員数:11,664人
業種:建設
URL:https://www.kajima.co.jp/csr/culture/sculpture/index.html
(2002年4月現在)

 企画賞

キリンビール株式会社

「キリンダンスサポート」創設に結びついた体系的な現代舞踊支援

活動内容

キリンビールでは、1987年に開設したKPOキリンプラザ大阪の運営および1990年からの「キリン アートアワード」の実施を通じて、現代アートの分野において先鋭的な表現を取り上げてきた。そのなかで、現代舞踊に対しては企業からの支援があまりない状況を知り、同社のメセナ活動の重点的な対象として取り組むことになる。
まず、従来の活動を通じてかかわったアーティストやダンスカンパニーを中心に公演を協賛する一方で、ダンスの裾野を広げる活動にも目を向け、ワークショップや観客参加型のプロジェクトも支援。これは従来の活動が自ずと継続・展開していった結果である。1999年からは、新国立劇場の「コンテンポラリーダンスシリーズ」、世田谷パブリックシアターの「21世紀舞踊」シリーズを年間サポート。これらはもともと劇場側であたためていた企画だが、両劇場とのやりとりのなかから協力体制を築いていった。劇場側の企画をベースに話し合いながら、新たな可能性に挑戦する表現の提案を応援している。
こうした活動がさらに発展したのが、朝日新聞社が主催する「朝日舞台芸術賞」への参画である。同賞は、演劇やダンスなど優れた舞台芸術活動に対する顕彰を目的に2001年に創設されたもので、グランプリの他に舞台芸術賞など幾つかの賞が与えられる。「キリンダンスサポート」は、これら受賞作品のうち現代舞踊の一作品に対して、地方を含む再演を条件に最高1,000万円を支援するものである。これは、アーティストや劇場関係者との意見交換から、ダンス公演は「期間が短い」「地方公演が少ない」「再演の機会がない」との問題を知り、それに対してキリンビールができることを朝日新聞社に提案したものである。
現代舞踊の分野で求められる支援のあり方を探りながら、その活動を進化させ、多岐にわたる取組みがなされている。

評価ポイント

現代舞踊という分野に着目し、多岐にわたる支援活動をおこなっている。
支援を受ける側のニーズを汲み取り、それに応じたサポートを展開させている。

企業プロフィール

本社所在地:東京都中央区
創立年:1907年
資本金:1,020億4,500万円
従業員数:6,540人
業種:食品
URL:https://www.kirin.co.jp/
(2002年4月現在)

情報発信賞

東陶機器株式会社(TOTO)

ギャラリー・間の活動

活動内容

ギャラリー・間は、TOTOが1985年10月に開設した建築・デザイン専門のギャラリーである。東京・乃木坂にある同社ビルの3・4階を「何か社会に貢献できる場にしたい」との考えから設けられたものであり、これまでに数多くの建築家等の仕事を紹介してきた。
通常は年4回、約2ヶ月の会期で展覧会を開催しており、2002年9月で100回目を数えた。おもに現在の活躍が注目される建築家の個展をおこなっているが、着眼点は「いかに次代を担う若者たちに刺激を与えるか」であり、客層としては学生が主対象である。企画は同社文化推進部のスタッフが立案し、4名の専門家からなるギャラリー・間運営委員会で決定される。
2001年度におこなわれた展覧会は、「住宅のル・コルビュジエ展 全プロジェクト模型と家具」「難波和彦展 『箱』の構築」「坂本一成展 日常の詩学」「北山恒展 On the Situation」の4本。特に「住宅のル・コルビュジエ」展は、図面にしか残されていないプロジェクトまで模型化するという試みが好評で、過去最高の1万3,000人を超える来場者があった。これら展覧会の内容は、論考や資料を加えた書籍としてまとめられ、TOTO出版から発行されている。
さらに96年からは、展覧会に関連するテーマによる連続レクチャー「空間術講座」を開催、毎回、建築を学ぶ学生を中心に約100名の聴講者を集めている。また、ギャラリーの休館日には大学の授業利用を受入れるなど、企画内容を深く掘り下げる取組みをおこなっている。
こうした活動を地方でも展開しようと、2000年からは展覧会を各地に巡回。地方の大学を中心に市民グループや建築団体などからも要請があり、2001年は11ヶ所での巡回展を実施した。展覧会を核として、レクチャーや出版、巡回展など活動の幅を広げている。

評価ポイント

建築に特化したギャラリーとしての専門性の高さ。
東京での展覧会活動にとどまることなく、出版や巡回展などを通じて全国に情報を発信している。

企業プロフィール

本社所在地:福岡県北九州市
創立年:1917年
資本金:355億7,900万円
従業員数:9,000人
業種:衛生設備機器製造
URL:https://jp.toto.com/
(2002年3月末現在)

奨励賞

凸版印刷株式会社

コンサートホール「トッパンホール」の運営

活動内容

2000年10月、凸版印刷の創業100周年記念事業として建てられたトッパン小石川ビルの1階に、「トッパンホール」は開設された。新世紀の情報コミュニケーション産業を標榜する同社が、<見る>だけでなく<聴く>感性にも訴えようと、上質の音楽を提供する場を設けたものである。「音の聖域」をめざしたホールは、材質から構造まで音響効果に最大限の配慮がなされ、座席位置による差異が少なく408席すべてがS席、とりわけ室内楽には最適の環境となっている。
自主事業では何よりもクオリティの高さを重視し、テーマ性をもたせたシリーズに取り組むとともに、若手アーティストの発掘と育成にも力を入れている。毎月半ばの水曜日におこなってきた「デビューコンサート12:15」は、昼12時15分に始まる30分間のミニコンサートで、年2回のオーディションで選ばれた12人の新人が登場。コンサートの内容についても応募者自らが企画し、無料で定期的な開催のため近隣の住民や同社社員も気軽に訪れた。また、これからが期待される若手演奏家を2年にわたり3回のコンサートを通じて紹介する「エスポワール」では、ホール側と演奏家がともに企画を練り、将来に向けてさらに力がつくような曲に挑戦するなど、その可能性を広げる舞台を用意している。
観客開発にも取り組む。夜のコンサートには足を運びにくい高齢者や幼児連れなどの客層を考慮して、託児サービスも備えた平日のマチネを開催。通常、マチネは集客面で厳しいといわれるが、ラインナップを充実させて観客からも好評である。また、地元紙にチラシを折り込んだり近隣ビルに配布するなど、地域の方々に対しても積極的にアピールしている。
開館して日の浅いホールながら活動内容が充実しており、今後の展開に期待が寄せられる。

評価ポイント

明確なコンセプトにもとづくプログラムのシリーズ化と、そのクオリティの高さ。
アーティスト支援と観客開発の双方に積極的に取り組んでいる。

企業プロフィール

本社所在地:東京都千代田区
創立年:1900年
資本金:1,049億8,600万円
従業員数:12,748人
業種:印刷
URL:https://www.toppan.co.jp/
(2002年3月現在)

地域文化賞

株式会社飛騨庭石

祭屋台の制作および「飛騨高山まつりの森」の運営

活動内容

飛騨高山で毎年春と秋におこなわれる高山祭は、からくり人形を乗せた豪華な祭屋台(山車)で知られ、日本三大美祭のひとつにあげられる。春・秋あわせて23台ある山車は江戸時代につくられたもので、高山祭屋台保存会により修復を重ねながら用いられてきた。同保存会の宮大工から「山車を修復するだけでなく、新しくつくってみたい」との声を聞き、飛騨庭石社長・中田金太氏が、飛騨の匠の技を次代に伝えていこうと「平成の祭屋台」制作を構想。江戸期につくられた山車が焼失等により8台失われていたことにちなみ、新たに8台をつくることになった。ただし、失われた山車を復元するのではなく、現代の感覚で、当代屈指の技術を集結して「平成の祭屋台」をつくり、後世に残すことをめざした。
祭屋台の意匠・設計にはじまり、一位一刀彫りや鉄金具造りには飛騨の匠があたり、ほかには輪島塗や井波の木彫り彫刻、高岡の錺金具、京都の見送幕、金沢の金箔、愛知のからくり人形、松任の太鼓など各地の名工たちが参加。最初の「金鶏台」は89年冬に着手され、93年に完成。続いて「臥龍台」「神楽台」「金時台」「福寿台」「龍虎台」「力神台」といずれも数年の歳月をかけてつくられ、2001年夏に8台目となる「竜王台」が完成した。かかわった職人は当時18~87歳まで、総勢約150名にのぼる。
こうしてできた祭屋台をいつでも多くの人たちに見てもらいたいと、市街地に近い南西の山中に直径40m・高さ20mのドームをくりぬき、「飛騨高山まつりの森」を開設。ここでは常時、平成の祭屋台が展示され、それぞれの屋台から順番にからくり人形があらわれて訪れる客を楽しませている。あわせて世界一の大太鼓や日本一の神輿も展示され、「まつりの森」は高山市の観光スポットとして、年間70万人を超える来場者を迎えている。

評価ポイント

祭屋台の制作を通じて職人の技の継承と発展に果たした役割は大きい。
「まつりの森」の開設・運営により、地域経済の活性化に貢献している。

企業プロフィール

本社所在地:岐阜県高山市
創立年:1971年
資本金:4,000万円
従業員数:20人
業種:不動産開発
URL:http://www.togeihida.co.jp/
(2002年10月現在)

育成賞

株式会社リクルート

クリエイションギャラリーG8とガーディアン・ガーデンの運営

活動内容

リクルートは1985年、「デザインとコミュニケーション」をテーマにG7ギャラリーを開設した。社業ともかかわりの深いグラフィックデザインの分野を中心に、内外の第一線で活躍するクリエイターの仕事に注目。1989年からは銀座8丁目の本社屋内に場所を移して「クリエイションギャラリーG8」と呼称を変えた。
ADCやJAGDAなど広告・デザイン業界の最先端が見られるコンペティションの紹介に加え、その制作プロセスに迫る個展など、これまでの企画展の数は200本を超え、年間来場者は約3万人におよぶ。展覧会ごとに出展者によるトークショー「クリエイティブサロン」もおこなっており、クリエイター志望の学生らに人気である。
一方、1990年には、「若者たちの可能性を実現する場」としてガーディアン・ガーデンを渋谷でスタート。アルバイト・就職情報誌を発行する同社として「若者文化」を応援することをめざした。現在では銀座にギャラリーを設け、グラフィックや写真を中心とした展覧会を開催しているが、なかでも1992年から始まった公募展「ひとつぼ」展は、若手登竜門として知名度と実績がある。これは、3.3平方メートル(ひとつぼ)に対する作品を募集し、複数名の入選者のなかから公開審査でグランプリを選んで、受賞者には翌年、個展を開催するチャンスを与えるというものである。
またパフォーミングアーツの分野でも、年1回の「演劇フェスティバル」を続けており、この10年の間に輩出した劇団やダンスカンパニーはその後の活躍が著しい。
そのほか、ふたつのギャラリーが連携しての共同企画展や、ベテランと若手が同じテーマに取り組むチャリティー展なども開催。いわば「卵から鶏まで」――G8とガーディアン・ガーデンそれぞれの特色を活かしながら、常に新たな表現にチャレンジする場を提供している。

評価ポイント

ふたつのギャラリーの個性を明確に打ち出しながら、相互に関連した企画への取組みがよい。
10年にわたり若手登竜門としての役割を果たし、その成果が着実にあらわれている。

企業プロフィール

本社所在地:東京都中央区
創立年:1960年[設立1963年]
資本金:30億264万円
従業員数:4,125人
業種:出版・情報サービス
URL:https://recruit-holdings.co.jp/sustainability/community/action/
(2002年4月現在)

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